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プレスリリース 発行No.1619 令和8年6月18日

オカダンゴムシに寄生するシヘンチュウの感染動態を調査
寄生による繁殖能の低下が宿主個体数に影響?

 東邦大学理学部の安齋尚哉(研究当時、大学院生)と脇司准教授は、身近な土壌生物であるオカダンゴムシの個体群を2年間にわたって調査し、体内に寄生するシヘンチュウ科線虫(以下、シヘンチュウ)の感染動態を明らかにしました。本研究は、寄生虫の寄生に伴う繁殖能の低下が、宿主個体群のサイズを調整する可能性があることをフィールド調査によって示したものです。

 本研究成果は、雑誌「Acta Parasitologica」に2026年6月15日に掲載されました。

発表者名

安齋 尚哉(東邦大学大学院理学研究科 博士前期課程環境科学専攻 2023年度修了)
脇 司(東邦大学理学部生命圏環境科学科 准教授)

発表のポイント

  • 野生動物の寄生虫は、一般的に感染に伴う死亡などにより宿主個体数を調整することで、生態系のバランスを保つ重要な存在とされています。しかし、そのことを示唆する実際のデータは限られています。
  • シヘンチュウの寄生は、一般に、宿主の死亡や生殖能の低下を引き起こすと考えられています。本研究では、関東のオカダンゴムシの体内に寄生するシヘンチュウに着目し、2年間の野外調査でその感染動態を追跡しました。
  • 2年にわたりオカダンゴムシ計1,553個体を採集してシヘンチュウの感染を調べたところ、春から感染が見られるようになり、オカダンゴムシの繁殖期と考えられる夏頃まで感染率が高まっていく傾向にあることを見出しました。感染率の最大値は年によって異なり、10~28%となりました。このことから、オカダンゴムシの繁殖期にシヘンチュウが宿主の生殖能を低下させることで、オカダンゴムシの個体数の制御にかかわっている可能性が考えられました。

発表内容

 生態系においては、オオカミやタカなどの高次捕食者(天敵)が、より小型の野生動物を捕食して個体数を抑制していることが一般的に知られています。寄生虫も、宿主に感染して死亡させたり、宿主の繁殖能を低下させたりして、その宿主動物の個体数を調整する役割があると考えられてきました。つまり寄生虫は、オオカミやタカのような動物と同じ役割を生態系で担っている可能性があります。しかし野外において、実際に寄生虫がどのように宿主の個体数を制御し得るのか、その検討材料となる情報は多くありません。寄生虫による宿主個体数の調整は、生態系が安定的に維持されるメカニズムを考える上で重要な情報になる可能性がありますが、具体的な実証データは世界的にみても限られています。

 シヘンチュウは、無脊椎動物に寄生する細長い大型寄生虫です(図1)。そして、その卵や幼虫が宿主に感染したのち、その体内で幼虫が体長数センチ程度まで大きく育ちます(図2)。とても長い虫体が体内で折りたたむようにして居座ることで、宿主の生殖能が低下するとされています。また、十分に大きく育った幼虫が、宿主の表皮を破って体外に脱出するため、その時に宿主が大量の体液を失い死亡するとされています。こうして外に出た幼虫は、土壌や水中で成熟して成虫になり、湿度の高い時期に産卵すると考えられています。そして、虫卵または孵化した幼虫が再び宿主に感染します。このように、シヘンチュウは宿主の再生産や生残に対する影響が大きく、宿主の天敵になり得る寄生虫と考えられます。そこで、私たちの身近に生息するオカダンゴムシを対象に、その天敵となり得るシヘンチュウの感染動態を追跡し、宿主個体群に及ぼす影響を考察することにしました。

 本研究では、2021年から2023年にかけて、関東の調査地点で定期的な枠取り調査を行い、オカダンゴムシを採集しました。オカダンゴムシを研究室に持ち帰り、顕微鏡を使って観察し、シヘンチュウの感染の有無を調べていきました(図2)。およそ2年に及ぶ野外調査では毎月オカダンゴムシが採集され、合計で1,553個体になりました。個体群動態を解析したところ、調査地において、オカダンゴムシは7月頃に小型個体群が加入し、翌年の6~7月まで成長し、産卵してその後自然死する1年生の生活史だと考えられました(図3)。
 調査期間中、感染の見られない月も多かったのですが、全体として春頃から感染が始まり、7月頃にかけて感染率が高まっていく傾向にあることを見出しました。この感染率の最大値は年によって異なり、10~28%に達しました。シヘンチュウは湿度の高い時期に産卵するとされていることから、関東の春から梅雨にかけての降水が、このシヘンチュウの感染動態につながったと考えられました。この感染率の高まる時期は、オカダンゴムシの産卵時期と重なっています。このため、シヘンチュウの寄生がオカダンゴムシの生殖能を低下させることで、オカダンゴムシの次世代の個体数を制御している可能性があると考えられました(図3)。一方で、この時期はオカダンゴムシの寿命による自然死の時期とも重なっていたことから、シヘンチュウによる宿主の死亡の影響は、オカダンゴムシの個体群全体にとってはそこまで大きくはないと推察されました。

 今回の成果は、身近な生物を対象に、寄生虫が宿主個体群を制御する可能性を野外調査で示した事例となりました。今後は、感染したオカダンゴムシが実際にどのくらい再生産能を低下させるのかを詳しく調べることで、寄生虫の宿主個体群制御のメカニズムをより詳細に理解できると考えられます。

発表雑誌

雑誌名
「Acta Parasitologica」(2026年6月15日)

論文タイトル
Infection of mermithid nematodes in a natural population of Armadillidium vulgare in Japan

著者
Naoya Anzai, Tsukasa Waki*(*責任著者)

DOI番号
10.1007/s11686-026-01323-z

アブストラクトURL
https://doi.org/10.1007/s11686-026-01323-z

添付資料

オカダンゴムシに寄生するシヘンチュウ
図1. オカダンゴムシに寄生するシヘンチュウ



シヘンチュウに寄生されたオカダンゴムシ
図2.シヘンチュウに寄生されたオカダンゴムシ(腹面)
矢印の白い線状のものがシヘンチュウ。A.生時。B.解剖時。



オカダンゴムシの生活史とシヘンチュウの感染による再生産個体数の制御
図3. オカダンゴムシの生活史とシヘンチュウの感染による再生産個体数の制御(仮説)
春や梅雨の時期の雨にシヘンチュウが産卵し、虫卵または幼虫がオカダンゴムシに感染する。シヘンチュウは一般的に宿主の再生産能を抑制することが知られているため、オカダンゴムシの次世代の個体数を制御することで、結果的に個体数が調節されている可能性がある。なお、シヘンチュウは宿主に致死的だが、感染する時期はオカダンゴムシの自然死の時期と近いことから、感染による死亡数が宿主個体数に及ぼす影響は大きくないと推察された。

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生命圏環境科学科
准教授 脇 司

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1653 
E-mail: tsukasa.waki[@]sci.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/env/synecology/

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