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プレスリリース 発行No.1560 令和7年11月19日

統合失調症の不安症状に抗精神病薬ルラシドンが有効である可能性
~ 5つのランダム化プラセボ対照試験の統合事後解析から ~

 東邦大学医学部精神神経医学講座・社会実装精神医学講座 根本隆洋教授は、住友ファーマ株式会社と共同で、抗精神病薬ルラシドンの5つのランダム化プラセボ対照試験のデータを用いた統合事後解析により、ルラシドンが統合失調症患者の社会的な機能予後に深く関与する不安症状の改善に有効である可能性を示唆しました。

 本研究成果は、2025年11月19日に国際学術誌「Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports」に掲載されました。

発表者名

根本 隆洋(東邦大学医学部精神神経医学講座・社会実装精神医学講座 教授)
奥村 みゆき(住友ファーマ株式会社薬事部 主席部員)
丸山 秀徳(住友ファーマ株式会社メディカルアフェアーズ部 主席部員)

発表のポイント

  • 不安症状は多くの統合失調症(注1)患者が経験する症状で、社会的な機能や再発、自殺リスクにも関与し適切な治療が求められます。
  • 従来は抗不安薬であるベンゾジアゼピン系薬剤が追加投与されてきましたが、薬物相互作用や依存性の問題が指摘されてきました。
  • 本研究は、抗精神病薬(統合失調症治療薬)であるルラシドン(注2)の治験データを統合事後解析し、ルラシドンが統合失調症患者の不安症状を改善する可能性を示唆しました。
  • 統合失調症の不安症状の治療において、抗不安薬を追加投与することなく抗精神病薬単剤のみで対応できる可能性、及びルラシドンがその有望な選択肢となることが本研究により示され、統合失調症治療の適正化と発展に貢献するものと考えられます。

発表内容

 統合失調症では不安症状がしばしばみられ、再発の前兆として現れることもあります。また、不安症状を伴う統合失調症患者の自殺企図の高さや生活の質(QOL)の低さも報告され、その適切な治療が重要とされています。本研究では、統合失調症患者の不安症状に対する抗精神病薬ルラシドンの有効性を検討するため、急性期統合失調症患者を対象とした5つの第3相ランダム化プラセボ対照試験(投与期間6週間)のデータを統合し、事後解析を行いました。

 本解析では、対象患者をベースラインの不安症状の重症度に基づき、「不安重症群:Positive and Negative Syndrome Scale (以下、PANSS(注3) G2スコア≧4)」と「不安非重症群(PANSS G2スコア<4)」に分類しました。また、ルラシドン投与量(1日用量40 mgもしくは80 mg)の不安スコア(PANSS G2)に対する影響を、プラセボ投与と比較検討しました。加えて、抗不安薬の併用の有無別の検討も行いました。

 解析の結果、不安重症群においては、ルラシドン40 mgおよび80 mgの両群で、2週目から6週目にかけて、不安スコアがプラセボ群と比較して一貫して有意に低下(改善)しました(図1a左)。抗不安薬を併用していないサブグループにおいても、ルラシドン群で不安スコアが有意に低下しました(図1b左上)。

 一方、不安非重症群では、ベースラインの不安スコアが低かったため、治療効果の検出が困難でしたが(図1a右)、抗不安薬を併用していないサブグループでは、有意なスコア低下が確認されました(図1b右上)。
 また、ルラシドン群では不安症状だけでなく、統合失調症の陽性尺度、陰性尺度、及び総合精神病理尺度の各スコア、さらにはうつ症状スコア(80 mg群のみ)が、不安症状の重症度にかかわらずプラセボ群よりも有意に低下しました。

 安全性に関しては、不安重症群、非重症群のいずれにおいても、ルラシドン群とプラセボ群間で全有害事象の発現割合に大きな差はみられませんでした。最も多かった有害事象は頭痛とアカシジア(注4)であり、特にアカシジアはルラシドン群で発現割合が高い傾向がみられましたが、全体として新たな安全性上の懸念は認められませんでした。

 結論として、ルラシドンは統合失調症患者の中等度から重度の不安症状に対して有効であり、抗不安薬を併用せず単剤で不安症状を改善する可能性があります。このことは、従来用いられてきたベンゾジアゼピン系薬剤の使用を減らすことができることを示唆しており、同薬剤の持つ依存性の問題や多剤投与に伴う薬物相互作用などの臨床課題の解決に重要な意義を持ちます。さらに、ルラシドンは不安症状だけでなく、統合失調症の他の主要症状にも本来の効果がみられ、不安症状を伴う多くの統合失調症患者の治療において、有望な選択肢となる可能性があります。

 本研究にはいくつかの限界があり、1.事後解析であること、2.期間が6週間と短期であること、3.不安症状の評価にPANSS G2のみを用いたことなどが挙げられます。今後は、より長期的かつ前方視的な研究が必要であると考えられます。

発表雑誌

雑誌名
「Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports」(2025年11月19日)

論文タイトル
Efficacy of lurasidone on anxiety symptoms in patients with schizophrenia: A pooled post-hoc analysis of five randomized, placebo-controlled trials

著者
Takahiro Nemoto*, Miyuki Okumura, Hidenori Maruyama(*責任著者)

DOI番号
10.1002/pcn5.70245

論文URL
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pcn5.70245

用語解説

(注1)統合失調症
思考・感情・知覚・行動・自己認識の統合的機能が持続的に失調することにより、現実認識の歪みや社会的・職業的機能の障害が生じる慢性の精神疾患。

(注2)ルラシドン
ルラシドン(商品名:ラツーダ®)は、双極性障害のうつ症状や統合失調症の治療に用いられる非定型抗精神病薬で、日本や欧米などの多くの国で承認されています。
ルラシドンは、ドパミンD2受容体やセロトニン5-HT2A受容体及び5-HT7受容体を遮断し、セロトニン5-HT1A受容体には部分作動性を持つことで、抗精神病作用や抗うつ作用を発揮すると考えられています。

(注3)PANSS(Positive and Negative Syndrome Scale:陽性陰性症状評価尺度)
統合失調症の症状を評価するために広く用いられている臨床評価尺度。
陽性尺度(Positive subscale:7項目)、陰性尺度(Negative subscale:7項目)、及び総合精神病理尺度(General Psychopathology subscale:16項目)の30項目で構成されており、各項目の重症度はスコア1(なし)からスコア7(最重度)の7段階で評価されます。
今回、不安症状の評価に用いたPANSS G2は、総合精神病理尺度に含まれる不安を評価する1項目で、不安重症群の判定にはスコア4(中等度)を閾値として使用しました。

(注4)アカシジア
主に抗精神病薬の副作用として現れる「じっとしていられない」不快感を伴う症状。

添付資料

不安重症群、非重症群の不安症状スコア
抗不安薬の併用有無別の不安重症群、非重症群の不安症状スコア
図1. 不安症状スコア(PANSS G2スコア)のベースラインからの変化量
a:不安重症群、非重症群の不安症状スコア
b:抗不安薬の併用有無別の不安重症群、非重症群の不安症状スコア

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部精神神経医学講座・社会実装精神医学講座
教授 根本 隆洋

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151(代表)
E-mail: takahiro.nemoto[@]med.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/psycho/

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