理学部生物学科

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光合成で働く電子伝達体:プラストシアニンとシトクロム(その2)

 筆者は2007年8月号の本欄に、「光合成で働く電子伝達体:プラストシアニンとシトクロム」という記事を書きました。この中で、「青いタンパク質」であるプラストシアニン(銅を含む)と「赤いタンパク質」であるシトクロムc6(鉄を含む)が光合成の電子伝達系で働いていること、培地中(池や湖などの自然環境中でも)の銅イオン濃度に依存して、これら2つの電子伝達体タンパク質の合成が切り替わる緑藻やシアノバクテリアがあることを述べました。今回は続編として、このような切り替わりが、どのような実験で発見されたかについて紹介します。

緑藻での切り替わりの発見

 図1は、光合成電子伝達系内でプラストシアニンとシトクロムc6が働いている位置を示したものです。現在ではプラストシアニンまたはシトクロムc6は、シトクロムfから電子を受けとり、光化学系Iの反応中心P700に電子を渡すことが確定しています。しかし、筆者がプラストシアニンとシトクロムc6の研究を始めた1975年頃は、海藻などから抽出された水溶性シトクロム(今ではシトクロムc6であることがわかっています)は高等植物のシトクロムf(膜結合性)と同じものと考えられていました。また、プラストシアニンとシトクロムc6はいろいろな光合成生物から精製されて性質や構造が調べられていましたが、銅濃度に依存して2つを切り替える生物は知られていませんでした。
 プラストシアニンとシトクロムc6が銅により切り替わってつくられる現象は、今から30年以上前の1978年にドイツとイギリスの大学の研究者により別々に、異なる緑藻で発見されました。Konstanz大学(ドイツ)のBohnerとBöger(文献1)は銅濃度を変化させて緑藻Scenedesmus obliquus(文献1ではScenedesmus acutusと記載)を培養し、銅濃度の増加によりシトクロムc6は減少し、プラストシアニンは増加していくことを報告しました。このときシトクロムfとP700は殆ど変化しないことも示しています。
 同じ年にCambridge大学(イギリス)のWood(文献2)は、緑藻Chlamydomonas reinhardtiiでプラストシアニンとシトクロムc6が培地中の銅の有無で切り替わることを報告しました。この論文では、同属の緑藻Chlamydomonas mundanaが銅の有無に関係なくシトクロムc6のみをつくるという興味深い実験結果も示されています。この緑藻は硫化水素が含まれている嫌気的な汚水の池から単離されたもので、このような銅が不溶化して利用できない環境ではプラストシアニン(銅を含む)をつくる能力がなくても生育に不利にならないと考えられています。
光合成電子伝達系におけるプラストシアンインとシトロムC6の位置

吸収スペクトルの測定により切り替わりがわかる

 上記の研究では2つのタンパク質が切り替わることを調べるために、吸収スペクトルを測定する実験が行われました。そして現在、生物科学の研究においては、溶液中の生体物質が何という物質かを調べたり、その濃度を測定するために、分光光度計という機器を使用した吸収スペクトル測定が頻繁に行われています。
 いろいろな物質を水に溶かして光を照射すると、物質により決まった波長域の光が吸収されます。ヒトが感知できる波長域すなわち可視部の光が吸収されると、溶液に色がついて見えます。例えばプラストシアニンの酸化型はきれいな青色を呈します(還元型は無色透明です)。また、シトクロムc6は赤茶色を示します(酸化型と還元型では色が少し異なります)。これはプラストシアニンが銅イオン、シトクロムc6がヘムをそれぞれもっているために起こる現象です。
 図2は紅藻のシトクロムc6の吸収スペクトルを示したものです(本学科の学生実習のために測定されました)。使用したサンプルは完全に精製されたものではありませんが、還元型のα吸収帯とβ吸収帯がはっきりと確認できます。吸収スペクトルは物質により特徴的な形を示すため、測定した物質が何であるかがわかります。例えばシトクロムc6とシトクロムfは同じC型シトクロムに属しますが、γ吸収帯(図2には示されていません)の極大波長が異なるため、吸収スペクトルの測定によりお互いに区別することができます。
 当研究室では、数種の緑藻を研究対象にしてプラストシアニンとシトクロムc6の銅による切り替わりの機構を調べていますが、タンパク質レベルでの切り替わりは吸収スペクトルで確認しています。一般的な実験方法を述べますと、まず銅濃度を変化させた培地で緑藻に光を照射し、無菌的に通気しながら光独立栄養的に培養します。遠心機を使って細胞を集め、緩衝液を加え、凍結と融解を繰り返しながら乳鉢中で乳棒を使ってすり潰し、遠心により上清を得ます。疎水性クロマトグラフィーを行って不純物を少し除いた後、還元剤または酸化剤を加えて吸収スペクトルを測定します。
 吸収スペクトルの横軸には波長(nm)、縦軸には吸光度をとります。吸光度は濃度に比例する値であり、1 mol/Lの濃度での吸光度は物質により決まった値をとります。そのため吸収スペクトルを測定すると、何という物質であるかがわかるだけではなく、そのときの濃度もわかります。プラストシアニン(酸化型)やシトクロム類のように可視部に吸収をもつ生体物質は肉眼でも存在を確認できますが、吸収スペクトル測定により比較的簡単に物質の種類と濃度を調べることができます。
紅藻のシトクロムC6の吸収スペクトル

どのような種で切り替わりが起こるか

 1978年に2種の緑藻で銅によるプラストシアニンとシトクロムc6の切り替わりが発見されて以降、藻類やシアノバクテリアのいろいろな種で切り替わりが起こることが報告されてきました。藻類について体系的に調べた論文(文献3)とシアノバクテリアについて体系的に調べた論文(文献4)がありますので、興味のある方はご覧ください。
 ところで、切り替わりが起こることが報告された種は、殆どすべてが微細な藻類やシアノバクテリアです。一方、図3のアオサの仲間のように、緑藻の中には大きい藻体をつくるものがあります。このような大型の緑藻でも切り替わりが起こるかどうかに筆者は興味をもっています(文献5)。
千葉県の海岸で採集された緑藻

文献

本連載は高校生向けの解説であるため、本記事と密接に関係した文献のみ記載します。

  1. Bohner, H. and Böger, P. (1978) Reciprocal formation of cytochrome c-553 and plastocyanin in Scenedesmus. FEBS Lett. 85: 337-339.
  2. Wood, P. M. (1978) Interchangeable copper and iron proteins in algal photosynthesis. Studies on plastocyanin and cytochrome c-552 in Chlamydomonas. Eur. J. Biochem. 87: 9-19.
  3. Sandmann, G., Reck, H., Kessler, E. and Böger, P. (1983) Distribution of plastocyanin and soluble plastidic cytochrome c in various classes of algae. Arch. Microbiol. 134: 23-27.
  4. Sandmann, G. (1986) Formation of plastocyanin and cytochrome c-553 in different species of blue-green algae. Arch. Microbiol. 145: 76-79.
  5. Yoshizaki, F., Sugimura, Y. and Shimokoriyama, M. (1981) Purification, crystallization, and properties of plastocyanin from a green alga, Enteromorpha prolifera. J. Biochem. 89: 1533-1539.

生化学研究室
吉崎文則

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