気候温暖化と習志野キャンパス
地球温暖化の主な原因はわれわれの排出する二酸化炭素(CO2)です。CO2の濃度を下げるには工場や車さらに家庭から出るCO2などの排出規制をするか、CO2を植物に吸収させる方法があります。植物(樹木)はどれくらいのCO2を吸収するのか。緑の濃い習志野キャンパスの樹木を調査して、大学が排出するCO2と比較してみましょう。
大気中の二酸化炭素濃度
最近のさまざまな研究では、人間の活動により増加した大気中のCO2が、自然生態系ばかりでなく、人間の生存のための環境自体を破壊することを明らかにしました。産業革命前には大気のCO2濃度は280ppmであったといわれています。しかし、その後除々に増加して、20世紀には急増しました。1958年にハワイのマウナロア島で開始された大気中のCO2濃度の測定により、当初年平均315ppmであったものが、年々増加して2007年には383ppm、2010年には390ppmに到達するでしょう(図1)。
図1 マウナロア島(ハワイ)の大気中のCO2濃度(図はhttp://en.wikipedia.org/wiki/Global_wrmingより転載)。この島は太平洋の真ん中で周囲に工業地帯がないため、大気中のCO2濃度を正確に反映している。季節的な変動は植物によるCO2の吸収を示している。
このまま放置すれば大気中のCO2濃度は増加し続けて、2100年には地球の平均気温は最大に見積もって4℃ほど温暖化すると予測されています。すでに20世紀後半からの温暖化により、世界各地で様々な異変が報告されています。したがってCO2の排出量を削減することは急務であり、国際的な協力が求められています。そのための取り組みとして気候変動枠組条約(注)が締結され、京都議定書では2008年から2012年までの各国のCO2排出量の削減目標が決められました。
日本は1990年の排出量の6%削減が目標とされました。現代社会では、工業活動、家庭生活、交通など人間活動のすべてにおいてCO2が大量に排出されるため、削減することは容易なことではありません。実は6%削減のすべてが実質的な排出量削減によるものではなく、そのうち3.8%は森林の吸収に頼るつもりでした。新たな植林や荒廃した森林の整備により樹木によるCO2の吸収能力を高めることが期待できます。
ところが森林科学の研究結果から、日本の森林の多くは老齢化して吸収能力が低下しており、2.9%の吸収量しか見込めないことが判明しました。なぜ老齢化した森林はCO2の吸収能力が低いのでしょうか?若い森林は、木々の生長が早く、光合成を行ってCO2を吸収し、森林生態系に蓄えていきます。一方、木も生命活動のために呼吸をするので、CO2を放出します。葉は光合成を行うので、CO2の吸収が放出よりもはるかに多いのですが、枝・幹や根は呼吸により放出だけを行っています。若い木は葉の割合が多く、木全体として正味のCO2吸収量が多いのですが、老齢化した樹木は葉の量が一定量以上多くなれず、幹や根などだけが増加していくのです。そのために老齢化した森林のCO2吸収量が減少するのです。天然林では、若い林や老齢化した林がパッチ状に組み合わさって分布しています。一方、スギ・ヒノキなどの人工林は、現在の日本では放置され荒廃していることが多いため、CO2の吸収能力が低下しているのです。したがってCO2削減のために、新たな技術の開発や社会システムの改革を行うとともに、日本の森林を保全し整備することが求められています。
日本は1990年の排出量の6%削減が目標とされました。現代社会では、工業活動、家庭生活、交通など人間活動のすべてにおいてCO2が大量に排出されるため、削減することは容易なことではありません。実は6%削減のすべてが実質的な排出量削減によるものではなく、そのうち3.8%は森林の吸収に頼るつもりでした。新たな植林や荒廃した森林の整備により樹木によるCO2の吸収能力を高めることが期待できます。
ところが森林科学の研究結果から、日本の森林の多くは老齢化して吸収能力が低下しており、2.9%の吸収量しか見込めないことが判明しました。なぜ老齢化した森林はCO2の吸収能力が低いのでしょうか?若い森林は、木々の生長が早く、光合成を行ってCO2を吸収し、森林生態系に蓄えていきます。一方、木も生命活動のために呼吸をするので、CO2を放出します。葉は光合成を行うので、CO2の吸収が放出よりもはるかに多いのですが、枝・幹や根は呼吸により放出だけを行っています。若い木は葉の割合が多く、木全体として正味のCO2吸収量が多いのですが、老齢化した樹木は葉の量が一定量以上多くなれず、幹や根などだけが増加していくのです。そのために老齢化した森林のCO2吸収量が減少するのです。天然林では、若い林や老齢化した林がパッチ状に組み合わさって分布しています。一方、スギ・ヒノキなどの人工林は、現在の日本では放置され荒廃していることが多いため、CO2の吸収能力が低下しているのです。したがってCO2削減のために、新たな技術の開発や社会システムの改革を行うとともに、日本の森林を保全し整備することが求められています。
習志野キャンパスの樹木
東邦大学の理念は「自然・生命・人間を自然科学から探求する」ことです。理学部のある習志野キャンパスは自然を尊重する理念に従って樹木を数多く残して、1月の真冬でも緑が豊かです(図2)。
キャンパス内には日本や世界の様々の植物が植えられ、手入れがされていますが、特に照葉樹と呼ばれる冬も緑の多い木が目立ちます。キャンパスのシンボルは中央通りにそびえる樹齢60年を越える大きなシイ(図3)です。
中央通りの他にも、薬草園の温室の側にはカシ、クロマツ、クスノキなど5階建ての校舎を越える木木が茂っています(図4左)。さらに冬に彩りを添えるのはヤブツバキ(図4右)です。これらの照葉樹は本来、関東以南の平地の天然林ですが、古くからの人間活動の結果、原生林はほとんど残されておらず、その面影はわずかに神社やお寺、つまり鎮守の森としてしか見ることができなくなってしまいました。照葉樹は本来、この地方の気候に最も適応した樹種なのでよく育ちます。冬も光合成を行うので、CO2吸収の点からも照葉樹を植えることが望ましいと思います。
習志野キャンパスのCO2収支
東邦大学習志野キャンパスの緑がどの程度CO2を吸収するのか、人間活動による放出量との収支を学生とともに見積もってみました。見積もりは、すべての木の直径と高さを測定し、それをもとに年間のCO2吸収量を推定します。一方CO2の放出量は、人間の呼吸、土壌呼吸、電力消費そして廃棄物などから算出しました。その結果、キャンパス内の樹木によるCO2吸収量は、人間活動による排出量の約1000分の1 (0.1%) しか見込めないことがわかりました。東邦大学は日本の平均に比べてそれほど多くのCO2を排出しているわけではありません。
冷暖房は授業のある時間しか入りませんし、学内では自動車も走っておらず、生活廃棄物もありません。廃棄物の多くは事務処理で出た紙類です。今回の調査では、意図して多くの樹木を植えて手入れを行っていても、CO2収支としては、はるかに多くのCO2を排出しているということがわかりました。人間がいかに多くのCO2を排出しているかが明確になる一例です。それでもあきらめることなく、キャンパス内の緑を大切にし、さらに森林の保全について研究を続けていかねばならないと思います。
注:気候変動枠組条約第15回締約国会議 (COP15)は2009年12月にコペンハーゲンで開催されたが、明確な削減目標の決定には至らず今年度に持ち越しとなった。
冷暖房は授業のある時間しか入りませんし、学内では自動車も走っておらず、生活廃棄物もありません。廃棄物の多くは事務処理で出た紙類です。今回の調査では、意図して多くの樹木を植えて手入れを行っていても、CO2収支としては、はるかに多くのCO2を排出しているということがわかりました。人間がいかに多くのCO2を排出しているかが明確になる一例です。それでもあきらめることなく、キャンパス内の緑を大切にし、さらに森林の保全について研究を続けていかねばならないと思います。
(植物生態学研究室 丸田恵美子)
注:気候変動枠組条約第15回締約国会議 (COP15)は2009年12月にコペンハーゲンで開催されたが、明確な削減目標の決定には至らず今年度に持ち越しとなった。