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プレスリリース 発行No.1637 令和8年8月18日

統合失調症を有する就労者の労働生産性がうつ症状と関連していることが明らかに
~ 48週間の縦断観察研究から ~

 東邦大学医学部精神神経医学講座・社会実装精神医学講座 根本隆洋教授らのグループは、住友ファーマ株式会社との共同研究において、統合失調症を有する就労者の労働生産性がうつ症状と関連することを、48週間にわたる縦断観察研究から明らかにしました。

 本研究成果は国際学術誌「BMC Psychiatry」に、2026年7月27日にオンライン先行公開され、8月13日に本公開されました。

発表者名

根本 隆洋(東邦大学医学部精神神経医学講座・社会実装精神医学講座 教授)
内野 敬(東邦大学医学部社会実装精神医学講座 助教)
池田 竜(東邦大学医学部精神神経医学講座 助教)
野坂 忠史(住友ファーマ株式会社)
馬塲 健次(住友ファーマ株式会社)

発表のポイント

  • 統合失調症患者の社会復帰・参加の割合は決して高くはない中、同患者の就労の継続や労働生産性に関する要因の解明が望まれていました。
  • 本研究により、同患者の出勤時における労働生産性の損失(プレゼンティズム)(注1)に、うつ症状が関与していることが明らかになりました。
  • 統合失調症において、症状の寛解だけでなく人生の意味や希望を持ちながら社会生活を営む「リカバリー」が治療の目標とされる中で、うつ症状に注目して就労の継続をサポートしていくことが、患者個々の目標の達成に重要であると考えられます。

発表内容

 統合失調症は生涯において120人に1人が罹患する精神医学の主要疾患であり、わが国の患者数は約90万人と推計されています。急性期には幻聴や被害妄想などの陽性症状が主な症状となり、慢性期には意欲低下や感情鈍麻などの陰性症状や、対人技能の低下などの社会機能障害が前景に立ち、就労や就学などの社会参加がしばしば困難となります。精神症状や社会生活が2年間以上安定している「リカバリー」の状態に至る患者は、わずか16%にとどまるとのメタ解析(複数の研究結果を統計的に統合し全体的な効果を評価する手法)の報告も見られます。
 そうした背景のもと、統合失調症を有しながらも就労を継続する患者における、その就労継続や労働生産性に関わる要因を明らかにすることは、統合失調症患者のリカバリーの促進に向けて欠かせません。

 本研究では、統合失調症を有する就労者を対象に、うつ症状と労働生産性の損失との関連を解明することを目的として、インターネットを用いた48週間にわたる前向き縦断観察を行いました。対象は、就労中または病気休暇中の20~59歳の統合失調症患者とし、抑うつ症状の重症度、労働生産性の損失、認知機能、および睡眠状態について、それぞれPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9)、Work Productivity and Activity Impairment Questionnaire: General Health(WPAI-GH)、Health Utilities Index Mark 3(HUI3)、およびピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)日本語版を、質問票として用い評価しました。
 解析対象となった107名の患者の平均年齢は40.9歳で、57.0%がフルタイム労働者で、47.7%がうつ症状(PHQ-9スコア10点以上)を有していました。主要評価項目に関して、ベースラインから48週目までのプレゼンティズム(出勤時の労働生産性の損失)の変化とうつ症状の変化との間に、有意な相関が認められました(PearsonのR = 0.308、P = 0.013)。プレゼンティズムと睡眠障害および認知機能との間には、有意な相関は認められませんでした(図1)。重回帰分析の結果、ベースラインから48週目までのうつ症状の変化がプレゼンティズムの変化に有意に寄与していることが明らかになりました(回帰係数 = 1.932 [95%信頼区間 0.182–3.682]、P = 0.031)。
 クラスター分析から2つの群が特定され、研究期間を通じてプレゼンティズムが高かった患者は、ベースライン時点でのうつ症状の重症度も高かったことが示されました。統合失調症を有する就労者において、うつ症状の変化はプレゼンティズムの変化と中程度の関連を示すと考えられました。

 統合失調症を有する就労者が、仕事を安定して続け、そして職場で良好なパフォーマンスを発揮して個々の目標を達成するために、セルフチェック並びに治療や支援において、患者自身や家族や上司・同僚を含めた周囲の人がうつ症状に注意していくことが重要であると考えられました。

発表雑誌

雑誌名
「BMC Psychiatry」(オンライン先行公開:2026年7月27日、本公開:2026年8月13日)

論文タイトル
Associations Between Depressive Symptoms and Work Productivity Loss in Patients with Schizophrenia: An Observational 48-Week Longitudinal Study

著者
Takahiro Nemoto*, Takashi Uchino, Ryu Ikeda, Tadashi Nosaka, Kenji Baba(*責任著者)

DOI番号
10.1186/s12888-026-08397-z

論文URL
https://doi.org/10.1186/s12888-026-08397-z

用語解説

(注1)プレゼンティズム
労働者の健康状態や働き方を評価する際、「アブセンティズム(absenteeism)」と「プレゼンティズム(presenteeism)」という2つの指標が近年用いられています。
プレゼンティズムは、出勤していても本来のパフォーマンスを発揮できない状態であり、慢性疾患、精神的不調、疲労、睡眠不足などが原因となります。出勤はしているため、事業所にとって「見えにくい損失」といえます。
対してアブセンティズムは、従業員が疾病、けが、精神的不調、介護、家庭事情などを理由に欠勤または休職する状態を指します。職場に来ないことによる生産性低下であり、事業所にとって「見えやすい損失」といえます。

添付資料

プレゼンティズムとうつ症状、睡眠障害、認知機能との間の関連性
図1. プレゼンティズム(出勤時の労働生産性の損失)とうつ症状、睡眠障害、認知機能との間の関連性



以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部精神神経医学講座・社会実装精神医学講座
教授 根本 隆洋

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151(代表)
E-mail: takahiro.nemoto[@]med.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/psycho/

【ニュースリリースの発信元】
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