理学部生物学科

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顕微鏡で生命現象を可視化する

生きた細胞や分子の動きをありのままに記録する技術について解説します。

学問分野の発展と新技術の登場

 1953年にワトソンとクリックによってDNA二重らせん構造が提唱されました。それ以降、分子生物学がめまぐるしい発展を遂げてきたことは言うまでもありません。こうした学問分野の発展の影には、常に新技術の登場があります。例えば、1970年代の後半のDNAシークエンシング技術の登場や1980年代のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術の登場は、既に高校生物の教科書でも取り上げられていますし、ノーベル賞も受賞しています。こういった新技術を用いて、ヒトを含む多くの種の全ゲノム配列が解明されたのは、遺伝情報を担う物質としてのDNA二重らせん構造が発見されてから、わずか50年後のことでした。

 このように全ゲノム配列が解明されたことで、生物学は新たな時代に突入しました。しかし、ゲノム配列を解読しただけでは、生命現象の理解には十分ではありませんでした。そのため、現在はいくつかの研究の流れができています。その一つに、生物を構成している分子が生きた細胞の中でどのように振る舞うかを可視化することが求められるようになってきました。つまり、生きた細胞や分子の動きをありのままに記録することから、生物を理解しようとする試みです。ここでは、顕微鏡を用いたライブイメージング技術が主に使われています。今回は、新たな学問分野の発展を支えているこの新技術について紹介します。

ライブイメージング技術

 ライブイメージングの歴史をさかのぼると、そのスタート地点として緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見があります。下村脩博士らは、1960年代に世界で初めてオワンクラゲからGFPを発見し、その後2008年にノーベル賞を受賞しています。このことは、ニュースや高校生物の資料集などでも目にしたり耳にしたりした人が多いことだと思います。このタンパク質は、青色の光を照射すると緑色の蛍光を発するもので、生物学の研究で広く用いられてきました。

 研究で幅広く使われるようになった背景には、分子生物学的な手法の進歩により、GFPタンパクをコードする遺伝子配列が特定され、その配列を様々な細胞に導入できるようになったことが挙げられます。実際には、観察対象のタンパク質の遺伝子とGFPの遺伝子をつなぎ合わせ、生きた細胞に導入することで、観察対象のタンパク質をGFPという目印をもとに観察しています。細胞や組織の中で分子がどのように振る舞うかを見るために、スパイ分子を送り込み、こっそりと観察しているようなものです。GFPの検出には、反応に基質を必要とせず、ある光を当てるだけで検出できるなどの簡便性を兼ね備えていたことも、技術の普及を後押ししました。
図1
観察対象のタンパク質と目印となるGFPをつなぎ合わせ、細胞内で働かせることで、ありのままの状態を観察できます。
 現在では、緑色の蛍光を発するGFP以外に、原理は同じですが青色、黄色、赤色といった異なる蛍光を発する様々な蛍光タンパク質が開発されています。赤色の蛍光タンパク質には、ストロベリー、チェリー、プラムなどおいしそうなフルーツの名前が付いているものもあります。色の異なる蛍光タンパク質を細胞や組織に同時に導入することで、複数の観察したいタンパク質を色分けしながら同時に観察することができ、それらの関係性を調べることもできます。

図2
細胞内の核を赤色の蛍光タンパク質で標識し、緑色の蛍光タンパク質を利用して観察対象の分子を可視化しています。
 ライブイメージング技術の普及を支えたものは、蛍光タンパク質だけではありません。顕微鏡を含むデバイスの性能向上も大きな要因の一つです。ビデオ画像処理を用いて、シグナルを増幅させることで、観察したいタンパク質の像がモニター上で鮮明な拡大画像として観察可能になってきました。画像の検出とそのデジタル記録という情報通信技術と密接に関係しながら、より早く、より明るく、そしてより詳細に細胞内を観察できるようになっています。

生きた細胞でライブイメージング解析

 既に多くの研究者により、細胞の分化、運動、分裂などの様々な生命現象において、生きた細胞や分子の振る舞いをありのままに観察し記録するという試みが行われています。例えばマウス、ショウジョウバエ、線虫といった生き物の形づくりの過程において、細胞の移動をありのままに記録することにより、組織が形成される過程で全細胞がどのように動きながら、最終的な形を構築していくか観察できるようになってきました。細胞の動きだけではなく、発生過程で変化する遺伝子のはたらき方を1細胞レベルで記録することや、発生分化を誘導するシグナルによって細胞が分化する際にどのような情報伝達が細胞内で行われているのかを直接観察できます。細胞内に情報を伝える際、例えばカルシウムイオンが重要な働きをすることが知られています。細胞外の刺激に応じてカルシウムイオンがダイナミックに変化する様子など、多くの研究者によって観察されています。

図3
生き物の形づくりの過程において、個々の細胞がグルグルと動く様子を追跡しています。
 このように、生きた細胞の中で起きていることを可視化する研究が一気に生物学研究に広まっています。こういった手法は、生命の最小単位である細胞で見られる現象や仕組みを客観的に理解することができ、細胞の時々刻々と変化する形態や機能についての新たな知見を生み出すと期待されます。

分子発生生物学研究室:村本哲哉

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