理学部生物学科

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抗菌ヒストンを追いつめろ!Part II:Arg-rich型ヒストンの逆襲

  2009年6月の「生物学の新知識」に初登場した「抗菌性ヒストン」にまつわるお話も、今回で4回目となりました。過去3回はいずれも高リシン型(Lys-rich型)ヒストンのお話ばかりでしたので、この間、高アルギニン型(Arg-rich型)ヒストンの抗菌性は一体どうなっているのですか?とのお問い合せが殺到していました(嘘です)。大丈夫、Arg-rich型ヒストンにも抗菌活性がばっちりあります。そしてその抗菌メカニズムはLys-rich型と大きく違っています。今回は当研究室の成果を中心に、Arg-rich型ヒストンの抗菌性についてご紹介します。

Salagadoola mechicka boola!

  遺伝子の本体であるDNAは糸状の構造をしており、これがヒストンを主成分とした糸巻きのような構造にくるくると巻かれ、細胞の核内に収納されています。この糸(DNA)と糸巻き(ヒストン)の1セットをヌクレオソームと呼んでいます。ヒストンにはH1、H2A、H2B、H3、そしてH4の5種類が知られており、機能的にリンカーヒストン(H1)とコアヒストン(残りの4種類)に分類されます。また、そのアミノ酸組成に基づき、Lys-rich型(H1、H2A、H2B)とArg-rich型(H3、H4)に分けられる場合もあります。前者の機能的な分類は非常に良く知られておりますが、後者については少々解説が必要かと思います。  ヒストンは強い塩基性を示すタンパク質として知られていますが、その理由は分子内に塩基性アミノ酸であるLysとArgを多くもつ(構成アミノ酸数の1/5以上になります)からです。この性質は5種類のヒストンに共通するのですが、LysとArgのどちらをより多くもつか、ということでLys-rich型とArg-rich型に分けられています。つまり、タンパク質分子中に「Lysが多い」、「Argが多い」というよりは(確かに多いことは事実ですが)、むしろ「ArgよりLysが多い」、「LysよりArgが多い」という、分子内のLysとArgの数を比較した結果、こういう分類がなされたと思って頂ければよいでしょう。表1を見て頂ければ、一目瞭然ですね。

 ところで、Lys-rich型、Arg-rich型ヒストンという分け方ですが、特に古い論文では時々目にするものの、さてその呼称を決めた論文はどれだろう、というとはっきりしません。Lys-rich histonesやArg-rich histonesをキーワードにしてPubMedで検索すると、私たちの論文が最初に出て来てしまうくらいです。なお、私たちの著述のなかでは、DeLange & Smith (1971)(文献1)の総説をLys-rich型、Arg-rich型ヒストンの分類に関する参考文献として引用することにしています。どこからともなく名付け親が現れたみたいですね。

類は類を呼び、友は友を呼ぶ

 生命科学系研究者のバイブル、あの「細胞の分子生物学」(原題:Molecular Biology of the Cell)第5版の212ページにこんな記載がありますので、部分的に引用します。

「ヌクレオソームのコアを形成している4種類のヒストンは、3つのαヘリックスを2つのループで連結するヒストン型おりたたみとよばれる共通のモチーフをもつ。ヌクレオソーム構築の際、まずこのモチーフが相互作用して、H3-H4とH2A-H2B二量体ができる。次にこのH3-H4二量体が結合して四量体になり、H3-H4二量体と結合して、凝縮度の高い八量体コアができ、その周りにDNAが巻き付く。」(図1)。


 どうでしょう、この文章を読むと、同じコアヒストンにおいても、Arg-rich型どうし、Lys-rich型どうしと、何だかそれぞれ似た者同士で寄り添っているように思えませんか? Lys-richはLys-richを呼び、Arg-richはArg-richを呼ぶ。では、Leuは何を呼ぶ?

コペルニクスかニュートンか?

 抗菌性ヒストンの発見は、いずれもある細胞や組織をすりつぶし、その抽出液を各種クロマトグラフィーで分けて抗菌活性をもつ画分を分析した結果に由来しています。つまり、抗菌物質を単離したらそれがヒストンだった、ということです。方法の概略は「抗菌性ヒストンを追いつめろ!Part I」をご覧ください。極めてオーソドックスな戦術ですが、この方法ではなかなかArg-rich型ヒストンが抗菌物質として取れて来る組織や細胞は登場しません。ちなみに、私たちはConlon教授(こちらもPart Iをご覧ください)らの共同研究において、アマガエルの皮膚から修飾型ヒストンH4を単離しましたが、この修飾型ヒストンH4には抗菌活性はなく、細胞毒性が検出されただけでした(文献2)。


壮大なる物語への序章

 市販ヒストンを使って抗菌活性の測定に挑んだのは、当研究室11期生の「ジョー」ことS君でした。ジョーは非常に緻密な実験のできるうえに、よく考えなら、丁寧にデータを取ってくれました。そして、H2BならびにH3、H4の3つのヒストンがいずれも大腸菌と黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性をもつことを証明してくれました。この結果はその後の研究の方向に灯りをともす、とても力強いものとなりました。この発見が発端となり、あとに続いた後輩達がArg-rich型ヒストンの抗菌メカニズムを明らかにすることができました。なお余談ですが、4年間を全力で走り通したジョーは、終始首席を守り通し,卒業式では見事理学部総代を射止めることとなりました。答辞を読み上げるジョーの動画は、今でも私のパソコンの一角に、大切に納められています。


Fairy Tale

 ジョーの活躍により、Arg-rich型ヒストンにも抗菌活性が確認されました。しかし同じころ、ヒト皮脂腺細胞からヒストンH4が抗菌活性を有する物質として単離されてしまいました(文献3)。さあ大変!残るはH3だけとなりました。急がなければ、ポールポジションを取れません!でも抗菌活性だけで論文が書けるほど、この世界は甘くはなく、Arg-rich型ヒストンがどのようなメカニズムで抗菌活性を示すのかを明らかにせねばなりません。この課題に果敢に挑んだのは、12期生のTさんとMさんでした。TさんとMさんはともに大学院に進学し、積極的に研究を展開しました。二人の成果は非常に多く、どのようにして論文発表しようか、嬉しい悩みとなりましたが、とにかくヒストンH3の抗菌活性とメカニズムについて一刻も早く発表せねばならない状況にもありましたので、Arg-rich型とLys-rich型を比較しながら、まずはグラム陰性菌に対する作用で1編、続いてグラム陽性菌に対する作用でもう1編、という戦術をとることにしました。「院生」による「陽性」の物語というわけですね。
 ところが、二人の研究方針が明確になったころ、あの東日本大震災に見舞われ、研究室のあった教養Ⅱ号館という建物への出入りが禁じられて実験ができなくなりました。やがて当研究室は別棟への移転を余儀なくされ、実験時間も制限されるという、言葉に表せない苦労も経験しました。それだけに、頑張る二人にそれぞれ筆頭著者として論文を出させたい、という指導者としての願いが強くありました。

That is the question

 抗菌作用を解明するには、何といっても、ヒストンを作用させたあとの菌の様子を観察する方法が最も有効です。そこで私たちは2つの方法からアプローチをかけました。1つ目は、ヒストンを蛍光物質で標識して細菌に作用させ、その様子をレーザー顕微鏡で見る、というものです。図3からおわかり頂けることと思いますが、ヒストンH2Bを作用させた大腸菌では緑色の蛍光が細胞内部にも強く見えるのに対し,H3とH4を作用させた菌では、蛍光は菌体の形をトレースするように、細胞周縁にのみ、見られました。Lys-rich型とArg-rich型では大腸菌に対する作用機序が違いそうだ、ということが一目でわかりますね。一方、黄色ブドウ球菌に対する作用も、Lys-rich型とArg-rich型では随分違うようで、H2Bは大腸菌に対するのと同様、菌体内に入り込んでいるようにも見えますが、H3とH4は菌細胞周縁に存在しているようにも見えます。疑問についてはMさんがより詳しく解析し、いずれのヒストンも黄色ブドウ球菌細胞の中には入らず、細胞外層にあるリポ多糖に結合していることを明らかにしています。

色彩を持たない電子顕微鏡像

 光学顕微鏡レベルでの結果は、ヒストンと細菌の細胞壁や細胞膜との相互作用の存在を示す結果を得ました。では、この状態で細菌の形はどうなっているのでしょうか?それには走査型電子顕微鏡による解析が必須です。拡大率を上げるため、光で見るのではなく、電子の目で見る、ということで、これが2つ目の方法となりました。ところが,走査型電子顕微鏡は生物学科にあるものの、当研究室にはそのノウハウがありませんでしたので,ゼロからのスタートとなりました。このテクニックの開発にはTさんが果敢に挑み、電顕の聖地・細胞構造学研究室への巡礼の日々が続きました。苦心に苦心を重ね、ついにArg-rich型ヒストンは大腸菌に対しても黄色ブドウ球菌に対しても膜破壊を引き起こしていること、一方Lys-rich型ヒストンは細菌の形状に目立った影響を与えないことを、見事に証明しました(図4)。Arg-rich型ヒストン、特にH3の細菌に対する破壊力はなかなか凄まじいもので、最小発育阻止濃度は他のヒストンとそれほど変わらないものの(図2)、その潜在的な威力は、今後の展開を大いに期待させます。

クローズド・ポーカー

 このようにして、私たちの研究により、ヒストンH2B、H3、H4のいずれにもグラム陰性菌と陽性菌に対する抗菌活性とそのメカニズムの一端を明らかにすることができました。これで3種のLys-rich型、2種のArg-rich型、合わせて5種類あるヒストンすべてにおいて、抗菌活性が存在することが明らかになりました。ポーカーでいうところのフルハウスですね。さらに、ここまでの成果は、最初の思惑どおり、2編の学術論文として掲載してもらうことができました(文献4, 5)。嬉しいことに、この間、私たちのような発想の転換によりヒストンH3の抗菌活性を検証した人々はいなかったようで、どうやら最初に論文報告できたように思います。苦労はすれども良い手が来るまで待った甲斐がありました。

One direction

 4回にわたる「抗菌性ヒストン」シリーズでは、個々のヒストンのもつ抗菌活性をご紹介して来ましたが、その間、好中球細胞外トラップ、いわゆるNETsの構成要素としてのヒストンの抗菌性に関する研究が爆発的に進みました(文献6)。また、ヒストンが敗血症を引き起こすことなども報告されており、抗菌と細胞障害という、生体防御において相反する二面性をもつことも明らかになりました(文献7)。現在、ヒストンは生体防御機構のホットトピックの一つとして、非常に注目を浴びています。当分は、この方向に向かって一直線に研究を続けることになると思いますので、いずれまたStory of my lifeworkをご紹介できることでしょう。それではまた。

生体調節学研究室:岩室祥一

参考文献

  1. DeLange RJ, Smith EL. Histones: structure and function. Annu Rev Biochem 40, 279–314, 1971.
  2. Kawasaki H, Iwamuro, Goto Y, Nielsen PF, Conlon JM. Characterization of a hemolytic protein, identified as histone H4, from the skin of the Japanese tree frog Hyla japonica (Hylidae). Comp Biochem Phys B 149, 120–125, 2008.
  3. Lee DY, Huang CM, Nakatsuji T, Thiboutot D, Kang SA, Monestier M, Gallo RL. Histone H4 is a major component of the antimicrobial action of human sebocytes. J Invest Dermatol 2009;129:2489–96.
  4. Tagai C, Morita S, Shiraishi T, Miyaji K, Iwamuro S. Antimicrobial properties of arginine- and lysine-rich histones and involvement of bacterial outer membrane protease T in their differential mode of actions. Peptides 32, 1003–1009, 2011.
  5. Morita S, Tagai C, Shiraishi T, Miyaji K, Iwamuro, S. Differential mode of antimicrobial actions of arginine-rich and lysine-rich histones against Gram-positive Staphylococcus aureus.  Peptides 48, 75–82, 2013.
  6. Cooper PR, Palmer LJ, Chapple IL. Neutrophil extracellular traps as a new paradigm in innate immunity: friend or foe? Periodontol 2000, 63, 165–197, 2013.
  7. Xu J, Zhang X, Pelayo R, Monestier M, Ammollo CT, Semeraro F, Taylor FB, Esmon NL, Lupu F, Esmon CT. Extracellular histones are major mediators of death in sepsis. Nat Med. 15, 1318–1321, 2009.

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