理学部生物学科

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「オキノタユウのひな、ついに200羽をこす!」 【2007年6月号】

オキノタユウのひな、ついに200羽をこす!
 2007年4月、ぼくは伊豆諸島最南部にある無人島の鳥島に23日間滞在して、絶滅のおそれのある大形の海鳥、オキノタユウ(=アホウドリ)の繁殖状況を調査した。うれしいことに、合計231羽のひなを確認することができた。ついに、ひなの数が念願だった200羽を超えた!
 この鳥の保護研究のために、ぼくが初めて鳥島に上陸したのは、30年前の1977年3月で、そのとき、ひなの数はたったの15羽だった。それが約15倍に増えた。営巣地とその周辺で観察された繁殖年齢前の若鳥と親鳥の数は、30年前には71羽だったが、今期はその約10倍の671羽になった。もちろんこれら以外に、営巣地を離れて海でひなのためのえさを集めている親鳥や、営巣地に戻ることなくもっぱら海で過ごしている若い鳥もいる。繁殖開始年齢(約7歳)や齢別年生存率(若鳥95%、成鳥96%)、性比、繁殖周期などの集団生物学的資料や配偶様式(1雄1雌)にもとづいて、この鳥島集団の総個体数を推定すると1945羽となる。30年前には約200羽弱だったから、およそ10倍に増えたことになる。数百羽の成鳥と若鳥が群れ、200羽を超すひなでにぎわう従来営巣地の光景は、ぼくにとって夢のようだった。
 うれしかったことは、それだけにとどまらない。デコイと音声再生によって、鳥島内の地滑りのおそれのない安全な北西斜面に形成した新営巣地で、16羽のひなを確認し、平均して55羽の成鳥と若鳥が訪れていることを観察した。この保護事業計画の開始からここまで、15年間かかった。
 今シーズン、この新営巣地で24組のつがいが産卵した。ここでの繁殖つがい数は、2003年に1組、2004年に4組、2005年に15組だったから、新営巣地はすでに成長期に突入し、来シーズンにはきっと30~35組が産卵し、20羽以上のひなが巣立つにちがいない。さらに2010年には、およそ50組のつがいが産卵し、30羽以上のひなが巣立つと期待している。
 これで、鳥島の火山が、突然、大噴火を起して繁殖集団に大打撃を与えることがなければ、オキノタユウが地球上に再生することはほぼ確実になった。ぼくは、これまで1830日(約5年の相当)を費やして、95回この無人島に通い、11月下旬に産卵を調べ、3~4月にひなに足環標識を装着して巣立ちひな数を確定し、繁殖状況の監視調査をつづけてきた。その研究成果にもとづいて、保護の基本構想と具体的保護計画を提案し、さらに、6月中旬に現場での保護活動に参加し、指導してきた。30年間にわたって、他の人からみれば「マンネリズムの極致」のような調査を、ぼくはひたすらつづけてきた。それがようやく実を結ぼうとしている。
 でもまだ、火山噴火の危険が残っている。これにそなえて、鳥島から孵化後およそ1ヵ月の若いひなを鳥島から非火山の小笠原諸島聟島列島に運んで、人手で飼育し、海に飛び立たせ、新しい繁殖集団を形成する「小笠原移住作戦」が日米の国際協力によって実施される。別種(コアホウドリ、クロアシアホウドリ)のひなで飼育の訓練をして(2006~07年)、2008年2月からオキノタユウのひなの移動と野外飼育が始められる。ここに繁殖地が確立するのは、おそらく2025年ころになるだろう。ぼくはこれからも鳥島に通い、従来営巣地の環境を保全して鳥島から送りだすひなの数(できれば5年間に少なくとも100羽)を確保しようと思う。
 19世紀末から羽毛を採るために人間に乱獲されて、一時、絶滅したと信じられた絶滅の危機に追いやられたオキノタユウは、1951年に「再発見」された。それから約75年かかって、この種は地球上によみがえるにちがいない。絶滅のおそれのある野生動物を保護し、再生させるためには、たしかに非常に長い年月と多額の資金が必要である。でも、「やればできる」のである。それを成し遂げたとき、他に換えることができない喜びを感じるだろう。

 現在、絶滅の危機にある動物は数多い。しかし、かれらは自ら姿を消そうとしているのではない。人間活動の結果、やむなく絶滅の危機に追いやられているのである。絶滅危惧種の再生を目指す「保全生物学」や、おなじく人間活動によってもたらされた地球温暖化の生物多様性に対する影響を研究する“気候変動生物学”、自己調節システムとしての地球生命圏を解明する“地球生理学”などの総合的研究分野に、元気な若者が積極的に挑戦することをぼくは願っている。

(動物生態学研究室:長谷川博)

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