理学部生物学科

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抗菌性ヒストンを追いつめろ! Part I

みなさま、お久しぶりです。大変長らくのお待たせとなりましたが、2010年6月の「生物学の新知識」でお約束しました「抗菌性ヒストンを追いかけろ! Part II」の続編、「抗菌性ヒストンを追いつめろ!」をお届けします。といいつつ、実に20ヶ月のブランクがあり、前2作で何をどこまで書いたか本人さえもすっかり忘れてしまいましたので、まずはこれまでのおさらいから始めます。

1.アラスジ、イラネ?

微生物からヒトまですべての生物(と言い切ってよいかどうかは分かりませんが)は抗菌活性をもつタンパク質/ペプチドを合成・分泌することにより、病原性微生物の感染から身を守るシステムを有しています(詳しくは「生物学の新知識2008年1月号 生体防御の秘密兵器・抗菌ペプチド」をお読み下さい)。中でもカエルの皮膚は抗菌ペプチドの宝庫として知られています。私たちはアラブ首長国大学のConlon教授とチームを組み、日本産のカエル、中でもアカガエル属を中心に、その皮膚から抗菌活性を有するペプチドを単離したり、その遺伝子をクローニングしたりする研究を精力的に行って来ました。

ある日ある時ある時ある日(←これで笑った人は間違いなく私と同世代!)、アカガエルではなくアオガエルでもやってみようということになり、シュレーゲルアオガエルの皮膚から抗菌活性のあるタンパク質を純化していったところ、その正体は何とヒストンH2Bでした(文献1)。ヒストンは真核細胞の核内タンパク質としてとても有名ですが、シュレーゲルアオガエルの皮膚では分泌腺細胞の細胞質にもヒストンH2Bが存在し、皮膚腺を刺激すると体外に分泌されることが確認できました(Part I)。当時、ヒストンの抗菌性について何も知らなかったのですが、ちょっと調べてみたところ、ヒストンの抗菌活性は早くも1942年に報告されており(文献2)、またヒストンH2Aに由来するブフォリン (bufforin)という抗菌ペプチドの存在も知りました。ブフォリンはその誕生のメカニズム(ヒストンH2Aが胃中に分泌されると消化酵素ペプシンで切断されブフォリンができる)と抗大腸菌作用のユニークさ(大腸菌細胞膜を透過した後、核酸と結合する)という(文献3)、2つの着目すべき面白さを有していました(Part II)。
アラスジ、イラネ?

2.エブリデイ、お注射

さてお話はようやくのこと、私たちのオリジナルの成果に移ります。シュレーゲルアオガエルの皮膚から抗菌物質としてヒストンH2Bを得た私たちチームですが、上述のように韓国チームによる優れた先行研究がありましたので、まずはブフォリンとの対比実験が不可欠です。この大きな山に果敢にアタックしてくれたのが、当研究室の4期生であるK君でした。何をおいても実験に必要なのはヒストンH2Bでしたが、もし単離から始めるならばとてもたくさんのシュレーゲルアオガエルを必要としますし、ノルアドレナリンを毎日注射して皮膚腺の分泌物を集めるのは非常に労力がかかります。幸い、抗菌活性を示したヒストンH2Bは完全長、しかもメチル化やアセチル化などの翻訳後修飾も受けていないことがわかっていましたので、K君は自分でクローニングしたcDNAと大腸菌を使って、組換え体タンパク質の作製に着手しました。どのタグ(通常、組換え体タンパク質の作製には大腸菌体からタンパク質を回収し易くするために別のタンパク質をつないだキメラタンパク質として作ります)がヒストンH2Bと最も相性が良いか試行錯誤した末、マルトース結合タンパク質(MBP)を使うと上手く組換え体タンパク質としてMBP融合ヒストンH2B (MBP-H2B)を得られることがわかりました。ただ、惜しいことに、MBPを酵素で切り離そうとすると、離脱したヒストンH2Bどうしで多量体を形成する傾向が見られました。K君は無理せず、MBP-H2Bをそのまま実験に使うこととし、その代わりにβガラクトシダーゼをMBPと融合したタンパク質(MBP-?gal)を調製して、常に対照実験を行なうことにしました。さらりと書いてしまいましたが、そもそも大腸菌に対する抗菌タンパク質ですから、これを大腸菌体内で作るのは大変難しいことは想像に難くないことと思います。実際、抗菌ペプチドの組換え体を作るだけでも立派な学術論文が出ているくらいなのですから。

3.Beginners

K君は作製したMBP-H2Bを使って、次々に実験をして行きました。まずは最も大切な抗菌活性のチェックです。ちょうど同じ頃に研究室に在籍していた7期生のK山君が抗菌活性の測定法を開発してくれていましたので、この方法を使い、MBP-H2Bが大腸菌に対して抗菌性を示すこと、さらにそれは菌を殺す殺菌作用ではなく、増殖を抑制する静菌作用であることも確認しました。これでようやく出発点に立てたわけで、ヒストンH2Aであるブフォリンの活性を同じLys-rich型であるヒストンH2Bでも再現できるかどうか、いよいよ「韓流」に「挑戦」です。

最初にチャレンジしたのは、大腸菌細胞膜の透過の有無の検証でした。FITCという緑色に光る蛍光物質でMBP-H2Bを標識し、大腸菌に作用させた後、レーザー顕微鏡で観察してみました。その結果、大腸菌の内部に緑色の蛍光が観察されたのに対し、FITC標識MBP-?galでは何のシグナルも観察されませんでしたので、ヒストンH2Bが見事に大腸菌膜透過を果たしたことが証明されました。このとき、K君は通常の大腸菌(JCM5491株)に加え、組換え体タンパク質の作製に使用したBL21(DE3)株に対しても膜透過の実験を試みたのですが、この株では細胞質は光らず、細胞の周縁に蛍光が検出されました。このときは「?」の思いだったのですが、この結果が後々、ヒストンH2Bの抗菌メカニズムの解明に大きなヒントをもたらしたのでした。

次の課題は、膜を通り越えた後のヒストンH2Bがどのようにして抗菌性を示すのか、というものでした。そもそもヒストンはヌクレオソームの構成因子としてDNAとの結合が明確な物質です。大腸菌は原核細胞ですから染色体は核膜に包まれておりませんので、やはりDNAと結合すると考えるのが自然です。プラスミドDNAを使った結果、MBP-H2BもDNAと結合することがわかりましたので、ヒストンH2Bもブフォリン同様、大腸菌体内でDNAと結合し、菌の増殖を抑制することが強く示唆されました。
Beginners

4.チャンスの順番

以上の結果は、ヒストンH2BがヒストンH2A(ブフォリン)とほぼ同じメカニズムにより抗菌性を発揮することを強く示唆するものとなりました。ただ、ここまでは先行研究を追いかけて行ったのですから、実験的手法がしっかりしていれば何とかなるところでした。しかしここから先、果たしてヒストンH2BはヒストンH2A(ブフォリン)のように切断された後に抗菌活性を発揮するのか否か、その場合はいかなるメカニズムにより切断されるのか、という大きな課題が立ちはだかりました。先述したようにブフォリンはヒストンH2Aが胃中に分泌された後、消化酵素で切断されて生じます。しかし、シュレーゲルアオガエルで見つかったヒストンH2Bは完全長のまま分泌され、抗菌活性を示します。この問題を解く鍵は、膜透過の実験に使用した2つの大腸菌株が握っていました。

K君は熟考の後、「同じ大腸菌であるにも関わらず株によって実験結果が異なるならばその要因は2つの株の違いにこそある」と看破しました。そして使用したJCM5491株とBL21(DE3)株の両者の間には、外膜プロテアーゼT (OmpT)を持つか持たないか、という決定的な違いがありました。このBL21(DE3)株というのは、組換え体タンパク質が分解されないように、わざとタンパク質分解酵素であるOmpTの遺伝子を欠失させたものです。日夜誰よりも長く研究に励んだK君へのご褒美に、実験の神様がチャンスをくれたのだと思います。それほど素晴らしい思いつきでした。

K君は早速、JCM5491株とBL21(DE3)株をすりつぶした溶液にMBP-H2Bを加え、その切断の有無を調べてみたところ、JCM5491株の溶解液ではMBP-H2Bが分解され、BL21(DE3)株の溶解液では変化がありませんでした。念のため、K君はOmpT遺伝子を導入したBL21(DE3)株の溶解液も試してみたところ、MBP-H2Bはばっちり切断されていました。さあ、ここまで来ればやることはあと1つ、OmpT遺伝子を導入したBL21(DE3)株に対して、MBP-H2Bが膜透過をするかどうか、という実験だけです。結果はご覧の通り、細胞内が緑色に光っていました。ここでめでたく物語は完結し、国際専門誌に掲載されるとともに(文献4)、K君には当研究室の理学博士第一号が授与されました。
チャンスの順番

5.上からヒストン

OmpTはグラム陰性細菌に広く存在するオンプチン(omptin)と呼ばれる膜プロテアーゼファミリーの一種です。オンプチンは宿主に感染した細菌が、宿主の結合組織や上皮組織などの構造を分解したり、宿主から見舞われるタンパク質性のいろいろな攻撃(抗菌ペプチドや抗体,補体など)から身を守ったりするために発達したものであると考えられています(文献5)。実はヒストンH2Bは完全長のままでもグラム陰性細菌の細胞壁にあるリポ多糖に結合して増殖を抑制することができるので、OmpTによってヒストンを分解することができる大腸菌は「してやったり」と思っていることでしょう。しかしヒストンはその上を行き、OmpTで切られることで今度は細胞膜透過能を獲得し、菌体内に入り込んでDNAに結合するという離れ業をやってのけたのです。「よっ、さすが真核細胞!」と一声かけたいヒストンの役者ぶりだと思いませんか?
上からヒストン

6.ヘビーローテーション

というわけで、ヒストンH2Bの抗菌メカニズムについて、やっとお伝えできることができ、ほっと一息ついたところではありますが、実は抗菌性ヒストンの研究はさらなる進展を見せており、若いメンバー達がArg-rich型ヒストンの抗菌性も突き止めています。抗菌性を有するのはLys-rich型ヒストンでありArg-rich型ヒストンではない、と一度は否定された1942年のMillerの結果を再度立証するデータを得ました。電子顕微鏡も使ったわかりやすい成果ですので、次のローテーションが廻って来る数年後をどうぞお楽しみに!どうしても気になってしまい、”I want”, “I need”な方は下記文献6をお読み頂くか、本学科に急ぎご入学下さい(って前回と同じオチだ…)。

生体調節学研究室
岩室祥一

参考文献

  1. Kawasaki H, Isaacson T, Iwamuro S, Conlon JM, 2003. A protein with antimicrobial activity in the skin of Schlegel's green tree frog Rhacophorus schlegelii (Rhacophoridae) identified as histone H2B. Biochem Biophys Res Commun 312, 1082–1086.
  2. Miller BF, Abrams R, Dorfman A, Klein M 1942. Antibacterial properties of protamine and histone. Science 96, 428–430.
  3. Kim HS, Yoon H, Minn I, Park CB, Lee WT, Zasloff M, Kim SC, 2000. Pepsin-mediated processing of the cytoplasmic histone H2A to strong antimicrobial peptide buforin I. J Immunol 165, 3268–3274.
  4. Kawasaki H, Koyama T, Conlon JM, Yamakura F, Iwamuro S, 2008. Antimicrobial action of histone H2B in Escherichia coli: evidence for membrane translocation and DNA-binding of a histone H2B fragment after proteolytic cleavage by outer membrane proteinase T. Biochimie 90, 1693–1702.
  5. Haiko J, Suomalainen M, Ojala T, Lähteenmäki K, Korhonen TK, 2009. Breaking barriers--attack on innate immune defences by omptin surface proteases of enterobacterial pathogens. Innate Immun 15, 67–80.
  6. Tagai C, Morita S, Shiraishi T, Miyaji K, Iwamuro S, 2011. Antimicrobial properties of arginine- and lysine-rich histones and involvement of bacterial outer membrane protease T in their differential mode of actions. Peptides 32, 2003–2009.

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