理学部生物学科

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ニホンザルにおいて、順位の高いオスはモテるのか?

はじめに

 前回の新知識でも紹介しましたが、私は霊長類を中心に哺乳類の社会の研究をしています。前回は、ヒトに近いチンパンジー、ゴリラを中心に社会の特徴について紹介しましたが、今回は、私が研究してきたテーマの一つである、「どのようなオスが多くの子どもを残しているか」について、ニホンザルの研究(文献1)を中心に、エピソードも交えて紹介します。

 まずは、霊長類において、どのようなオスが子どもを残しているか、皆さんも考えてみて下さい。体の大きく強いオスをイメージする方が多いでしょうか? 有名な東山動植物園にいるゴリラのシャバーニのように、「男前」なオスをイメージした方もいるでしょうか? タイトルにあるように、順位の高いオスが子どもを多く残していると思う方もいるのではないでしょうか? 今回は、とくに順位に着目しながら、ニホンザルにおいて、どのようなオスが子どもを残しているかについて紹介します。

ニホンザルの社会と順位:ボスザルはいない?

 ニホンザルは、鹿児島県屋久島から青森県下北半島まで分布しており、ヒト以外の霊長類の中でもっとも北に生息しています。寒い環境にいると聞くと、温泉に入るサルをイメージする方もいると思いますが、動物園以外で温泉に入るニホンザルが観察されるのは、長野県にある地獄谷野猿公苑だけです(写真1)。
写真1.温泉に入るニホンザル(地獄谷野猿公苑)
 ニホンザルの群れは、複数のオスと複数のメスと子どもたちで構成されており、群れの大きさは、数十から百頭前後です。基本的に、メスは生まれた群れに一生留まるのに対し、オスは繁殖できる年齢に達した頃(4-5才)に、群れを移籍します。メスが群れに留まるニホンザルのような社会は、母系社会と呼ばれています。人間では結婚しても親や兄弟姉妹との交流が続くのに対し、ニホンザルのオスは基本的には他の群れに入った後に母親と交流することはありません。

 ニホンザルの群れには、ボスザルがいるというイメージが強いかもしれませんが、現在、霊長類の研究者はボスザルという用語を用いていません。ボスザルというと、群れを統率するリーダーのようなイメージを伴うからです。もちろん、順位が存在しないわけではなく、食べ物やメスをめぐり優劣関係は存在しており、もっとも順位の高いオスは、第一位オスやα(アルファ)オスなどと呼ばれています。メスをめぐる争いでも第一位オスは、他のオスより強いので、他のオスの交尾を邪魔できますが、邪魔した後、メスは必ずしも第一位オスのところにいくわけではなく、第一位オスの目を盗み、元のオスメスで交尾をすることは多く観察されます。

 では、どのようにオスの順位が形成されるのでしょうか? 一言でいうと、ニホンザルのオスの順位は、「年功序列」的です。ニホンザルのオスは、繁殖できる年齢に達した頃に群れを出ます。違う群れに入ってもずっとその群れにいるのではなく、その後も群れを移籍します。野生のニホンザルでは、3年程度経つと、自発的に群れを出ることが知られており、基本的に、オスの優劣関係は新しい群れに入るときに決まります。いきなり、第一位オスになる「のっとり」が起こることもありますが、群れ内のオスが連合するので、多くの場合、最下位で群れに入ります。順位が高いオスが群れを出ていくことがあるので、群れにいる年数が長いと順位が上がっていきます(文献2)。群れ内でオスの順位が逆転することは稀で、オスたちは、いつも順位をめぐって争っているようなことはありません。そのため、ニホンザルでは、必ずしも、力の強いオスが争いに勝って、第一位の地位を獲得するというわけではないのです。

 本論とは関係ありませんが、メスの順位についても簡単に紹介します。先ほど、紹介したように、ニホンザルではオスが繁殖できる年齢に達すると群れを出ていくのに対し、メスは例外もありますが、生まれた群れで一生過ごす個体が多い母系社会です。そのため、お母さんやおばさんが同じ群れにいて、ケンカになった際は助けてくれるので、メスの順位は家系によって決まり、若くても順位の高い家系のメスは、順位が高くなります。さらに面白いのは、一部の群れでは、妹の方が姉より順位が高くなることが知られています。これは、ケンカが起こった際に、年齢が若い妹の方を母親が助けるために生じると考えられています。人間の世界でも同じような経験をした人は多いのではないでしょうか。ニホンザルでは、この行動が順位に影響し、オトナになっても妹の順位が高いままになることがあります。

嵐山モンキーパークいわたやまのニホンザル

 私は、京都市にある嵐山モンキーパークいわたやまで調査を行いました。現在でも、東邦大学の野外実習でお世話になっています。嵐山モンキーパークいわたやまは、京都の観光地である嵐山の渡月橋付近に位置しており、観光客も訪問しやすい野猿公苑です。外国人の観光客にはとても有名で、口コミサイトでもかなり高い評価を得ていますが、サルが身近な日本人にはあまり知られておりません。野猿公苑ですので、ニホンザルが檻に入っているのではなく、モンキーパーク内で餌を定期的に与えることで観察しやすくされている群れで、餌を与えられている以外は野生の状態と同じです(写真2)。非常によい場所なので、京都観光の際は、是非、訪問することをお勧めします。
写真2. 嵐山モンキーパークいわたやまでの餌まきの様子
 私が調査していたころ、嵐山モンキーパーク周辺を利用していた群れは、約160頭で構成されていました。私は、毎日のように、サルたちが森からモンキーパーク付近に出てくる朝方から、森に帰っていく夕方まで観察しました。前回も紹介しましたが、モンキーパークのスタッフに協力いただき、群れにいるすべてのサルを識別しました。160頭もいると覚えるのに時間がかかりましたが、一カ月くらい毎日のように調査していると、個体を覚えることができ、長く観察していると、ちょっと見ただけで、誰かがわかるようになりました。

 私が観察していた当時の嵐山のオスについて説明します。オスは4歳頃に性成熟しますが、体は4歳以降も大きくなり、8、9歳頃でオトナと同じような体の大きさになります。嵐山の群れでは、7歳で順位が高くなったオスがいたので、4-6歳をワカオスとし、7歳以上をオトナオスとしました。オトナオスの中でも、群れの中心である餌場の近くを利用する順位の高いオスと、ほとんど餌場を利用しない順位の低いオスがいました。ここでは、前者を上位オス、後者を下位オスとします。下位オスといっても、オトナオスですので、ワカオスよりは順位は上でした。また、他の野生のニホンザルの群れと同じように、交尾期には群れ外のオスがやってきて交尾をします。よく観察された群れ外オスについてはDNA試料を採取できましたが、群れ外オスは人間に慣れていないため、すぐ逃げてしまうこともあり、実際に何頭の群れ外オスが群れを訪れていたかは正確にはわかりませんでした。

親子鑑定の結果:誰が父親となっているか?

 人間で行われている親子鑑定と同じ方法を用いて、DNA解析をしてみると、意外な事実が明らかとなりました。第一位オスなど順位の高いオスはほとんど子どもを残していなく、順位の低いオスが子どもを多く残していたのです(図1)。もう少し具体的に説明します。親子鑑定により、2002年、2003年に生まれた23頭すべての父親を決定しました。上位オスは、2002年に9頭、2003年に7頭いましたが、それぞれの年で、子どもを残したのは1頭ずつのみでした。一方、下位オスでは、2002年に7頭、2003年に6頭いましたが、そのうち、各年4頭ずつが計7頭ずつの子どもを残していました。また、ワカオスは、2002年に8頭、2003年に14頭いましたが、子どもを残せたのは2002年の1頭だけでした。先ほど説明した通り、何頭の群れ外オスが交尾しにきていたのかわかりませんので、図1には示しておりませんが、23頭の子どものうち6頭の父親は、群れ外オスだと推定されました。
図1. 嵐山のニホンザルにおいて、どんなオスが子どもを残しているか?
 以上のように、順位が高いオスが多くの子どもを残しているわけではないことがわかりました。それでは、どのような特徴のオスが子どもを残していたのでしょうか? ワカオスは、ほとんど子どもを残していなかったのでオトナオスのみで解析すると、群れにいる年数が短いほど、多くの子どもを残していることがわかりました。実際に、上位オスでも2頭のオスが子どもを残していましたが、いずれもオトナオスの中では群れにいる年数の短いオスでした。それ以外の上位オスは、群れにいた年数が長いオスで、1頭も子どもを残していませんでした。先ほども紹介した通り、オスの順位は年功序列的であるので、上位オスの多くが群れにいた年数が長く、これが影響して、子どもを残せなかったと考えられます。

交尾行動の分析

 なぜ、群れにいた年数の長いオスが子どもを残せていなかったのでしょうか? 交尾行動の分析をしてみると、群れにいる年数が長い上位オスもメスと交尾をしていることがわかりました。しかし、その交尾のタイミングが問題だったのです。ニホンザルのメスは、受胎に結びつきやすい排卵前後だけでなく、排卵が生じる前や妊娠後にも交尾をします。群れにいる年数の長いオスの交尾のタイミングは、このような受胎に結びつかない時期でした。メスは、受胎に結びつきやすい時期になると、上位オスとの交尾を避けるようになり、下位オスとの交尾が多く観察されました。

 実際の観察例を紹介した方がメスの行動がイメージしやすいと思います。91年生まれのミノというメス(観察当時11歳、写真3)は、メスの中でも順位が高い方で、子どもを残していなかった上位オスともよく交尾をしていました。しかし、ある時期になると、群れの中心である餌場をあまり利用しなくなり、上位オスとの交尾を避けるようになりました。その時期に観察した印象的な行動を紹介します。当時5位の上位オスであるワカシロ(19歳)が餌場から少し離れた場所で、ミノのそばにいました。ミノは、ワカシロからの交尾の誘いに乗らず、ミノがワカシロから離れるとワカシロがついてくるということを繰り返していました。何時間も、ワカシロはミノの近くにいたのですが、ワカシロが少し離れた隙に、ミノは急いで群れの周辺部に行きました。私も必死にミノを追跡したところ、ミノが群れ外のオスと一緒にいるところを目撃しました。ミノの出産後に親子鑑定をしてみると、その群れ外オスが子の父親でした。さらに、出産日と妊娠期間から逆算したところ、この行動を観察した期間がちょうど受胎の可能性の高い時期であったことがわかりました。つまり、ミノは、受胎の可能性の高い時期に、上位オスのいる餌場や上位オスとの交尾を避けていたと考えられます。
写真3. 2003年に出産をした91年生まれのミノ

なぜ、群れにいる年数の長いオスを避けるのか?

 群れにいる年数の長いオスと交尾を避ける利点はどこにあるのでしょうか? 証明は難しいですが、私は「近親者との交尾を避ける」ことの延長として、群れにいる年数の長いオスとの交尾を避けているのだと思っています。近親交配は有害な形質の発現につながる可能性があるので避けた方がよいのですが、匂いや見た目などの表現型だけで血縁の近さを推測できるでしょうか? この分野は、最近も研究が進んでおり、一部の霊長類では表現型で血縁者を識別できるという研究もあるため、研究者により見解は異なると思いますが、個人的にはニホンザルでは難しいと考えています。

 一方で、母親や母親が同じ兄弟姉妹は、生まれ育った環境により、血縁者だとみなすことが可能です。要は、生まれたときから一緒にいる相手を血縁者だと考えるということです。哺乳類の多くは、この方法で母系の血縁者を識別していると考えられています。ヒトでは、幼いときに一緒に育った相手には性的関心をもたないという現象が知られていますが、これも、おそらく、ずっと一緒に育った相手を血縁者とみなすことが影響しているのだと思います。

 ここで、ニホンザルの話に戻しますが、嵐山の上位オスの多くは長い間群れに留まっているオスでした。そのため、群れにいるメスにとっては「家族」のように常にいる存在となり、交尾を避けられてしまったのではないかと考えています。この話をすると、群れにいる年数ではなく、高齢のため子どもを残せなかったのではないかと質問されることがありますが、上位オスとほぼ同じ年齢で群れにいる年数の短い下位オスは多くの子どもを残していたので、年齢は関係ないと考えられます。メスと交流が多いオスは、「血縁者」だとみなされ、繁殖相手として避けられていたのではないかと考えています。

おわりに

 ニホンザルで、順位の高いオスがあまり子どもを残していないと聞いて驚いた方が多いのではないでしょうか。他の群れでは、順位の高いオスが子どもを残す例も報告されている(文献3)ので、すべての状況で成り立つわけではありませんが、必ずしもニホンザルでは高順位オスがメスにモテるわけではないと考えられます。一方、チンパンジーなど、順位の高いオスが多くの子どもを残すことが知られている霊長類もいます(文献4)。嵐山のニホンザルは、群れ内のメスの数が多く、順位の高いオスが交尾を独占するのが難しいので、このような結果が得られたのだと考えています。

 霊長類は、我々ヒトに近い動物なので、その生態に関心がある方も多いのではないでしょうか。とくに、ニホンザルは昔話に登場するなど、日本人には身近な存在です。私以外にも霊長類の研究者は多く、様々なニホンザルの姿を明らかにしてきました。最近の研究に関心がある方は、是非、文献5をご覧ください。その他、ニホンザル以外も含め、霊長類に関する本は多いので、是非、ウェブで検索してみて下さい。

文献

  1. Inoue E, Takenaka O. The effects of male tenure and female mate choice on paternity in free-ranging Japanese macaques. American Journal of Primatology 70, pp: 62-68, 2008. DOI: https://doi.org/10.1002/ajp.20457
  2. 鈴木滋.社会構造の系統的安定性—ニホンザルの順位と性から考える、『日本の哺乳類学2 中大型哺乳類・霊長類』(高槻成紀・山極寿一編)、東京大学出版会、pp: 200-220、2008.ISBN:978-4-13-064252-1
  3. Soltis J, Thomsen R, Takenaka O. The interaction of male and female reproductive strategies and paternity in wild Japanese macaque, Macaca fuscata. Animal Behaviour 62, pp: 485-494, 2001. DOI: https://doi.org/10.1006/anbe.2001.1774
  4. Inoue E, Inoue-Murayama M, Vigilant L, Takenaka O, Nishida T. Relatedness in wild chimpanzees: influence of paternity, male philopatry, and demographic factors. American Journal of Physical Anthropology 137(3), pp: 256-262, 2008. DOI: https://doi.org/10.1002/ajpa.20865
  5. 辻大和、中川尚史(編).『日本のサル—哺乳類学としてのニホンザル研究』、東京大学出版会、2017.ISBN: 978-4-13-060233-4

行動生態学研究室 井上英治

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