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ABS(Access and Benefit-Sharing)指針
-遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針-

生物多様性条約(CBD)の目的の一つである
「遺伝資源の取得の機会ccess)とその利用から生ずる利益enefit)の公正で衡平な配分haring)」は、生物多様性の重要課題の一つで、Access and Benefit-Sharing= ABS と呼ばれています。

また、そのルールが着実に守られるための枠組みとして、名古屋議定書(正式名称:生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書)が2017年5月22日に締結されました(8月20日発効)。
  • 生物多様性条約は、個別の野生生物種や、特定地域の生態系に限らず、地球規模の広がりで生物多様性を考え、その保全を目指す唯一の国際条約です。1992年6月ブラジルで開催された国連環境開発会議(地球サミット)で、条約に加盟するための署名が開始され1993年12月29日に発効しました。
    この条約は、生物多様性の保全だけでなく、さまざまな自然資源の「持続可能な利用」を明記した条約でもあります。
    出典:WWFジャパン(https://www.wwf.or.jp/)

    生物多様性条約では以下の3点を目的として掲げています。

    目的①:生物の多様性の保全
    目的②:生物多様性の構成要素の持続可能な利用
    目的③:遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分 →Access and Benefit-Sharing=ABS

    生物多様性条約の下のABS問題

    生物多様性条約の3つ目の目的= ABS を達成するための基本的なルールとして、条約の第15条に規定されているものと、そのガイドラインとして国内法や行政措置、契約の作成の参考となる任意の「ボン・ガイドライン」が採択されています。
    しかし一部の資源提供国は、あくまで拘束力のない任意のガイドラインであり、遺伝資源の利用から生じる利益が、資源提供国に対して適正に配分されるための仕組みとして不十分であると主張しました。

    「各国が自国の生物多様性の保全に努めるべきとの文脈において、遺伝資源の利用から生ずる利益は、当該遺伝資源を保有する国による保全の努力の恩恵であり、遺伝資源の提供国に還元されるべきではないか。」

    このように遺伝資源へのアクセス(Access)と利益配分(Benefit-Sharing)の在り方に、ルールが必要という問題意識を ABS問題 と呼ぶようになり、2002年のヨハネスブルク・サミットにおいて、実効性のある国際的制度(IR)の制定を目指した議論が始まりました。

    名古屋議定書締結とABS指針の公布

    ABS問題はその後も数々の議論が重ねられ、2010年10月に名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締結国会合(COP10)において、ABSの着実な実施を確保するための手続きを定める国際文書として「名古屋議定書(正式名称:生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書)」が採択されました。

    日本は、2011年5月に名古屋議定書に署名して以降、遺伝資源の利用実態及び他国の措置内容を踏まえて国内措置について検討した結果、2017年1月に政府において「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針」=ABS指針の案を取りまとめました。
    同年5月10日には、第193回通常国会において名古屋議定書の締結について承認されたことを受け、ABS指針を公布するとともに、5月22日に受諾書の寄託を行って議定書を締結し、90日後となる8月20日に効力を生じました。現在では日本を含め140の国が締結しています。(2023年6月時点)
  • 締約国に求めること

    名古屋議定書は、CBD(生物多様性条約)の基本ルールに基づいたABSの着実な実施のための新たな国際的な枠組であり、ABSに関する手続の透明化と、利用国政府による提供国法令遵守のための措置を求めています。

    ■各国は、自国の天然資源に対して主権的権利を持ち、遺伝資源への取得の機会(アクセス)について定める権限は、当該遺伝資源が存する国の政府に属する。遺伝資源にアクセスする際は、提供国の国内法令に従う

    ■遺伝資源にアクセスする際には、以下の設定が必要
     ・提供国政府による「PIC(情報に基づく事前の同意)」
     ・提供者との間の 「MAT(相互に合意する条件)」

    ■締約国は、遺伝資源の利用から生ずる利益を提供国との間で公正かつ衡平に配分するための措置をとる。その配分は、MATに従って行う。

    ※上記以外でも以下の場合は任意の報告が必要です。
    ①提供国法令に基づく許可証等を得たがABSCHにIRCCが掲載されていない場合
    ②提供国法令の適用を受けて取得された遺伝資源を他者から譲り受けて国内に輸入した者
    ③提供国法令の適用を受けて取得された遺伝資源を国内で他者から譲り受けた者
    遺伝資源(有用な遺伝資源を持つ動植物・微生物)と遺伝資源に関連する伝統的な知識も議定書の枠組みの対象。

    名古屋議定書締結の意義

    ・国際的に、遺伝資源の提供先を議定書に基づく利用国措置を講じる国に限定する動きが出てきており、締結を通じて、提供国等からの信頼を獲得し遺伝資源を円滑に取得できるようにすることで、国内の遺伝資源を利用した研究開発の推進に貢献。
    ・締約国として国内措置を講ずることにより、提供国法令を遵守して取得された遺伝資源の利用が促進され、訴訟を提起されるリスクの低減にも資する。
    ・議定書の締約国会合等、国際的なルール作りの議論への参加により、日本の遺伝資源の利用の実態を踏まえた適切なルール策定を国際的に求めていくことが可能となる。
    ・遺伝資源の利益配分は、生物多様性の保全等のためのインセンティブや原資ともなる。

    「名古屋議定書について」(環境省HP)
  • 日本は、国内措置として名古屋議定書の的確かつ円滑な実施を確保し、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に貢献することを目的として、財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・環境省の共同告示措置を講じ、「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針」=ABS指針を2017年5月18日に公布(2021年4月28日一部改正)しました。

    基本的な考え方

     ■ 遺伝資源等の適切な利用を推進する措置とすること
     ■ 利用の実態を踏まえた明確・簡素・現実的かつ効果的な措置とすること

    議定書が求めることとして、第15・16条では、提供国から日本国内に持ち込み・利用される遺伝資源及び遺伝資源に関連する伝統的な知識が、ABS法令等を遵守して取得したこととなるよう、適当・効果的・相応と認められる措置を取ること。また、第17条には遺伝資源の利用をモニタリングし、透明性を高める措置をとることが必要であると掲げています。

    利用国措置について

    ①遺伝資源の適法取得の報告
     ・遺伝資源の取得者は原則、国際遵守証明書が国際クリアリングハウス(ABSCH)に掲載後6カ月以内に、
      適法取得の旨を環境大臣に報告する。(関連する伝統的知識を取得した場合も報告すること。また、上記
      以外の取得者や輸入者等も報告可能です。)

    ②適法取得の国内外への周知
     ・環境大臣は①の報告内容を、環境省ウェブサイトに掲載し、ABSCHにて提供する。

    ③モニタリング
     ・①の報告から概ね5年後、遺伝資源利用に関連する情報提供を求める(環境大臣)。
     ・未提供者に対しては報告・提供を求める(環境大臣)。また、必要に応じ、指導・助言を行う(主務大臣)

    ④提供国法令違反の申立てへの協力
     ・他の締結国から提供国法令違反の申立てがあった場合、環境大臣は必要に応じ、遺伝資源等の取扱い者に
      対し情報提供を求め、当該締結国に提供する。

本学におけるABS

ABS指針は、遺伝資源を取得する場合の決まりではなく、適正な取得・使用を国際的に周知するための決まりです。ABS指針を遵守するためには、研究者はその前段階である「遺伝資源の適正な取得」すなわち、提供国法令の遵守とABSに関する手続きに特に気を配る必要があります。
(「研究者のための海外遺伝資源利用の手引き」/ABS学術対策チーム )
  • 遺伝資源の定義

    生物多様性条約では、遺伝資源を以下のように定義しています。

    「遺伝の機能的な単位を有する植物・動物・微生物・その他に由来する素材のうち、
    現実の、又は潜在的な価値を持つもの」

    =生物(ウイルス等を含む)とその生物が含まれる土壌や水等および、関連する伝統的知識

    対象となるもの、ならないもの

    一般的には以下のようなもので良いと思われますが、国内法により遺伝資源の定義も様々となります。すべての国で当てはまるわけではありませんのでご注意ください。
    ⚠ご注意⚠ 金銭的な利益を生じない基礎研究(例:共著論文の発表・技術の移転・教育の機会の提供など)もABSの対象となります。

    必要な手続きを怠った場合

    適切な手続きを行わず遺伝資源を使用し、研究等を行った場合は、次のような問題が起こる可能性があります。

    ・提供国の法令に触れ、逮捕される      ・研究が差し止められる
    ・研究費の申請が受け付けられなくなる    ・投稿論文が審査で承認されなくなる
    ・提供国での遺伝資源の採取ができなくなる  ・特許の出願ができなくなる

    このような事態はあくまでも最悪の場合ですが、研究者個人だけでなく日本の研究者全体大きなリスクに曝してしまいかねません。そうならないためにも、提供国の法令や規程、ABSルール等に従って手続きを行いましょう。(※必要な手続きは国・取得する資源・目的により異なります)

お問い合わせ先

東邦大学 学事統括部 研究支援課

ABS対応委員会:担当者宛


Mail:tabs21cop10@ml.toho-u.jp