プレスリリース 発行No.1594 令和8年3月30日
芳香族カルボン酸の脱炭酸を利用した新たな不斉付加反応を開発
東邦大学理学部化学科の白井智彦講師らの研究グループは、カチオン性イリジウム触媒を用いて、初めて芳香族カルボン酸の脱炭酸反応を利用した不斉付加反応の開発に成功しました。本反応は、副生成物としてCO2のみを放出する環境調和型の手法で、医薬品などの生理活性物質に広く含まれる分子骨格を構築することが可能です。
この研究成果は2026年2月14日に英国王立化学会(RSC)が発行する国際学術誌「Chemical Communications」にオンライン掲載されました。また、同誌の「Inside Front Cover」にも選出されました。
この研究成果は2026年2月14日に英国王立化学会(RSC)が発行する国際学術誌「Chemical Communications」にオンライン掲載されました。また、同誌の「Inside Front Cover」にも選出されました。
発表者名
浅野 蓮(東邦大学理学部化学科4年)
野並 玲奈(高知工業高等専門学校 2023年度専攻科修了)
濵﨑 日菜(高知工業高等専門学校 2023年度卒)
金本 和也(東京科学大学総合研究院生体材料工学研究所 プロジェクト准教授)
藤田 陽師(高知工業高等専門学校 教授)
山本 凱世(静岡大学大学院総合科学技術研究科理学専攻 化学コース)
関 朋宏(静岡大学理学部化学科 准教授)
柴富 一孝(豊橋技術科学大学 次世代半導体・センサ科学研究所 教授)
桑原 俊介(東邦大学理学部化学科 教授)
白井 智彦(東邦大学理学部化学科 講師)
野並 玲奈(高知工業高等専門学校 2023年度専攻科修了)
濵﨑 日菜(高知工業高等専門学校 2023年度卒)
金本 和也(東京科学大学総合研究院生体材料工学研究所 プロジェクト准教授)
藤田 陽師(高知工業高等専門学校 教授)
山本 凱世(静岡大学大学院総合科学技術研究科理学専攻 化学コース)
関 朋宏(静岡大学理学部化学科 准教授)
柴富 一孝(豊橋技術科学大学 次世代半導体・センサ科学研究所 教授)
桑原 俊介(東邦大学理学部化学科 教授)
白井 智彦(東邦大学理学部化学科 講師)
発表のポイント
- 芳香族カルボン酸を原料とし、独自の金属触媒系を用いた新しい不斉付加反応を開発しました。
- 従来の不斉付加反応は有機金属試薬や擬ハロゲン化物などの反応性の高い試薬を必要とし、廃棄物が多いという問題がありました。本研究では、天然に豊富に存在し入手容易な芳香族カルボン酸を直接原料として使用し、廃棄物の発生を最小限に抑えた環境負荷の低いプロセスを実現しました。
- 医薬品等の生理活性物質に含まれるキラル(注1)なビシクロ[2.2.1] ヘプタン骨格(注2)を、安価・安全な原料から合成できる新手法として、医薬品候補化合物の探索研究への応用が期待されます。今後は詳細な不斉発現のメカニズム解明や、より難度の高い分子変換への展開を目指します。
発表概要
医薬品・有機材料などの有機化合物は、入手しやすい原料を出発点として化学反応を繰り返し行うことで合成されます。新しい反応の開発は、既存の合成経路を短縮・効率化するだけでなく、従来の手法では合成できなかった新しい化合物の創出をも可能にします。こうした新反応の開発は、化学における根本的かつ重要な意味をもつ研究課題です。研究グループは、独自に開発した金属触媒を用いることで、脱炭酸(注3)を伴ったアルケンへの不斉アリール付加反応(注4)の開発に初めて成功しました。この反応は、カルボン酸の強い炭素–炭素結合を金属触媒によって切断し、ベンゼン環を含む原子団(アリール基)を二環式アルケンへ不斉付加させるもので、副生成物はCO2のみという環境負荷の低いグリーンな反応プロセスです。医薬品や農薬などの生理活性物質では、鏡像異性体(注5)のうち一方のみが活性を示す場合が多く、選択的に鏡像の一方のみを作り分ける不斉合成法の確立が急務です。開発した不斉付加反応により、生理活性物質等に含まれるキラルなビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格について、最高99%の鏡像体過剰率(鏡像体の比率は99.5:0.5)という高い不斉収率を達成しました。
発表内容
【研究の背景】
キラルなビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格は、抗ウイルス薬・抗糖尿病薬をはじめとする多くの生理活性物質に含まれる重要な構造単位です。医薬品などのキラルな分子には、左右の手のように互いに鏡像の関係にある分子(鏡像異性体)が存在しますが、片方のみが薬効を示す場合が多くあります。特に医薬品分野においては、目的の鏡像異性体のみを選択的に作り分ける不斉反応の開発が重要な研究課題となっています。そのような中、芳香族カルボン酸の脱炭酸を伴う不斉アリール付加反応は、有機金属試薬などの高い反応性をもつ試薬を必要とせず、副生成物はCO2のみという環境調和型の手法として注目されています。ただ、脱炭酸を利用した不斉アリール付加反応はこれまで達成されておらず、その開発が強く求められていました。
【今回の成果】
キラルなカチオン性イリジウム/S-Me-BIPAM触媒系(注6)を用いることで、芳香族カルボン酸の炭素–炭素結合を切断し、CO2を放出しながら、二環式アルケンへの不斉付加反応に利用することに成功しました。本反応では、最高85%の収率および最高99%の鏡像体過剰率(鏡像異性体の比率は99.5:0.5)を達成しました。この反応により、様々な構造を持つビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格を構築することができます。また、反応をより制御するためにメカニズムの解析を行った結果、電子供与基をもつ芳香族カルボン酸では効率的に反応が進行する一方、電子求引基をもつ基質では反応が抑制される傾向が見られたことから、脱炭酸段階が律速段階であることが示唆されました。さらに、31P NMRを利用して反応前後における触媒構造についての考察を行い、脱炭酸によって生じるCO2は触媒活性に悪影響を与えないことを明らかにしました。
【結論と今後の展望】
独自に開発したキラルな金属触媒系を用いることで、芳香族カルボン酸の脱炭酸を伴う不斉アリール付加反応の開発に初めて成功しました。本反応は入手容易な芳香族カルボン酸を原料として、キラルなビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格を高い不斉収率で構築できる新しい合成戦略です。今後は、不斉発現のメカニズムの解明を進めるとともに、より多様な構造を持つ原料や反応系への展開を目指しています。本成果は、金属触媒を活用した不斉炭素–炭素結合形成反応の新しい手法として、医薬品・農薬をはじめとする生理活性物質の効率的な合成への応用が期待されます。
キラルなビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格は、抗ウイルス薬・抗糖尿病薬をはじめとする多くの生理活性物質に含まれる重要な構造単位です。医薬品などのキラルな分子には、左右の手のように互いに鏡像の関係にある分子(鏡像異性体)が存在しますが、片方のみが薬効を示す場合が多くあります。特に医薬品分野においては、目的の鏡像異性体のみを選択的に作り分ける不斉反応の開発が重要な研究課題となっています。そのような中、芳香族カルボン酸の脱炭酸を伴う不斉アリール付加反応は、有機金属試薬などの高い反応性をもつ試薬を必要とせず、副生成物はCO2のみという環境調和型の手法として注目されています。ただ、脱炭酸を利用した不斉アリール付加反応はこれまで達成されておらず、その開発が強く求められていました。
【今回の成果】
キラルなカチオン性イリジウム/S-Me-BIPAM触媒系(注6)を用いることで、芳香族カルボン酸の炭素–炭素結合を切断し、CO2を放出しながら、二環式アルケンへの不斉付加反応に利用することに成功しました。本反応では、最高85%の収率および最高99%の鏡像体過剰率(鏡像異性体の比率は99.5:0.5)を達成しました。この反応により、様々な構造を持つビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格を構築することができます。また、反応をより制御するためにメカニズムの解析を行った結果、電子供与基をもつ芳香族カルボン酸では効率的に反応が進行する一方、電子求引基をもつ基質では反応が抑制される傾向が見られたことから、脱炭酸段階が律速段階であることが示唆されました。さらに、31P NMRを利用して反応前後における触媒構造についての考察を行い、脱炭酸によって生じるCO2は触媒活性に悪影響を与えないことを明らかにしました。
【結論と今後の展望】
独自に開発したキラルな金属触媒系を用いることで、芳香族カルボン酸の脱炭酸を伴う不斉アリール付加反応の開発に初めて成功しました。本反応は入手容易な芳香族カルボン酸を原料として、キラルなビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格を高い不斉収率で構築できる新しい合成戦略です。今後は、不斉発現のメカニズムの解明を進めるとともに、より多様な構造を持つ原料や反応系への展開を目指しています。本成果は、金属触媒を活用した不斉炭素–炭素結合形成反応の新しい手法として、医薬品・農薬をはじめとする生理活性物質の効率的な合成への応用が期待されます。
発表雑誌
雑誌名
「Chemical Communications」(オンライン公開:2026年2月14日)
論文タイトル
Cationic iridium-catalyzed enantioselective decarboxylative aryl addition of aromatic carboxylic acids to bicyclic alkenes
著者
Ren Asano, Reina Nonami, Hina Hamasaki, Kazuya Kanemoto, Harunori Fujita, Kaisei Yamamoto, Tomohiro Seki, Kazutaka Shibatomi, Shunsuke Kuwahara, Tomohiko Shirai*(*責任著者)
DOI番号
10.1039/D6CC00389C
論文URL
https://doi.org/10.1039/d6cc00389c
「Chemical Communications」(オンライン公開:2026年2月14日)
論文タイトル
Cationic iridium-catalyzed enantioselective decarboxylative aryl addition of aromatic carboxylic acids to bicyclic alkenes
著者
Ren Asano, Reina Nonami, Hina Hamasaki, Kazuya Kanemoto, Harunori Fujita, Kaisei Yamamoto, Tomohiro Seki, Kazutaka Shibatomi, Shunsuke Kuwahara, Tomohiko Shirai*(*責任著者)
DOI番号
10.1039/D6CC00389C
論文URL
https://doi.org/10.1039/d6cc00389c
用語解説
(注1)キラル
分子が左右の手のように、その鏡像と重ね合わせることができない性質。
キラルな分子には鏡像異性体が存在する。
(注2)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格
炭素7個からなる橋掛け構造をもつ二環式の炭化水素骨格で、医薬品などの生理活性物質に広く含まれる。
(注3)脱炭酸
カルボン酸のカルボキシ基(–CO2H)をCO2として除去する反応。
(注4)不斉アリール付加反応
ベンゼン環などの芳香環を含む原子団(アリール基)を別の分子構造中に付け加える反応のうち、鏡像異性体の一方のみを選択的に作り分けることができるもの。
(注5)鏡像異性体(エナンチオマー)
右手と左手の関係に相当し、互いに鏡に映した関係にある一対の分子。
化学的な性質は同じだが、生体内における働きが異なることが多い。
(注6)カチオン性イリジウム/S-Me-BIPAM触媒系
イリジウムを金属中心とする錯体とS-Me-BIPAMというキラル配位子を組み合わせた触媒。
分子が左右の手のように、その鏡像と重ね合わせることができない性質。
キラルな分子には鏡像異性体が存在する。
(注2)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格
炭素7個からなる橋掛け構造をもつ二環式の炭化水素骨格で、医薬品などの生理活性物質に広く含まれる。
(注3)脱炭酸
カルボン酸のカルボキシ基(–CO2H)をCO2として除去する反応。
(注4)不斉アリール付加反応
ベンゼン環などの芳香環を含む原子団(アリール基)を別の分子構造中に付け加える反応のうち、鏡像異性体の一方のみを選択的に作り分けることができるもの。
(注5)鏡像異性体(エナンチオマー)
右手と左手の関係に相当し、互いに鏡に映した関係にある一対の分子。
化学的な性質は同じだが、生体内における働きが異なることが多い。
(注6)カチオン性イリジウム/S-Me-BIPAM触媒系
イリジウムを金属中心とする錯体とS-Me-BIPAMというキラル配位子を組み合わせた触媒。
添付資料
図1.掲載号表紙カバー
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部化学科 構造有機化学教室
講師 白井 智彦
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-4322
E-mail: tomohiko.shirai[@]sci.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/chem/structuralorganicchemistry/
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
URL: www.toho-u.ac.jp
※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。




