理学部生物学科

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抗菌性ヒストンを追いかけろ!Part II

みなさま、お久しぶりです。大変長らくのお待たせとなりましたが、2009年6月の「今月の話題 生物学の新知識」でお約束しました「抗菌性ヒストンを追いかけろ!」のPart IIをお届けします。実はこの駄文はPart Iの直後にすでにでき上がっておりましたが、沢山の書き手がおりますので、ようやくの掲載となりました。お待たせした分、みなさまにお楽しみ頂ければ、と思っております。

1.抗菌じかけのヒストン

「抗菌性ヒストンを追いかけろ!Part I」では、真核生物の細胞核内で染色体構造を保つために必須のタンパク質であるヒストンが、実は60年以上も前から抗菌活性を示す物質としても知られていたことをご紹介しました。しかし、ヒストンがいかようにして抗菌性を示すのかは長い間未知のままでした。ヒストンの抗菌活性の第一報から待つこと50余年、ブレークスルーをもたらしたのは韓国の研究チームでした。今ではリンカーヒストンであるヒストンH1やコアヒストンであるヒストンH2A、H2Bが抗菌物質として複数の生物種から見つかっており、いずれもよく似た性質や機構のもとに抗菌活性を発揮していることもわかるようになりました。

2.ブフォリン ? ヒストンH2Aに相同な配列を持つ抗菌ペプチド

1996年、Parkらが報じたアジアヒキガエル(Bufo bufo gargarizans)の2つの抗菌ペプチドは、ヒストンH2Aの部分配列に一致するアミノ酸配列を有していました(参考文献1)。彼らは、ヒストンH2AのN末端から39番目のアミノ酸までの配列を有するものをブフォリンⅠ(Bufforin I)、ブフォリンⅠの16から36番目までのアミノ酸配列を有するものをブフォリンⅡ(Bufforin II)と名付けました(図1)。何だか某有名な頭痛薬みたいな名前ですが、カエルの属名にちなんでつけられています(カエルの抗菌ペプチドの命名には一定のルールがあって、由来する生物の属名や種小名が基本的に尊重されます。これについてはいつかご紹介する機会があるかも知れません)。ちなみに、カエル由来の抗菌ペプチドの殆どは皮膚、それも成体の皮膚から得られているのですが(カエルといえば成体に決まっていて、そうでなければオタマジャクシと言えばよいのでしょうけれども)、ブフォリンは胃腺細胞の分泌物中から得られました。食べ物と一緒にいろいろな微生物も体内に入って来ますので、胃袋の中にも抗菌ペプチドがあっても良いのかも知れませんね。でも、胃袋の中(といっても実は体の外になるわけですが)というのは塩酸が分泌されていたり、タンパク質の消化酵素も分泌されていたりするわけですから、いかに抗菌性を持つとはいえタンパク質やペプチドには厳しい環境ではないのかしら?と思った方、あなたはなかなかスルドイものをお持ちです!
2.ブフォリン ? ヒストンH2Aに相同な配列を持つ抗菌ペプチド

3.細胞外に分泌されるヒストン

ヒストンH2Aによく似た抗菌ペプチド・ブフォリンは一体どこからやって来たのでしょうか?その答えを見つけたのは、やはりブフォリンを発見した韓国の研究グループでした。彼らの一連の研究により、ヒキガエルの胃腺を形成する細胞の一部には核だけでなく細胞質にもヒストンH2Aがあること、この細胞質ヒストンH2Aはさらに細胞外すなわち胃の中へ分泌されること、しかも胃の中に分泌されたヒストンH2Aはタンパク質消化酵素の一種であるペプシンの作用によってフラグメントにされ、その結果としてブフォリンが生じることが明らかにされました(参考文献2)。「細胞質にあって体外(胃中)に分泌される」というのは、部位こそ違え、まさにPart Iでご紹介したシュレーゲルアオガエル皮膚の抗菌性ヒストンH2Bとそっくりです(先行するブフォリンの成果を追いかけたのだから当たり前なのですが)。つまり、「抗菌性をもつヒストンは細胞が死んだり破壊されたりした際に核中のヒストンが副次的に抗菌物質として作用するのではない」ということが示されたわけです。ちなみに胃中に分泌された塩酸はやはり胃中に分泌されたペプシノーゲンを切断してペプシンに変えるので、胃袋はブフォリンを作り出す上で非常に効率的な環境にあるわけです。ということで、先ほど、「?」と思った方々は素晴らしい直感力をお持ちである、ということになりますね。さらについでですが、この韓国のグループは、ヒトやブタの胃の洗浄液中にもブフォリンの抗体と反応する物質が存在することを報告しています。
3.細胞外に分泌されるヒストン

4.二匹目のドジョウはナマズだった!

ブフォリンの発見に気を良くした(かどうかわかりませんが)韓国のグループは、当然のことながら「二匹目のドジョウ」を狙いました(もちろん、彼らが実際にドジョウを使ったかどうかはわかりませんが)。そしてドジョウならぬナマズ(Parasilurus asotus)の皮膚からヒストンH2AのN末端から19番目のアミノ酸の配列に一致する抗菌ペプチドを見つけ、パラシンⅠ(Parasin I)と名付けました(参考文献3)。パラシンⅠは皮膚上皮の粘液細胞で作られますが、その誕生にはやはりタンパク質分解酵素が関わっていました。パラシンⅠはカテプシンDというタンパク質がヒストンH2Aを切断することにより生じます。また、カテプシンDは前駆体であるプロカテプシンDがマトリクスメタロプロテアーゼ2(MMP2)という細胞外で作用するタンパク質分解酵素によって切断されることにより生じます。このMMP2は受傷によって活性化され、カテプシンDをどんどん作るようになります。つまり、ナマズの皮膚では負傷することにより粘液細胞がヒストンH2Aを分泌し、それをカテプシンDが切断してパラシンⅠを作り出すことで、傷口に微生物が感染しないよう防いでいるというわけです。

5.ブフォリンの抗菌メカニズム ? ヒストンはやっぱりDNAが好き!

もう一つ驚きだったのが、ブフォリンのもつ抗菌活性のメカニズムにありました。これは、やはり韓国の同じグループのメンバーが中心となって解明していますが、これまで「生物学の新知識」の抗菌ペプチドシリーズでご紹介して来たのは、主に細菌の細胞膜破壊を伴うタイプのものでした。しかし、ブフォリンは全く違った方法で細菌の増殖を抑制していました。すでに何度も繰り返していますが、ヒストンというタンパク質は真核細胞の核内でヌクレオソーム構造を維持することが主な役割であり、本質的にDNAと結合する物質です。ヒストン由来の抗菌ペプチドであるブフォリンⅡはこのDNA結合性をいかんなく利用して抗菌性を発揮していたのでした。実に不思議なことですが、ブフォリンはどういうわけか細菌の細胞膜を、壊すことなく通り抜けることができるのです。ブフォリンⅡがターゲットとする細菌は原核生物ですから核膜がありません。つまり、遺伝子であるDNAがむき出しのまま存在しています。そこにDNA大好き(?)のヒストン(の断片)が飛び込んで来るのですから、そこから先は容易に想像のつくことです。こうして細胞膜を通り抜けて菌体内まで到達したブフォリンⅡは、細菌のDNAと結合し、遺伝子の複製や転写を阻害することで、抗菌作用を発揮していたのでした(参考文献1)。

6.膜を越えて行こうよ!

ここまで来るともう言葉もなく、ただただ感心するばかりですが、ブフォリンの発見者はブフォリンⅡが細菌の細胞膜を通り抜ける仕組みもかなりのところまで解明しています。21個のアミノ酸残基からなるブフォリンⅡは、①1-4番目までの抗菌活性に無関係の部位、②5-10番目までの延長らせん形成部、③11番目の蝶番(ちょうつがい)部、そして④12-21番目までの抗菌活性に重要なαらせん形成部、の4つの機能単位からなります。このうち、③の蝶番を形成するのはプロリンなのですが、プロリンは正しくはアミノ酸ではなくイミノ酸であり、側鎖が複素環を形成できません。そのため、ペプチド鎖中にプロリンが出現するとペプチド鎖の折れ曲がりに大きな影響を与えます。この折れ曲がりが細胞膜の透過に極めて重要で、ブフォリンⅡのプロリンを他のアミノ酸に置換すると膜透過性を失うことや、逆に膜破壊型の抗菌ペプチドの然るべき部位にプロリンを挿入すると膜透過性を獲得することも知られています(参考文献4)。

と、ここまでブフォリンを中心に抗菌性ヒストンの話をご紹介してまいりましたが、肝心の私達が解明したヒストンH2Bのお話をする前に、またもや紙面が尽きてしまいました。もうこうなると、「抗菌性ヒストンを追いかけろ!」は三部構成とするしかありませんね(何だか安っぽい連続ドラマみたいだぞ、とお叱りを受けそうですが)。ということで、この続きはいつの日かPart IIIとしてお届けするつもりです(といいつつ更新ぶりを見ると「今月の生物学」の存続そのものが心配ですが…笑)。何はともあれ、再会を信じて、See you next time!

生体調節学研究室
岩室祥一

参考文献

  1. Park CB, Kim MS, Kim SC, 1996. A novel antimicrobial peptide from Bufo bufo gargarizans. Biochem Biophys Res Commun, 218, 408-413.
  2. Kim HS, Yoon H, Minn I, Park CB, Lee WT, Zasloff M, Kim SC, 2000. Pepsin-mediated processing of the cytoplasmic histone H2A to strong antimicrobial peptide buforin I. J Immunol, 165, 3268-3274.
  3. Park IY, Park CB, Kim MS, Kim SC, 1998. Parasin I, an antimicrobial peptide derived from histone H2A in the catfish, Parasilurus asotus. FEBS Lett, 437, 258-262.
  4. Park CB, Yi KS, Matsuzaki K, Kim MS, Kim SC, 2000. Structure-activity analysis of buforin II, a histone H2A-derived antimicrobial peptide: the proline hinge is responsible for the cell-penetrating ability of buforin II. Proc Natl Acad Sci USA, 97, 8245-8250.

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