プレスリリース 発行No.1571 令和7年12月23日
~ クラゲ類と魚をつなぐ海洋食物網を推定 ~
本研究成果は、「Journal of Helminthology」に2025年12月22日に掲載されました。
発表者名
関根 百悠(東邦大学大学院理学研究科環境科学専攻 博士前期課程1年)
粟生 絢羽(東邦大学理学部生命圏環境科学科4年)
新田 理人(国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所 主任研究員)
山本 岳 (新江ノ島水族館 飼育員)
戸篠 祥(公益財団法人黒潮生物研究所 主任研究員)
中野 光(京都府立海洋高等学校 教諭)
大河 俊之(高知県水産振興部水産政策課)
高野 弘企(東邦大学大学院理学研究科環境科学専攻 2024年度修了)
山崎 大志(東邦大学理学部生命圏環境科学科 講師)
萩原 玲 (くらげノ脊髄 研究員)
発表のポイント
- 刺胞動物のクラゲ類(ニューストン・プランクトン)は、かつては、他の動物に食べられることがあまりないグループと考えられてきました。しかし、近年では、他の動物の主要な餌料の一つになっていることが指摘されています。
- 吸虫(扁形動物の寄生虫の一群)は、宿主の主要な餌に寄生して感染することから、生態系における捕食-被食関係の指標となることが知られています。本研究では、日本沿岸域でクラゲ類の吸虫の調査を行い、魚類に寄生する吸虫と比較しました。
- クラゲ類8種245個体を調査し、7種から吸虫の幼虫ステージ(メタセルカリア)325虫体が見つかり、形態とDNA解析で9種に分けられました。
- DNA解析の結果、クラゲ類の9種のメタセルカリアのうち6種が、海産魚合計12 種に寄生していることが確認されました。残りのメタセルカリア3種も、海産魚に寄 生するグループであることがDNA解析で確認されました。
- 過去の文献から各魚種(またはその魚種に近縁な魚類)の食性を調べて、今回の結果と併せて考察しました。その結果、クラゲ類のメタセルカリアと同種の虫体が見つかった魚種12種のうち10種が、クラゲ類を捕食して吸虫に感染した可能性が高いことが分かりました。前述の通り、吸虫は宿主の主要な餌を感染源とすることが良く知られていることから、海洋生態系においてクラゲ類が海産魚の主要な餌となっていることが示唆されました。
発表内容
一般にクラゲ類は、ウミガメやマンボウに食べられるイメージこそあるものの、実際にクラゲ類を食べる動物は限定的と考えられてきました。しかし、近年の魚類の胃内容物のDNA解析でクラゲ類が検出され、捕食実験で魚類がクラゲを摂餌することが確認されたことなどから、さまざまな証拠が積み重なり、クラゲ類が海産魚の主要な餌料となっていることが指摘されるようになりました。
吸虫は、扁形動物に属する多種多様な寄生虫のグループで、その幼虫はクラゲ類を含むさまざまな動物から報告されてきました。吸虫は、その一生の間に複数の宿主を乗り換えることが知られています。吸虫の成虫は海産魚などの脊椎動物(終宿主:成虫の宿主のこと)に感染します。成虫は産卵し、終宿主の糞などとともに体外に出ます。その卵はやがて貝類に感染し、貝類の体内で幼虫(スポロシストやレジア)となります。この貝類のことを第一中間宿主と言います。スポロシストやレジアからは、セルカリアと呼ばれる遊泳性の幼虫が出て、次の宿主に感染してメタセルカリアとなります。このメタセルカリアの宿主のことを第二中間宿主と言います。最終的に、そのメタセルカリアが第二中間宿主と共に終宿主に食べられて成虫になります。第二中間宿主が終宿主以外の動物に食べられた場合に、メタセルカリアがそのまま生き続けることがあります。そのメタセルカリアを保持した動物が終宿主に食べられると、成虫まで発達できます。この中継ぎの宿主動物を待機宿主と言います。これらのように、第二中間宿主と待機宿主の中のメタセルカリアは捕食によって終宿主に感染します。このため、メタセルカリアは一般的に、終宿主の主要な餌に寄生することが知られています。
これまで、吸虫のメタセルカリアがクラゲ類に付くことは知られており、また、クラゲ類が海産魚の主要な餌料になっていることも示唆されています。しかし、メタセルカリアは幼虫で、体の器官が未発達な場合が多く、形態のみに基づく種同定が困難でした。メタセルカリアの種同定には、そのDNAと、種同定された成虫のDNAを比較する必要がありますが、吸虫の成虫のDNAが十分に調べられておらず、どのクラゲ類のメタセルカリアが、どの海産魚に寄生するかあまり理解が進んでいません。特に、日本の太平洋・日本海沿岸では、クラゲ類のメタセルカリアそのものがほとんど調べられていないのが現状です。
そこで研究グループは、日本沿岸でクラゲ類の吸虫調査を行いました。今回の研究で採集されたクラゲ類は、ニューストン(水表生物)のカツオノエボシ、カツオノカムリおよびギンカクラゲと、プランクトン(浮遊生物)のアカクラゲ、ウミコップ属の一種、ウラシマクラゲ、オオタマウミヒドラおよびミズクラゲです。これらのクラゲ類8種合計245個体を解剖したところ、ギンカクラゲを除く7種からメタセルカリア325虫体が検出されました(図1, 2)。それらのメタセルカリアは、形態とDNA(核28S rDNA(注1)やミトコンドリアのCOI(注2))解析で9種に分けられました。これらのメタセルカリアのDNAを、海産魚から得られた吸虫の成虫のものと比較したところ、メタセルカリア9種のうち6種の宿主海産魚(合計12種)が明らかになりました。宿主が分からなかった残りの3種のメタセルカリアも、海産魚に寄生する吸虫グループの仲間であることがDNA解析で明らかになりました。
次に、過去の文献を用いて、宿主海産魚それぞれの魚種または近縁種の食性を調べました。その結果、魚類12種のうち10種は、クラゲ類を摂餌して吸虫に感染した可能性が高いことが分かりました(図3)。前述の通りメタセルカリアは、宿主が主要な餌としている動物を感染源(第二中間宿主・待機宿主)とすることが多いことが知られています。これらの海産魚にとってクラゲ類は一時的または偶発的な餌ではなく、主要な餌となっていることが強く示唆されました。特に、シイラとマサバからは、クラゲ類のメタセルカリアと同種の吸虫が4種ずつ見つかり、高い頻度でクラゲ類を食べていると考えられます。一方で、残りの海産魚2種(コバンザメとトビウオ科の一種)は、その近縁種含め過去にクラゲ類を食べた情報が見当たらず、これらはクラゲ類以外の動物を食べて吸虫に感染した可能性が高いと考えられます。本研究ではヤムシ類(小型の動物プランクトン)からもクラゲ類のものと同種のメタセルカリアを検出しており、小型動物の捕食がこれらの魚種への感染経路になっている可能性があります(図3)。
採集したクラゲのうちカツオノエボシには、寄生していたメタセルカリアの種が多く、6種にのぼりました。この6種のうち「クラゲビードロ吸虫(和名新称)Tetrochetus coryphaenae」は、クラゲ類を摂餌して吸虫に感染したと考えられた海産魚10種のいずれからも見つかっています。カツオノエボシは海水浴場で人を刺す危険な「電気クラゲ」として有名ですが、一般的なイメージに反して、海産魚の主要な餌料となっているのかもしれません。
本研究で、クラゲ類の餌料としての重要性が示唆された一方で、日本には吸虫が調査されていないクラゲ類がたくさん残されています。今回明らかになった感染経路は、海洋生態系のごく一部に過ぎず、今後異なる種のクラゲ類を調べることで、それらが海産魚の主要な餌料になっていることを推定できる可能性があります。クラゲ類につく吸虫の第一中間宿主は多くの種で不明ですので(図3)、これらを明らかにすることは、海洋における吸虫の生活史を理解する上で重要になると考えられます。
発表雑誌
「Journal of Helminthology」(2025年12月22日)
論文タイトル
Metacercariae infecting seven cnidarian species with their life cycle information including their adult stages in Japan
著者
Tsukasa Waki*, Hakuyu Sekine, Ayane Aou, Masato Nitta, Gaku Yamamoto, Sho Toshino, Hikaru Nakano, Toshiyuki Okawa, Koki Takano, Daishi Yamazaki, Ryo Hagihara(*責任著者/筆頭著者)
DOI番号
10.1017/S0022149X25100989
アブストラクトURL
https://doi.org/10.1017/S0022149X25100989
用語解説
28S rRNA(リボソームRNA)は動物のDNAバーコーディング(特定の短い配列を用いて生物を同定する手法)で用いられる領域です。
(注2)COI
COIも動物のDNAバーコーディングでよく利用される領域です。
添付資料
A:オオタマウミヒドラに寄生した「Opechona sp. 1」。
B:カツオノエボシに寄生した「クラゲビードロ吸虫(和名新称)Tetrochetus coryphaenae」。
C:ウミコップ属の一種に寄生した「クラゲホシクズ吸虫(和名新称)Prodistomum orientale」。
D:カツオノエボシから単離された「マヒマヒ吸虫(和名新称)Dinurus tornatus」。
撮影:関根 百悠・戸篠 祥・脇 司
A:カツオノエボシ。B:アカクラゲ。C・D:ミズクラゲ。
写真: 関根 百悠・脇 司
矢印は吸虫類の感染経路を示す。
クラゲ類に感染した吸虫の幼虫(メタセルカリア)は、捕食されることで次の宿主に感染し、食物網を経由してシイラなどの終宿主(成虫の宿主)の海産魚類に到達すると考えられる。上図のうち、コバンザメはクラゲ類を摂餌した記録が見当たらず、本魚種はクラゲ類を直接の感染源とせず、感染魚や感染ヤムシ類を食べて感染した可能性がある。多くの吸虫種で、クラゲまでの感染経路は不明であるため、点線で示している。ただし、吸虫のProdistomum Type 4(カツオノエボシやアカクラゲに寄生)のみ、メダカラ(海産貝類のタカラガイの一種)が第一中間宿主であり*、そこから遊出した遊泳性の幼虫(セルカリア)がクラゲ類に感染すると考えられる。
Ansai E, Sekine H, Munakata K, Sase T, Sasaki M, Nitta M, Suzuki S, Abe T, Takano T, Fukumori H, Nakatsubata Y, Suzuki M and Waki T (2025) Life cycles of trematodes infecting six species of intertidal gastropods in Japan. Journal of Helminthology 99, e83.
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URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/env/synecology/index.html
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