理学部生物学科

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天高く人も肥ゆる(?)秋にお届けする、お米の話

食欲の秋

 「天高く馬肥ゆる秋」。我々日本人にとっては、秋の澄み切った空(図1)が目に浮かぶ、美しい言葉です。新米や秋の味覚を目の前にして、人間にとっても食欲の秋です。しかし「天高く?」の元々の意味は、秋の素晴らしい天候や食欲を表したものではありません。この言葉は、中国の杜審言の詩『蘇味道に贈る』にある、「雲淨妖星落(雲浄くして妖星落ち)秋深塞馬肥(秋高くして塞馬肥ゆ)」に由来します。昔中国の北方には匈奴と呼ばれる騎馬民族がいて、中国の王朝はその度重なる侵入に悩まされていました。そのため、冒頭の言葉は「秋になると夏草を食べて一回り大きくなった騎馬にまたがり、匈奴が収穫物を略奪しにやってくるぞ。しっかり備えておけ!」という、注意喚起の言葉だったのです。

日本人と米

 秋の味覚は様々ですが、一番はやはり日本人の主食として馴染みの深い、ご飯(新米)でしょう。しかし最近は日本人の米離れが進んでおり、近年のアンケートによると、朝食はパン派がやや優勢とのことです。しかし、ご飯派の人はもちろんパン派の人にとっても、秋には新米や栗おこわ、冬になれば鏡餅、と、これからしばらくの間はお米に心が躍る季節なのではないでしょうか。

ご飯のお米で餅は作れる?

 米で作る代表的な食べ物であるご飯と餅。この2つで食感が違うのは、前者では米の粒がそのまま残り後者では潰れているから、という訳ではありません。餅を作るには、ご飯を炊くのに使う米とは別の「もち米」と呼ばれる米が必要です。ご飯に使う米は「うるち米」と呼ばれ、うるち米を蒸してついても、粘り気のあるおいしい餅はできません。見た目は似ているけれども、もち米とうるち米では性質がちょっと異なるのです。

そもそもお米ってどこの部分?

 では、もち米とうるち米では何が違うのでしょうか。その前に、皆さんが口にしている米は、稲のどこの部分か知っていますか。もちろん、稲の種子だということは知っているでしょう。重要なのはその先です。たしかに種子ではあるのですが、種子全体ではありません。まず籾摺り(もみすり)により、一番外側にある籾殻を取り除いたものが玄米。さらに玄米の外層にある糠(ぬか)と、将来植物体になる胚芽を取り除いたものが白米です。従って白米の場合は、このような精米の過程で残った胚乳を食べていることになります。胚芽が除去された米をよく見てみると、もともと胚芽が存在していた部分が欠けた、いわゆる「おコメの形」になっています(図2)。

うるち米ともち米の違い

 さて、その胚乳ですが、うるち米ともち米では胚乳に含まれるデンプンの種類が異なるため、食感に差が生じるのです。デンプンはグルコースという糖が多数結合してできたものなのですが、結合の仕方によって2種類に分けられます。1つはアミロースと呼ばれ、グルコースがα-1,4-グリコシド結合により直鎖状につながった、螺旋(らせん)状のものです。もう1つがアミロペクチンと呼ばれ、前述のアミロースのところどころからα-1,6-グリコシド結合による枝分かれがみられます。うるち米にはアミロースが約15~30%、アミロペクチンが約85~70%の割合で含まれているのに対し、もち米ではほぼ100%がアミロペクチンとなっています。アミロペクチンの方がアミロースより粘性が高いので、もち米のほうが「もちもち」感が強いのです。ちなみに、最近では多様なニーズにあわせて、普通のうるち米よりもアミロース含量が低い「低アミロース米」や、逆にアミロース含量が高い「高アミロース米」なども開発されています。

うるち米ともち米を一緒に育てると?

 うるち米ともち米を一緒に育てると、収穫後に両者を見分けて1粒ずつ拾い集めるのが大変。でも、そこは本質的な問題点ではありません。ちなみに、精米後は「うるち米」は透き通った米粒、「もち米」は白くて不透明な米粒になるので、頑張れば拾い分けることは可能です(図2)。
 問題なのは、両者の交雑の可能性です。そこには遺伝学が関わってきます。そもそももち米はうるち米を改良してできた品種で野生には存在しておらず、もち米の性質は劣性、うるち米の性質は優性です。先ほどみなさんが口にするのは胚乳の部分だと言いましたが、胚乳の形質が雌親(めしべ側の植物)の遺伝子だけで支配されているのであれば、問題はありません。しかし、高校の生物で習った「重複受精」を覚えているでしょうか。胚乳は受精の結果生じる2つのもののうちの1つ(もう1つは、将来の植物になる胚)ですよね。従って、もち米の稲の花の柱頭にうるち米の稲の花粉がついて受精が起きてしまうと、もち米の稲穂であるにも関わらずそこからとれる米は、優性であるうるち米の性質になってしまいます。念のために書いておくと、うるち米の稲にもち米の稲の花粉が受精した場合も、うるち米の性質を持った米となります。日本の米はほぼ自家受粉をするのであまり交雑のことを考える必要はないかもしれませんが、出荷物の品質向上のためでしょうか、あるいは種籾をとることも考えてでしょうか、もち米の産地では近所一帯がもち米のみ作付けする「もち米団地」が見られることが多いです(もち米団地率は北海道:100%、他都府県:80%弱)。

たかがお米、されどお米

 こうして書いてみると、たった1つの米粒の中にも色々な話題が詰まっているものだと感嘆させられます。食欲の秋、そして数ヶ月後のお正月でご飯や餅を口にするとき、今回の記事を思い出していただければ嬉しく思います。

植物生理学研究室:高橋秀典

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