理学部生物学科

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アホウドリの「デコイ作戦」に完全成功! 【2009年2月号】

 2008年11月下旬から12月初旬に、ぼくは100回目の鳥島アホウドリ調査を行なった。この調査で、鳥島の北西側に広がるなだらかな斜面に合計50組のつがいが産卵したことを観察し、デコイ(模型のおとり)と音声再生によって繁殖前の若い鳥を誘引し、新しい営巣地を形成するという「デコイ作戦」が完全に成功したことを確認した。
アホウドリの「デコイ作戦」に完全成功!
 この「デコイ作戦」のきっかけは、アホウドリが従来から集団で営巣していた鳥島南東端の燕崎の斜面で、1987年の秋に起こった地滑りだった。斜面上部の谷に堆積していた火山灰が台風の大雨で大量の水を含み、自分の重さで地滑りを起こし、土石流となって海岸まで流れ下ったのである。そのあと、雨のたびに小さな泥流が発生して、従来営巣地に流れ込んだ。その結果、卵が流され、ひなが土砂に埋まる事故が頻発し、繁殖成功率は40%台に下がってしまった。
 さらに、もしつぎの地滑りが起これば、大量の土砂が流れ込んで、従来営巣地は破壊されると予測された。とにかく、緊急に砂防工事が必要だった。しかし、それだけでは不十分だった。アホウドリのひなは、巣立ったあと成長して、数年後に生まれた場所にもどってきて、そこでつがいを形成して繁殖を始める。そうすると、また地滑りの影響を受ける可能性があるからだ。つまり、地滑りの起こる恐れのない安全な斜面に若い鳥を誘導して住み着かせなければ、こん本的な解決にはなりえなかった。そのために、アホウドリが集団で繁殖する習性を利用して、デコイをたくさん並べ、録音した鳴き声を再生・放送して、繁殖前の若い鳥をおびき寄せる作戦を立て、新しい営巣地をつくる場所として、鳥島の北西側に広がるなだらかな斜面の中腹を選んだのだった。
 この、海鳥の集団営巣地形成を人為的に促進する「デコイ作戦」は、全米オーデュボン協会のスティーブ・クレス博士が開発し、ニシツノメドリの繁殖集団の復元ですでに成功を収めていた。ぼくは、1979年にかれの短い論文を読み、いずれアホウドリにも適用可能だと思い描いた。ただ、このとき、ぼくは「小笠原移住」を念頭においていた。それが、鳥島の島内での新営巣地形成のために必要になったのである。
 実際の動きは1990年から始まった。環境省にデコイ作戦の必要性を提案しつつ、デコイを利用することのの有効性を示さなければならなかった。さいわい、日本におけるバードカービング(野鳥彫刻)の第一人者の内山春雄さんが一肌脱いで、デコイの原型を作ってくれた。それをもとに、プラスチックのレプリカを量産し、それらに着色して、デコイを製作する作業を生物模型の専門会社、西尾製作所に依頼した。
 完成したデコイを携えて1991年11月に鳥島に渡り、山階鳥類研究所と共同で、デコイの誘引効果を従来営巣地で確認した。翌年4月には北西斜面の中腹で実験し、誘引効果を再確認した。そして、その年の秋、1992年11月に、41体のデコイを北西斜面の中腹に設置し、デコイ作戦はスタートをきった。さらに、93年3月には三洋電機製の音声再生装置が作動しはじめた。
 すぐに若い鳥がデコイのそばに着陸し、求愛行動をはじめた。それまで16年間、1羽のアホウドリも上空に着陸するどころか、飛来さえしなかった場所に。デコイと音声再生の誘引効果は明白だった。

(動物生態学研究室 長谷川 博)

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