プレスリリース

メニュー

プレスリリース 発行No.1563 令和7年11月21日

DNAの複製開始に必須なタンパク質であるCDT1の過剰な発現は、
DNA複製の進行を抑制しDNAの損傷を誘発する
~ がん発症メカニズムの一端となる可能性を提示 ~

 東邦大学薬学部分子生物学教室の多田周右教授、津山崇講師の研究グループは、DNA複製開始因子であるCDT1(Cdc10-Dependent Transcript 1)(注1)の過剰発現によりDNAが損傷を受け、遺伝子変異がもたらされる可能性を示しました。これまでに過剰なCDT1が細胞のがん化を引き起こすことは報告されていましたが、そのメカニズムは明らかとなっていませんでした。本研究成果はDNA複製開始後のDNA複製反応の進行に対するCDT1の影響だけでなく、CDT1の過剰発現による発がんについての分子的な理解につながることが期待されます。

 この研究成果は2025年9月26日に学術雑誌「FEBS Open Bio」のオンライン版に掲載されました。

発表者名

多田 周右(東邦大学薬学部分子生物学教室 教授)
津山 崇(東邦大学薬学部分子生物学教室 講師)

発表のポイント

  • ヒト培養細胞において、CDT1の過剰発現がDNA複製の進行を抑制することを見出しました。
  • CDT1によるDNA複製の進行抑制は、DNAヘリカーゼであるMCM(Mini-Chromosome Maintenance)複合体(注2)との結合に依存することを確認しました。
  • CDT1の過剰発現がDNAの傷害を引き起こすことを見出しました。
  • 本論文の知見は、CDT1の過剰発現による発がんのメカニズムの分子的な理解につながることが期待されます。

発表概要

 DNA複製の開始に際して、二本鎖DNAを一本鎖にほどく酵素(DNAヘリカーゼ)であるMCM複合体が複製開始点へ結合し、その後MCM複合体が二本鎖DNAをほどきながらDNA複製反応を進行させます。この二本鎖DNAが一本鎖に分かれる部分を複製フォークと呼びます。複製フォークの進行は様々な要因で停止することがあり、この停止が続くとDNA鎖の切断が誘発され、細胞死やがん化の原因となると考えられています。一方、MCM複合体の複製開始点への結合に必須の役割を果たすCDT1タンパク質が過剰発現することにより細胞のがん化が引き起こされることが示されていましたが、そのメカニズムは明らかではありませんでした。研究グループは、CDT1の各種変異体の性状解析を行うとともに、それらの過剰発現を任意に誘導できる細胞株を樹立し、これらを用いた解析により、細胞内でのCDT1の過剰発現が複製フォークの進行を抑制し、DNAの損傷を引き起こすことを示しました。本研究成果はCDT1のDNA複製における新たな機能の解明だけでなく、CDT1の過剰発現による発がん過程の分子的な理解につながることが期待されます。

発表内容

 細胞分裂において、ゲノムDNAは正確に複製されて倍加しますが、DNA複製が適切に行われないと染色体の構造異常が引き起こされることが知られており、これが細胞のがん化の原因となり得る可能性が示されています。DNA複製の開始に先立って、細胞周期のG1期に二本鎖DNAを一本鎖にほどく役割を果たすMCM複合体がゲノムDNA上の複製開始点へ結合します。この過程をDNA複製ライセンス化と呼び、これにはCDT1というタンパク質の機能が必須です。CDT1はMCM複合体と結合することで、MCM複合体を複製開始点へ結合させる働き(ライセンス化活性)を有しています。細胞周期のS期にDNA複製が開始されると、タンパク質分解や阻害タンパク質であるgemininとの結合によりCDT1が不活性化されます。これにより一度複製を開始したDNAが再度複製を開始してしまうこと(再複製)を防止しており、実際にCDT1が細胞内で過剰に発現することにより再複製が誘導されることが示されています。また、CDT1ががん細胞で多く発現していること、CDT1の過剰発現が細胞のがん化を引き起こすことも報告されており、CDT1の過剰発現が再複製を誘導することで細胞をがん化に導く可能性が考えられます。

 一方、研究グループはこれまでに過剰なCDT1が複製フォークの進行を阻害することを見出していましたが、そのメカニズムや、細胞に与える影響については明らかとなっていませんでした。そこで、複製フォークの進行の阻害に関わるCDT1の機能を明らかにするため、ヒト乳がん由来MCF-7細胞に様々な変異を導入したCDT1を発現させたときの細胞周期への影響を解析しました。まず、CDT1のライセンス化活性が大きく減弱する変異を導入したところ、この変異型CDT1の発現は細胞周期の進行をS期で停止させると同時に、S期でのDNA合成活性を大きく低下させました。このことから、CDT1による複製フォークの進行阻害作用にはライセンス化活性が関与していないことが示唆されました。次に、MCM複合体との結合を減弱させた変異型CDT1を細胞に発現させたところ、S期での停止はみられませんでした。この結果から、CDT1の複製フォーク進行阻害作用にはMCM複合体との結合が重要であると考えられました。

 CDT1の構造はN末端側領域、中央領域、C末端側領域の大きく3つの機能領域に分けることができ、このうち中央領域とC末端側領域にはDNA結合やタンパク質間相互作用に関与するwinged-helix domain(WHD)と呼ばれる構造が存在しています。研究グループはこれまでに、CDT1の中央領域のWHDを構成するβシート構造に変異を導入すると、MCM複合体との結合は維持されるものの、CDT1のライセンス化活性および自己会合能が減少することを見出しています。そこで、このβシート構造に変異を導入したCDT1を過剰に発現させたところ、細胞周期の進行に影響はみられませんでした。以上の結果から、CDT1の中央領域のWHDが複製フォークの進行阻害作用に重要であることが示唆されました。
 複製フォークの停止が継続すると、DNA鎖の切断が誘発されることが知られています。そこで次に、ライセンス化活性を減弱させた変異型CDT1を過剰発現させた時のDNAの傷害について検討しました。その結果、変異型CDT1の発現は細胞増殖を抑制するとともに、DNA鎖切断のマーカーであるγH2AXを顕著に増加させました。このとき、DNA複製の異常を感知して細胞周期を停止させるチェックポイントを起動する働きを持つATRの活性化も確認されました。さらに、変異型CDT1を過剰発現させた細胞で、停止した複製フォークの安定化や切断されたDNA鎖の修復に関与する相同組換え関連タンパク質(MRE11、RAD51、RPA2)がDNA上へ結合することが確認されました。これらの結果は、CDT1による複製フォークの停止がDNA損傷を引き起こすことでゲノムの不安定化を誘導することを示唆しています。

 CDT1の異常な活性化は、DNAの再複製や複製フォークの停止を引き起こしますが、これは多くのがん細胞で観察されるゲノム不安定性と関連している可能性があると考えられます。CDT1は、多彩なヒトがん細胞において過剰発現していることが報告されています。さらに、CDT1はがん原遺伝子として働く可能性も示されており、その過剰発現がin vivoでの腫瘍形成を引き起こすことも報告されています。CDT1を過剰発現している腫瘍細胞では、染色体の数的および構造的異常が認められています。加えて、CDT1の高発現は、乳がん、肝細胞がん、および胃がんの患者において、予後不良と著しく関連していることも報告されています。したがって、過剰発現したCDT1によって誘導される複製フォークの停止は、腫瘍の形成および悪性化において重要な意味を持つ可能性があります。本研究成果から、CDT1が過剰に存在した場合、DNAの再複製のみならずMCM複合体のDNAヘリカーゼ活性の阻害を介して、複製フォークおよび再複製フォークの進行を抑制し失速させることからもゲノム不安定性が誘発され、これらが細胞のがん化やがんの悪性化の原因となる可能性が示されました。本研究成果は、ライセンス化活性の異常な亢進によって引き起こされる複製異常が、がんの発生や進行に関与する仕組みの解明に貢献すると考えられます。

発表雑誌

雑誌名
「FEBS Open Bio」(オンライン版:2025年9月26日)

論文タイトル
Overexpression of CDT1 inhibits cell cycle progression at S phase by interacting with the mini-chromosome maintenance complex and causes DNA damage

著者
Takashi Tsuyama, Nonoka Takayama, Rina Tanaka, Yuuki Arai, Yohko Yamaguchi, Yuko Nawata, Yutaro Azuma, Shusuke Tada*

DOI番号
10.1002/2211-5463.70127

論文URL
https://doi.org/10.1002/2211-5463.70127

用語解説

(注1)CDT1(Cdc10-Dependent Transcript 1)
細胞の核内に存在するタンパク質で、DNAの複製を始めるための準備(ライセンス化)に関わっています。細胞が分裂の準備をする段階(G1期)に、CDT1は他の因子(ORCやCDC6など)と協力してDNA上に複製開始の目印をつくり、次の細胞分裂に向けてDNAが正しくコピーされるように働きます。

(注2)MCM(Mini-Chromosome Maintenance)複合体
細胞の核内でDNAをほどく働きをもつ酵素「DNAヘリカーゼ」として機能する、6種類のタンパク質(MCM2~MCM7)からなる複合体です。CDT1やCDC6などの因子とともにDNAの複製開始点に結合しDNAの二重らせん構造をほどくことで、DNA複製が進行します。

添付資料

過剰に発現したCDT1はDNA複製フォークの進行を阻害することで細胞のがん化に関与する

図1. 過剰に発現したCDT1はDNA複製フォークの進行を阻害することで細胞のがん化に関与する

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部分子生物学教室
教授 多田 周右

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1469 FAX: 047-472-1485
E-mail: s.tada[@]phar.toho-u.ac.jp
URL: https://www.toho-u.ac.jp/phar/labo/rinka.html

【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583  FAX: 03-3768-0660 
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
URL: www.toho-u.ac.jp

※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。