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プレスリリース 発行No.1497 令和7年6月4日

国内外来種ニホンイタチ、在来個体群を上回る生息数?
~ 生息数と生息地利用の実態を解明 ~

 東邦大学理学部生物学科の井上英治教授らの研究グループは、国内外来種として導入された島嶼部において、在来生物を捕食するなどの問題が報告されているニホンイタチについて、外来地域である三宅島と在来地域である伊豆大島で調査を行いました(図1)。糞を用いた調査の結果、糞の相対数は、外来個体群である三宅島の方が在来個体群である伊豆大島よりも多いと推定され、ニホンイタチが外来地域で生息環境を広げ、生息密度を上げている可能性が示唆されました。また、それぞれの生息地利用の特徴を明らかにし、三宅島と伊豆大島では生息数の多い環境が異なることも明らかになりました。さらに、三宅島の一地域では糞DNAを用いた密度推定も実施し、1平方キロメートルあたり約20頭が生息していると推定されました。これらの研究成果は、今後の外来種対策を検討する上での貴重な基礎資料となります。

 この研究成果は、2025年5月30日に雑誌「PLOS One」にて発表されました。

発表者名

久保 浩太郎(研究当時:東邦大学大学院理学研究科生物学専攻 博士後期課程)
立川 大聖(研究当時:東邦大学大学院理学研究科生物学専攻 博士前期課程)
廣瀬 未来(研究当時:東邦大学大学院理学研究科生物学専攻 博士後期課程)
長谷川 雅美(東邦大学 名誉教授)
井上 英治(東邦大学理学部生物学科 教授)

発表のポイント

  • ニホンイタチの糞の相対数は、外来個体群である三宅島の方が在来個体群である伊豆大島より多いことを明らかにしました。
  • 三宅島と伊豆大島で、ニホンイタチの生息地利用が異なることを明らかにしました。
  • 糞DNA解析を用いて、三宅島の伊豆岬におけるニホンイタチの密度は1平方キロメートルあたり約20頭であると推定しました。
  • これらの知見は、今後の外来種対策を検討する上で貴重な基礎資料となります。

発表内容

 外来の食肉類は、両生類や爬虫類も含む多様な生物種を捕食することから、様々な対策が講じられるなど、世界的に大きな関心を集めています。中でも、イタチやマングースは、農作物に被害を与える齧歯類の駆除を目的として、ヨーロッパを含め世界各地で導入されてきました。しかし、在来生物を捕食することによる生態系への悪影響も指摘されています。

 日本在来のニホンイタチも、もともと生息していなかった島々に農作物対策として導入され、一部地域では、国内外来種(注1)として定着し、在来生態系へ影響を及ぼしていることが報告されています。伊豆諸島では、伊豆大島に在来のニホンイタチが生息している一方で、利島、三宅島、八丈島、青ヶ島には意図的な導入が報告されています(図1)。中でも、三宅島では、1982年前後に非公式的に導入されたニホンイタチが個体数を増やし、在来種であるオカダトカゲやアカコッコが捕食されるなど、生態系への影響が指摘されています。そこで本研究では、外来地域である三宅島におけるニホンイタチの個体数や生息地利用を明らかにし、在来地域である伊豆大島との比較を行いました。

 三宅島と伊豆大島は、いずれも島の中央部に火山を有する火山島であり、恒常的に水が流れる河川やその周辺域といった、本州におけるニホンイタチの主な生息環境を欠くという特徴があります。本研究では、三宅島に7ルート、伊豆大島に6ルートを設定し、ルート内における糞の探索調査を実施しました。糞の発見数に影響を与える要因として植生に着目し、JAXAが提供する高解像度土地利用土地被覆図を利用し、植生の影響を解析しました。両島を200メートル四方のグリッドに分割し、各グリッドにおける糞数に対する植生の影響を、一般化線形混合モデル(注2)により解析しました。さらに、植生の影響も加味したうえで、両島における平均的な距離あたりの糞数の推定を行いました。加えて、三宅島の伊豆岬に設定した調査ルートにおいて、繰り返し糞を採取し、DNA標識再捕獲法(注3)による密度推定を実施しました。

 三宅島では、1キロメートルあたり2.7から16.5個、伊豆大島では0.5から16.6個の糞が発見されました。一般化線形混合モデルによる解析の結果、三宅島では落葉広葉樹や竹林で糞の発見数が多く、草地では糞の発見数が少ない一方、伊豆大島では裸地で糞の発見数が少ないことが明らかになりました。三宅島では、かつて農作物被害対策としてニホンイタチが導入されたにも関わらず、今回の調査では畑の近くに糞が多く発見されたわけではありませんでした。この結果は、導入後40年を経て、ニホンイタチが三宅島全体に分布を広げたことを示唆しており、三宅島における生息地利用の傾向は、ニホンイタチの利用可能な食物量を反映している可能性があると考えられます。また、今回の研究結果は、外来地域である三宅島と在来地域である伊豆大島とで、生息地利用に違いが見られたことを示しています。このような在来地域と外来地域での生息地利用の違いは、他のイタチ科でも報告されており、在来地域での分布状況から外来地域での個体群の拡散を予測することが難しいこと、すなわち、外来地域での個別の調査が重要であることを示唆しています。

 一般化線形混合モデルで得られた植生の係数を用いて算出した結果、島全体における距離あたりの糞の平均数は、三宅島では1キロメートルあたり7.44個、伊豆大島では4.89個と推定されました(図2)。また、一部ルートを除いて、三宅島の方が伊豆大島より糞の発見数が多いことから、三宅島の方が伊豆大島よりニホンイタチの密度が高いと推定されました。三宅島では、ニホンイタチ導入直後にオカダトカゲを多く捕食していたと推定されています。このように、もともと食肉類が生息していなかった島嶼では、小型脊椎動物が捕食者に対抗する行動を獲得していないため、ニホンイタチがそれらを捕食することで、個体数を増加させていった可能性が考えられます。

 三宅島の伊豆岬で行った糞DNA解析では、105試料中12試料で個体識別(注4)ができ、8個体分のDNAが採取されました。DNA標識再捕獲法による密度推定の結果、伊豆岬では1平方キロメートルあたり約20頭であると推定されました。伊豆岬における1キロメートルあたりの糞発見数は6.6個であり、これは、三宅島全体における糞の推定平均値(7.44個)を下回っていました。このことから、三宅島全体の密度は、伊豆岬で求めた推定密度と同程度、あるいはそれ以上である可能性が示唆されました。今回の研究では、三宅島において落葉広葉樹林や竹林でニホンイタチの個体数が多いと推定されましたが、これらの環境では、オカダトカゲやアカコッコなど在来種への影響が大きいと考えられます。今後、国内外来種であるニホンイタチへの対策を検討する際に、本研究で明らかになった密度や分布の情報を活用することは、効果的な外来種対策や管理戦略を立てる上で重要であると考えられます。

発表雑誌

雑誌名
「PLOS One」(2025年5月30日)

論文タイトル
Habitat use and abundance of an introduced population of the Japanese weasel(Mustela itatsi): comparison with the native population

著者
Kotaro Kubo, Taisei Tachikawa, Miki Hirose, Masami Hasegawa, Eiji Inoue*

DOI番号
10.1371/journal.pone.0324200

論文URL
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0324200

用語解説

(注1)国内外来種
ニホンイタチのように、日本の在来種でありながら、本来の分布域ではない地域に人為的に移入された種のこと。

(注2)一般化線形混合モデル
統計モデルの一種で、個体や集団の差をランダム効果として考慮に入れながら、要因の影響を評価できるモデルのこと。今回の解析では、調査ルートをランダム効果に指定しています。

(注3)DNA標識再捕獲法
個体の再捕獲率から個体数を推定する方法をDNA解析に応用したもの。
糞由来のDNAを解析することで、同じ個体の糞かどうかを識別でき、個体の再捕獲率をもとに個体数を推定することが可能になります。本研究では、空間情報も加味する空間明示型標識再捕獲法を用いることで、個体数ではなく密度を推定しています。

(注4)個体識別
糞由来のDNAを用いることで、個体を識別することができます。
個体識別には、2から5塩基の短い配列が繰り返されているマイクロサテライトと呼ばれる遺伝的多様性の高い領域を利用しました。

添付資料

調査地である三宅島と伊豆大島
図1. 本研究の調査地である三宅島(導入された外来個体群)と伊豆大島(在来個体群)
地図には、伊豆大島に加え、ニホンイタチの導入が確認されている伊豆諸島の島々の名称を示しています。
この地図は、国土交通省が提供する国土数値情報を使用して作成しました。

三宅島と伊豆大島におけるニホンイタチの糞の推定値
図2. 三宅島(外来個体群)と伊豆大島(在来個体群)におけるニホンイタチの糞の推定値
赤色は1キロメートルあたりの糞数が多い地域を、青色は少ない地域を示しています。
作図には、JAXA高解像度土地利用土地被覆図を利用しました。


以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生物学科
教授 井上 英治

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL&FAX: 047-472-5228 
E-mail: eiji.inoue[@]sci.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab2.toho-u.ac.jp/sci/bio/behaveco_lab

【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

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