プレスリリース 発行No.1623 令和8年7月7日
松の実由来の脂肪酸「ピノレン酸」に冠動脈の過剰な収縮を抑える作用を発見
— 狭心症や心筋梗塞の発症に関わる血管収縮の“スイッチ”を抑える食品成分として期待 —
— 狭心症や心筋梗塞の発症に関わる血管収縮の“スイッチ”を抑える食品成分として期待 —
東邦大学薬学部薬理学教室の研究グループは、松の実油に多く含まれる天然脂肪酸「ピノレン酸」(注1)が、心臓に血液を送る冠動脈(注2)の過剰な収縮を抑えることを発見しました。冠動脈が過剰に収縮すると、心臓への血流が一時的に低下し、狭心症や心筋梗塞の発症につながることがあります。本研究では、ピノレン酸が、冠動脈の収縮に関わる「プロスタノイドTP受容体」(注3)の働きを抑えることで、血管の過剰な収縮を和らげる可能性を示しました。さらに、ヒトのTP受容体を発現させた細胞を用いた実験でも、ピノレン酸はTP受容体の刺激によって起こる細胞内カルシウム濃度の上昇を抑制しました。また、コンピューター解析により、ピノレン酸がTP受容体のリガンド結合部位に入り込む可能性も示されました。
本研究成果は、2026年6月24日に学術雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」に公開されました。
本研究成果は、2026年6月24日に学術雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」に公開されました。
発表者名
小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 准教授)
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
中道 範隆(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)
田中 芳夫(東邦大学名誉教授、研究当時:東邦大学薬学部薬理学教室 教授)
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
中道 範隆(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)
田中 芳夫(東邦大学名誉教授、研究当時:東邦大学薬学部薬理学教室 教授)
発表のポイント
- 松の実油に多く含まれる脂肪酸「ピノレン酸」が、冠動脈の収縮を抑えることを発見しました。
- ピノレン酸は、冠動脈の収縮に関わるTP受容体の働きを選択的に抑制しました。
- ヒトTP受容体を発現させた細胞でも、ピノレン酸は受容体刺激による細胞内カルシウム濃度の上昇を抑えました。
- 本成果は、植物由来の脂肪酸を活用した心血管疾患予防研究や、機能性食品成分の探索につながることが期待されます。
発表内容
冠動脈は、心臓の筋肉に酸素や栄養を届ける重要な血管です。冠動脈が過剰に収縮すると、血管の内腔が狭くなり、心臓への血流が低下します。このような状態は冠動脈スパズムと呼ばれ、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の発症に関与することが知られています。血小板の活性化や血管内皮の障害、炎症などが生じると、トロンボキサンA2(TXA2)などの生理活性物質が増加し、冠動脈の過剰な収縮を引き起こすことがあります。トロンボキサンA2は、血管平滑筋細胞に存在するプロスタノイドTP受容体を刺激し、細胞内カルシウム濃度を上昇させることで血管収縮を促します。そのため、TP受容体の働きを適切に抑えることは、冠動脈の過剰な収縮を防ぐうえで重要と考えられます。
研究グループはこれまでに、植物油などに含まれるガンマリノレン酸やアルファリノレン酸が、TP受容体を介した冠動脈収縮を抑制することを報告してきました。ピノレン酸は、松の実油に多く含まれる脂肪酸であり、ガンマリノレン酸やアルファリノレン酸とよく似た構造を持っています。しかし、ピノレン酸が冠動脈収縮に及ぼす影響は明らかになっていませんでした。
本研究では、ブタ冠動脈を用いて、ピノレン酸の作用を検討しました。その結果、ピノレン酸は、TP受容体を選択的に刺激する薬物(U46619)(注4)によって起こる冠動脈収縮を、濃度依存的に抑制しました。また、主にTP受容体を介して冠動脈を収縮させるプロスタグランジンF2α(PGF2α)による収縮も抑制しました。一方で、高濃度カリウム、アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニン、エンドセリン-1による収縮に対しては、明らかな抑制作用を示しませんでした。これらの結果から、ピノレン酸は血管収縮を広く非特異的に抑えるのではなく、TP受容体を介した収縮を選択的に抑えることが示されました。
さらに、薬理学的解析により、ピノレン酸はTP受容体を刺激する物質と受容体上で競い合うように作用する可能性が示されました。これは、ピノレン酸がTP受容体において競合的拮抗作用(注5)を示す可能性を示しています。ヒトTP受容体を発現させた培養細胞を用いた実験でも、ピノレン酸はTP受容体刺激による細胞内カルシウム濃度の上昇を有意に抑制しました。加えて、ヒトTP受容体の立体構造を用いたコンピューター解析では、ピノレン酸がTP受容体のリガンド結合部位に入り込む可能性が示されました。これらの結果の概要を図1に示します。ピノレン酸は、血管収縮の“スイッチ”として働くTP受容体の働きを抑えることで、冠動脈の過剰な収縮を和らげる可能性があります。
本研究により、ピノレン酸がTP受容体を介した冠動脈収縮を抑えることが初めて示されました。TP受容体の活性化は、冠動脈スパズムの誘発を介した虚血性心疾患の発症に関与することから、ピノレン酸の作用は、植物由来脂肪酸による心血管保護作用を考えるうえで重要な知見となります。
本研究では、ヒトTP受容体を発現させた細胞でもピノレン酸の作用を確認しており、ピノレン酸がヒトの受容体に対して作用することが示されました。一方で、実際にヒトがピノレン酸を摂取した際に、冠動脈の過剰な収縮が抑えられるかどうかはまだ明らかではありません。また、ピノレン酸を摂取した際の血中濃度や体内での動きについても、十分な情報は得られていません。今後、体内動態の解析や、より生体に近い実験系での検証を進めることで、ピノレン酸が心血管疾患予防に役立つ機能性食品成分となり得るかを明らかにしていく必要があります。
研究グループはこれまでに、植物油などに含まれるガンマリノレン酸やアルファリノレン酸が、TP受容体を介した冠動脈収縮を抑制することを報告してきました。ピノレン酸は、松の実油に多く含まれる脂肪酸であり、ガンマリノレン酸やアルファリノレン酸とよく似た構造を持っています。しかし、ピノレン酸が冠動脈収縮に及ぼす影響は明らかになっていませんでした。
本研究では、ブタ冠動脈を用いて、ピノレン酸の作用を検討しました。その結果、ピノレン酸は、TP受容体を選択的に刺激する薬物(U46619)(注4)によって起こる冠動脈収縮を、濃度依存的に抑制しました。また、主にTP受容体を介して冠動脈を収縮させるプロスタグランジンF2α(PGF2α)による収縮も抑制しました。一方で、高濃度カリウム、アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニン、エンドセリン-1による収縮に対しては、明らかな抑制作用を示しませんでした。これらの結果から、ピノレン酸は血管収縮を広く非特異的に抑えるのではなく、TP受容体を介した収縮を選択的に抑えることが示されました。
さらに、薬理学的解析により、ピノレン酸はTP受容体を刺激する物質と受容体上で競い合うように作用する可能性が示されました。これは、ピノレン酸がTP受容体において競合的拮抗作用(注5)を示す可能性を示しています。ヒトTP受容体を発現させた培養細胞を用いた実験でも、ピノレン酸はTP受容体刺激による細胞内カルシウム濃度の上昇を有意に抑制しました。加えて、ヒトTP受容体の立体構造を用いたコンピューター解析では、ピノレン酸がTP受容体のリガンド結合部位に入り込む可能性が示されました。これらの結果の概要を図1に示します。ピノレン酸は、血管収縮の“スイッチ”として働くTP受容体の働きを抑えることで、冠動脈の過剰な収縮を和らげる可能性があります。
本研究により、ピノレン酸がTP受容体を介した冠動脈収縮を抑えることが初めて示されました。TP受容体の活性化は、冠動脈スパズムの誘発を介した虚血性心疾患の発症に関与することから、ピノレン酸の作用は、植物由来脂肪酸による心血管保護作用を考えるうえで重要な知見となります。
本研究では、ヒトTP受容体を発現させた細胞でもピノレン酸の作用を確認しており、ピノレン酸がヒトの受容体に対して作用することが示されました。一方で、実際にヒトがピノレン酸を摂取した際に、冠動脈の過剰な収縮が抑えられるかどうかはまだ明らかではありません。また、ピノレン酸を摂取した際の血中濃度や体内での動きについても、十分な情報は得られていません。今後、体内動態の解析や、より生体に近い実験系での検証を進めることで、ピノレン酸が心血管疾患予防に役立つ機能性食品成分となり得るかを明らかにしていく必要があります。
発表雑誌
雑誌名
「Biological and Pharmaceutical Bulletin」(2026年6月24日)
49巻6号、1006–1010
論文タイトル
Pinolenic acid inhibits prostanoid TP receptor–mediated contraction in porcine coronary arteries
著者
Keisuke Obara, Kento Yoshioka, Hideaki Ozawa, Keigo Osa, Natsuho Ishii, Noritaka Nakamichi, Yoshio Tanaka
DOI番号
10.1248/bpb.b26-00148
アブストラクトURL
https://doi.org/10.1248/bpb.b26-00148
「Biological and Pharmaceutical Bulletin」(2026年6月24日)
49巻6号、1006–1010
論文タイトル
Pinolenic acid inhibits prostanoid TP receptor–mediated contraction in porcine coronary arteries
著者
Keisuke Obara, Kento Yoshioka, Hideaki Ozawa, Keigo Osa, Natsuho Ishii, Noritaka Nakamichi, Yoshio Tanaka
DOI番号
10.1248/bpb.b26-00148
アブストラクトURL
https://doi.org/10.1248/bpb.b26-00148
用語解説
(注1)ピノレン酸(Pinolenic acid:PA)
松の実油に多く含まれる脂肪酸の一種です。ガンマリノレン酸やアルファリノレン酸とよく似た構造(炭素数18、二重結合の数3)を持つ植物由来の多価不飽和脂肪酸です。
(注2)冠動脈
心臓の筋肉に酸素や栄養を届ける血管です。冠動脈が過剰に収縮すると、心臓への血流が低下し、狭心症や心筋梗塞の原因となることがあります。
(注3)プロスタノイドTP受容体
トロンボキサンA2などによって活性化される受容体です。血管の収縮や血小板の働きに関わり、冠動脈の過剰な収縮にも関与します。
(注4)U46619
トロンボキサンA2とよく似た働きを示す化合物で、実験ではTP受容体を選択的に刺激する薬物として用いられます。本研究では、TP受容体を介した冠動脈収縮を調べるために使用しました。
(注5)競合的拮抗作用
受容体を刺激する物質(アゴニスト)と拮抗薬が、同じ受容体の結合部位を競い合うことで、アゴニストの作用が弱まる仕組みです。本研究では、ピノレン酸がTP受容体アゴニストに対して競合的に拮抗する可能性が示されました。
松の実油に多く含まれる脂肪酸の一種です。ガンマリノレン酸やアルファリノレン酸とよく似た構造(炭素数18、二重結合の数3)を持つ植物由来の多価不飽和脂肪酸です。
(注2)冠動脈
心臓の筋肉に酸素や栄養を届ける血管です。冠動脈が過剰に収縮すると、心臓への血流が低下し、狭心症や心筋梗塞の原因となることがあります。
(注3)プロスタノイドTP受容体
トロンボキサンA2などによって活性化される受容体です。血管の収縮や血小板の働きに関わり、冠動脈の過剰な収縮にも関与します。
(注4)U46619
トロンボキサンA2とよく似た働きを示す化合物で、実験ではTP受容体を選択的に刺激する薬物として用いられます。本研究では、TP受容体を介した冠動脈収縮を調べるために使用しました。
(注5)競合的拮抗作用
受容体を刺激する物質(アゴニスト)と拮抗薬が、同じ受容体の結合部位を競い合うことで、アゴニストの作用が弱まる仕組みです。本研究では、ピノレン酸がTP受容体アゴニストに対して競合的に拮抗する可能性が示されました。
添付資料
図1.ピノレン酸はTP受容体を抑制し、冠動脈の異常収縮を和らげる可能性
松の実由来の脂肪酸ピノレン酸(PA)は、血管収縮の“スイッチ”として働くプロスタノイドTP受容体を介した反応を抑え、トロンボキサンA2(TXA2)やプロスタグランジンF2α(PGF2α)によって引き起こされる冠動脈の過剰な収縮を和らげる可能性が示されました。さらに、ヒトTP受容体発現細胞および分子ドッキング解析から、ピノレン酸がTP受容体に作用する可能性も示唆されました。
松の実由来の脂肪酸ピノレン酸(PA)は、血管収縮の“スイッチ”として働くプロスタノイドTP受容体を介した反応を抑え、トロンボキサンA2(TXA2)やプロスタグランジンF2α(PGF2α)によって引き起こされる冠動脈の過剰な収縮を和らげる可能性が示されました。さらに、ヒトTP受容体発現細胞および分子ドッキング解析から、ピノレン酸がTP受容体に作用する可能性も示唆されました。
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬理学教室
准教授 小原 圭将
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1331 FAX: 047-472-1435
E-mail: keisuke.obara[@]phar.toho-u.ac.jp
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
URL: www.toho-u.ac.jp
※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。



