理学部生物学科

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高山植生モニタリング

モニタリングの必要性

 国の「生物多様性国家戦略」のなかで、日本各地に生息・生育する動植物やその生息・生育環境等を、長期的にモニタリングする重要性が述べられています。ここでいう長期モニタリングとは、自然の定期健診です。できるだけ長く同じ方法で環境情報を継続的に記録していくことによって、生物種の減少や生態系の変化などの兆候を早めに把握することができ、保全のための対策をとることができるのです。
 極地である高山帯は、将来の温暖化の影響が最も出やすい生態系の1つだとされています。実際に世界各地で種組成の変化あるいは動植物の分布標高の上昇等が報告されるようになりました。日本のように互いに隔離し、ごく限られた高山帯を生育地とする植物は、逃げ場が無く、その存続が危ぶまれています。例えば、アポイ岳ではハイマツの面積が広がり希少種が生育するお花畑が急速に減少したそうです。南アルプスでは高山帯にまで登ってくるようになった鹿の食圧で植生が大きく変化しました。

高山植生の調査

 山岳地域における定量的なモニタリングデータを蓄積することを目的とし、NPO法人山の自然学クラブ(http://shizen.or.jp)と連携し、中央アルプスにおいて植生モニタリングを開始しました。環境省は全国で1000箇所以上ものモニタリングサイトを設置し環境情報の蓄積に取り組んでいますが、多くの場所は市民団体によって調査がなされています。多くの生態系が人為的環境改変による影響を被っている今、研究者だけでは日本各地の様々な自然を見続けることは出来ません。国内外で学際的研究に市民が参加する場面が増えており、市民団体との協働は今後ますます大切になってくると感じています。
 2008年に多様な植物群落を含むような調査地を選定し、1 m×1 mの調査区を56個設置し、同じ場所で植生調査を続けています(図1)。
図1.中央アルプス木曽駒ヶ岳での植生調査の様子

図1.中央アルプス木曽駒ヶ岳での植生調査の様子

 2008年から調査を始めて、調査区の出現種数にはほとんど変化ありませんが、種の出現頻度と植被率に増加傾向が見られました(図2、図3)。なお植被率は客観的かつ定量的に評価するために、歪みを取り除いたデジタル写真の緑色と赤色の画素数をもとに算出しています(図3)。
(図2、図3)

図2 各調査区における種数と出現頻度の2008年から2016年の変化。
図3 調査区の植被率の変化例
   上:歪みを取り除いたデジタル写真
   下:画像の緑色および赤色の256 階調値をもとに植物の有無を識別した画像

 なお、ハイマツなどの矮性低木の植被率が増えている傾向が見られたのですが、低木が増えると丈の小さい草本類は被因されて衰退する可能性が考えられます。しかし自然の変化は年変動も大きく、植生変化の傾向は、より長い期間のデータから評価することが求められます。

過去の写真の活用

 そこで過去に撮影された写真の活用を考えました。39年前に中央アルプスで撮影された写真と比較してみると、岩の配置や割れ目の様子は全く同じですが、やはり植被率は増えていることが分かりました(図4-1、図4-2)。

図4-1.1973年8月9日六甲長浜さん撮影

図4-2.2012年8月19日下野撮影

 多くの高山地域では変化の有無を判断する過去の科学的知見が不足していますが、過去に撮影された写真は調査記録に代わる客観的な記録となりえます。過去に撮った写真と最近撮った写真の比較ができれば、植生の変化を検討することが可能となるのです。
 現在、過去に撮影された写真をデジタル化し植生変化の有無を検討する基盤を整えようと、会員5000人を有する日本山岳会と協働して、山岳写真データベースを作っています(http://mountain-photo.org)。これらの写真を活用し、植生変化をいかに定量化するか、画像解析について国立環境研究所との共同研究を進めています。

植物生態学研究室:下野綾子

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