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プレスリリース 発行No.1636 令和8年8月17日

マイマイカブリの形態進化は「島の間」と「島の中」の両方で進んだ
~ 日本列島70地点の系統・形態解析から、適応放散の初期過程に新たな視点 ~

 東邦大学の小沼順二准教授、国立科学博物館の長太伸章特定研究員、京都大学の曽田貞滋名誉教授の研究グループは、日本列島に広く分布するカタツムリ食の甲虫「マイマイカブリ」を対象に、遺伝子系統と形態の進化を解析しました。その結果、形態の適応的な分化は、北海道・佐渡島などの島ごとに起こるだけでなく、本州のような大きな島の地域間でも進んだことが示されました。本成果は、適応放散の初期段階では「島間の隔離」と「大きな島の内部の隔離」の両方が重要であることを示すものです。

 本研究成果は、英国の国際学術誌「Biological Journal of the Linnean Society」に2026年8月17日に掲載されました。
日本各地に生息するマイマイカブリの形態と系統の関係

日本各地に生息するマイマイカブリの形態と系統の関係
マイマイカブリは地域によって、体の形や大きさが大きく異なります。本研究により、こうした形態の違いが、島同士だけでなく、本州などの広い島の内部でも適応的に進化してきたことが示されました。

発表者名

小沼 順二(東邦大学理学部生物学科 准教授)
長太 伸章(国立科学博物館 特定研究員)
曽田 貞滋(京都大学 名誉教授)

発表のポイント

  • 日本列島70集団の遺伝子情報と50集団の形態情報を組み合わせ、マイマイカブリの分布拡大と形態進化の歴史を推定しました。
  • 体形は、北海道・佐渡島などの島間だけでなく、本州を中心とする東日本と西日本の間でも、地域ごとに異なる方向へ適応的に分化したことが示されました。
  • 島同士を隔てる海だけでなく、大きな島の内部にある地域間の距離、気候や餌資源の差も適応放散(注1)の初期過程を促す重要な要因であることを示唆します。

発表概要

 生物が多様な環境や餌資源に適応し、形態や生態を分化させる「適応放散」では、島同士を隔てる海が重要な役割を果たすと考えられてきました。しかし、日本の本州のような大きな島では、島の内部にも地域間の長い距離、気候や餌生物の差があり、これらが島間の隔離と比べてどの程度、適応進化を促すかは十分に分かっていませんでした。研究グループは、飛ぶことができず、地域間を移動しにくいマイマイカブリについて、日本列島70集団のDNAを用いて系統関係と祖先の分布を復元し、このうち50集団の体サイズ・体形を進化モデルで解析しました。その結果、細長い体形が西日本で、太く短い体形が佐渡島や北海道で進化する傾向が示され、島内と島間の地域差を同時に考慮するモデルが最もよくデータに適合しました。本成果は、大陸や大陸島(注2)における生物多様化の仕組みを理解する上でも重要な知見です。

発表内容

1.研究の背景
 カタツムリを餌とするオサムシは、北半球の大陸や大陸島において適応放散を遂げています。なかでもマイマイカブリ(Carabus blaptoides)は、日本列島に広く分布する大型のオサムシで、主にカタツムリなどの陸生巻貝を捕食します。現在、地域ごとに8亜種に分けられ、細長い体形から太く短い体形まで顕著な違いを示します。細長い個体は、長い頭部を大型のカタツムリの殻口から差し込んで捕食することに適しています。一方、太く短い個体は、強い大顎で比較的小さな殻を壊すことに適しています。頭部を殻の奥に差し込む能力と殻を壊す能力の間にはトレードオフ(注3)があり、地域ごとの餌となるカタツムリの大きさが、マイマイカブリの体形進化に関係すると考えられてきました。また、本種は後翅が退化して飛ぶことができないため、離れた集団の間で遺伝子が交流しにくく、地理的な分化の過程を調べるのに適した研究対象です。

2.研究手法
 研究グループは、北海道から九州および周辺島嶼までの70集団で採集された170個体を用い、ミトコンドリアDNAの遺伝子1種類と核DNA遺伝子4種類を解析しました。これらの情報から集団間の系統関係と分岐年代を推定し、祖先集団が日本列島のどの地域に分布していたかを復元しました。さらに、頭部と胸部の長さ・幅を計測した既存データを用い、雌雄の情報がそろう50集団について、体サイズと体形を数値化しました。形態進化の解析では、形質が偶然に変化するとするモデルと、地域ごとに異なる適応的な値へ近づくとするOrnstein–Uhlenbeck(OU)モデル(注4)を比較しました。具体的には、本州を中心とする東西差、北海道・佐渡島・その他の島々の差、および両方を組み合わせた場合を検証しました。

3.主な研究成果
 分子系統解析から、現在のマイマイカブリ集団は約150万年前の共通祖先に由来し、初期に東日本系統と西日本系統へ分かれたことが示されました。体形については、西日本の本州、四国、九州の集団は、東日本の集団よりも全体として細長く、佐渡島の集団は特に太く短い体形を示しました。進化モデルの比較では、東日本と西日本の違いに加え、北海道と佐渡島をそれぞれ異なる環境として扱うモデルが最もよく適合しました。すなわち、体形の分化は海で隔てられた島の間だけでなく、大きな島の内部でも進んだことが示されました。

4.餌資源と気候との関係
 西日本には、大型になるマイマイ属(Euhadra)やニッポンマイマイ属(Satsuma)のカタツムリが多く分布します。特に四国には殻径60ミリメートルを超える大型種が生息しており、殻の奥まで頭部を差し込める細長い体形が有利になった可能性があります。一方、佐渡島や北海道で主要な餌となり得るカタツムリは比較的小型であり、殻を壊しやすい太く短い体形が有利になったと考えられます。また、体サイズは北東日本ほど小さく、南西日本ほど大きくなる傾向を示し、生育可能な期間などの南北の気候差への適応が関係した可能性があります。

5.研究の意義と今後の課題
 島の生物進化では、従来、島同士を隔てる海の効果が注目されてきました。本研究は、広い島の内部でも、移動能力の低い生物では地域を隔てる距離によって遺伝子の交流が制限され、地域ごとの餌資源や気候への適応が進み得ることを示しました。「島間の隔離」と「島内の隔離」が重なることで、種分化や適応放散の初期段階が進むという視点は、日本列島だけでなく、大陸や大陸島に分布する多様な生物の進化を理解する上でも重要です。ただし、体形について島内差を重視したモデルと島間差を重視したモデルの適合度の差は小さく、どちらの効果がより強いかは明確に区別できませんでした。今後、今回の研究に含められなかった島嶼集団の形態データを追加し、両者の寄与をさらに詳しく検証する必要があります。


 本研究は、日本学術振興会 特別研究員制度および科学研究費助成事業(課題番号:JP23128507、JP25128707、JP24770020、JP25K02347)の支援を受けて実施されました。

発表雑誌

雑誌名
「Biological Journal of the Linnean Society」(2026年8月17日)

論文タイトル
Morphological differentiation driven by adaptive divergence among and within islands in the snail-feeding carabid beetle Carabus blaptoides

著者
Junji Konuma*, Nobuaki Nagata, Teiji Sota(*責任著者)

DOI番号
10.1093/biolinnean/blag065

論文URL
https://doi.org/10.1093/biolinnean/blag065

用語解説

(注1)適応放散
共通の祖先から、多様な環境や餌資源に適応した、異なる形態・生態をもつ複数の系統が進化する現象。

(注2)大陸島
日本列島のように、もともと大陸の一部、または大陸と陸続きだった地域が、海面上昇や地殻変動によって大陸から切り離されてできた島。これに対して、小笠原諸島やハワイ諸島のように、海底火山の噴火などによって海の中から新たに形成され、過去に大陸とつながったことがない島を海洋島という。

(注3)トレードオフ
一方が成り立てばもう一方が成り立たない関係。天秤のような関係。

(注4)Ornstein–Uhlenbeck(OU)モデル
生物の形質が、自然選択によって環境ごとに異なる適応的な値へ近づくと仮定する進化モデル。本研究では、地域によって有利な体形や体サイズが異なる可能性を検証するために用いた。
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生物学科
准教授 小沼 順二

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1648 
E-mail: junji.konuma[@]sci.toho-u.ac.jp
URL: https://maimaikaburi.com

【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

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