血管の内側で血液が凝固したら
血栓の溶解
血液は血管の外に出ると凝固して、傷口を塞いで血液の流失を防ぐことは皆さんも知っていることと思いますが、炎症などで血管に傷害ができた時や血液の流れが滞ったときなどでは、血管の中でも固まりやすくなります。また、血管の中で微小な血液の塊(血栓)ができることは珍しいことではなく、普通に生活していても起こっていることなのです。しかし、この微小な血栓が次第に大きくなって、血管をふさいでしまうようなことがあると組織に酸素や栄養分を運べなくなり、組織は壊死してしまいます。こんなことが起こると大変なので、私たちの体には血栓を溶解する仕組みが備わっています。
血栓溶解の主役、プラスミン
血栓を溶解する主役となるのが、プラスミンというタンパク質です。血液中ではプラスミンはタンパク質分解酵素の活性を持たないプラスミノーゲン(プラスミンの前駆物質)として存在しています。プラスミノーゲンは肝臓で合成、分泌され、血液中を循環しています。プラスミノーゲンから酵素活性を有するプラスミンへの変換は組織プラスミノーゲンアクチベータ—(t-PA)によって行われます。このt-PAは血管内皮細胞で合成され、530個のアミノ酸からなる糖たんぱく質として分泌されます。このt-PAがプラスミノーゲンの561位のアルギニンと562位のバリンの間を切断することにより、プラスミノーゲンをプラスミンに転換し、このプラスミンにより血栓の溶解が行われるのです。
血液は流れているのに効率よく血栓を溶解する
せっかくプラスミンができても、血管内の血液は流れているため、プラスミンがその流れにそって、血栓の存在していないところで酵素活性を示してしまうと不都合であるため、血液の流れに負けずに血栓の上で酵素活性を発揮することができなければいけません。すなわち、循環している状態ではt-PAはプラスミノーゲンをプラスミンにほとんど転換しません。まれに循環している状態でプラスミンが生成されても血液中のプラスミンインヒビターと結合することにより、プラスミンは失活します。しかし、t-PAは血液中を流れているフィブリノーゲンとはほとんど結合しませんが、血栓となったフィブリンとは特異的に結合します。このことによりフィブリン(血栓)上でプラスミノーゲンはt-PAによりプラスミンに転換され、このプラスミンもフィブリンと結合した状態で、血液の流れにより流されることなく、効率よくフィブリン血栓を溶解することができるのです。
このように私たちが気づかないうちに血管の中で微小な血栓ができても、それを放置することなく、効率よく血栓を溶解し、血管を詰まらせないようにしています。
文責:血液生物学研究室 丹羽 和紀