理学部生物学科

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抗体と補体

1.はじめに

 我々の体は免疫という仕組みにより守られています。この免疫の仕組みは大きく分けて、3つの段階があります。まず、異物の体内への侵入に対して物理的・化学的に阻止します。例えば、皮膚や粘膜が物理的に体内と体外を隔て異物の侵入を阻止し、涙や唾液などに含まれるリゾチームは細菌の細胞壁を化学的に破壊し、細菌の体内への侵入を阻止します。2つ目の段階として、体内に侵入した異物(抗原)は生体内の細胞により、いち早く食されて退治されます。この貪食を行うのが、食細胞と呼ばれるマクロファージ、樹状細胞や好中球です。これらの防御の段階を自然免疫といます。自然免疫で処理できなかった場合は、3つ目の防御機構として獲得免疫(適応免疫)が働きます。
 獲得免疫には細胞傷害性T細胞が直接細胞を攻撃する細胞性免疫と侵入した抗原に抗体が作用する体液性免疫があります。

2.抗体

 抗体は免疫グロブリン(Immunoglobulin: Ig)とも呼ばれるタンパク質です。血しょうを電気泳動という操作を行ってタンパク質を分離するとアルブミンと複数のグロブリンの分画に分けることができます(図1)。抗体はグロブリンの分画に含まれているので、抗体を免疫グロブリンとも呼びます。ヒトの抗体は主に2種類のポリペプチド(H鎖とL鎖)で構成されています。このうちH鎖と呼ばれる分子量の多い方のポリペプチドの違いにより、抗体は大きく5つ(IgA, IgD, IgE, IgG, IgM)に分類されます。このうち血液中に最も量の多い抗体がはIgGです。
図1.血しょうタンパク質の電気泳動

図1.血しょうタンパク質の電気泳動

 免疫グロブリンのうち最も量の多いIgGの模式図を図2に示しました。IgGは2種類のポリペプチドが2本ずつの4本で構成されており、これら4本のポリペプチドがジスルフィド結合した分子量約15万のタンパク質です。IgGは分子の両端に抗原と結合する部位を持っており、この部位で抗原と結合します。1種類の抗体は基本的に1種類の抗原と結合します。このことを抗体の特異性といいます。抗体が抗原と結合することによる防衛反応は大きく分けて以下の3つが起こります。
①中和作用
②貪食細胞の食作用を促進させる。
③補体を活性化させる。

 ①中和反応とは細菌や毒素などの抗原に抗体が結合すると抗原の作用が中和(無力化や無毒化)することです。すなわち、抗原に抗体が結合すると抗原が自由に動けまわれなくなったり、立体構造が変化したりして毒性が失われます。
 ②貪食細胞の食作用を促進させるは貪食細胞には抗原と結合した抗体を認識するレセプター(Fcレセプター)が存在しています。貪食細胞はこのレセプターで免疫複合体と結合することで抗原を貪食しやすくし、素早くより多くの抗原を貪食することがでるようになります。
 ③補体を活性化させるについては、補体という言葉を初めて聞く高校生もいると思いますので以下で詳しく説明しますが、抗体が細菌と結合すると血液中に存在する補体が活性化されます。その結果、最終的に補体は抗原である細菌などに穴をあけます。
図2.IgGの模式図

図2.IgGの模式図

3.補体

 補体の発見のきっかけは細菌を溶菌させるには抗体だけでなく、抗体以外の血清中の物質が必要であることが分かり、その物質は熱(56℃ 30分間)で活性を失うもの(因子)であることが明らかとなりました。免疫の作用を補うという意味も込めて、その因子を補体と呼ぶこととなりました。その後の研究で、補体は1種類ではなく多数の種類が存在することが分かり、これら複数の補体が協力し合って、溶菌作用を示すことが明らかとなりました。これらの補体のほとんどはタンパク質分解酵素ですが、血液中では不活性な酵素として存在します。補体が活性化されると次々と他の補体を活性化する連鎖反応がおこります。その結果、最終的に細菌や細胞に穴をあけます。この一連の反応系を補体活性化経路と呼びます。この反応系には最初のトリガーとなる補体の活性化により以下に示す3種類の活性化の経路が存在します。
①古典経路
②別経路
③レクチン経路 

 ①古典経路は体内に侵入してきた細菌や細胞の膜抗原に抗体(IgGやIgM)が結合して免疫複合体を形成すると、補体第1成分(C1)がこの抗体と結合して、C1が活性化されます。活性化したC1は補体C4を活性化し、その後、補体(C2~C8)を次々に活性化します。その結果、最終的に膜上に補体第9成分(C9)の複合体を細胞壁(膜)に埋め込み、細菌や細胞に穴をあけます(図3)。
図3.古典経路の概略

図3.古典経路の概略

 ②別経路は古典経路とは異なり、免疫複合体を必要とせず、補体第3成分(C3)が少しずつ加水分解を受け(C3H2O)、血液中のB因子と結合します。B因子と結合したC3H2Oは大量のC3を活性化(C3b)します。このC3bが病原体の細胞壁に結合すると順次補体の活性化が進み、古典経路と同じように最終的にC9の複合体を形成して、細胞壁に穴をあけます(図4)。
 この反応は古典経路が発見された後に見つかった反応系なので、別経路とか副経路と呼ばれています。しかし、進化上では古典経路は脊椎動物から存在するのに対して、別経路は脊椎動物以前より存在する自然免疫機構であるので、古典経路より早い時期から存在していることになります。
図4. 別経路の概略

図4. 別経路の概略

 ③レクチン経路は3種の補体活性化経路のうち、最も新しく発見された経路です。高校生には耳慣れないレクチンという言葉ですが、レクチンとは糖鎖に結合活性を示すタンパク質の総称です。したがって、レクチン経路は病原体の細胞壁の特徴的な糖鎖構造を認識することに始まる補体活性化経路です。すなわち、病原体の細胞壁のマンノースを血液中に存在するマンノース結合レクチン(MBL)という物質が認識して結合すると、MBLと結合したMBL結合セリンプロテアーゼ(MASP)という酵素が活性化されます。この活性化したMASPが補体第4因子(C4)を活性化し、順次補体を活性化して、最終的に、他の補体活性化経路と同様にC9の複合体で細胞壁に穴をあけます。

 補体の活性化は抗原を溶かすだけではなく、生体防衛にとって重要な役割を果たしています。例えば、これら補体が活性化されると、活性化した補体が好中球を呼び寄せたり、マクロファージや肥満細胞を活性化させたりして、生体の防御に貢献しています。補体というと、その名前から、補助するだけのように思われがちですが、補体は立派に生体の防御に貢献しています。

文責:血液生物学研究室 丹羽 和紀

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