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プレスリリース 発行No.1499 令和7年6月6日

思春期の子どものウェルビーイングを測定する尺度の信頼性と妥当性の検証
~ 精神的健康、FlourishingやLanguishingの現状も明らかに ~

 東邦大学医学部精神神経医学講座・社会実装精神医学講座 根本隆洋教授らのグループは、思春期の子どものウェルビーイング(注1)の測定において、日本語版Mental Health Continuum短縮版(MHC-SF)(注2)の信頼性と妥当性を検証しました。

 本研究成果は、2025年6月4日に国際学術誌「Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports」に掲載されました。

発表者名

福屋 吉史(東邦大学医学部精神神経医学講座 助教)
佐久間 啓(社会医療法人あさかホスピタル 理事長)
根本 隆洋(東邦大学医学部精神神経医学講座・社会実装精神医学講座 教授)

発表のポイント

  • 少子化が進む日本社会において、近年、子どものウェルビーイングに関する研究の重要性が高まっています。しかしながら、本邦では子どもの精神的健康およびウェルビーイングを多角的に評価する尺度は、これまでありませんでした。
  • 本研究では、本邦の思春期の子どもにおける日本語版Mental Health Continuum短縮版(MHC-SF)の信頼性と妥当性を明らかにしました。
  • 本研究の結果を踏まえ、日本語版Mental Health Continuum短縮版を用いて、本邦の思春期の子どもの精神的健康およびウェルビーイングを評価することが出来るようになると考えられます。また、本尺度を活用することで本邦における幅広い世代のウェルビーイングの評価や、諸外国の思春期の子どもとのウェルビーイングの比較などが可能になることが期待されます。

発表内容

 近年、世界的にも子どもから高齢者までウェルビーイングの重要性が注目されており、日本においても同様に、多くの場面でウェルビーイングへの関心が高まっています。特にCOVID-19の流行以降、思春期の子どもの精神的健康の問題が国内外を問わず深刻化していますが、ウェルビーイングはそのリスクを減らすことが知られています。そのため、どのようにすれば、ウェルビーイングを高めていくことが出来るのかを検討していくことは急務となっています。しかしながら、本邦においては、子どものウェルビーイングを多角的に測定するための方法がありませんでした。そこで今回、研究グループは、精神的健康およびウェルビーイングを評価するために用いられる日本語版Mental Health Continuum短縮版(MHC-SF)が、思春期の子どもの精神的健康およびウェルビーイングを評価することにも適応可能か、MHC-SFの信頼性と妥当性について検証しました。

 MHC-SFは、Keysらが開発した40の項目から構成される「Mental Health Continuum-Long Form(MHC-LF)」を基とした14項目の短縮版で、現在までに20以上の言語に翻訳されています。MHC-SFの特徴としては、精神的健康を構成するウェルビーイングを感情的ウェルビーイング、心理的ウェルビーイングおよび社会的ウェルビーイングの3つの要素に分類していることが挙げられます。さらに、MHC-SFを用いることで、精神的健康をFlourishingとLanguishingとその中間の状態の3段階に分けることが可能になります。Flourish (読み:フラーリッシュ)は「繁栄する」「栄える」と訳され、Flourishingは心理的に活き活きとした状態を指します。それとは対照的にLanguish(読み:ラングイッシュ)は、「衰える」「元気がない」と訳され、Languishingは活力がない状態を指します。

 本研究では、15~18歳の男女、1558名を対象に質問紙を用いた調査を行いました。構造的妥当性を検証するために確認的因子分析を行い、MHC-SFは、原版や他言語翻訳版の結果と同様に3因子の構造を示しました (図1)。また、内的一貫性や構成概念妥当性は十分な結果を示し、男女別や年齢別での検証においても、同じ構造を持っていることが分かりました。
感情的・社会的・心理的ウェルビーイングとその下位項目

図1. 感情的・社会的・心理的ウェルビーイングとその下位項目
(大片ら,2021訳を著者改変)

本邦の思春期の子どもの精神的健康の割合

図2.本邦の思春期の子どもの精神的健康の割合

 また、本邦の思春期の子どもの精神的健康の割合として、Flourishing(心理的に活き活きとした状態)は27.6%、Languishing(活力がない状態)は20.2%でした(図2)。

 MHC-SFは、精神的健康やウェルビーイングを評価することができるため、今後ポジティブ心理学やポジティブ精神医学に関連する研究分野だけでなく、健康に関係する様々な研究フィールドにおいて使用することが可能になると見込まれます。本邦においては、これまでに60歳以上の高齢者に対するMHC-SFの妥当性と信頼性が検証されています(大片ら, 2021)。そのため、本研究の結果を踏まえると、本邦においては、思春期の子どもから高齢者までの精神的健康およびウェルビーイングを年代別に評価することが可能になります。さらには、MHC-SFを用いることで、他国の思春期の子どもとの比較をすることができることから、本邦の思春期の子どもの精神的健康およびウェルビーイングの現状を多角的に評価することが可能になると考えられます。本尺度は、幅広い研究分野で使用することが期待されます。
 
 本研究は公益財団法人日本健康アカデミーの助成(No.33)を受けて実施しました。

発表雑誌

雑誌名
「Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports」(2025年6月4日)

論文タイトル
Psychometric Evaluation of the Japanese version of the Mental Health Continuum-Short Form (MHC-SF) in Adolescents

著者
Yoshifumi Fukuya, Kei Sakuma, Takahiro Nemoto*(*責任著者)

DOI番号
10.1002/pcn5.70129

論文URL
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pcn5.70129

用語解説

(注1)ウェルビーイング(well-being)
ウェルビーイング(well-being)は、直訳では“良い状態”にあることを指しますが、世界保健機関(WHO)が1948年に公布した世界保健機関憲章前文の中で、健康をウェルビーイング(well-being)という表現を用いて定義したことで、ウェルビーイングという言葉が広く知られるようになったと考えられます。その前文では“健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態 (a state of complete physical, mental and social well-being)にあること”と表記しており、ウェルビーイングが健康な状態を示すためのキーワードとなっています(日本WHO協会ホームページより引用)。

(注2)日本語版Mental Health Continuum短縮版(MHC-SF)
Mental Health Continuum短縮版は、アメリカの社会学者であるCorey Keyes(コーリー・キーズ)博士が開発したMental Health Continuum-Long Form(MHC-LF)の短縮版です。
MHC-LFは40項目の質問項目で構成されますが、その汎用性を高める目的で、14項目の質問項目からなるMHC-SFが開発されました。MHC-SFは、現在までに20以上の言語に翻訳され、38以上の国で使用することが可能となっています。
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部精神神経医学講座・社会実装精神医学講座
教授 根本 隆洋

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151(代表)
E-mail: takahiro.nemoto[@]med.toho-u.ac.jp

【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

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