プレスリリース

メニュー

プレスリリース 発行No.1516 令和7年7月22日

筋萎縮性側索硬化症患者・介護者のICT活用実態調査
~ スマートフォンのアクセシビリティ機能を使えていないことが明らかに ~

 東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野の平山剛久准教授、狩野修教授らの研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)(注1)の患者とその家族・介護者を対象にPC、スマートフォンなどの情報通信技術(ICT)機器の活用実態調査を実施しました。近年のICT機器は、アクセシビリティ機能と呼ばれるすべての人が製品やサービスを支障なく利用できるようにするための機能を有していますが、多くのALS患者がICT機器を使用しているにも関わらず、アクセシビリティ機能についての認識は不十分であることが明らかになりました。特に高齢者や軽症者への支援が遅れており、さらに障がい者のためのICT支援センターの存在など公的支援の認知度が低いことも判明しました。

 この研究成果は、「Journal of Clinical Neuroscience」のオンライン版に2025年7月3日に掲載されました。

発表者名

平山 剛久(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 准教授)
長澤 潤平(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 助教)
渋川 茉莉(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 助教)
森岡 治美(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 准修練医)
横山 竜大(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 院内助教)
津田 浩史(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 客員教授)
木田 耕太(東京都立神経病院脳神経内科 部長)
荻野 美恵子(国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター・脳神経内科学 教授)
高尾 洋之(東京慈恵会医科大学医学部脳神経外科 准教授)
森田 光哉(自治医科大学医学部内科学講座神経内科学部門 教授)
高橋 宜盟(結ライフコミュニケーション研究所 代表理事)
中村 亮一(愛知医科大学医学部内科学講座(神経内科)准教授)
熱田 直樹(愛知医科大学医学部内科学講座(神経内科)教授)
漆谷 真(滋賀医科大学内科学講座脳神経内科 教授)
山中 宏二(名古屋大学環境医学研究所病態神経科学分野 教授)
和泉 唯信(徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床神経科学分野 教授)
狩野 修(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 教授)

発表のポイント

  • ALS患者の9割以上がICT機器を日常的に使用しているが、高齢者においては、そのアクセシビリティ機能が認知されていないことが明らかになりました。
  • ICT機器の有効活用に関して軽症者への支援の遅れがあり、自身で解決していることが多いことがわかりました。
  • アクセシビリティ機能を有効に活用することへの肯定的な意見や期待は多いが、一方でICT機器を使用することで病状進行を実感して辛いなどの心理的ハードルがあることも明らかになりました。
  • 障がい者のためのICT支援センターの存在など公的支援制度の認知度が低いことが判明しました。

発表内容

 2023年10月の全国規模のウェビナー「ALS Café」(注2)において、ALS患者およびその家族・介護者を対象に、情報通信技術(ICT)機器の活用状況に関するアンケート調査を実施しました。ALSは運動機能や言語機能が次第に低下する進行性の神経疾患であり、コミュニケーション支援技術の活用が生活の質に大きく影響します。

 本調査には55名(ALS患者31名、家族・介護者24名)が回答し、平均年齢は57.1歳、ALS機能評価スコア(ALSFRS-R)は平均26.6点でした。その結果、回答者の95%がスマートフォンやPCなどのICT機器を所有し、84%が日常的にインターネットを使用しながら様々な活動を行っていることが明らかになりました(図1)。しかしながら、アクセシビリティ機能の認知度は69.6%にとどまり、特に70歳以上では50%がその存在すら認識していないと回答しました(図2)。
 
 使用されている支援機能としては、「表示補助」(32.1%)、「音声による操作」(30.4%)、「タッチペンやマウスによる操作」(26.8%)、「合成音声による読み上げ」(23.2%)、「視線入力による操作」(19.6%)、「スイッチによる操作」(14.3%)が挙げられました。発症部位別では、四肢発症例では操作系の支援機能が多く、球麻痺発症例では音声読み上げの活用が目立ちました。また、障がい者のためのICT支援センターの存在を「知らない」と答えた人が85%にのぼり、制度面の認知不足も浮き彫りとなりました。さらに、ICTの支援を受けている患者のうち49.1%が「自己解決」と回答しており、専門職からのサポートが不十分である実態も明らかとなりました。特に、比較的症状の軽いALSFRS-Rスコア30点以上の患者の66.7%は支援を受けていない状況でした。自由記述では、「便利になった」「もっと使いやすくなってほしい」といった前向きな意見や期待の声が約7割に上る一方で、「使いこなせない」「使うことが病状の進行を実感させてつらい」といった心理的障壁も見受けられました。

 この調査結果は、ALS患者に対するICT支援技術の普及や政策的支援の課題を明らかにするものであり、医療者・リハビリ専門職・福祉職などの多職種による連携支援体制の構築が求められます。今後、ALS多職種診療チームによって、早期から患者・家族に対してICT支援技術の紹介と活用促進が行われることで、より豊かな療養生活の支えに繋がることが期待されます。

発表雑誌

雑誌名
「Journal of Clinical Neuroscience」(2025年7月3日)

論文タイトル
Survey research on the awareness and usage of accessibility features of information and communication technology devices among patients with amyotrophic lateral sclerosis

著者
Takehisa Hirayama, Junpei Nagasawa, Mari Shibukawa, Harumi Morioka, Tatsuhiro Yokoyama,
Hiroshi Tsuda, Kota Bokuda, Mieko Ogino, Hiroyuki Takao, Mitsuya Morita, Yoshiaki Takahashi,
Ryoichi Nakamura, Naoki Atsuta, Makoto Urushitani, Koji Yamanaka, Yuishin Izumi, Osamu Kano

DOI
10.1016/j.jocn.2025.111434.

アブストラクトURL
https://doi.org/10.1016/j.jocn.2025.111434

用語解説

(注1)筋萎縮性側索硬化症(ALS)
ALSは、脳・脊髄の運動神経が障害され、手足や発語、嚥下や呼吸に関する筋力が急激に障害される原因不明の神経変性疾患です。発症の平均年齢は60歳前後で、本邦の患者数は約1万人(世界では推計40万人)で厚生労働省の指定難病にもなっています。予後は非常に悪く、気管切開を伴う人工呼吸器を用いなければ生存期間は3~5年とされています。ALSの治療薬はリルゾール、エダラボン、メチルコバラミンと、SOD1変異を有するALS患者に対するトフェルセンのみで、進行を抑制する可能性は示唆されていますが、進行を止めることはできていません。

(注2)ALS Café
東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野では、ALS患者や支援者(家族、介護者)の療養支援と医療や研究に意見を反映する「患者・市民参画(PPI)」を目的として、2017年から毎年「ALS Café」を開催しています。療養生活の支援や意見交換の場としてALS患者や支援者が将来の臨床研究や治験にチームの一員として関わる力を育むことを目指しています。

添付資料

ICT機器で行っている活動
図1.ICT機器で行っている活動
年代別アクセシビリティ機能を認識していない割合
図2.年代別アクセシビリティ機能を認識していない割合
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野
教授 狩野 修

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151  FAX: 03-3768-2566
E-mail: neurology.toho[@]gmail.com
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/neurology/index.html

【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583  FAX: 03-3768-0660 
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
URL: www.toho-u.ac.jp

※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。

関連リンク

※外部サイトに接続されます。