天高く人も肥ゆる(?)秋にお届けする、お米の話
食欲の秋
「天高く馬肥ゆる秋」。我々日本人にとっては、秋の澄み切った空(図1)が目に浮かぶ、美しい言葉です。新米や秋の味覚を目の前にして、人間にとっても食欲の秋です。しかし「天高く?」の元々の意味は、秋の素晴らしい天候や食欲を表したものではありません。この言葉は、中国の杜審言の詩『蘇味道に贈る』にある、「雲淨妖星落(雲浄くして妖星落ち)秋深塞馬肥(秋高くして塞馬肥ゆ)」に由来します。昔中国の北方には匈奴と呼ばれる騎馬民族がいて、中国の王朝はその度重なる侵入に悩まされていました。そのため、冒頭の言葉は「秋になると夏草を食べて一回り大きくなった騎馬にまたがり、匈奴が収穫物を略奪しにやってくるぞ。しっかり備えておけ!」という、注意喚起の言葉だったのです。
日本人と米
ご飯のお米で餅は作れる?
そもそもお米ってどこの部分?
では、もち米とうるち米では何が違うのでしょうか。その前に、皆さんが口にしている米は、稲のどこの部分か知っていますか。もちろん、稲の種子だということは知っているでしょう。重要なのはその先です。たしかに種子ではあるのですが、種子全体ではありません。まず籾摺り(もみすり)により、一番外側にある籾殻を取り除いたものが玄米。さらに玄米の外層にある糠(ぬか)と、将来植物体になる胚芽を取り除いたものが白米です。従って白米の場合は、このような精米の過程で残った胚乳を食べていることになります。胚芽が除去された米をよく見てみると、もともと胚芽が存在していた部分が欠けた、いわゆる「おコメの形」になっています(図2)。
うるち米ともち米の違い
うるち米ともち米を一緒に育てると?
問題なのは、両者の交雑の可能性です。そこには遺伝学が関わってきます。そもそももち米はうるち米を改良してできた品種で野生には存在しておらず、もち米の性質は劣性、うるち米の性質は優性です。先ほどみなさんが口にするのは胚乳の部分だと言いましたが、胚乳の形質が雌親(めしべ側の植物)の遺伝子だけで支配されているのであれば、問題はありません。しかし、高校の生物で習った「重複受精」を覚えているでしょうか。胚乳は受精の結果生じる2つのもののうちの1つ(もう1つは、将来の植物になる胚)ですよね。従って、もち米の稲の花の柱頭にうるち米の稲の花粉がついて受精が起きてしまうと、もち米の稲穂であるにも関わらずそこからとれる米は、優性であるうるち米の性質になってしまいます。念のために書いておくと、うるち米の稲にもち米の稲の花粉が受精した場合も、うるち米の性質を持った米となります。日本の米はほぼ自家受粉をするのであまり交雑のことを考える必要はないかもしれませんが、出荷物の品質向上のためでしょうか、あるいは種籾をとることも考えてでしょうか、もち米の産地では近所一帯がもち米のみ作付けする「もち米団地」が見られることが多いです(もち米団地率は北海道:100%、他都府県:80%弱)。
たかがお米、されどお米