アホウドリ、再生への軌道に乗る
羽毛を採取するために乱獲され、地球上から姿を消したと思われたアホウドリは、伊豆諸島鳥島で1951年1月6日に「再発見」された。それから約60年後の今、アホウドリは着実に個体数を回復し、「再生」への軌道に乗っている。

この海鳥の主繁殖地である鳥島では、2009-10年繁殖期に少なくとも446組のつがいが産卵した(図1)。鳥島の繁殖集団は1979-80年の繁殖期以降の30年間に、年率7.55%で指数関数的に成長してきた(約9.5年で2倍に増加)。
図1 西地区斜面 (2009年11月撮影)
この個体数増加は、従来のコロニー(集団繁殖地)での砂防工事と草移植工事を軸とした営巣環境改善事業によって、繁殖成功率(=巣立ちひな数/産卵数)がかつての40%余りから現在の70%以上へと、大幅に改善されたことによっている。
また、以前に紹介したように、デコイと音声再生による“社会的誘引”によって、鳥島北西側の地滑りのおそれのない安全で広い斜面に若いアホウドリを誘引し、新しいコロニーを形成することにも成功した。この新コロニーは従来コロニーからの繁殖年齢前の若い個体の移入によって、急速に成長している。しかも、この新コロニーでの繁殖成功率は従来コロニーと比較して10%ほど高い。したがって、新コロニーが成長すればするほど、鳥島集団全体の繁殖成功率が上昇し、その結果、集団の成長も加速するはずである。
羽毛採取が始まった120年あまり前まで、アホウドリは全島を覆うほど密集して繁殖していたから、面積約450haの鳥島には、おそらく20~30万組のつがいが営巣していたはずである。その水準と比較すると、現在の繁殖つがい数はわずか0.2%ほどである。そのため、鳥たちにとって営巣場所も食物資源もほぼ無制限に利用できるとみなすことができ、また現在、捕獲圧は皆無である。それらの条件がこの集団の指数関数的増加を実現させている。
今後、繁殖地である島の陸上環境や採食場所である北太平洋の海洋環境が大きく変化しなければ、少なくとも20~30年間は指数関数的に成長するにちがいない。もし、現在の成長率が維持されれば、繁殖つがい数は2011-12年繁殖期に約500組に、2020-21年繁殖期には約1000組に、さらに2030-31年繁殖期には2000組を超えるにちがいない。この時点でも乱獲前の水準の1%にしか相当しない。
また、鳥島の火山が噴火して、島の陸上にいる鳥を全滅させるようなことが起こったとしても、それによって鳥島集団が絶滅することはない(共同研究の結果)。繁殖前の若い鳥や繁殖中のつがいの片方は海上にいて、半数以上が難を逃れるからである。そして、噴火が治まってから島に戻り、繁殖を再開する。
第2繁殖地のある尖閣諸島では、領土問題が解決していないため、2001-02年繁殖期以降、繁殖状況の調査が行なわれていない。しかし、この約10年間にアホウドリが繁殖している南小島・北小島で島自体や周辺環境に大きな変化がなかったと思われるから、尖閣諸島の繁殖集団もおそらく順調に成長しているにちがいなく、現在、繁殖つがい数はおよそ80~90組と推測される。
繁殖地が上記の2カ所だけだと、例えば伝染性の病気の流行や捕食者の侵入などによって、もし片方が失われるようなことがあれば、たった1カ所しか残らないことになる。そのような事態はアホウドリの存続にとって危機的である。また、鳥島集団が小さかったときには、火山噴火による影響が非常に懸念された。そのため、第3繁殖地を早期に形成する計画が国際チームによって議論され、まとめられた。
第3繁殖地は小笠原諸島聟島列島に形成されることに決まった。さまざまな準備を経て、2008年2月に鳥島の従来コロニーから10羽の若いひなが聟島に運ばれ、そこで人間の手で野外飼育された(山階鳥類研究所のチームが担当した)。運ばれたひなはすべて巣立ち、海に飛び立った。2009年には15羽のひなが運ばれ、飼育され、巣立った。2010年にも15羽のひなが運ばれ、さらに2012年までつづけられる。
ここから巣立ったひなは、約3年後から聟島に帰り始め、そこでつがい相手を見つけ、およそ7年後から繁殖を開始する。そうして、しだいに繁殖つがいが増え、第3繁殖地が形成されるにちがいない。
2010年1月初め、ひなの飼育場所のすぐ近くにある小島で、アホウドリの若いつがいが自然にできたかもしれないという、うれしいニュースが届いた。その片方は鳥島から巣立った個体で、他方は足環が付いていないから尖閣諸島で生まれた個体だと推測される。この2羽は、昨シーズンにもその場所でさかんに求愛行動をしていたから、いずれつがいになるにちがいない。
これら2羽は、おそらく、野外飼育されているひな自体だけでなく、近くに設置されているデコイや流されているアホウドリの音声に誘引されたのだろう。そうだとすれば、今後も鳥島や尖閣諸島から自発的に聟島列島に移住する個体が現れるはずで、それらと飼育されて巣立った個体がつがいになることも十分に期待される
もう一つ、うれしいニュースがある。太平洋の真中にあるミッドウェー環礁には、以前から鳥島で生まれたアホウドリが1羽、2羽と訪れていた。2000年には3羽が島の別々の場所に居着いていたので、それらを1カ所に集めて“見合い”をさせようと、デコイ(多くの人と協力して、16体を日本から送った)と音声再生装置が設置された。でも、なかなかうまくは行かなかった。
しかし、2009年1月にデコイのそばで寄り添っている2羽が観察され、つぎの繁殖シーズンにあたる2009年11月には、そこに巣が形成された。ただ、卵はなかった。これら2羽とも鳥島で生まれた鳥で、足環から23歳と7歳であることが分かった。この23歳の鳥は2000年にも訪れていたから、10年越しでつがい相手を見つけたことになる。これまで、ミッドウェー環礁でアホウドリが繁殖した記録はないが、順調に行けば、来シーズンには産卵が確認されるかもしれない。
アホウドリは“超”順調に個体数を回復している。繁殖分布域が拡大する予兆も見えている。一昨年にはオホーツク海に海洋分布域が拡大したことが明らかにされた。まちがいなく、アホウドリは再生への軌道に乗っている!
また、以前に紹介したように、デコイと音声再生による“社会的誘引”によって、鳥島北西側の地滑りのおそれのない安全で広い斜面に若いアホウドリを誘引し、新しいコロニーを形成することにも成功した。この新コロニーは従来コロニーからの繁殖年齢前の若い個体の移入によって、急速に成長している。しかも、この新コロニーでの繁殖成功率は従来コロニーと比較して10%ほど高い。したがって、新コロニーが成長すればするほど、鳥島集団全体の繁殖成功率が上昇し、その結果、集団の成長も加速するはずである。
羽毛採取が始まった120年あまり前まで、アホウドリは全島を覆うほど密集して繁殖していたから、面積約450haの鳥島には、おそらく20~30万組のつがいが営巣していたはずである。その水準と比較すると、現在の繁殖つがい数はわずか0.2%ほどである。そのため、鳥たちにとって営巣場所も食物資源もほぼ無制限に利用できるとみなすことができ、また現在、捕獲圧は皆無である。それらの条件がこの集団の指数関数的増加を実現させている。
今後、繁殖地である島の陸上環境や採食場所である北太平洋の海洋環境が大きく変化しなければ、少なくとも20~30年間は指数関数的に成長するにちがいない。もし、現在の成長率が維持されれば、繁殖つがい数は2011-12年繁殖期に約500組に、2020-21年繁殖期には約1000組に、さらに2030-31年繁殖期には2000組を超えるにちがいない。この時点でも乱獲前の水準の1%にしか相当しない。
また、鳥島の火山が噴火して、島の陸上にいる鳥を全滅させるようなことが起こったとしても、それによって鳥島集団が絶滅することはない(共同研究の結果)。繁殖前の若い鳥や繁殖中のつがいの片方は海上にいて、半数以上が難を逃れるからである。そして、噴火が治まってから島に戻り、繁殖を再開する。
第2繁殖地のある尖閣諸島では、領土問題が解決していないため、2001-02年繁殖期以降、繁殖状況の調査が行なわれていない。しかし、この約10年間にアホウドリが繁殖している南小島・北小島で島自体や周辺環境に大きな変化がなかったと思われるから、尖閣諸島の繁殖集団もおそらく順調に成長しているにちがいなく、現在、繁殖つがい数はおよそ80~90組と推測される。
繁殖地が上記の2カ所だけだと、例えば伝染性の病気の流行や捕食者の侵入などによって、もし片方が失われるようなことがあれば、たった1カ所しか残らないことになる。そのような事態はアホウドリの存続にとって危機的である。また、鳥島集団が小さかったときには、火山噴火による影響が非常に懸念された。そのため、第3繁殖地を早期に形成する計画が国際チームによって議論され、まとめられた。
第3繁殖地は小笠原諸島聟島列島に形成されることに決まった。さまざまな準備を経て、2008年2月に鳥島の従来コロニーから10羽の若いひなが聟島に運ばれ、そこで人間の手で野外飼育された(山階鳥類研究所のチームが担当した)。運ばれたひなはすべて巣立ち、海に飛び立った。2009年には15羽のひなが運ばれ、飼育され、巣立った。2010年にも15羽のひなが運ばれ、さらに2012年までつづけられる。
ここから巣立ったひなは、約3年後から聟島に帰り始め、そこでつがい相手を見つけ、およそ7年後から繁殖を開始する。そうして、しだいに繁殖つがいが増え、第3繁殖地が形成されるにちがいない。
2010年1月初め、ひなの飼育場所のすぐ近くにある小島で、アホウドリの若いつがいが自然にできたかもしれないという、うれしいニュースが届いた。その片方は鳥島から巣立った個体で、他方は足環が付いていないから尖閣諸島で生まれた個体だと推測される。この2羽は、昨シーズンにもその場所でさかんに求愛行動をしていたから、いずれつがいになるにちがいない。
これら2羽は、おそらく、野外飼育されているひな自体だけでなく、近くに設置されているデコイや流されているアホウドリの音声に誘引されたのだろう。そうだとすれば、今後も鳥島や尖閣諸島から自発的に聟島列島に移住する個体が現れるはずで、それらと飼育されて巣立った個体がつがいになることも十分に期待される
もう一つ、うれしいニュースがある。太平洋の真中にあるミッドウェー環礁には、以前から鳥島で生まれたアホウドリが1羽、2羽と訪れていた。2000年には3羽が島の別々の場所に居着いていたので、それらを1カ所に集めて“見合い”をさせようと、デコイ(多くの人と協力して、16体を日本から送った)と音声再生装置が設置された。でも、なかなかうまくは行かなかった。
しかし、2009年1月にデコイのそばで寄り添っている2羽が観察され、つぎの繁殖シーズンにあたる2009年11月には、そこに巣が形成された。ただ、卵はなかった。これら2羽とも鳥島で生まれた鳥で、足環から23歳と7歳であることが分かった。この23歳の鳥は2000年にも訪れていたから、10年越しでつがい相手を見つけたことになる。これまで、ミッドウェー環礁でアホウドリが繁殖した記録はないが、順調に行けば、来シーズンには産卵が確認されるかもしれない。
アホウドリは“超”順調に個体数を回復している。繁殖分布域が拡大する予兆も見えている。一昨年にはオホーツク海に海洋分布域が拡大したことが明らかにされた。まちがいなく、アホウドリは再生への軌道に乗っている!
長谷川 博 (生態部門・動物生態学研究室)