プレスリリース 発行No.1536 令和7年9月11日
夏場における定形外郵便による医薬品配送:最高温度は47.5℃に
~ 8割以上が米国薬局方の基準に適合せず ~
~ 8割以上が米国薬局方の基準に適合せず ~
東邦大学薬学部の平賀秀明講師らの研究グループは、夏場における定形外郵便を利用した室温保存医薬品(注1)の配送時における温度変化を測定し、医薬品の最高温度は47.5℃に達したこと、また、8割以上が米国薬局方の医薬品の保管・輸送基準(注2)から逸脱していたことを明らかにしました。
この研究成果は、オンライン服薬指導後や在庫不足時の患者宅への医薬品郵送時における高温対策を通じた医薬品の品質確保や患者安全に貢献することが期待されます。
この研究成果は2025年8月31日に雑誌「医薬品情報学」にて発表されました。
この研究成果は、オンライン服薬指導後や在庫不足時の患者宅への医薬品郵送時における高温対策を通じた医薬品の品質確保や患者安全に貢献することが期待されます。
この研究成果は2025年8月31日に雑誌「医薬品情報学」にて発表されました。
発表者名
平賀 秀明(東邦大学薬学部社会薬学研究室 講師)
森 彩乃(東邦大学薬学部6年)
網谷 圭晃(東邦大学薬学部5年)
森谷 優花(東邦大学薬学部5年)
加藤岡 美優(東邦大学薬学部5年)
貝瀬 春香(東邦大学薬学部5年)
伊藤 雅隆(東邦大学薬学部薬剤学教室 講師)
森 彩乃(東邦大学薬学部6年)
網谷 圭晃(東邦大学薬学部5年)
森谷 優花(東邦大学薬学部5年)
加藤岡 美優(東邦大学薬学部5年)
貝瀬 春香(東邦大学薬学部5年)
伊藤 雅隆(東邦大学薬学部薬剤学教室 講師)
発表のポイント
- 近年の異常気象による過酷な温度環境下においても医薬品は郵送されていますが、夏場における定形外郵便を利用した室温保存医薬品の配送時の最高温度は47.5℃に達するものがありました。
- わが国では、薬局から患者宅への医薬品配送時の温度管理基準などのガイドラインは設けられていませんが、今回郵送した医薬品の8割以上は米国薬局方の保管・輸送基準から逸脱していました。
- 医薬品の配送中に起こり得る貯蔵方法からの短期的な逸脱の影響の評価については、加速試験(注3)(通常40℃)の結果が参照されていますが、医薬品のインタビューフォーム(注4)には、40℃超の高温における苛酷試験(注3)の結果が記載されていないものもありました。
- 夏場の郵送時における医薬品の品質を担保するためには、室温保存の医薬品であったとしても、より高温で実施された苛酷試験の結果を参照して、それぞれの医薬品の高温安定性を判断し、適切な高温対策を施す必要があります。また、製薬メーカーは、苛酷試験の結果をインタビューフォームなどに積極的に掲載していくことが重要であると考えられます。
発表内容
近年の異常気象による過酷な温度環境下においても医薬品が郵送されています。しかしながら、わが国では、薬局から患者宅への医薬品配送時の温度管理基準などのガイドラインは設けられていません。そこで、研究グループは、夏場における室温保存医薬品の郵送時の温度変化をデータロガーにて測定し、米国薬局方における管理室温(20~25℃)で保管する医薬品の保管・輸送基準を参考に医薬品の最高温度や平均キネティック温度(Mean Kinetic Temperature:MKT)(注5)などを用いて郵送環境を評価しました。
2024年8月5日~9月11日の期間に、関東地方を中心とした15地点(16サンプル)の郵便ポストから日本郵便のサービス(定形外郵便)を利用して医薬品を郵送したところ、医薬品の最高温度は47.5℃に達するものがありました。また、郵送した医薬品の87.5%はMKTが25℃を超えており、米国薬局方の基準から逸脱していることが明らかとなりました(表1)。さらに、在庫不足により薬局から患者宅に後日郵送される可能性のある医薬品の78.3%は、40℃超の高温における苛酷試験の結果がインタビューフォームに記載されていないことも判明しました(表2)。
本研究結果は、室温保存の医薬品であったとしても、夏場における定形外郵便を利用した医薬品の郵送は、品質担保の観点からは推奨されないことを示しています。医薬品を患者宅に郵送する必要がある場合には、それぞれの医薬品に応じた適切な高温対策を施すことが重要であると考えられます。そして、医薬品の配送中に起こり得る貯蔵方法からの短期的な逸脱の影響の評価については、通常40℃の温度条件で実施された加速試験の結果が参照されていますが、夏場の郵送時における医薬品の品質を担保するためには、加速試験の結果のみではなく、より高温で実施された苛酷試験の結果を参考に安定性について判断していくことが重要であると考えられます。また、製薬メーカーは、医薬品の品質確保の取り組みの一環として苛酷試験を積極的に実施し、その結果をインタビューフォームなどに掲載していくことが重要であると考えられます。
2024年8月5日~9月11日の期間に、関東地方を中心とした15地点(16サンプル)の郵便ポストから日本郵便のサービス(定形外郵便)を利用して医薬品を郵送したところ、医薬品の最高温度は47.5℃に達するものがありました。また、郵送した医薬品の87.5%はMKTが25℃を超えており、米国薬局方の基準から逸脱していることが明らかとなりました(表1)。さらに、在庫不足により薬局から患者宅に後日郵送される可能性のある医薬品の78.3%は、40℃超の高温における苛酷試験の結果がインタビューフォームに記載されていないことも判明しました(表2)。
本研究結果は、室温保存の医薬品であったとしても、夏場における定形外郵便を利用した医薬品の郵送は、品質担保の観点からは推奨されないことを示しています。医薬品を患者宅に郵送する必要がある場合には、それぞれの医薬品に応じた適切な高温対策を施すことが重要であると考えられます。そして、医薬品の配送中に起こり得る貯蔵方法からの短期的な逸脱の影響の評価については、通常40℃の温度条件で実施された加速試験の結果が参照されていますが、夏場の郵送時における医薬品の品質を担保するためには、加速試験の結果のみではなく、より高温で実施された苛酷試験の結果を参考に安定性について判断していくことが重要であると考えられます。また、製薬メーカーは、医薬品の品質確保の取り組みの一環として苛酷試験を積極的に実施し、その結果をインタビューフォームなどに掲載していくことが重要であると考えられます。
発表雑誌
雑誌名
「医薬品情報学」(2025年8月31日)
(27巻2号、21-30、2025年)
論文タイトル
夏場の苛酷な気温下における郵便を利用した医薬品の配送と品質管理
著者
平賀秀明*, 森彩乃, 網谷圭晃, 森谷優花, 加藤岡美優, 貝瀬春香, 伊藤雅隆 (*責任著者)
「医薬品情報学」(2025年8月31日)
(27巻2号、21-30、2025年)
論文タイトル
夏場の苛酷な気温下における郵便を利用した医薬品の配送と品質管理
著者
平賀秀明*, 森彩乃, 網谷圭晃, 森谷優花, 加藤岡美優, 貝瀬春香, 伊藤雅隆 (*責任著者)
用語解説
(注1)室温保存医薬品
外箱や添付文書に「室温保存」と表示されている医薬品のこと。
日本薬局方では、1~30℃を室温と定義している。なお、米国薬局方では、作業区域における温度をRoom Temperature(室温)、20~25℃をControlled Room Temperature(管理室温)と定義している(USP659)。
また、米国で管理室温と規定されている医薬品の多くが、日本では室温(1~30℃)で保存されていることが多い。
(注2)米国薬局方の医薬品の保管・輸送基準
米国薬局方における管理室温(20~25℃)で保管する医薬品の保管・輸送基準は、①平均キネティック温度(MKT):25℃以下、②15~30℃を逸脱した時間:24時間以内、③最高温度:一時的であっても40℃超の逸脱がないことと規定されており、薬局から患者宅への配送時の基準にもなっている(USP659、1079及び1079.2)。
(注3)加速試験と苛酷試験
医薬品の承認申請における安定性試験は、医薬品の有効性及び安全性を維持するために必要な品質の安定性を評価し、医薬品の貯蔵方法及び有効期間の設定に必要な情報を得るために行う試験である。
安定性試験には、長期保存試験、加速試験及び苛酷試験の3種類があり、通常、長期保存試験は25℃±2℃/60%RH±5%、加速試験は40℃±2℃/75%RH±5%の条件で実施される。
苛酷試験は、原薬の特性に応じて設定するが、通常、加速試験より苛酷な条件(例えば、50℃、60℃などの加速試験よりも10℃ずつ高くなっていく温度条件)と必要な場合には適切な湿度条件(例えば、75%RH以上)とを組合わせた保存条件で実施される。
(注4)インタビューフォーム
医療用医薬品の添付文書では不十分な情報を補うために製薬企業から提供される総合的な医薬品解説書。
日本病院薬剤師会が要領を策定して、作成と配布を製薬企業に依頼している。
(注5)平均キネティック温度(Mean Kinetic Temperature:MKT)
原薬又は製剤が、ある一定の期間を通して、高温及び低温に変動する温度条件の下で影響をうけた場合と同じ変化を与えうる一定温度のことで、アレニウスの式に基づいて算出する。MKTは、医薬品の保管及び輸送中の温度逸脱の評価などに利用されている。
外箱や添付文書に「室温保存」と表示されている医薬品のこと。
日本薬局方では、1~30℃を室温と定義している。なお、米国薬局方では、作業区域における温度をRoom Temperature(室温)、20~25℃をControlled Room Temperature(管理室温)と定義している(USP659)。
また、米国で管理室温と規定されている医薬品の多くが、日本では室温(1~30℃)で保存されていることが多い。
(注2)米国薬局方の医薬品の保管・輸送基準
米国薬局方における管理室温(20~25℃)で保管する医薬品の保管・輸送基準は、①平均キネティック温度(MKT):25℃以下、②15~30℃を逸脱した時間:24時間以内、③最高温度:一時的であっても40℃超の逸脱がないことと規定されており、薬局から患者宅への配送時の基準にもなっている(USP659、1079及び1079.2)。
(注3)加速試験と苛酷試験
医薬品の承認申請における安定性試験は、医薬品の有効性及び安全性を維持するために必要な品質の安定性を評価し、医薬品の貯蔵方法及び有効期間の設定に必要な情報を得るために行う試験である。
安定性試験には、長期保存試験、加速試験及び苛酷試験の3種類があり、通常、長期保存試験は25℃±2℃/60%RH±5%、加速試験は40℃±2℃/75%RH±5%の条件で実施される。
苛酷試験は、原薬の特性に応じて設定するが、通常、加速試験より苛酷な条件(例えば、50℃、60℃などの加速試験よりも10℃ずつ高くなっていく温度条件)と必要な場合には適切な湿度条件(例えば、75%RH以上)とを組合わせた保存条件で実施される。
(注4)インタビューフォーム
医療用医薬品の添付文書では不十分な情報を補うために製薬企業から提供される総合的な医薬品解説書。
日本病院薬剤師会が要領を策定して、作成と配布を製薬企業に依頼している。
(注5)平均キネティック温度(Mean Kinetic Temperature:MKT)
原薬又は製剤が、ある一定の期間を通して、高温及び低温に変動する温度条件の下で影響をうけた場合と同じ変化を与えうる一定温度のことで、アレニウスの式に基づいて算出する。MKTは、医薬品の保管及び輸送中の温度逸脱の評価などに利用されている。
添付資料
(医薬品情報学 27 (2) : 21-30, 2025:一部改変)
(医薬品情報学 27 (2) : 21-30, 2025:引用)
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部社会薬学研究室
講師 平賀 秀明
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL/FAX: 047-472-1664
E-mail: hiraga-hideaki[@]phar.toho-u.ac.jp
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。



