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プレスリリース 発行No.1514 令和7年7月4日

アレルギー症状の鍵を握る「PAF」が食道平滑筋を収縮させる仕組みを解明
~ カルシウムチャネル「Orai1」が収縮反応に関わることを発見 ~

 東邦大学薬学部薬理学教室の小原圭将准教授、吉岡健人講師、田中芳夫教授らの研究グループは、アレルギーや炎症反応に関与する生理活性物質「血小板活性化因子(PAF)」(注1)が、食道平滑筋を収縮させる主な経路として、ストア作動性カルシウムチャネル(SOCC)(注2)を構成する「Orai1」(注3)が重要な役割を果たしていることを明らかにしました。

 この研究成果は、学術雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」に2025年6月28日に掲載されました。

発表者名

小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 准教授)
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
日下部 太一(東邦大学薬学部薬化学教室 講師)
高橋 圭介(東邦大学薬学部薬化学教室 准教授)
加藤 恵介(東邦大学薬学部薬化学教室 教授)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)

発表のポイント

  • アレルギーや炎症時に体内で増加する「血小板活性化因子(PAF)」は、食道の平滑筋を収縮させ、胸のつかえ感や運動異常の原因となる可能性があります。
  • ラットの食道平滑筋を用いた実験で、PAFによる収縮に寄与するカルシウム流入経路には、多くの平滑筋の収縮反応を仲介するL型電位依存性カルシウムチャネル(L-type VDCC)(注4)に加えて、ストア作動性カルシウムチャネル(SOCC)を構成する「Orai1」が重要な役割を果たしていることを明らかにしました。
  • 平滑筋の収縮反応におけるOrai1の役割はこれまであまり注目されていませんでしたが、PAF関連疾患に対する新たな治療標的としての有望性が期待されます。

発表内容

 血小板活性化因子(PAF)は、免疫細胞や血小板が産生するリン脂質由来の生理活性物質で、アナフィラキシーや気管支ぜんそくなどの重度のアレルギー反応に深く関与することが知られています。近年の研究では、PAFが血管や気道、消化管などの平滑筋を収縮させることも明らかになっており、胸部の不快感や「つかえ感」などのアレルギー症状との関連が示唆されていますが、その収縮作用の分子メカニズムは不明な点が多く、有効な治療戦略の確立が課題となっていました。

 研究グループは、ラットの食道平滑筋を用いた実験により、PAFが誘導する筋収縮に関与するカルシウム流入経路を薬理学的に解析しました。その結果、PAFによる収縮は、L型電位依存性カルシウムチャネル(L-type VDCC)阻害薬であるverapamil、受容体作動性カルシウムチャネル(ROCC)(注5)阻害薬であるLOE-908、ストア作動性カルシウムチャネル(SOCC)阻害薬であるSKF-96365のいずれによっても抑制されました。これらの阻害効果から算出した各チャネルのPAFによる収縮への寄与率は、L-type VDCCが約25%、ROCCが約30%、SOCCが約35%でした。
 さらに、SOCCの構成分子を薬理学的に特定するため、Orai1を選択的に阻害する化合物「Synta66」(注6)を用いて実験を行いました。その結果、(1)PAFによる収縮反応はSynta66によって約35%抑制され、その抑制率がSOCC阻害薬によるものと一致したこと、(2)VDCCおよびROCC阻害薬を併用した条件下でのPAFによる収縮がSynta66によって完全に抑制されたこと、以上の結果からOrai1がSOCCの主要構成分子であり、PAFによる収縮反応において重要な役割を担っていることが明らかになりました。
 一方、従来ROCCの候補とされてきたTRPV4、TRPC3、TRPC6に対する阻害薬では顕著な抑制効果が見られなかったことから、これら以外の別のチャネルがROCCとして機能する可能性が示唆されました。

 本研究は、PAFによる食道平滑筋収縮がOrai1を介したカルシウム流入経路の活性化により引き起こされることを世界で初めて明らかにしました。これにより、PAFが関与するアレルギー性の消化器症状において、Orai1が新たな治療標的となる可能性が示されました。今後、従来のL-type VDCC阻害薬では効果が不十分な症状に対する補完的な治療戦略の構築や、Orai1阻害薬を基盤とした創薬の展開などが期待されます。

発表雑誌

雑誌名
「Biological and Pharmaceutical Bulletin」(2025年6月28日)
 48巻6号、932-940

論文タイトル
Pharmacological characteristics of extracellular Ca2+ influx pathways responsible for platelet-activating factor-induced contractions in rat esophagus smooth muscle: Involvement of L-type, receptor-operated, and store-operated Ca2+ channels

著者
Keisuke Obara, Sana Takahashi, Miho Otake, Mako Fujiwara, Daiki Kato, Momoko Tanaka,
Tomohiro Ura, Mio Yamashita, Azusa Murata, Kento Yoshioka, Taichi Kusakabe, Keisuke Takahashi, Keisuke Kato, Yoshio Tanaka

DOI番号
10.1248/bpb.b25-00233

アブストラクトURL
https://doi.org/10.1248/bpb.b25-00233

用語解説

(注1)血小板活性化因子(PAF:Platelet-Activating Factor)
1972年に発見された生理活性リン脂質の一種で、免疫細胞(好中球・好酸球・マクロファージなど)、内皮細胞、血小板などによって産生されます。強力な炎症誘導作用を持ち、血管拡張、血管透過性の亢進、平滑筋収縮、血小板凝集を引き起こします。特にアナフィラキシーなどの重度のアレルギー反応ではPAFの血中濃度が上昇することが知られており、その病態への直接的な関与が示唆されています。

(注2)ストア作動性カルシウムチャネル(SOCC:Store-Operated Calcium Channel)
細胞内カルシウム貯蔵庫(主に小胞体)のCa2+濃度が低下した際、それを感知して開く細胞膜上のチャネルです。小胞体へのCa2+再充填を目的とした持続的なカルシウム流入を担っています。SOCCの活性化にはSTIM1、STIM2(小胞体のCa2+の枯渇を感知するタンパク質)とOrai1、Orai2、Orai3(チャネル構成タンパク質)の相互作用が必要です。

(注3)Orai1
SOCCの主要構成要素の一つであり、小胞体内のカルシウム濃度の低下を感知して活性化されたSTIM (Stromal Interaction Molecule) が結合することで細胞膜において開口し、選択的にCa2+を細胞内へ取り込むカルシウムチャネルの一種です。特に免疫細胞(T細胞、好酸球など)や血管・内臓平滑筋に発現しており、慢性炎症や免疫応答制御に深く関与します。遺伝的欠損により免疫不全を来すことからも、その重要性が裏付けられています。

(注4)L型電位依存性カルシウムチャネル(L-type VDCC:L-type Voltage-Dependent Calcium Channel)
細胞膜の電位変化(脱分極)によって開くチャネル型カルシウムチャネルです。骨格筋、心筋、平滑筋の収縮において主なカルシウム流入経路として働き、カルシウム拮抗薬(例:ニフェジピン、ジルチアゼムなど)の標的としてもよく知られています。多くの平滑筋では、このチャネルを介したCa2+流入が収縮反応の引き金となります。

(注5)受容体作動性カルシウムチャネル(ROCC:Receptor-Operated Calcium Channel)
ホルモンや神経伝達物質が細胞表面の受容体(Gタンパク質共役型受容体など)を刺激することで開くカルシウムチャネルです。リガンドによるシグナル伝達経路(特にGqタンパク質の活性化を介した経路)により活性化されます。TRPチャネル(Transient Receptor Potential channels)がその代表格であり、Ca2+やNa+を選択的または非選択的に通します。

(注6)Synta66
Orai1チャネルを選択的に阻害する低分子化合物です。他のOraiファミリー(Orai2、Orai3)には比較的選択性が低く、Orai1に特異的に結合してCa2+流入をブロックします。研究用試薬として広く使用されており、本研究でもOrai1の機能解析に用いられました。

添付資料

本研究成果の概要
図1. 本研究成果の概要
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬理学教室
准教授 小原 圭将

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
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E-mail: keisuke.obara[@]phar.toho-u.ac.jp

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