理学部生物学科

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発生学の大スター:ウニとヒトデ

愛すべきスターたち

 いろいろな動物について、卵から成長する過程&それに関係する諸問題を調べる学問を発生学といいます。この分野には多くのスターがいますが、その中の大物、大スターと言えば、やはりウニとカエルでしょう。高校で、生物を履修された方は、ウニの発生とカエルの発生は必ず教わったことと思います。その中でもウニは、卵が透明で観察しやすいこと、材料が手に入れやすいこと、人工受精が簡単にできることなどから、昔からよく調べられてきました。わが研究室では細胞分裂の研究などに、ウニとその親戚のヒトデを使ってきましたので、「新知識」とはそぐわないかも知れませんが、この愛すべき生き物たちについて少しお話したいと思います。

ウニの発生:臨海実習で大活躍

 ご承知のとおり、ウニは海の生き物ですから、陸のど真ん中の研究室ではちょっと実験をやりにくい。海水をわざわざ買って海水入りの水槽に入れて飼うか、海辺に立てられた実験所に出張するかして実験します。この海辺の実験所は多くは大学の付属機関で、臨海実験所と呼ばれます。ちなみに日本は、世界のうちでもかなり早くから臨海実験所を持っていました。大学で生物学を専攻すると、多くの場合この臨海実験所で、1週間ほど泊り込みで実習を行います。うまいことウニの繁殖期に実習時期があたると、ウニの発生の観察を行うことができます。
 まず雌雄のウニを用意して、卵と精子を取り出します。精子を海水で薄め、卵にかけるとほぼ100%受精します。この人工受精ができると、観察・実験には大変好都合です。受精後の時間経過がきちんとわかるだけでなく、受精前後の現象について実験できます。また受精直前の卵や精子の状態を観察することもできます。臨海実験所を見学する機会があったら、ビーカーなどの脇に墨汁が置いてあるのを見るかもしれません。これは実験所で書初め大会を開いた!・・のではなく、ウニの未受精卵をペトリ皿などに入れてそこに墨汁を垂らすことを、よくやるからです。こうすると、ウニの卵のまわりにあるゼリー層が見えるようになるのです(もっとも、きちんとふたをするのを忘れ、墨汁がガビガビに乾いていることもあるようです)。またウニを使った簡単な実験も、実習ではよく行われます。例えば、ウニの未受精卵を酪酸という酸で処理すると、精子抜きの発生(単為発生と言います)に似た現象を作ることができます。ただこの酪酸はえらく臭いので(10日間履き続けた靴下を想像してください)、食事の前にはやらない方がいいかも。
 受精後のウニは、しばらくほっといても発生していきますが、エサを食べるようになるとほっとくわけにはいきません。といっても、昔はほっとくしかなかったのですが、ずいぶん前に、ある高校の先生が、エサを人工的に増やしてウニの幼生を飼育する方法を確立して、今ではかなり大きくなるまで飼育できます。使わなかったウニや、飼育してきた幼生ウニは、海へ戻してやります。こうやって、実験をする人々は、ウニが減らないように注意しながらやってきたのですが、それでも環境の変化などでウニが大分減ってきました。ウニが貴重品になってきたのです。学生が臨海実験所に実習にやってきても、ウニを使いづらくなってきました。墨汁の出番も少なくなってきました。そこでウニに代わってヒトデが、実習・研究の友として脚光を浴びるようになります。

ヒトデの発生:新しいスターの誕生

 もともとヒトデも発生学では古くから使われていたのですが、こちらでは人工受精ができにくかったのです。写真1は、ヒトデの発達した卵巣です。きれいなオレンジがかった黄色で、卵がこぼれ落ちています。これから採った卵に、ウニと同様に精子をかけても、受精しません。実はヒトデの体内にある卵は、まだ成熟していないのです。成熟させるためには、卵の外から、ある物質が作用することが必要なのです。これにはヒトデの神経が関係していることがわかっていたので、実験のたびに神経を取り出してすりつぶしたり、ウニに比べて結構面倒でした。これを解決したのが金谷と言う先生です。この金谷先生は、未成熟な卵を成熟させる物質の本体が、1-メチルアデニンというものであることを見出しました。神経から放出される物質が、卵に密着している濾胞細胞という細胞に働いて1-メチルアデニンを出させ、それが卵に直接作用するのです。ヒトデから取り出した卵を、1-メチルアデニンにしばらく漬けておいてから精子をかけると、ほぼ100%受精します。1-メチルアデニンは保存がききますから、人工受精がウニ同様に簡単にできるようになりました。
イトマキヒトデの発達した卵巣
 では、1-メチルアデニンに漬けると、何が変わるのでしょうか。写真2は、漬ける前のヒトデの卵です。大きな核と、その中にはっきりした核小体が見えます。この大きな核ががんばっている間は、受精できないのです。写真3は、1時間ほど1-メチルアデニンに漬けたものです。核が見えなくなっていることがわかります。こうなると受精可能です。ウニのように、雌の体から取り出してすぐ受精可能な卵のほうが珍しく、多くの動物では、卵は成熟のためのステップを必要とします。人工受精が可能になるとしめたもの。ヒトデも、発生学のスターの仲間入りです。なお写真4は、受精した後分裂しているヒトデです。
ヒトデの発生:新しいスターの誕生
 ちなみにこのヒトデはイトマキヒトデと呼ばれる種類です。藍色の地に、赤や緑の模様がある、はでなヒトデです。イトマキヒトデは磯の、やや深いところにいます。ウニと違って商品価値はありませんが、それでも磯でヒトデ採りをするときは、必ず地元の方に許可を得ます。潜って採ってきたヒトデは、雌・雄に分けられます。実験によって雌が多く必要な場合、雄が多く必要な場合があるので、まずこの仕分けを行います。ヒトデの裏側(どっちが表か、実を言うとよくわからないのですが、派手な模様がないほうです)に、実験用のはさみで、なるべく小さな切れ目をいれます。切れ目の脇をちょっと押すと、生殖巣の一部が飛び出します。その色が白かったら精巣で、雄です。オレンジ色ならよく発達した卵巣、薄黄色ならまだ発達していない卵巣で、雌です。実験に必要な分だけ取って、余ったヒトデは海に還します。研究室に持ち帰ったヒトデは、海水入りの水槽に入れて大事に飼うのですが、ときどきへそを曲げて、卵や精子を一気に水槽内に放出する放卵・放精をすることがあります。これをよく「吹く」といいますが、これで実験材料としての価値はパー。実験に使おうとヒトデの体を開いたら、カラッポということになります。ヒトデは五角形をしていますが、そのそれぞれの頂点を水槽の壁に密着させ、五角形の中央部分をぐっと壁から離すと、放卵・放精の合図。ちょっと待て、早まるな!こうなるとあわててそのヒトデを隔離します。なぜなら一匹が始めると、他のヒトデも、われもわれもと始めるからです。ウニも、これを盛大にやるときがあります。

意外にデリケートなヒトデ

 ヒトデを採取しているときに、不思議そうに「このヒトデをどうするの?」と聞いてくる方がいます。たまに「食べるとおいしいんですよ!」などと答えたこともありますが(ごめんなさい)、もちろん食べられません。前にヒトデの料理をテレビで見たことがあるのですが、その地方独特の風習のようで、あまり一般的ではないようでした。発達した卵巣は実においしそうで、経験者によると実際おいしいそうです。ただどうやっても、のどを通らなかったそうです。サポニンなどの物質が含まれているせいでしょう。
 ヒトデもやはり減りつつあるようです。オニヒトデからの連想か、ヒトデは丈夫で、どんどん増えると言うイメージがあるかもしれませんが、実際には意外にデリケートで、研究室で飼っていても、水が少しでも汚れたりするとすぐ弱ります(ヒトデが弱ると、胃袋を吐き出すのですぐわかります)。生き物はすべてそうですが、ヒトデもいったん数が減ると、回復するのは結構大変です。商品価値はないし、地元の方々にもあまり歓迎されていないようだし、何の役にも立っていないようですが、学問的にはとても大事な生き物です。100年前から観察に使われ、40年ほど前から人工受精法の確立とともに、発生学の発展に貢献してきました。
 ウニとヒトデ。どちらも発生学の大スターです。磯歩きをするときウニやヒトデにあったら、ちょっと敬意を表していただけるとうれしいな、可愛がっていただきたいな、と思う今日この頃です。

発生生理学研究室
谷本さとみ

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