プレスリリース 発行No.1513 令和7年7月3日
対称多重ゼータ関数の定義とその性質を明らかに!
~ 整数論・表現論・組合せ論の架け橋 ~
~ 整数論・表現論・組合せ論の架け橋 ~
上智大学理工学部の中筋麻貴教授と東邦大学理学部の武田渉講師は、対称関数の構造を持つ新しい対称多重ゼータ関数を定義し、その性質やこれまで知られていた通常の多重ゼータ関数との関係について明らかにしました。
この研究成果は2025年3月24日に 雑誌「Canadian Journal of Mathematics」にて発表されました。
この研究成果は2025年3月24日に 雑誌「Canadian Journal of Mathematics」にて発表されました。
発表者名
中筋 麻貴(上智大学理工学部情報理工学科 教授)
武田 渉(東邦大学理学部数学教室 講師)
武田 渉(東邦大学理学部数学教室 講師)
発表のポイント
- シューア関数以外の対称関数の構造を持つ対称多重ゼータ関数を定義し、その基本性質を明らかにしました。
- 対称多重ゼータ関数の収束領域を具体的に与え、行列式(パフィアン)表示など代数的構造も明らかにしました。
- 整数論と組合せ論や表現論の橋渡しとなることが期待されます。
発表概要
上智大学理工学部の中筋麻貴教授と東邦大学理学部の武田渉講師は、対称群、斜交群や直交群の対称関数に対応する新しい対称多重ゼータ関数を定義し、その性質やこれまで知られていた通常の多重ゼータ関数(注1)との関係について明らかにしました。
従来の研究では対称関数のうち、シューア関数(注2)の構造をもつ多重ゼータ関数のみが定義及び研究されており、行列式表示やピエリ公式と呼ばれるシューア関数で知られていた公式や多重ゼータ関数に特有の演算である調和積や積分表示など多重ゼータ関数由来の公式などが知られていました。
本研究では、シューア関数以外の対称関数の構造を持つ多重ゼータ関数を新たに定義し、その性質を明らかにし、シューア Q多重ゼータ関数のパフィアン(注3)表示や、斜交型・直交型多重ゼータ関数の行列式表示を導き出しました。パフィアンと行列式はどちらも行列に対する計算であり、解析的対象である多重ゼータ関数に代数的構造を与えたという成果となります。
このように、本研究は従来のシューア多重ゼータ関数の枠組みを超えて、他の対称関数に対応する多重ゼータ関数を新たに定義し、その性質を明らかにしたため、整数論と表現論や組合せ論の橋渡しとなることが期待されます。
従来の研究では対称関数のうち、シューア関数(注2)の構造をもつ多重ゼータ関数のみが定義及び研究されており、行列式表示やピエリ公式と呼ばれるシューア関数で知られていた公式や多重ゼータ関数に特有の演算である調和積や積分表示など多重ゼータ関数由来の公式などが知られていました。
本研究では、シューア関数以外の対称関数の構造を持つ多重ゼータ関数を新たに定義し、その性質を明らかにし、シューア Q多重ゼータ関数のパフィアン(注3)表示や、斜交型・直交型多重ゼータ関数の行列式表示を導き出しました。パフィアンと行列式はどちらも行列に対する計算であり、解析的対象である多重ゼータ関数に代数的構造を与えたという成果となります。
このように、本研究は従来のシューア多重ゼータ関数の枠組みを超えて、他の対称関数に対応する多重ゼータ関数を新たに定義し、その性質を明らかにしたため、整数論と表現論や組合せ論の橋渡しとなることが期待されます。
発表内容
数学において「対称である」という概念は、美しくとても魅力的なものです。そのため、対称性をもつ関数の性質の追求や、新しく定義された関数が対称性をもつかどうかという研究は興味がつきません。
多項式が対称であるとは、変数の入れ替えによって不変であるものを言います。例えば、f(x,y)=x2+xy+y2という2変数の多項式は、xとyの役割を入れ替えても同じ「対称な」多項式です。このような対称性をもつ多項式を「対称多項式」と呼びます。
正の整数の有限広義単調減少列で定義される「分割」で添字づけられる多変数多項式の代表的なものが、「シューア多項式/シューア関数」と呼ばれる対称多項式/対称関数です。この多項式は表現論や組合せ論と呼ばれる数学分野において様々な研究がなされてきました。主なものとして、行列式表示や積公式などが挙げられます。また、対称関数の研究は、シューア関数に限らず、シューアP関数、シューアQ関数といった変形版をはじめ、色々なものがあり、その各々について様々な方面の研究がなされています。
一方、素数の分布に関連する無限級数として「リーマンゼータ関数」があります。これは有名な未解決問題であるリーマン予想を有する神秘的な1変数の複素関数です。この関数を多変数化したものが「多重ゼータ関数」で、1990年代以降、30年にわたり急激に発展してきた研究対象です。n変数の多重ゼータ関数は、次の形で表されます。
多項式が対称であるとは、変数の入れ替えによって不変であるものを言います。例えば、f(x,y)=x2+xy+y2という2変数の多項式は、xとyの役割を入れ替えても同じ「対称な」多項式です。このような対称性をもつ多項式を「対称多項式」と呼びます。
正の整数の有限広義単調減少列で定義される「分割」で添字づけられる多変数多項式の代表的なものが、「シューア多項式/シューア関数」と呼ばれる対称多項式/対称関数です。この多項式は表現論や組合せ論と呼ばれる数学分野において様々な研究がなされてきました。主なものとして、行列式表示や積公式などが挙げられます。また、対称関数の研究は、シューア関数に限らず、シューアP関数、シューアQ関数といった変形版をはじめ、色々なものがあり、その各々について様々な方面の研究がなされています。
一方、素数の分布に関連する無限級数として「リーマンゼータ関数」があります。これは有名な未解決問題であるリーマン予想を有する神秘的な1変数の複素関数です。この関数を多変数化したものが「多重ゼータ関数」で、1990年代以降、30年にわたり急激に発展してきた研究対象です。n変数の多重ゼータ関数は、次の形で表されます。

多重ゼータ関数の関数関係式や値が持つ構造にはまだ多くの未解決問題があり、現在に至るまで活発に研究がなされてきました。これらの問題への一つのアプローチ法として、他分野の理論との融合が考えられます。他分野の理論を用いることで新しい展開を生み出すことが期待できるためです。これに対し、多重ゼータ関数にシューア関数の構造を用いて拡張したのが、シューア多重ゼータ関数と呼ばれる関数で2018年に導入されました。
導入以降この数年の間に、行列式表示やピエリ公式と呼ばれる積公式といったシューア関数に由来する研究成果、調和積や積分表示など多重ゼータ関数由来の研究成果が報告されており、この方向のアプローチが成功であったことが裏付けられてきました。
そこで本研究では、他の対称関数であるシューアP関数、シューアQ関数、斜交型シューア関数、直交型シューア関数に対応する新しい多重ゼータ関数(すべてを総称して、対称多重ゼータ関数)を定義し、それらの基本的性質を明らかにすることに成功しました。特に、シューアQ多重ゼータ関数のパフィアン表示や、斜交型・直交型シューア多重ゼータ関数の行列式表示を導出しました。これまでの先行研究にもいえることですが、解析的対象である多重ゼータ関数たちに行列式やパフィアン表示のような代数的構造があるということは今後の研究において重要な事実となります。
研究の手法としては、最初にそれぞれの対称多重ゼータ関数をxy平面上の格子モデルで実現します。つまり、平面上の格子点を結ぶ道の数や形と関数の値との関係を与えます。
これにより、格子点間をつなぐ道たちにより関数を表現することができますが、実は考えるべき対象が格子点たちを交差しない道で結ぶモデルのみで表されることを示しました。
導入以降この数年の間に、行列式表示やピエリ公式と呼ばれる積公式といったシューア関数に由来する研究成果、調和積や積分表示など多重ゼータ関数由来の研究成果が報告されており、この方向のアプローチが成功であったことが裏付けられてきました。
そこで本研究では、他の対称関数であるシューアP関数、シューアQ関数、斜交型シューア関数、直交型シューア関数に対応する新しい多重ゼータ関数(すべてを総称して、対称多重ゼータ関数)を定義し、それらの基本的性質を明らかにすることに成功しました。特に、シューアQ多重ゼータ関数のパフィアン表示や、斜交型・直交型シューア多重ゼータ関数の行列式表示を導出しました。これまでの先行研究にもいえることですが、解析的対象である多重ゼータ関数たちに行列式やパフィアン表示のような代数的構造があるということは今後の研究において重要な事実となります。
研究の手法としては、最初にそれぞれの対称多重ゼータ関数をxy平面上の格子モデルで実現します。つまり、平面上の格子点を結ぶ道の数や形と関数の値との関係を与えます。
これにより、格子点間をつなぐ道たちにより関数を表現することができますが、実は考えるべき対象が格子点たちを交差しない道で結ぶモデルのみで表されることを示しました。

その後、交差があるモデルの寄与を消す計算は行列式やパフィアンの計算と同じことを証明し、対称多重ゼータ関数の行列式表示およびパフィアン表示を得ました。これは対称関数の性質を対称多重ゼータ関数が持っていることを示しています。
一方、多重ゼータ関数の研究では双対公式や和公式と呼ばれる公式が知られていました。対称多重ゼータ関数がそれらの公式を満たすかどうかは興味深い疑問となりますが、特別な場合は双対公式や和公式を満たすことを証明しました。これにより、ゼータ関数の性質を対称多重ゼータ関数が持っていることがわかります。
本研究の意義は、これまでバラバラに研究されてきた対称関数と多重ゼータ関数という二つの理論分野の間に、明確な橋渡しを行った点にあります。これにより、両者の理論で得られていた公式や構造を、互いに翻訳しながら利用できます。ゼータ関数にこれまでにない代数的構造が見つかったということは大きな成果です。
一方、多重ゼータ関数の研究では双対公式や和公式と呼ばれる公式が知られていました。対称多重ゼータ関数がそれらの公式を満たすかどうかは興味深い疑問となりますが、特別な場合は双対公式や和公式を満たすことを証明しました。これにより、ゼータ関数の性質を対称多重ゼータ関数が持っていることがわかります。
本研究の意義は、これまでバラバラに研究されてきた対称関数と多重ゼータ関数という二つの理論分野の間に、明確な橋渡しを行った点にあります。これにより、両者の理論で得られていた公式や構造を、互いに翻訳しながら利用できます。ゼータ関数にこれまでにない代数的構造が見つかったということは大きな成果です。

本研究では、基本的な性質のみの解明となりましたが、シューア多重ゼータ関数がそうであったように、今後、より深い関数関係式や特別値の構造の研究や、表現論的な背景を持つようなさらなる拡張が期待されます。
発表雑誌
雑誌名
「Canadian Journal of Mathematics」(2025年3月24日)
論文タイトル
Symmetric multiple zeta functions
著者
Maki Nakasuji* , Wataru Takeda*
DOI番号
10.4153/S0008414X25000203
論文URL
https://doi.org/10.4153/S0008414X25000203
「Canadian Journal of Mathematics」(2025年3月24日)
論文タイトル
Symmetric multiple zeta functions
著者
Maki Nakasuji* , Wataru Takeda*
DOI番号
10.4153/S0008414X25000203
論文URL
https://doi.org/10.4153/S0008414X25000203
用語解説
(注1)多重ゼータ関数
以下のように定義されるゼータ関数は
以下のように定義されるゼータ関数は

素数の分布に関連する重要な関数である。これを多変数化した以下のような関数が

多重ゼータ関数と呼ばれる。
(注2)シューア関数
組合せ論や代数幾何、表現論などで登場する特定の型の関数。対称関数であるため、対称な対象で頻繁に現れる。
(注3)パフィアン
行列式に似た概念で、特定の対称性を持つ場合に現れる概念。
組合せ論や代数幾何、表現論などで登場する特定の型の関数。対称関数であるため、対称な対象で頻繁に現れる。
(注3)パフィアン
行列式に似た概念で、特定の対称性を持つ場合に現れる概念。
以上
お問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ】
東邦大学理学部数学教室
講師 武田 渉
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-3566
E-mail: wataru.takeda[@]sci.toho-u.ac.jp
URL: https://sites.google.com/site/watarutakedamath
上智大学理工学部情報理工学科
教授 中筋 麻貴
〒102-8554 千代田区紀尾井町7-1
E-mail: nakasuji[@]sophia.ac.jp
URL:https://pweb.cc.sophia.ac.jp/nakasuji/
※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。
【報道に関するお問い合わせ】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
URL:www.toho-u.ac.jp
上智学院 広報グループ
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