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プレスリリース 発行No.1556 令和7年11月12日

心房細動の“克服”への新たな一歩
~ TRPC3チャネル阻害による不整脈治療 ~

 東邦大学薬学部の相本恵美助教と高原章教授らの研究グループは、心臓のカルシウム透過性を有するチャネルであるTransient Receptor Potential Canonical-3(以下、TRPC3)チャネルの選択的阻害薬Pyrazole-3(以下、Pyr3)が心房細動の持続化を防止することを明らかにしました。心房に発生する頻脈性不整脈である心房細動は、脳梗塞や心不全の主要な原因の一つとして知られ、本研究は心房細動に対する新たな治療標的としてTRPC3チャネルが有望であることを示しています。心房細動をはじめとする加齢や生活習慣に関連した心血管疾患の“克服”に向けて、TRPC3チャネルに対する薬物治療が新しい糸口となることが期待されます。
 
 この研究成果は2025年10月15日に雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」に掲載されました。

発表者名

相本 恵美(東邦大学薬学部薬物治療学研究室 助教)
永澤 悦伸(東邦大学薬学部薬物治療学研究室教室 准教授)
日下部 太一(東邦大学薬学部薬化学教室 講師)
加藤 恵介(東邦大学薬学部薬化学教室 教授)
高原 章(東邦大学薬学部薬物治療学研究室 教授)

発表のポイント

  • TRPC3チャネルは血管・腎臓・神経など多様な臓器において、機能異常に関わるカルシウム透過性を有するチャネルとして知られ、生活習慣病や加齢性疾患の分野で注目を集めています。
  • 本研究では、TRPC3チャネルの選択的阻害薬Pyr3が、心房細動の持続時間を強力に短縮させる作用を示すことを、心房リモデリング(注1)が生じている病態モデル動物で明らかにしました。
  • Pyr3は心房リモデリングに伴って生じる心房内伝導障害の進行を抑制し、その結果として、持続した心房細動の発生を抑制することが示唆されました。
  • これらの成果は、TRPC3チャネルが心房細動の発症や持続化を防ぐ新たな治療標的であることを示すとともに、心血管疾患の克服に向けた新しい治療戦略の可能性を示しています。

発表内容

 心房細動は、加齢や生活習慣の影響で増加している代表的な不整脈の一つで、脳梗塞や心不全などの重大な合併症を引き起こすことから、健康寿命の延伸においても重要な課題とされています。その発症には、心臓への慢性的な容量負荷によって生じる心筋の構造的・電気的変化が関与していますが、進行を抑える根本的な治療法はまだ確立されていません。

 研究グループは、細胞内へのカルシウム流入を制御する膜タンパク質「TRPCチャネル」に着目しました。TRPCチャネルは、生体のさまざまな刺激をカルシウムシグナルに変換する“細胞のセンサー”として働き、血圧調節、神経伝達、代謝制御、疼痛感受性など、加齢や生活習慣病に関連する多様な生理機能に関与しています。その中でもTRPC3チャネルは、心臓下部に位置する心室で肥大化や線維化を促進する因子として知られてきましたが、心臓上部に位置する心房におけるこのチャネルの機能的役割は十分に明らかにされていませんでした。

 本研究では、TRPC3チャネルの選択的阻害薬Pyr3が心房細動の持続性に与える影響を、動静脈シャントラット(注2)を用いて検討しました。その結果、通常では容量負荷によって著しく延長する心房細動の持続時間が、Pyr3投与により正常レベルまで抑制されました。心房内伝導時間の短縮から、この抗心房細動効果には、Pyr3による心房内伝導障害の進行抑制が関与すると考えられました。Pyr3の投与中に血圧や心拍数に対する悪影響は観察されず、良好な忍容性を示しました。

 これらの成果は、TRPC3チャネル活性の心房の不整脈基質形成への寄与を強く示唆するとともに、同チャネルの阻害が心血管系に対する高い安全性を示し、心房細動の発症・持続化を抑制する新しい治療戦略となる可能性を示しています。
 加えて、TRPC3チャネルは心血管系のみならず、高血圧・腎疾患・神経障害など、加齢や生活習慣に関連する多様な疾患の共通メカニズムにも関与することが知られています。本研究の成果は、こうした疾患群の“克服”に挑む新たな治療アプローチの確立に向けた、大きな一歩となります。

発表雑誌

雑誌名
「Biological and Pharmaceutical Bulletin」(2025年10月15日)
 48巻10号、1547-1554

論文タイトル
Anti-atrial Fibrillatory Effects of the TRPC3 Channel Inhibitor Pyrazole-3 in Rats with Atrial Enlargement Induced by Chronic Volume Overload

著者
Megumi Aimoto, Yoshinobu Nagasawa, Taichi Kusakabe, Keisuke Kato, Akira Takahara

DOI番号
10.1248/bpb.b25-00415

アブストラクトURL
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bpb/48/10/48_b25-00415/_article

用語解説

(注1)心房リモデリング
心房に慢性的な負荷がかかることにより、心房の形態、組織構造および電気生理といった特性が変化(再構築=リモデリング)することを指します。高血圧や心不全などによりこのようなリモデリングが生じやすく、心房細動などの不整脈を引き起こす要因となります。

(注2)動静脈シャントラット
大動脈と下大静脈を外科的に接続する手術を施したラットのことであり、心臓に長期間の容量負荷を与え続けることができる実験モデルです。この手術によって、心臓に戻る血液量が通常より増加し、その結果として心臓への負荷が増大するため、心房や心室の拡大、線維化といった心臓の構造変化(リモデリング)が進行します。うっ血性心不全や僧帽弁閉鎖不全症などの病態で心房に慢性的な容量負荷が生じることが知られており、このモデルラットの心房でも、これらの疾患に類似した病態生理学的変化が起こると考えられます。
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬物治療学研究室
教授 高原 章

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
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