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プレスリリース 発行No.1606 令和8年5月21日

モンゴル自生植物から新種の放線菌Kineococcus anabasis NUM-3379Tを発見

 東邦大学薬学部微生物学教室の安齊洋次郎教授らの研究グループは、 モンゴル国立大学、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンターとの共同研究で、新種の希少放線菌Kineococcus anabasis (キネオコッカス アナバシス)NUM-3379T(図1)を発見しました。本菌株はモンゴル自生植物Anabasis brevifolia(アナバシス ブレビフォリア)(図2)の種子から分離されました。

 抗生物質などの医薬品の生産菌である放線菌の新種の発見は分類学的知見のみならず、創薬資源の開拓に繋がることが期待されます。

 この研究成果は、雑誌「The Journal of Antibiotics」誌に2026年5月8日に掲載されました。

発表者名

安齊 洋次郎(東邦大学薬学部微生物学教室 教授)
飯坂 洋平(東邦大学薬学部微生物学教室 准教授)
曽 嘉昊(研究当時:東邦大学大学院薬学研究科医療薬学専攻 博士課程3年)
名嶋 千陽(研究当時:東邦大学薬学部6年)
Javzan Batkhuu(モンゴル国立大学)
Bekh-Ochir Davaapurev(モンゴル国立大学)
Enkhtaivan Bum-Erdene(モンゴル国立大学)
Otgonbaatar Undarmaa(モンゴル国立大学)
Davaanyam Enkhtuul(モンゴル国立大学)
Chimeddeleg Sod-Erdene(モンゴル国立大学)
田村 朋彦(独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター)
浜田 盛之(独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター)
榎本 成美(独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター)

発表のポイント

  • モンゴル自生植物Anabasis brevifoliaの種子から希少放線菌の新種Kineococcus anabasis NUM-3379Tを発見しました。
  • 放線菌の分離報告例が少ないモンゴルからの新種の放線菌の発見は生物多様性に関する研究や新たな有用物質の探索研究に繋がることが期待されます。

発表概要

 土壌や植物など自然界に広く分布する放線菌(注1)は抗生物質などの有用物質の生産菌です。研究グループは、学術交流協定(MOU)締結校であるモンゴル国立大学のJavzan Batkhuu教授らの研究グループと放線菌を用いた有用物質の探索研究を進めており、その研究の一環であるモンゴル自生植物からの放線菌の分離実験において、オレンジ色のコロニーを形成するNUM-3379株をAnabasis brevifoliaの種子から分離しました。
 さらに、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンターの田村朋彦博士らと共にNUM-3379株と既存菌種のゲノム配列などの比較を行い、このNUM-3379株が希少放線菌Kineococcus属の新種であることを明らかにしました。モンゴルからの放線菌の新種の報告は少なく、この研究成果は生物多様性に関する研究や新たな有用物質の探索研究に繋がることが期待されます。

発表内容

 ヒユ科植物であるAnabasis brevifoliaは中国、ロシア、モンゴルに分布する植物で、抗菌活性、抗酸化活性などを有することが知られています。モンゴルのDornogovi県で採集されたAnabasis brevifoliaの種子を100℃、20分の乾熱処理、0.9%食塩水中で粉砕、その懸濁液を放線菌の選択培地であるフミン酸-ビタミン寒天培地に塗布して、28℃、4週間、培養したところ、オレンジ色のコロニーが出現しました。このコロニーの菌株をNUM-3379とし、分類学的な位置を判定するために16S rRNA 遺伝子(注2)の塩基配列を解読しました。BLASTを用いたデータベース検索の結果、希少放線菌Kineococcus属の既存2菌種Kineococcus glutinatus DSM 26692TKineococcus xinjiangensis DSM 22857Tに対して共に高い相同性(98.87%)を示しました。

 ゲノム配列情報に基づいたDigital DNA–DNA hybridization (dDDH) ではNUM-3379株とKineococcus glutinatus DSM 26692TKineococcus xinjiangensis DSM 22857Tとの相同性が24.5%、23.5%(基準値:70%以下の場合は別種と判断される)、average nucleotide identity (ANI) 値は81.39%、 80.95%(基準値:95%以下の場合は別種と判断される)となり、NUM-3379株は既存のKineococcus属の菌種とは別の種speciesとして区分されました。
 また、コロニーの色や形状(図3)、菌体成分などの他の比較実験もゲノム配列の比較結果を支持するものとなり、NUM-3379株がKineococcus属の新種であることが明らかになりました。NUM-3379株はAnabasis属植物から分離されたことよりKineococcus anabasisと命名し、その基準種をKineococcus anabasis NUM-3379Tとしました。
 新種の放線菌として発表したKineococcus anabasis NUM-3379Tを用いた初期の培養実験では、目立った抗菌活性等の有用物質の生産は確認されませんでしたが、ゲノム配列情報を基に、2次代謝産物生合成遺伝子クラスター予測ツールantiSMASHを用いて解析した結果、NUM-3379Tは抗菌、抗酸化、細胞毒性が知られている1,4-ベンゾキノン誘導体をはじめ、多数の有用物質を作るための「設計図(遺伝子クラスター)」を有することが確認されました。つまり、この菌が本来生息する砂漠のようなストレス環境を再現するなど、培養条件を工夫することで、眠っている遺伝子を活性化させ、新たな有用物質を生産させることが出来る可能性が十分にあります。放線菌は多様な物質の生産が特徴であり、その中には現在の医療に欠かすことのできない抗菌薬、抗悪性腫瘍薬、免疫抑制薬などがあります。近年、薬剤耐性菌の増加、新型コロナウイルス感染症などの新興感染症の発生が問題視されていますが、新薬開発の状況は十分とは言えません。今回の新種の希少放線菌の発見は、未開の地における生物多様性に関する研究だけでなく、新たな有用物質の探索研究、そして、新薬の開発へと繋がることが期待されます。


 本研究は、独立行政法人国際協力機構(JICA)によるモンゴル工学系高等教育支援事業M-JEED プロジェクト(J12A15)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)と独立行政法人国際協力機構(JICA)による地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム SATREPS (JPMJSA1906)などの支援を受けて実施されました。本研究が本邦とモンゴル国との国際交流のさらなる発展にも寄与することが望まれます。

発表雑誌

雑誌名
「The Journal of Antibiotics」(2026年5月8日)

論文タイトル
Kineococcus anabasis sp. nov., isolated from seeds of Anabasis brevifolia

著者
Davaapurev B-O, Iizaka Y*, Najima C, Zeng J, Bum-Erdene E, Undarmaa O, Enkhtuul D, Sod-Erdene C, Enomoto N, Hamada M, Tamura T, Batkhuu J, Anzai Y(*責任著者)

DOI番号
10.1038/s41429-026-00925-z

論文URL
https://doi.org/10.1038/s41429-026-00925-z

用語解説

(注1)放線菌
グラム陽性細菌の一分類群で、細長い菌糸の伸長と胞子形成の形態的特徴を示す細菌であり、多様な物質の生産も放線菌の特徴です。なお、現在の放線菌の分類は遺伝子の塩基配列による分子系統分類に基づいているため、系統的に近縁な球菌などの菌群も放線菌に含まれます。また、希少放線菌は、放線菌のうちのStreptomyces属以外の非典型的放線菌を示します。

(注2)16S rRNA遺伝子
リボソームRNAである16S rRNAは細菌(原核生物)のリボソームの30Sサブユニットを構成するRNAであり、このRNAの塩基配列をコードする遺伝子を16S rRNA遺伝子と呼びます。

添付資料

Kineococcus anabasis NUM-3379Tの走査型電子顕微鏡写真
図1.Kineococcus anabasis NUM-3379Tの走査型電子顕微鏡写真
モンゴル自生植物Anabasis brevifolia
図2.モンゴル自生植物Anabasis brevifolia
Kineococcus anabasis NUM-3379Tおよび関連菌種の培養性状
図3.Kineococcus anabasis NUM-3379Tおよび関連菌種の培養性状(コロニーの色や形状)
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部微生物学教室
教授 安齊 洋次郎

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E-mail: yanzai[@]phar.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/phar/microbio/

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