プレスリリース 発行No.1647 令和8年9月9日
— Ca2+チャネル「Orai1」が病態関連収縮に重要な役割 —
モルモットの膀胱平滑筋を用いた実験では、PAFによる収縮はOrai1を阻害することで著しく抑制されました。一方、正常な膀胱収縮を担うアセチルコリン(ACh)やアデノシン三リン酸(ATP)による収縮へのOrai1阻害の影響は限定的でした。また、PAFによる収縮はL型電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)(注3)の阻害によっても強く抑制されました。これらの結果から、Orai1は正常な膀胱収縮よりも、PAFによる病態関連収縮でより重要な役割を果たし、VDCC依存性機構に寄与する可能性が示されました。
本成果は、正常な膀胱収縮とPAFによる病態関連収縮ではOrai1の寄与が異なる可能性を示すもので、膀胱の異常な収縮が起こる仕組みの解明や、新たな薬理学的標的の探索につながることが期待されます。
この研究成果は、学術雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」に2026年8月25日に公開されました。
発表者名
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
中道 範隆(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)
田中 芳夫(東邦大学名誉教授、研究当時:東邦大学薬学部薬理学教室 教授)
発表のポイント
- 炎症やアレルギー反応に関わるPAFが膀胱を収縮させる仕組みに、Ca2+チャネル「Orai1」が重要な役割を果たすことを明らかにしました。
- PAFによる膀胱平滑筋の収縮はOrai1阻害薬Synta66(注4)によって強く抑制された一方、正常な膀胱収縮を担うAChやATPによる収縮への影響は限定的でした。このことから、Orai1は正常な膀胱収縮よりも、PAFによる病態関連収縮でより重要な役割を果たす可能性があります。
- PAFによる収縮はL型VDCCの阻害によっても強く抑制され、Orai1を介したCa2+流入がVDCC依存性機構に寄与する可能性が示唆されました。本成果は、病的な膀胱収縮の仕組みの理解や、新たな薬理学的標的の探索につながることが期待されます。
発表内容
PAFは、血小板を活性化する物質として発見された生理活性脂質です。現在では、さまざまな細胞から産生され、炎症やアレルギー反応に関わる重要な脂質メディエーターとして知られています。アナフィラキシーをはじめとするアレルギー反応やさまざまな炎症性疾患との関連が報告されており、平滑筋の収縮を含む多様な生理作用を引き起こします。
研究グループはこれまでに、PAFがモルモットの膀胱平滑筋を強く収縮させるとともに、自発的な収縮活動を増強することを報告してきました。また、この収縮には細胞外からのCa2+流入が不可欠であり、その主要な経路としてL型VDCCが関与することも明らかにしました。しかし、L型VDCCを阻害しても残る反応が認められたことから、VDCC以外のCa2+流入経路もPAFによる膀胱収縮に関与する可能性が考えられていました。
そこで本研究では、「ストア作動性Ca2+流入」(注5)に着目しました。これは、細胞内のCa2+貯蔵部位である小胞体のCa2+が減少した際に、細胞外からCa2+を取り込む仕組みです。その主要なCa2+の入口の一つがOrai1です。研究グループは、Orai1阻害薬Synta66を用いて、Orai1がPAFによる膀胱平滑筋収縮にどのように関与するかを調べました。
モルモットから摘出した膀胱平滑筋にPAFを作用させると強い収縮が生じましたが、Synta66を作用させると、この収縮は著しく抑制されました。また、L型VDCC阻害薬ベラパミルによっても、PAFによる収縮は強く抑制されました(図1)。これらの結果から、Orai1を介したCa2+流入が、L型VDCC依存性の収縮機構と関連してPAFによる膀胱平滑筋収縮に寄与する可能性が示されました。
さらに、PAF受容体を刺激せずに、細胞内のCa2+貯蔵部位をあらかじめ枯渇させた後、細胞外にCa2+を加えて生じる収縮についても検討しました。この収縮もSynta66とベラパミルの双方によって強く抑制されました。したがって、Orai1を介したCa2+流入とVDCC依存性の収縮機構との関連は、PAF受容体そのものの刺激に限定された現象ではない可能性が考えられます。
今回、特に注目されたのは、Orai1の関与がすべての膀胱収縮で同じではなかった点です。膀胱の正常な収縮を担う主要な伝達物質であるAChやATPによる収縮では、Synta66による抑制は部分的でした。これに対して、PAFによる収縮はSynta66によって著しく抑制されました(図1)。また、細胞膜を直接脱分極させ、VDCCを活性化する高濃度カリウムによる収縮にはSynta66は影響しませんでした。
これらの結果から、Orai1は正常な排尿を支える生理的な膀胱収縮への寄与は比較的小さい一方、炎症などの病態に関連するPAFによる収縮では、より重要な役割を果たす可能性が考えられます。言い換えると、正常時と病態時では、膀胱平滑筋収縮におけるOrai1の寄与が異なる可能性があります(図2)。
研究グループはさらに、Orai1を介したCa2+流入とVDCC依存性の収縮をつなぐ候補として、Na+/Ca2+交換輸送体NCX1、TRPC1/4/5チャネル、Ca2+活性化Cl−チャネルANO1についても検討しました。しかし、これらをそれぞれ抑制しても、PAFによる収縮に明らかな変化は認められませんでした。このことから、少なくとも今回の実験条件では、これらの分子がOrai1とVDCCをつなぐ主要な経路である可能性は低いと考えられました。
一方、本研究では、Orai1とVDCCがどのような仕組みで連携しているのかは明らかになっておらず、実際の病態でOrai1の役割が増大するかについても今後の検証が必要です。
本成果は、炎症に関わる脂質メディエーターと膀胱機能との新たな接点を示す基礎的知見です。正常な膀胱収縮への影響をできるだけ抑えながら、病態時の異常な収縮を制御することは、新たな治療標的を考えるうえで重要です。今後、病態モデルでの検証が進み、Orai1が病的な膀胱収縮により強く関与することが確認されれば、加齢に伴い増加する過活動膀胱など、膀胱の異常な収縮を伴う機能障害の病態解明や、新たな治療薬の開発につながる可能性があります。
発表雑誌
「Biological and Pharmaceutical Bulletin」(2026年8月25日)
49巻8号、1298-1301
論文タイトル
Orai1 Contributes to Platelet-Activating Factor (PAF)-Induced Contraction in Association with Voltage-Dependent Ca2+ Channel-Mediated Mechanisms in Guinea Pig Urinary Bladder Smooth Muscle
著者
Keisuke Obara, Daiki Kato, Marina Yuguchi, Momoko Tanaka, Kento Yoshioka, Noritaka Nakamichi, Yoshio Tanaka
DOI番号
10.1248/bpb.b26-00187
アブストラクトURL
https://doi.org/10.1248/bpb.b26-00187
用語解説
血小板を活性化する物質として発見された生理活性脂質です。さまざまな細胞から産生され、炎症やアレルギー反応に関わる脂質メディエーターとして知られています。また、さまざまな組織の平滑筋に作用し、収縮を引き起こします。
(注2)Orai1
細胞膜に存在するCa2+チャネルの一つです。細胞内のCa2+貯蔵部位である小胞体のCa2+が減少した際に、細胞外から細胞内へCa2+を取り込む経路を形成します。ストア作動性Ca2+流入を担う主要な分子の一つです。
(注3)電位依存性Ca2+チャネル(Voltage-Dependent Ca2+ Channel:VDCC)
細胞膜の電位変化によって開き、細胞外からCa2+を細胞内へ流入させるチャネルです。平滑筋では、このCa2+流入が収縮を引き起こすうえで重要な役割を果たします。本研究では、主にL型VDCCの阻害薬であるベラパミルを用いてその関与を検討しました。
(注4)Synta66
Orai1を介するCa2+流入を阻害する薬物です。本研究では、Orai1が膀胱平滑筋の収縮にどの程度関与するかを調べるために使用しました。
(注5)ストア作動性Ca2+流入(Store-Operated Ca2+ Entry:SOCE)
細胞内のCa2+貯蔵部位である小胞体のCa2+が減少したことをきっかけとして、細胞外からCa2+が流入する仕組みです。Orai1は、このCa2+流入経路を担う主要なチャネルの一つです。
添付資料
図1.PAFによる膀胱収縮はOrai1阻害で強く抑制される
モルモット膀胱平滑筋における代表的な収縮トレースを示します。本研究では、一時的な収縮の最大値ではなく、刺激後の一定時間にわたる収縮反応を積算した値(AUC:曲線下面積)を用いて評価しました。解析時間は、PAFでは60分、AChでは10分、ATP類似体(α,β-mATP)では3分です。炎症・アレルギーに関わるPAFによる収縮は、Orai1阻害薬Synta66およびL型VDCC阻害薬ベラパミルによって強く抑制されました。一方、正常な膀胱収縮を担うAChおよびα,β-mATPによる収縮では、Synta66による抑制は部分的でしたが、ベラパミルでは強く抑制されました。図中の「w」は洗浄(washout)を示します。また、PAF刺激では、PAFそのものによる反応を評価するため、内因性神経伝達物質の影響を除く阻害薬カクテル(Inhibitors)を使用しています。これらの結果から、VDCCはこれらの収縮に共通して重要である一方、Orai1はPAFによる収縮でより重要な役割を果たす可能性が示されました。
図2.正常時と病態時では、膀胱収縮におけるOrai1の寄与が異なる可能性
正常な膀胱収縮を担うAChやATPによる刺激では、主にL型VDCCを介したCa2+流入が収縮に関与し、Orai1の寄与は限定的と考えられます。これに対し、炎症・アレルギーに関わるPAFによる膀胱収縮では、Orai1が重要な役割を果たし、VDCC依存性機構を支える可能性が示されました。実際に、PAF誘発収縮はOrai1阻害薬Synta66およびL型VDCC阻害薬ベラパミルによって強く抑制されました。一方で、Orai1とVDCCがどのように関連するかという直接的な分子機構は、現時点では明らかになっていません。
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬理学教室
准教授 小原 圭将
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【本ニュースリリースの発信元】
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