プレスリリース 発行No.1600 令和8年4月30日
天然成分「シサンドリンA」に腸管収縮を抑える作用
— 五味子の止瀉作用の機序の一端を解明 —
— 五味子の止瀉作用の機序の一端を解明 —
東邦大学薬学部薬理学教室と生薬学教室の研究グループは、生薬「五味子(ゴミシ)(注1)」に含まれる天然成分「シサンドリンA(Schisandrin A)」が、腸管平滑筋の収縮を抑制することを明らかにしました。本研究では、シサンドリンAが「L型カルシウムチャネル(L-type Ca2+ channel)(注2)」を介したCa2+流入を抑制することで、さまざまな収縮刺激による腸管収縮を抑えることを示しました(図1)。本成果は、五味子が古くから下痢などの消化器症状に用いられてきた背景の一端を、科学的に説明するものです。
この研究成果は、学術雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」に2026年4月9日に公開されました。
この研究成果は、学術雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」に2026年4月9日に公開されました。
発表者名
洪 強昊地(東邦大学大学院薬学研究科医療薬学専攻 博士課程2年)
大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 講師)
菊地 崇(東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 准教授)
田中 芳夫(東邦大学名誉教授、研究当時:東邦大学薬学部薬理学教室 教授)
大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 講師)
菊地 崇(東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 准教授)
田中 芳夫(東邦大学名誉教授、研究当時:東邦大学薬学部薬理学教室 教授)
発表のポイント
- シサンドリンA(Schisandrin A)は、生薬「五味子」に含まれる主要な天然成分であり、五味子は古くから下痢などの消化器症状の改善に用いられてきましたが、その作用機序は十分に解明されていませんでした。
- 本研究では、シサンドリンAがアセチルコリン、ヒスタミン、プロスタグランジンF2αによるモルモット回腸平滑筋の収縮を濃度依存的に抑制し、その作用がL型カルシウムチャネルを介したCa2+流入の抑制によるものであることが示唆されました。
- 本成果は、五味子の伝統的な止瀉作用のメカニズムとして、主要成分であるシサンドリンAによるカルシウムチャネルの抑制が関与している可能性を提起するものです。
発表内容
シサンドリンA(Schisandrin A)は、生薬「五味子(ゴミシ)」に含まれる主要なリグナン成分であり、抗酸化作用、抗炎症作用、肝保護作用など多様な薬理作用が報告されています。五味子は古くから、下痢や消化管機能異常の改善を目的として用いられてきた生薬ですが、その止瀉作用に関わる分子機構については十分に解明されていませんでした。特に、腸管平滑筋の収縮に対するシサンドリンA の直接的な作用については不明な点が多く残されていました。
本研究では、シサンドリンAが腸管平滑筋収縮に与える影響を明らかにするため、モルモット回腸縦走筋を用いた薬理学的評価を行いました。その結果、アセチルコリン、ヒスタミン、プロスタグランジンF2αといった消化管収縮に関与する生理活性物質によって誘発される収縮に対し、シサンドリンAが濃度依存的に抑制作用を示すことが確認されました。さらに、高カリウム刺激によって誘発される膜の脱分極による収縮も同様に抑制されました。これらの収縮は、いずれもL 型カルシウムチャネル抑制薬ジルチアゼムによって完全に抑制されたことから、シサンドリンA の作用がCa2+流入経路に関与していることが示唆されました。
また、平滑筋由来のA7r5細胞を用いた蛍光測定では、高カリウム刺激による細胞内Ca2+濃度の上昇がシサンドリンAによって有意に抑制されることが確認されました。これは、シサンドリンA がL 型カルシウムチャネルを介したCa2+流入を機能的に抑制することを支持する結果です。
さらに、ヒト由来のL型カルシウムチャネル(CaV1.2)構造を用いた分子ドッキング解析により、シサンドリンAがチャネル内部の結合ポケットに位置し、特定のアミノ酸残基(Tyr1508)と相互作用する可能性が示されました(図1)。この結果は、シサンドリンAがチャネルに直接作用する可能性を示す構造的根拠を与えるものです。
以上の結果から、シサンドリンAはL型カルシウムチャネル(CaV1.2)を介したCa2+流入を抑制することで、受容体刺激および膜脱分極に依存する腸管平滑筋収縮を広範に抑制することが示唆されました(図1)。一方で、シサンドリンAの血中濃度は経口投与後には比較的低く、今回の実験で用いた有効濃度に達しない可能性に留意する必要があります。このことから、全身循環を介した作用よりも腸管内腔における局所的な作用が重要である可能性が考えられますが、その詳細については今後の検討が必要です。本研究は、五味子の伝統的な止瀉作用の分子基盤を、シサンドリンAによるカルシウム流入抑制という観点から科学的に裏付ける一助となるものです。
本研究では、シサンドリンAが腸管平滑筋収縮に与える影響を明らかにするため、モルモット回腸縦走筋を用いた薬理学的評価を行いました。その結果、アセチルコリン、ヒスタミン、プロスタグランジンF2αといった消化管収縮に関与する生理活性物質によって誘発される収縮に対し、シサンドリンAが濃度依存的に抑制作用を示すことが確認されました。さらに、高カリウム刺激によって誘発される膜の脱分極による収縮も同様に抑制されました。これらの収縮は、いずれもL 型カルシウムチャネル抑制薬ジルチアゼムによって完全に抑制されたことから、シサンドリンA の作用がCa2+流入経路に関与していることが示唆されました。
また、平滑筋由来のA7r5細胞を用いた蛍光測定では、高カリウム刺激による細胞内Ca2+濃度の上昇がシサンドリンAによって有意に抑制されることが確認されました。これは、シサンドリンA がL 型カルシウムチャネルを介したCa2+流入を機能的に抑制することを支持する結果です。
さらに、ヒト由来のL型カルシウムチャネル(CaV1.2)構造を用いた分子ドッキング解析により、シサンドリンAがチャネル内部の結合ポケットに位置し、特定のアミノ酸残基(Tyr1508)と相互作用する可能性が示されました(図1)。この結果は、シサンドリンAがチャネルに直接作用する可能性を示す構造的根拠を与えるものです。
以上の結果から、シサンドリンAはL型カルシウムチャネル(CaV1.2)を介したCa2+流入を抑制することで、受容体刺激および膜脱分極に依存する腸管平滑筋収縮を広範に抑制することが示唆されました(図1)。一方で、シサンドリンAの血中濃度は経口投与後には比較的低く、今回の実験で用いた有効濃度に達しない可能性に留意する必要があります。このことから、全身循環を介した作用よりも腸管内腔における局所的な作用が重要である可能性が考えられますが、その詳細については今後の検討が必要です。本研究は、五味子の伝統的な止瀉作用の分子基盤を、シサンドリンAによるカルシウム流入抑制という観点から科学的に裏付ける一助となるものです。
発表雑誌
雑誌名
「Biological and Pharmaceutical Bulletin」(2026年4月9日)
49巻4号、661–665
論文タイトル
Schisandrin A suppresses guinea pig ileal longitudinal smooth muscle contraction through functional inhibition of L-type Ca2+ channels
著者
Qianghaodi Hong, Tomoya Ohta, Kouharu Otsuki, Wakaba Kinami,Teppei Sato, Takashi Kikuchi, Wei Li, Kento Yoshioka, Keisuke Obara, Yoshio Tanaka
DOI番号
10.1248/bpb.b26-00055
アブストラクトURL
https://doi.org/10.1248/bpb.b26-00055
「Biological and Pharmaceutical Bulletin」(2026年4月9日)
49巻4号、661–665
論文タイトル
Schisandrin A suppresses guinea pig ileal longitudinal smooth muscle contraction through functional inhibition of L-type Ca2+ channels
著者
Qianghaodi Hong, Tomoya Ohta, Kouharu Otsuki, Wakaba Kinami,Teppei Sato, Takashi Kikuchi, Wei Li, Kento Yoshioka, Keisuke Obara, Yoshio Tanaka
DOI番号
10.1248/bpb.b26-00055
アブストラクトURL
https://doi.org/10.1248/bpb.b26-00055
用語解説
(注1)五味子(ゴミシ)
五味子は、中国原産のマツブサ科のつる植物チョウセンゴミシ「Schisandra chinensis」の成熟した果実で、小青竜湯や人参養栄湯などの漢方薬に配合され、古くから用いられてきた生薬です。その名は、果実に「甘味・酸味・辛味・苦味・塩味」の五つの味を有するとされることに由来します。五味子は伝統的に、下痢などの消化器症状の改善や鎮咳、滋養強壮を目的として用いられており、近年ではその多様な薬理作用が注目されています。
(注2)L型カルシウムチャネル(L-type Ca2+ channel)
筋肉が収縮するためには、細胞の外からカルシウムイオン(Ca2+)が細胞内に流入する必要があります。L型カルシウムチャネルはその主要な通路として働くタンパク質で、電気的な刺激(膜電位の変化)によって開閉が制御されています。心臓や血管、消化管などの平滑筋に広く発現しており、このチャネルを介したCa2+流入を抑制することで筋収縮を弱めることができます。本研究では、シサンドリンA がこのチャネルの働きを抑えることで、腸管平滑筋の収縮を抑制することが示されました。
五味子は、中国原産のマツブサ科のつる植物チョウセンゴミシ「Schisandra chinensis」の成熟した果実で、小青竜湯や人参養栄湯などの漢方薬に配合され、古くから用いられてきた生薬です。その名は、果実に「甘味・酸味・辛味・苦味・塩味」の五つの味を有するとされることに由来します。五味子は伝統的に、下痢などの消化器症状の改善や鎮咳、滋養強壮を目的として用いられており、近年ではその多様な薬理作用が注目されています。
(注2)L型カルシウムチャネル(L-type Ca2+ channel)
筋肉が収縮するためには、細胞の外からカルシウムイオン(Ca2+)が細胞内に流入する必要があります。L型カルシウムチャネルはその主要な通路として働くタンパク質で、電気的な刺激(膜電位の変化)によって開閉が制御されています。心臓や血管、消化管などの平滑筋に広く発現しており、このチャネルを介したCa2+流入を抑制することで筋収縮を弱めることができます。本研究では、シサンドリンA がこのチャネルの働きを抑えることで、腸管平滑筋の収縮を抑制することが示されました。
添付資料
図1.シサンドリンAによる腸管平滑筋収縮抑制の作用機序
アセチルコリンなどの収縮刺激は、薬物受容体を介してL型カルシウムチャネルを活性化し、細胞外からのCa2+流入を引き起こすことで腸管平滑筋の収縮を誘導します。腸管運動はこの収縮によって調節され、過剰な収縮は下痢の一因となります。本研究により、シサンドリンAはL型カルシウムチャネル(CaV1.2)を介したCa2+流入を抑制し、腸管平滑筋の収縮および腸管運動を抑制することが示唆されました。また、分子ドッキング解析により、シサンドリンAがチャネル内部に結合する可能性が示唆されました。
アセチルコリンなどの収縮刺激は、薬物受容体を介してL型カルシウムチャネルを活性化し、細胞外からのCa2+流入を引き起こすことで腸管平滑筋の収縮を誘導します。腸管運動はこの収縮によって調節され、過剰な収縮は下痢の一因となります。本研究により、シサンドリンAはL型カルシウムチャネル(CaV1.2)を介したCa2+流入を抑制し、腸管平滑筋の収縮および腸管運動を抑制することが示唆されました。また、分子ドッキング解析により、シサンドリンAがチャネル内部に結合する可能性が示唆されました。
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬理学教室
准教授 小原 圭将
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1331 FAX: 047-472-1435
E-mail: keisuke.obara[@]phar.toho-u.ac.jp
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
URL: www.toho-u.ac.jp
※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。
関連リンク
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