プレスリリース

メニュー

プレスリリース 発行No.1639 令和8年8月20日

暑さだけでは説明できない熱中症の発生パターン
~ 東京都11年間の救急搬送データから曜日や休日による違いを明らかに ~

 東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野およびウェルビーイング地域共創講座(注1)の研究グループは、2015~2025年の東京都における熱中症救急搬送データを解析しました。その結果、暑さ指数(Wet Bulb Globe Temperature:以下、WBGT)(注2)の影響を調整しても、救急搬送人員数は平日、週末・休日、休日明けで異なり、特に平日と比べて、65歳以上では休日明けに1.13倍、18歳未満では週末・休日に1.80倍多いことが明らかになりました。

 仕事、学校、スポーツ、余暇活動など、曜日や休日による行動の違いが熱中症の発生に影響することは経験的に想定されてきましたが、その影響はこれまで十分に定量化されていませんでした。本研究は、暑さの影響を考慮した上でも、熱中症の発生パターンが平日、週末・休日、休日明けで異なることを初めて定量的に示したものです。
 これらの結果は、気象条件に基づく従来の注意喚起に加えて、曜日や休日に伴う行動パターンを考慮した予防啓発や対策が重要であることを示しています。

 本研究成果は、国際学術誌「Environmental Health and Preventive Medicine」に2026年8月7日に掲載されました。

発表者名

西脇 祐司(東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野・ウェルビーイング地域共創講座 教授)
森 幸恵 (東邦大学医学部ウェルビーイング地域共創講座 博士研究員)
道川 武紘(東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野・ウェルビーイング地域共創講座 准教授)

発表のポイント

  • 東京都の11年間(2015~2025年)の熱中症救急搬送データを解析し、暑さ指数(WBGT)の影響を調整しても、救急搬送の発生パターンが平日、週末・休日、休日明けで異なることを初めて定量的に明らかにしました。
  • 年齢によって異なる特徴がみられ、65歳以上では休日明けの救急搬送が平日の1.13倍、18歳未満では週末・休日に1.80倍となりました。発生場所や重症度についても、曜日・休日によって異なるパターンが認められました。
  • WBGTなどの気象条件に基づく注意喚起に加え、年齢や曜日・休日に伴う行動パターンを考慮し、対象者とタイミングを意識した熱中症予防対策につながることが期待されます。

発表内容

1.研究背景について
 近年、気候変動に伴い極端な暑さの頻度や強度が増加しており、熱中症は夏季における重要な公衆衛生上の課題となっています。日本においても、気候変動や高齢化などに伴い、今後、熱中症による救急搬送がさらに増加することが予測されています。

 熱中症の発生には、気温、湿度、輻射熱などを総合的に評価する暑さ指数(WBGT)が強く関連することが知られています。一方、同じ程度の暑さであっても、人々の行動や活動内容によって熱中症のリスクは異なる可能性があります。例えば、仕事や学校、スポーツ、余暇活動などは、平日と週末・休日で大きく異なります。また、休日明けには仕事や学校などの日常生活が再開し、行動パターンが変化します。しかし、暑さの影響を調整した上で、熱中症による救急搬送が平日、週末・休日、休日明けで異なるかを定量的に検討した研究はこれまでありませんでした。

 そこで本研究では、東京都の熱中症による救急搬送データを用いて、WBGTの影響を統計学的に調整した上で、熱中症による救急搬送人員数が平日、週末・休日、休日明けで異なるかどうかを時系列解析(注3)により検討しました。
2.研究方法について
 本研究では、総務省消防庁が公表しているデータを用いて、2015~2025年の5~9月に東京都で発生した熱中症による1日ごとの救急搬送人員数を解析しました。

 日を以下の3つに分類しました。
  • 平日: 休日明けを除く平日
  • 週末・休日: 土曜日、日曜日および祝日
  • 休日明け: 土日または祝日の直後の最初の平日(月曜日など)
 環境省が公表している東京都(島しょ部を除く)内7地点のWBGTデータを用い、各地点の日最高WBGTのうち最も高い値を東京都の暑熱曝露の指標としました。その日のWBGTカテゴリー、前日のWBGTカテゴリー、さらに暦年で調整した修正ポアソン回帰モデル(注4)を用いて時系列解析を行い、平日を基準とした週末・休日および休日明けの熱中症救急搬送のリスク比(注5)を推定しました。また、年齢、重症度、発生場所別救急搬送人員数データを用いた解析も同様に行いました。なお、このデータにはもともと性別の情報はありませんでした。
 さらに、結果の頑健性を確認するため、7地点の最高値の代わりに WBGTの平均値を用いた解析、WBGTを連続量とした解析、WBGTの代わりに気温を用いた解析、COVID-19流行期を除外した解析など、複数の感度分析を実施しました。
3.主な研究結果について
 WBGTと暦年の影響を調整した後でも、熱中症による救急搬送の発生状況は、平日、週末・休日、休日明けで異なっていました(図1,2)。
 特に年齢別では、65歳以上の救急搬送人員数は休日明けに平日の1.13倍(95%信頼区間:1.00~1.28、以下、括弧内は95%信頼区間)となり、週末・休日には0.87倍(0.79~0.96)に減少しました。一方、18歳未満では週末・休日の救急搬送が平日の1.80倍(1.61~2.03)と大きく増加していました。
 重症度別では、週末・休日には軽症例が平日の1.11倍(1.02~1.21)に増加する一方、中等症以上の症例は0.83倍(0.75~0.92)に減少していました。
日曜タイプと熱中症救急搬送(年齢・重症度別)
 発生場所別では、週末・休日には公共の屋外空間で平日の1.76倍(1.58~1.97)、教育機関で1.21倍(1.01~1.46)に増加しました。一方、住居では0.88倍(0.79~0.98)、仕事場では0.31倍(0.25~0.37)に減少していました。
 複数の感度分析においても、おおむね同様の結果が得られました。
曜日タイプと熱中症搬送(発生場所別)
4.考察と今後の展望
 本研究により、熱中症による救急搬送の発生パターンが、暑さの程度を調整した後でも、平日、週末・休日、休日明けで異なることが定量的に示されました。

 65歳以上では、週末・休日の救急搬送が少ない一方、休日明けには増加するという特徴的なパターンがみられました。休日明けの増加には、週末の医療機関へのアクセスが限られることによる受診の遅れに加え、仕事や日常活動の再開に伴う暑熱曝露の増加などが関与していた可能性があります。また、休日を挟むことによる暑熱順化の一時的な低下が、熱中症へのかかりやすさに影響した可能性も考えられます。一方、18歳未満で週末・休日の救急搬送が増加した背景には、スポーツや屋外活動への参加機会の増加が影響していた可能性があります。ただし、本研究では個人の職業や具体的な活動内容、暑熱順化の状態を把握していないため、これらのメカニズムについては仮説にとどまり、今後さらなる検討が必要です。

 これまでの熱中症予防では、WBGTなどの気象条件に基づく注意喚起が広く行われてきました。本研究の結果は、こうした取り組みに加えて、曜日や休日に伴う行動パターンや年齢による発生パターンの違いを踏まえ、対象者とタイミングを意識した予防啓発や対策を検討することの重要性を示しています。今後、こうした視点を取り入れることで、より効果的な熱中症予防につながることが期待されます。

発表雑誌

雑誌名
「Environmental Health and Preventive Medicine」Vol.31,51(2026)(2026年8月7日)

論文タイトル
Day type and heatstroke-related ambulance transports in Tokyo, Japan: a time-series study

著者
Yuji Nishiwaki, Sachie Mori, Takehiro Michikawa

DOI番号
10.1265/ehpm.26-00077

論文URL
https://doi.org/10.1265/ehpm.26-00077

用語解説

(注1)ウェルビーイング地域共創講座
大田区との協定に基づき、東邦大学医学部に設置された寄付講座。大田区と連携して地域の健康・保健課題に取り組み、区民のウェルビーイング実現に資する活動を行っています。

(注2)暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)
気温だけでなく、湿度や輻射熱などを考慮して暑熱環境を評価する指標です。熱中症予防のため暑さの指標として広く用いられています。

(注3)時系列解析
時間の経過に沿って並んだデータ(今回は日単位のデータ)を使って、そこから規則性、パターンを抽出する解析方法です。

(注4)修正ポアソン回帰モデル
ある出来事の発生と、様々な要因との関連の強さを調べる統計解析手法。本研究では、暑さ(当日・前日のWBGT)と暦年を調整した上で、曜日や休日による熱中症救急搬送リスクの違いを評価しました。暦年の調整は、年ごとの救急搬送人員数の変化を考慮するために行いました。

(注5)リスク比(RR:Risk Ratio)
ある条件における発生頻度が、基準となる条件と比較して何倍であるかを示す指標です。本研究では平日を基準として、週末・休日および休日明けの熱中症による救急搬送人員数を比較しました。
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野/ウェルビーイング地域共創講座
教授 西脇 祐司

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151

【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp 
URL:www.toho-u.ac.jp

※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。

関連リンク

  • 英文プレスリリース(press release)はこちら