プレスリリース 発行No.1638 令和8年8月19日
絶滅が危惧される植物由来の生薬「甘松(カンショウ)」の化学成分を解明
東邦大学薬学部生薬学教室の大月興春講師、李巍教授らの研究グループは、中国薬科大学との共同研究により、高速液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)(注1)を用いて、絶滅危惧種である薬用植物Nardostachys jatamansi(スパイクナード)の根茎を基原とする生薬「甘松(カンショウ)」に含まれる124成分の化学構造を推定しました。LC-MS分析データに対して様々な構造推定手法と分子ネットワーク解析(注2)を組み合わせることで、単独の手法では捉えきれない多様な成分を網羅的に明らかにしたものです。
この研究成果は、2026年7月24日に学術論文誌「Journal of Separation Science」にて公開されました。
この研究成果は、2026年7月24日に学術論文誌「Journal of Separation Science」にて公開されました。
発表者名
崔 玉林(研究当時:東邦大学大学院薬学研究科 特別研究学生/中国薬科大学中薬学院)
大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 講師)
張 米(研究当時:東邦大学薬学部生薬学教室 博士研究員)
羅 暢(東邦大学大学院薬学研究科医療薬学専攻 博士課程3年)
李 思怡(東邦大学大学院薬学研究科医療薬学専攻 博士課程2年)
菊地 崇(東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
Jie Zhang(中国薬科大学中薬学院)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)
大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 講師)
張 米(研究当時:東邦大学薬学部生薬学教室 博士研究員)
羅 暢(東邦大学大学院薬学研究科医療薬学専攻 博士課程3年)
李 思怡(東邦大学大学院薬学研究科医療薬学専攻 博士課程2年)
菊地 崇(東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
Jie Zhang(中国薬科大学中薬学院)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)
発表のポイント
- 絶滅危惧種であり古くから香料としても有名な薬用植物Nardostachys jatamansiの根茎を基原とする生薬「甘松(カンショウ)」について、LC-MSを用いて分析を行い、17の化合物クラスにわたる計124成分の化学構造を推定しました。
- マススペクトルライブラリ検索、複数の解析ツールによる構造推定および分子ネットワーク解析を統合することで、植物に含まれる化学成分の構造推定の網羅性と信頼性を向上させる解析ワークフローを提案しました。
- 本研究で得られた知見が今後、Nardostachys jatamansiの資源保全や適正利用に向けた基礎データとなることが期待されます。
発表内容
Nardostachys jatamansiは、スイカズラ科に属する多年生草本で、ブータン、中国、インド、ネパール、ミャンマーなどヒマラヤ地域の標高3,000〜5,000 mの高山帯に自生します。強い芳香を持つ根および根茎は、中国伝統医学では胃腸の不調を治す生薬「甘松(カンショウ)」として、インド伝統医学では不眠やてんかんなど神経系の不調に対して用いられてきました。また、根茎から得られる精油「スパイクナード油」は、欧米の化粧品市場で香料として現在も高い需要があります。一方、長年の過剰採取と生育地の減少により、本種は国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに絶滅の恐れのある種として掲載されています。経済的価値が高く需要も大きい植物であるにもかかわらず、これまでの成分研究は個々の化合物やセスキテルペノイドなど特定の成分群の単離・同定が中心であり、含有成分の全体像は明らかになっていませんでした。
本研究では、甘松のメタノール抽出物をQ Exactive四重極-Orbitrapハイブリッド質量分析計を用いて分析しました。得られたLC-MS分析データに対して、「MetGem」を用いたMS/MSスペクトル(注3)の類似度に基づいたスペクトルライブラリ検索および構造解析ツールを用いた含有成分の構造推定を行いました。構造解析ツールとしては、高分解能MS/MSデータを用いて機械学習により未知の低分子化合物の構造を予測する「SIRIUS」と、フラグメンテーションルールに基づいて予測したMS/MSスペクトルと実測スペクトルを比較することで未知化合物の構造を予測する「MetFrag」を使用しました。さらに、MS/MSフラグメンテーションの手動解析、単離した7成分のNMRによる構造確認および類似したMS/MSスペクトルを持つ成分同士を結びつける分子ネットワーク解析を組み合わせることで、計124ピークについて化学構造を推定し、17の化合物クラスに分類しました。主要成分はセスキテルペノイド、セスキテルペノイド二量体、イリドイド、脂肪酸でした。加えて、イリドイドでは糖が結合する位置によって開裂の起こり方が異なること、アリストラン型セスキテルペノイドではシクロプロパン環の開裂を伴う特徴的な脱離が起こることなど、化合物群を見分けるための指標も見出しました。
本研究は、LC-MS分析データに対して様々な構造推定手法と分子ネットワーク解析を統合することで、単一の手法では到達できない網羅性と信頼性を両立できることを示したものです。得られた甘松の成分プロファイルは、絶滅が危惧されるNardostachys jatamansiの資源保全や品質評価に向けた基礎データとなります。今後、各成分の生物活性の解明が進むことで、甘松の薬用資源としての価値がより明確になることが期待されます。
本研究では、甘松のメタノール抽出物をQ Exactive四重極-Orbitrapハイブリッド質量分析計を用いて分析しました。得られたLC-MS分析データに対して、「MetGem」を用いたMS/MSスペクトル(注3)の類似度に基づいたスペクトルライブラリ検索および構造解析ツールを用いた含有成分の構造推定を行いました。構造解析ツールとしては、高分解能MS/MSデータを用いて機械学習により未知の低分子化合物の構造を予測する「SIRIUS」と、フラグメンテーションルールに基づいて予測したMS/MSスペクトルと実測スペクトルを比較することで未知化合物の構造を予測する「MetFrag」を使用しました。さらに、MS/MSフラグメンテーションの手動解析、単離した7成分のNMRによる構造確認および類似したMS/MSスペクトルを持つ成分同士を結びつける分子ネットワーク解析を組み合わせることで、計124ピークについて化学構造を推定し、17の化合物クラスに分類しました。主要成分はセスキテルペノイド、セスキテルペノイド二量体、イリドイド、脂肪酸でした。加えて、イリドイドでは糖が結合する位置によって開裂の起こり方が異なること、アリストラン型セスキテルペノイドではシクロプロパン環の開裂を伴う特徴的な脱離が起こることなど、化合物群を見分けるための指標も見出しました。
本研究は、LC-MS分析データに対して様々な構造推定手法と分子ネットワーク解析を統合することで、単一の手法では到達できない網羅性と信頼性を両立できることを示したものです。得られた甘松の成分プロファイルは、絶滅が危惧されるNardostachys jatamansiの資源保全や品質評価に向けた基礎データとなります。今後、各成分の生物活性の解明が進むことで、甘松の薬用資源としての価値がより明確になることが期待されます。
発表雑誌
雑誌名
「Journal of Separation Science」(2026年7月24日)
論文タイトル
Comprehensive Liquid Chromatography-Mass Spectrometry-based Metabolite Annotation Elucidates the Chemical Diversity of an Endangered Plant Nardostachys jatamansi
著者
Yulin Cui, Kouharu Otsuki, Mi Zhang, Chang Luo, Siyi Li, Takashi Kikuchi, Jie Zhang, Wei Li
DOI番号
10.1002/jssc.70494
アブストラクトURL
https://doi.org/10.1002/jssc.70494
「Journal of Separation Science」(2026年7月24日)
論文タイトル
Comprehensive Liquid Chromatography-Mass Spectrometry-based Metabolite Annotation Elucidates the Chemical Diversity of an Endangered Plant Nardostachys jatamansi
著者
Yulin Cui, Kouharu Otsuki, Mi Zhang, Chang Luo, Siyi Li, Takashi Kikuchi, Jie Zhang, Wei Li
DOI番号
10.1002/jssc.70494
アブストラクトURL
https://doi.org/10.1002/jssc.70494
用語解説
(注1)高速液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)
液体中の成分を分離する装置(高速液体クロマトグラフLC)と、成分の質量(重さ)を精密に測定する装置(質量分析計MS)をつなげた機器です。高感度かつ幅広い種類の化合物の分析に対応できるなどの利点から、近年植物成分の分析に広く活用されています。
(注2)分子ネットワーク解析
MS/MSスペクトルの似ている成分同士を線で結び、成分間の構造的な近さをネットワーク図として可視化する解析手法です。構造が判明した成分の近くに位置する未知の成分について、同じ化合物群に属する可能性が高いと推定できるため、構造情報が得られる成分の範囲を広げることができます。
(注3)MS/MSスペクトル
質量分析において、特定のイオンを選択して分解し、その断片(フラグメントイオン)の質量を測定することで、分子構造に関する情報を得る分析データです。まず、1段階目の質量分析計で目的とするイオンを選択し、不活性ガスとの衝突によって分解(フラグメンテーション)を起こします。次に、生成したフラグメントイオンの質量を測定し、その分布パターンを解析することで、化合物の構造や結合様式を推定します。本研究で用いたQ Exactive四重極-Orbitrapハイブリッド質量分析計では、前段の四重極で選択したイオンを高エネルギー衝突解離(HCD)セルで分解し、生成したフラグメントを後段のOrbitrapで高分解能かつ高精度に検出しています。
液体中の成分を分離する装置(高速液体クロマトグラフLC)と、成分の質量(重さ)を精密に測定する装置(質量分析計MS)をつなげた機器です。高感度かつ幅広い種類の化合物の分析に対応できるなどの利点から、近年植物成分の分析に広く活用されています。
(注2)分子ネットワーク解析
MS/MSスペクトルの似ている成分同士を線で結び、成分間の構造的な近さをネットワーク図として可視化する解析手法です。構造が判明した成分の近くに位置する未知の成分について、同じ化合物群に属する可能性が高いと推定できるため、構造情報が得られる成分の範囲を広げることができます。
(注3)MS/MSスペクトル
質量分析において、特定のイオンを選択して分解し、その断片(フラグメントイオン)の質量を測定することで、分子構造に関する情報を得る分析データです。まず、1段階目の質量分析計で目的とするイオンを選択し、不活性ガスとの衝突によって分解(フラグメンテーション)を起こします。次に、生成したフラグメントイオンの質量を測定し、その分布パターンを解析することで、化合物の構造や結合様式を推定します。本研究で用いたQ Exactive四重極-Orbitrapハイブリッド質量分析計では、前段の四重極で選択したイオンを高エネルギー衝突解離(HCD)セルで分解し、生成したフラグメントを後段のOrbitrapで高分解能かつ高精度に検出しています。
添付資料
以 上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部生薬学教室
教授 李 巍
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1161 FAX: 047-472-1404
E-mail: liwei[@]phar.toho-u.ac.jp
URL: www.lab.toho-u.ac.jp/phar/npcnm/
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
URL: www.toho-u.ac.jp
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