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プレスリリース 発行No.1524 令和7年8月25日

質量分析データを活用した
天然化合物同定を加速する構造解析支援プログラム「CNPs-MFSA」を開発
~複雑な構造を含む天然化合物の迅速な構造解析に向けて~

 東邦大学薬学部生薬学教室の張米博士研究員、大月興春助教、李巍教授らの研究グループは、質量分析データを活用して複雑な構造を持つ天然化合物を同定する新たな解析戦略「MFSA:Modular Fragmentation-based Structural Assembly」を考案しました。本戦略に基づいて開発された構造解析支援プログラム「CNPs-MFSA」は、質量分析データから天然化合物の化学構造を迅速かつ高精度に明らかにすることが可能であり、今後、天然物創薬研究や機能性天然物の探索に広く応用されることが期待されます。
 
 この研究成果は、2025年8月15日に学術論文誌「Science Advances」で公開されました。

発表者名

張 米(東邦大学薬学部生薬学教室 博士研究員)
大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 助教)
菊地 崇(東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)
譚 霊剣(東邦大学大学院薬学研究科医療薬学専攻 博士課程 2024年度修了)
Ning Li(瀋陽薬科大学中薬学院 教授)

発表のポイント

  • 複雑な構造を有する天然化合物に対して、質量分析で得られるフラグメント情報を利用した新しい構造解析戦略を提案し、その戦略に基づく構造解析支援プログラム「CNPs-MFSA」を開発しました。
  • ジンチョウゲ科植物に含まれるダフナン型ジテルペノイドの分析に「CNPs-MFSA」を適用した結果、56種の植物抽出液からこれまでに報告のない化合物105種を含む204種の化合物の化学構造を高い信頼性で推定しました。
  • 本戦略はダフナン型ジテルペノイドに加え、アコニチン型アルカロイド、タキサン型ジテルペノイド、リモノイド型トリテルペンなどの天然化合物群にも適用可能で、天然由来の新規生理活性物質の探索に応用することで天然物創薬研究を加速することが期待されます。

発表内容

 天然化合物は、医薬品開発における有力なリード化合物の供給源として長年注目されてきました。中でも、多環式構造、複数の連続した不斉中心、多彩な官能基を有する「複雑天然化合物(CNPs:Complex Natural Products)」からは、強い生理活性を示す化合物が多く発見されています。しかし、このような構造の複雑さは、化合物探索において大きな障壁となります。従来の成分研究では、植物の抽出物や微生物の培養液から目的化合物の抽出・単離・構造決定に多大な時間と労力を要し、新規生理活性物質の探索は天然物創薬研究の大きな律速段階となっています。高速液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)(注1)は、化合物の分離と質量分析情報の取得を同時に行える強力な分析手法であり、近年は超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)や高分解能質量分析計の発展により、微量で複雑な混合物試料である植物抽出液や微生物培養液から短時間で膨大な化学構造情報を得ることが可能となっています。しかし、その膨大なLC-MS分析データを効率的に解析し、化学構造を高精度に同定する方法の開発が求められています。

 本研究では、ジンチョウゲ科植物に特徴的に分布し、抗がん活性や抗HIV活性などの生理活性を示す多環式で複雑な化学構造を有する「ダフナン型ジテルペノイド(注2)」をモデル化合物群として選び、LC-MS分析によって得られるフラグメント情報をもとに効率的かつ正確に構造を推定する新しい解析戦略の構築を目的としました。化合物の化学構造を“レゴブロック”のように構成するという発想から、質量分析で得られるフラグメント情報から複雑な化学構造を単純な「構造モジュール」単位に分解し、それらを再構築することで元の分子の化学構造を推定する「モジュラーフラグメンテーションに基づく構造再構築戦略(MFSA:Modular Fragmentation-based Structural Assembly)」を提案しました。この戦略を実装したプログラム「CNPs-MFSA」は、フラグメント情報と構造モジュールを自動で対応付け、未知化合物に対して最も可能性の高い構造候補を提示します。本プログラムは広く利用されているプログラミング言語(Python)で開発され、専門知識がなくても利用可能なユーザーインターフェースを備えています。

 「CNPs-MFSA」をジンチョウゲ科植物56種のLC-MS分析データに適用した結果、解析対象となった12,560ピークから822個がダフナン型ジテルペノイドに由来する可能性が示されました。そのうち204種の化合物は高い信頼度で構造が推定され、さらに105種の化合物は既知の化合物データベースに存在しない未報告化合物であることが明らかになりました。また、本戦略は、アコニチン型アルカロイド、タキサン型ジテルペノイド、リモノイド型トリテルペンなど他の化合物群にも適用可能であることも確認できたことから、天然由来の新規生理活性物質の発見を加速する有用なプログラムとなることが期待されます。

発表雑誌

雑誌名
「Science Advances」(2025年8月15日)

論文タイトル
Automated Annotation of Complex Natural Products Using A Modular Fragmentation-based Structure Assembly (MFSA) Strategy

著者
Mi Zhang, Kouharu Otsuki, Lingjian Tan, Takashi Kikuchi, Ning Li, Wei Li

DOI番号
10.1126/sciadv.adw4693

論文URL
https://doi.org/10.1126/sciadv.adw4693

用語解説

(注1)高速液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)
液体中の成分を固定相と移動相の相互作用の差を利用し分離する装置である液体クロマトグラフ(LC)と分子等の化学物質をイオン化し、生成したイオンをその質量によって分離・測定する装置である質量分析計(MS)を接続した機器です。高感度かつ幅広い種類の化合物の分析に対応できるなどの利点から、近年植物成分の分析にも広く活用されています。

(注2)ダフナン型ジテルペノイド
ジテルペノイドとは、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を前駆体として生合成される炭素数20(4つのイソプレン単位)のイソプレノイドです。ジテルペン(diterpene)は正式には炭化水素と定義されているため、ヘテロ原子を含む官能基を有するジテルペンをジテルペノイド(diterpenoid)と称します。さらに、ジテルペノイドのうち、5/7/6-炭素縮合三環系構造にイソプロピル基が結合した骨格構造を有する化合物群がダフナン型ジテルペノイドに分類されています。

添付資料

モジュラーフラグメンテーションに基づく構造再構築戦略の概要
図1. モジュラーフラグメンテーションに基づく構造再構築戦略
   (MFSA:Modular Fragmentation-based Structural Assembly)の概要
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部生薬学教室
教授 李 巍

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1161 FAX: 047-472-1404
E-mail: liwei[@]phar.toho-u.ac.jp
URL: www.lab.toho-u.ac.jp/phar/npcnm/

【本ニュースリリースの発信元】
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