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プレスリリース 発行No.1595 令和8年4月10日

日本で初めて国内レジストリのみを評価に用いて
医療機器の適応拡大の承認を取得
~ ALLIANCE registry ~

 東邦大学医学部循環器疾患低侵襲治療学講座の中村正人教授は、一般財団法人日本心血管インターベンション治療学会と連携し、薬剤コーティングバルーン(DCB)(注1)に関する医師主導の国内のレジストリ(注2)を構築しました。申請には本レジストリにおけるバルーン径3.0mm以上のDCB使用症例の成績が用いられ、2026年2月19日付で医療機器の適応拡大の一部変更承認を取得しました。
 国内のレジストリ結果のみを用いた評価によって薬事承認を取得した事例は本件が初で、今後はリアルワールドデータ(RWD)(注3)を活用した薬事承認審査がさらに加速することが期待されます。

 本研究成果は、学術誌「Cardiovascular Intervention and Therapeutics」に2026年4月8日に掲載されました。

発表者名

中村 正人(東邦大学医学部循環器疾患低侵襲治療学講座 教授)

発表のポイント

  • パクリタキセル(注4)をコーティングしたバルーン(パクリタキセルDCB)の安全性および有効性を国内レジストリで実証しました。
  • 国内レジストリをもとに適応拡大の薬事申請がなされ、薬事承認されました。
  • 学会の定めるDCBコンセンサスは改定され、DCB適正使用が推進されます。

発表概要

 心臓の血管(冠動脈)の狭窄をカテーテルで拡張する治療(冠動脈形成術)により毎年20万件を超える症例が治療されています。治療は薬剤溶出性ステントによるものが主体ですが、血管内に異物(金属でできているステント)を残さないDCBが代替治療として注目されており、それは経年的に増加して現在冠動脈形成術の約3割に達しています。しかし、その適応は3.0mm未満の小血管、ステント再狭窄に限定されており、3.0mm以上の血管へのDCB使用の臨床的なニーズは高いものの、データ不足により認められていませんでした。また、RWDを医療機器の薬事承認審査に活用することが期待されつつも、実際に薬事申請・承認された事例はありませんでした。
 そこで研究グループは、ゼロから新たな治験を行うのではなく、実際にある治療データを用いてDCBの適応拡大を目指しました。その結果3.0mm以上の血管に対するDCBの安全性と有効性が証明されました。このデータをもとに薬事申請が行われ、薬事承認を取得しました。これはRWDを活用して薬事承認を得た画期的な事例であり、これにより、適応拡大だけでなく希少疾患向けの医療機器や新薬の承認が加速し、医療機器開発全体が大きく促進されることが期待されます。

発表内容

 薬剤溶出性ステント(DES)(注5)の登場により、経皮的冠動脈形成術(PCI)(注6)の治療成績は著しく改善しましたが、長期的に体内にステント留置がなされることも問題視されていることから、体内に異物を残さない新たな治療法としてDCBが注目されています。本研究の研究課題名であるALLIANCE registry(DCB Real World Registry)とは、使用が拡大する実臨床の現場におけるパクリタキセルDCBの有効性と安全性を評価するためにデザインされた前向き多施設共同オールカマー・レジストリです。本研究のサンプルサイズは1,500例と算出されました。これは、絶対非劣性マージンを3.0%とし、1年後の標的病変不全(TLF)7.5%というパフォーマンスゴールに対する非劣性を評価するにあたり、95%の検出力を確保するための設定であり、病変の前処置(病変のプレパレーション)に成功し、DCBが施行された症例が連続登録されました。国内で薬事承認されている2種類のDCB(Agent DCBおよびSeQuent Please NEO)が担当医の裁量により使用され、主要評価項目は、1年時点における心血管死、心筋梗塞、および臨床的理由による標的病変再血行再建術(cd-TLR)の複合エンドポイントであるTLF(標的病変不全)に設定され、独立した臨床イベント評価委員会がすべての主要評価項目イベントを判定しました。なお本研究は、収集したデータを3.0mm以上の血管へのDCB適応拡大の薬事申請に活用することを見据え、事前に医薬品医療機器総合機構(PMDA)と面談し助言を得たうえで実施されました。  

 2023年7月から2024年2月にかけて、約7か月で国内の57施設から1,794例(1,984病変)が登録され、患者背景は、平均年齢71歳、男性76%、糖尿病合併45%、急性冠症候群(ACS)29%でした。病変の特性としては、31%が石灰化病変であり、34%が3.0mmを超えるサイズのDCBで治療されました。また、88.5%の病変で血管内イメージングが使用され、病変の前処置は、68%でモディファイド・バルーン(特殊バルーン)、19%でアテレクトミー(粥腫切除術)(注7)が用いられました。結果として、1年時点のTLF発生率は全体で4.7%(95%CI 3.8-5.8%、非劣性のp値<0.001)、cd-TLRは2.9%でした。また、DCB施行後のベイルアウト(救済的)ステント留置を要した症例は1.1%のみであり、多変量解析によってTLFの関連因子として糖尿病、透析、急性冠症候群、脂質異常症、入口部病変が特定され、cd-TLRの関連因子として糖尿病、透析、入口部病変が挙げられました。一方、石灰化病変、3.0mm以上のDCB、分岐部病変などは、TLFおよびcd-TLRとの有意な関連は認められませんでした(図1)。

 これまでに発表されているDCBの大規模レジストリは2つありますが、いずれもステント内再狭窄病変が含まれており、新規の冠動脈病変は3.0mm未満の小血管に限定されていました。また、アテレクトミー使用例はなく、手技も造影ガイドのみでした。これに対し本レジストリは、イメージングガイド主体の手技、約2割でのアテレクトミー併用、34%が3.0mm以上のDCB使用といった日本の実臨床を反映しており、多くの複雑病変を含む、冠動脈病変に対するDCBレジストリとしては最大規模のものであります。また、既報の登録期間が約4年であったのに対し、今回は約7か月であったことから、本研究はより均一な手技のもとで選択バイアスが少ない対象の成績を反映していると考えられます。得られた有効性は既存データと同等であり、ベイルアウトステント留置率は最も低率でした。以上の結果から、パクリタキセルDCBは、適応が拡大しつつある実臨床の現場において、良好な安全性および有効性のプロファイルを有することが示唆され、この研究成果は、ボストン・サイエンティフィックジャパン株式会社に提供され、適応拡大の薬事申請、そして薬事承認へと至りました。

 本研究は、ボストン・サイエンティフィックジャパン株式会社と日本医療研究開発機構(AMED)の既存の疾患登録システム(患者レジストリ)を活用した医療機器の実用化を目指す臨床研究・医師主導治験等(JP23hk0102095)からの資金支援を受け、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の助言のもと、関連学会と連携して実施しました。

発表雑誌

雑誌名
「Cardiovascular Intervention and Therapeutics」(2026年4月8日)

論文タイトル
Paclitaxel Drug-coated Balloon Angioplasty for De Novo Coronary Lesions in an Expanded Real World Clinical Setting: The Multicenter ALLIANCE Registry

著者
Masato Nakamura MD*, PhD, Kengo Tanabe MD, PhD, Kazushige Kadota MD, Takashi Muramatsu MD, PhD, Yutaka Tadano MD, Kenji Ando MD, Shigeru Nakamura MD, Takashi Ashikaga MD, Yoshihisa Kinoshita MD, Nehiro Kuriyama MD, Yuko Onishi MD, Toru Kataoka MD, Koji Nishida MD, Raisuke Iijima MD, PhD, Masatsugu Nozoe MD, PhD, Kunio Morishige MD, PhD, Takefumi Takahashi MD, Yoshitaka Murakami PhD, Ken Kozuma MD, PhD; On behalf of the ALLIANCE registry investigators. (*責任著者)

DOI番号
10.1007/s12928-026-01280-4

論文URL
https://doi.org/10.1007/s12928-026-01280-4

用語解説

(注1)薬剤コーティングバルーン(Drug-Coated Balloon:DCB)
カテーテル治療において、バルーンの表面に再狭窄を防ぐための薬剤を塗布した医療機器です。

(注2)レジストリ
特定の情報を体系的に集め、整理したデータベースのことを指します。医療の分野では、患者の病歴や治療法、薬剤の使用状況など、さまざまなデータが記録され、このデータは医療の質向上や新たな治療法の開発に役立てられます。

(注3)リアルワールドデータ(Real-world data:RWD)
臨床試験(治験)などの限定された環境ではなく、実際の医療現場や日常生活で収集される患者の診療データや健康情報の総称です。電子カルテ、レセプト、健診データ、ウェアラブル端末などが含まれ、製薬の市販後調査や研究に広く活用されています。

(注4)パクリタキセル
植物成分由来の様々ながんの治療に用いる抗がん剤の一種で、再狭窄の予防にも用いられています。

(注5)薬剤溶出性ステント(drug eluting stent:DES)
狭心症や心筋梗塞のカテーテル治療で血管を広げた後に留置する細胞増殖を抑える薬を塗った金属製の網状の筒です。

(注6)経皮的冠動脈形成術(PCI)
狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患において、脚の付け根や腕、手首などの血管からカテーテルという医療用の細く柔らかいチューブを差し込み冠動脈の狭くなった部分を治療する方法です。

(注7)アテレクトミー(粥腫切除術)
動脈硬化で狭窄・閉塞した血管内のプラーク(コレステロールの塊)や石灰化組織をドリルやカッターで切削・除去する血管内治療です。

添付資料

Graphic abstract of ALLIANCE registry
図1.Graphic abstract of ALLIANCE registry
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部循環器疾患低侵襲治療学講座
教授 中村 正人

〒153-8515 目黒区大橋2-22-36
TEL: 03-3468-1251  FAX: 03-5433-3076
E-mail: masato[@]oha.toho-u.ac.jp

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