あじさい
セイヨウアジサイは、日本から中国に渡ったものが、揚子江沿岸の東部に野生化し、これを採集した J. Banks(英)が1788年に Kew Botanical Garden に寄贈したものだそうです。これはアジサイと異なり結実するので、その後品種改良がかさねられ、今日のセイヨウアジサイとなったものです。セイヨウアジサイの花色は基本的にピンクですが、上に述べたように土壌の性質により様々な色に変化します。
周辺花は花が咲き終わると反転します
ガクアジサイの周辺花は正常花が咲き終わると、裏返しになります。従って、アジサイもセイヨウアジサイも、花後はすべての花が裏返しになります。反転した花の蕚片はしだいに紫色やピンクから緑色に変わります。老成したアジサイの花には、あの妖艶な紫の貴婦人の姿はなく、歳を経て薄汚れた姿となり、冬が来て葉が落ちてもまだカサカサと乾いた姿を見せ、翌年の花の時期を過ぎても花がらが残っています。
周辺花, 中性花(飾り花:装飾花)marginal flower, sterile flower, neuter flower
正常花(両性花)normal flower, bisexual flower, hermaphrodite flower
アジサイは昔から青かった
このように、アジサイは、ガクアジサイを母種として古い時代に我が国で改良した園芸品です。アジサイは、中性花、つまり周辺花ばかりからなるので種子を生じることがありません。従って実生による変化を生じようがなく、江戸時代に描かれたアジサイの絵の色も、現在のアジサイの色と同じなのです。
究極のエコ
新撰字鏡(898)には草冠に便と書いた文字があります。「止毛久佐」、「安知左井」とあり、言塵集には「またぶり草」とあるそうです。かつて、アジサイの葉は、ひろく落とし紙として用いられていたのでしょうね。これこそ、究極のエコではないでしょうか。
葉は食べられません
習志野市の花はアジサイ
ちなみに、東邦大学習志野キャンパスのある船橋市の花は昨年、市制70周年を記念してヒマワリとカザグルマと指定されました。
オランダ商館員達の見たアジサイ
、そしてシーボルト(Dr.Ph. Fr. De Siebold 1976~1866)の3人が日本の文化、特に植物学に大きな影響を及ぼした人達です。彼らは、いずれもわが国に来てアジサイを見ています。ツンベルグはアジサイをガマズミ属の1種と考えViburnum macrophyllum Thunbergという名前を与えました。後にSeringeは、これをアジサイ属(Hydrangea)に移しHydrangea macrophylla (Thunberg) Seringeとしました。
シーボルは、1823年8月にオランダ商館員の一員として日本に渡来し長崎に来た医者でした。医者としての人望を集め、出島を出て鳴滝に塾を開き、多くの日本人弟子を育てました。シーボルトはわが国のあらゆるものに関心を持った人でした。特にわが国に生育する植物に強い関心を持ち、長崎から江戸に来る途中でもたくさんの人達に会って多方面の指導を行いながら、たくさんの植物を採集しました。シーボルトがヨーロッパに帰った後に、植物学者のツッカリニ(J. G. Zuccarini 1797~1848)と共著でFlora Japonica『日本植物誌』という本を出版しました。銅版画の絵に彩色を施した豪華な本です。東邦大学習志野メディアセンターにもFlora Japonicaの複製本が2冊あります。その中の1冊には、アジサイに彩色が施されています。Flora Japonica に掲載された多くの絵は川原慶賀(1786~1862)が描いたものが下絵となって、ドイツの画家が描いたものですが、Flora Japonica に川原慶賀のサインはどこにもありません。
Flora Japonica には、以下にあげた14種のアジサイ属(Hydrangea)植物が記載されています。
学名 | Flora Japonicaにある和名 | 現在の和名 |
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Hydrangea Asisai Sieb. | Azisai, Sju-hats-sen | ガクアジサイ |
Hydrangea Otakusa S. et Z. | Otakusa | アジサイ |
Hydrangea japonica Sieb. | Gakuso | ベニガク |
Hydrangea petiolaris S. et Z. | Jama-demari | ツルアジサイ |
Hydrangea Belzonii S. et Z. | Oha-azisai | エゾアジサイ |
Hydrangea acuminata S. et Z. | ヤマアジサイ | |
Hydrangea thunbergii Sieb. | Ama-tsja, Do sjo San | アマチャ |
Hydrangea cordiflora S. et Z. | Jabu-demai | |
Hydrangea stellata S. et Z. | Sitsidankwa | シチダンカ |
Hydrangea virens Sieb. | Jama-dosin, Kana-utsuki | ガクウツギ |
Hydrangea paniculata Sieb. | Nori-nori | ノリウツギ |
Hydrangea hirta S. et Z. | ||
Hydrangea involucrata Sieb. | Ginbaisoo, Kinbaisoo | タマアジサイ |
Hydrangea bracteata S. et Z. |
東邦大学習志野キャンパスのアジサイ達
以下に東邦大学キャンパスに見られるアジサイの仲間達を紹介します。
アジサイ Hydrangea macrophylla (Thunberg) Seringe var. macrophylla
(Hydrangea Otakusa Sieb. et Zucc.) (上の写真をごらんください。)
ガクアジサイ Hydrangea macrophylla (Thunberg) Seringe var. macrophylla f. mormalis (Wilson)
Hara (Hydrangea Asisai Sieb.) (上の写真をごらんください。)
ベニガク Hydrangea macrophylla (Thunberg) Seringe var. acminata Makino f. rosalba Ohwi
(Hydrangea japonica Sieb.)
葉は厚く、先端は尖り、周辺花は菱形でへりに鋸歯があり、何よりも赤く色づくことからこの名があります。暗い所をきらいます。(写真はありません。)
アマチャ(ヤマアジサイの系統とされています)
Hydrangea macrophylla (Thunberg) Seringe subsp. serrata (Thunberg) Makino
仏教徒を自認する日本人の中で、お釈迦様の誕生日をご存じの方はどれほどいるのだろうか。灌仏会といい、お釈迦様がお生まれになった時の姿の像を白い象に乗せて町を歩き、寺に帰ってからお釈迦様の像に甘茶をかけ、その甘茶をもらって家に帰って皆で飲んだものでした。ほのかに甘い飲み物でした。この甘茶は、アマチャの成熟した枝葉を乾燥してとっておき、揉んで煮出したもので、フィロズルチンが含まれているので甘いのです。
タマアジサイ Hydrangea involucrata Sieb.
エゾアジサイ Hydrangea macrophylla (Thunberg) Seringe subsp. yezoensis (Koidzumi) Kitamura (Hydrangea Belzonii S. et Z.)
シチダンカ Hydrangea macrophylla (Thunberg) Seringe f. prolofera (Regel) Ohwi (Hydrangea stellata S. et Z. )
ノリウツギ Hydrangea paniculata Sieb.
カシワバアジサイ
ウズアジサイ
ヤエアジサイ
スミダノハナビ
(自然史研究室 吉崎 誠)