プレスリリース 発行No.1494 令和7年5月27日
外来魚カムルチー(雷魚)から、
アジア大陸原産で日本未記録の寄生虫を発見
アジア大陸原産で日本未記録の寄生虫を発見
東邦大学、水産研究・教育機構水産技術研究所、日本大学、地球・人間環境フォーラム、ミュージアムパーク茨城県自然博物館の研究グループは、日本のカムルチー(外来魚)から、新たな外来種の寄生虫「Azygia hwangtsiyui(和名:ライギョノネドコムシ)」を発見しました。本虫は大陸部に生息するカムルチーからは発見されていましたが、今回、日本国内のカムルチーで初めて発見されました。また、本虫はその生活史の中でヒメタニシとヌマチチブを宿主として利用していることが分かりました。
本研究成果は、「Journal of Helminthology」に2025年5月2日に掲載されました。
本研究成果は、「Journal of Helminthology」に2025年5月2日に掲載されました。
発表者名
脇 司(東邦大学理学部生命圏環境科学科 准教授)
新田 理人(水産研究・教育機構水産技術研究所 研究員、研究当時:広島大学JSPS特別研究員)
安齋 榮里子(東邦大学大学院理学研究科環境科学専攻 2023年度修了)
石川 孝典(日本大学生物資源科学部 客員研究員)
北澤 佑子(ミュージアムパーク 茨城県自然博物館)
萩原 富司(地球・人間環境フォーラム つくば事務所長)
関根 百悠(東邦大学大学院理学研究科環境科学専攻 博士前期課程1年)
高野 弘企(東邦大学理学部生命圏環境科学科 2024年度卒)
林 蒔人(東邦大学大学院理学研究科環境科学専攻 2023年度修了)
新田 理人(水産研究・教育機構水産技術研究所 研究員、研究当時:広島大学JSPS特別研究員)
安齋 榮里子(東邦大学大学院理学研究科環境科学専攻 2023年度修了)
石川 孝典(日本大学生物資源科学部 客員研究員)
北澤 佑子(ミュージアムパーク 茨城県自然博物館)
萩原 富司(地球・人間環境フォーラム つくば事務所長)
関根 百悠(東邦大学大学院理学研究科環境科学専攻 博士前期課程1年)
高野 弘企(東邦大学理学部生命圏環境科学科 2024年度卒)
林 蒔人(東邦大学大学院理学研究科環境科学専攻 2023年度修了)
発表のポイント
- カムルチーはアジア大陸由来の外来魚で、日本へは1920年ごろ導入されたようです。研究グループは、日本に導入されたカムルチーから寄生虫「Azygia hwangtsiyui(和名:ライギョノネドコムシ)」を国内で初めて発見しました。本寄生虫のヒトへの寄生報告はありません。
- 野外調査の結果、この寄生虫の日本での生活史が分かりました。成虫はカムルチーに寄生します。成虫が産卵し、やがてヒメタニシに感染します。ヒメタニシの内部では無性生殖によりたくさんのセルカリア(幼虫)が生まれて外に出て、それがカムルチーの若い個体に食べられて感染します。または、セルカリアを食べたヌマチチブなどの小魚が、さらにカムルチーに食べられることによっても感染すると考えられます。
- この寄生虫は、20世紀初頭のカムルチーの日本導入時に一緒に侵入したと推察されます。一方で、遺伝子解析の結果から、日本へは複数回侵入してきたことが示唆されています。淡水の貝や小魚が、観賞・飼育を目的として大陸部から輸入されていることから、それらと一緒に日本に入ってきた可能性もあります。
- ライギョノネドコムシの成虫は、大陸部でもカムルチー以外での寄生報告がないことから、カムルチーの日本定着がこの寄生虫を日本に侵入させる要因になったことになります。
発表内容
一般的な動植物と同様に、寄生虫も海外から日本に侵入した場合には外来種となります。外来種の寄生虫(外来寄生虫)は、宿主が海外から持ち込まれる際に一緒に侵入することが多いと考えられます。日本は、飼育などを目的として、魚などの野生動物を海外から輸入しています。それらと一緒に外来寄生虫が侵入し、在来の野生生物に感染していることがこれまでいくつか報告されてきました。しかし寄生虫は体内にいるため、宿主を外から見ただけでは存在が分からないことが多く、外来寄生虫の現状は十分に把握されていないのが現状です。外来寄生虫の侵入状況と感染経路を把握することは、その寄生虫の防除のための重要な基礎情報となります。また、侵入経緯の推定は、次の外来寄生虫の侵入を未然に防ぐことを考える際の情報源になります。
本研究で対象にしたカムルチーは大陸東部を原産とする淡水魚で、ライギョ(雷魚)とも呼ばれます。カムルチーは若い時には小型の水生昆虫などを食べますが、成長して大きくなると小魚などを食べるようになります。日本では、カムルチーは飼育観賞用として国内で取引されることもあり、ネットオークションなどで生体が販売されている様子を実際に確認できます。
研究グループは日本の淡水魚の寄生虫を調査してきました。今回、カムルチーの寄生虫を調べた際に、その胃から大型の吸虫(扁形動物の寄生虫の仲間)の成虫を発見しました(図1)。得られた成虫の形態を詳細に検討した結果、アジア大陸原産で日本未記録の吸虫「Azygia hwangtsiyui(和名:ライギョノネドコムシ)」であることが分かりました。日本国内のカムルチーを広く調べたところ、本虫は関東から九州まで広く分布していることも分かりました。
続いて、日本においてこの吸虫がどのようにカムルチーへ感染するのかを調べました。アジア大陸では、ライギョノネドコムシをはじめとしたAzygia属の吸虫の幼虫は、淡水の小魚や貝類に寄生することが知られています。そこで、日本においてカムルチーの分布する水域で小魚や貝類を対象に調査を実施しました。その結果、ヌマチチブとヒメタニシから得られた吸虫が、形態やDNA(核28S rDNAやCOI)に基づき本虫と種同定されました。これらの調査結果と、Azygia属の一般的な生活史を照らし合わせると、ライギョノネドコムシの日本における生活史は次のようになります(図2)。まず、ヒメタニシ(中間宿主)に寄生したレジアという幼虫が、セルカリアという感染ステージの幼虫を水中に放出します。水中のセルカリアは、水生昆虫を食べるサイズの若いカムルチーに食べられ、その後カムルチーとともに成長して胃で成虫に達します。また、セルカリア幼虫がヌマチチブをはじめとした小魚(待機宿主)に食べられて、その小魚がカムルチーに食べられることによっても感染すると考えられました。
中国大陸と日本は海で隔てられているため、日本への本虫の侵入は、寄生された淡水魚や貝類の自然移動によるものではなく、人の手で宿主が持ち込まれたことによると考えられます。本虫の成虫は、大陸部でもカムルチーからしか寄生報告がありません。このことから、この吸虫が日本に分布するようになったのは、少なくともカムルチーが日本に導入された以降のことになります。過去の文献を調べたところ、カムルチーは1920年ごろ日本に導入されたようですので、このときにライギョノネドコムシも一緒に日本に定着したのかもしれません。一方で、本虫のミトコンドリアDNAのCOIのハプロタイプ(注1)は3つ見つかっており、ライギョノネドコムシが複数回日本に侵入したことを示唆しています。これまで、様々な淡水生物が飼育用に大陸部から日本に輸入されてきましたので、そのルートでも感染小魚や貝類が日本に侵入したのかもしれません。この吸虫が日本に来た時期や回数ははっきりとは分かりませんが、本研究を行った2015年から2024年には本虫の分布が既に日本全国的であったことから、少なくとも最近侵入したわけではなさそうです。
本虫の成虫はカムルチーがいないと生存できないことから、日本へカムルチーを導入して野外に定着させたことで、本虫が日本に侵入可能になったと言えます。また、中間宿主のヒメタニシもかなり古い年代に日本に移入した(人為的または自然な移入)と考えられており、この吸虫の日本への定着は、こうした宿主動物の移入事情を反映したものと言えそうです。ライギョノネドコムシは、現在のところ日本在来の宿主に悪影響を与えた様子はありません。しかしながら、今後同じような経路で、別の寄生虫が海外から日本に入って広がってしまう可能性は十分にあると考えられます。実際に、研究グループは2025年1月に大陸原産の別の寄生虫が利根川水系に侵入したことを確認しています**。また、日本国内ではカムルチーをはじめとした宿主魚貝類が取引されてきたことから、感染魚が人為的に国内を移動し、その先々で放流されるなどして本虫が野外に出たことが、本虫の広い分布域につながった可能性が高いと考えられます。人が魚や貝をみだりに放流することは、寄生虫も同時に放流して定着させるリスクのある行為と言えます。ひとたびその寄生虫が定着してしまうと、その水域から寄生虫を取り除くことは不可能に近いのです。
** 参考文献)
Yoshiki Saito, Sho Iwata, Makito Hayashi, Masato Nitta, Takanori Ishikawa, Tomiji Hagiwara, Hiromi Ikezawa, Nobuhiro Mano, Tsukasa Waki ,Lifecycle of an introduced Dollfustrema(Bucephalidae) trematode in the Tone River system, Japan. Journal of Helminthology, Volume99,2025. e12.
DOI: https://doi.org/10.1017/S0022149X24000932
本研究で対象にしたカムルチーは大陸東部を原産とする淡水魚で、ライギョ(雷魚)とも呼ばれます。カムルチーは若い時には小型の水生昆虫などを食べますが、成長して大きくなると小魚などを食べるようになります。日本では、カムルチーは飼育観賞用として国内で取引されることもあり、ネットオークションなどで生体が販売されている様子を実際に確認できます。
研究グループは日本の淡水魚の寄生虫を調査してきました。今回、カムルチーの寄生虫を調べた際に、その胃から大型の吸虫(扁形動物の寄生虫の仲間)の成虫を発見しました(図1)。得られた成虫の形態を詳細に検討した結果、アジア大陸原産で日本未記録の吸虫「Azygia hwangtsiyui(和名:ライギョノネドコムシ)」であることが分かりました。日本国内のカムルチーを広く調べたところ、本虫は関東から九州まで広く分布していることも分かりました。
続いて、日本においてこの吸虫がどのようにカムルチーへ感染するのかを調べました。アジア大陸では、ライギョノネドコムシをはじめとしたAzygia属の吸虫の幼虫は、淡水の小魚や貝類に寄生することが知られています。そこで、日本においてカムルチーの分布する水域で小魚や貝類を対象に調査を実施しました。その結果、ヌマチチブとヒメタニシから得られた吸虫が、形態やDNA(核28S rDNAやCOI)に基づき本虫と種同定されました。これらの調査結果と、Azygia属の一般的な生活史を照らし合わせると、ライギョノネドコムシの日本における生活史は次のようになります(図2)。まず、ヒメタニシ(中間宿主)に寄生したレジアという幼虫が、セルカリアという感染ステージの幼虫を水中に放出します。水中のセルカリアは、水生昆虫を食べるサイズの若いカムルチーに食べられ、その後カムルチーとともに成長して胃で成虫に達します。また、セルカリア幼虫がヌマチチブをはじめとした小魚(待機宿主)に食べられて、その小魚がカムルチーに食べられることによっても感染すると考えられました。
中国大陸と日本は海で隔てられているため、日本への本虫の侵入は、寄生された淡水魚や貝類の自然移動によるものではなく、人の手で宿主が持ち込まれたことによると考えられます。本虫の成虫は、大陸部でもカムルチーからしか寄生報告がありません。このことから、この吸虫が日本に分布するようになったのは、少なくともカムルチーが日本に導入された以降のことになります。過去の文献を調べたところ、カムルチーは1920年ごろ日本に導入されたようですので、このときにライギョノネドコムシも一緒に日本に定着したのかもしれません。一方で、本虫のミトコンドリアDNAのCOIのハプロタイプ(注1)は3つ見つかっており、ライギョノネドコムシが複数回日本に侵入したことを示唆しています。これまで、様々な淡水生物が飼育用に大陸部から日本に輸入されてきましたので、そのルートでも感染小魚や貝類が日本に侵入したのかもしれません。この吸虫が日本に来た時期や回数ははっきりとは分かりませんが、本研究を行った2015年から2024年には本虫の分布が既に日本全国的であったことから、少なくとも最近侵入したわけではなさそうです。
本虫の成虫はカムルチーがいないと生存できないことから、日本へカムルチーを導入して野外に定着させたことで、本虫が日本に侵入可能になったと言えます。また、中間宿主のヒメタニシもかなり古い年代に日本に移入した(人為的または自然な移入)と考えられており、この吸虫の日本への定着は、こうした宿主動物の移入事情を反映したものと言えそうです。ライギョノネドコムシは、現在のところ日本在来の宿主に悪影響を与えた様子はありません。しかしながら、今後同じような経路で、別の寄生虫が海外から日本に入って広がってしまう可能性は十分にあると考えられます。実際に、研究グループは2025年1月に大陸原産の別の寄生虫が利根川水系に侵入したことを確認しています**。また、日本国内ではカムルチーをはじめとした宿主魚貝類が取引されてきたことから、感染魚が人為的に国内を移動し、その先々で放流されるなどして本虫が野外に出たことが、本虫の広い分布域につながった可能性が高いと考えられます。人が魚や貝をみだりに放流することは、寄生虫も同時に放流して定着させるリスクのある行為と言えます。ひとたびその寄生虫が定着してしまうと、その水域から寄生虫を取り除くことは不可能に近いのです。
** 参考文献)
Yoshiki Saito, Sho Iwata, Makito Hayashi, Masato Nitta, Takanori Ishikawa, Tomiji Hagiwara, Hiromi Ikezawa, Nobuhiro Mano, Tsukasa Waki ,Lifecycle of an introduced Dollfustrema(Bucephalidae) trematode in the Tone River system, Japan. Journal of Helminthology, Volume99,2025. e12.
DOI: https://doi.org/10.1017/S0022149X24000932
発表雑誌
-
雑誌名
「Journal of Helminthology」(2025年5月2日)
論文タイトル
Introduction of Azygia hwangtsiyui (Trematoda: Azygidae) to Japan with its life cycle information
著者
Tsukasa Waki, Masato Nitta, Eriko Ansai, Takanori Ishikawa, Yuko Kitazawa, Tomiji Hagiwara, Hakuyu Sekine, Koki Takano, Makito Hayashi
DOI番号
10.1017/S0022149X25000379
アブストラクトURL
https://doi.org/10.1017/S0022149X25000379
用語解説
(注1)ハプロタイプ
母系遺伝するミトコンドリアDNAの塩基配列のタイプのこと。
この研究ではミトコンドリアDNAのシトクロームオキシダーゼサブユニットI (COI)を用いています。
母系遺伝するミトコンドリアDNAの塩基配列のタイプのこと。
この研究ではミトコンドリアDNAのシトクロームオキシダーゼサブユニットI (COI)を用いています。
添付資料

図1. 日本国内で見つかったライギョノネドコムシ(Azygia hwangtsiyui)
A:成虫、B:セルカリア
撮影:高野弘企、安齋榮里子
A:成虫、B:セルカリア
撮影:高野弘企、安齋榮里子

図2. 日本におけるライギョノネドコムシ(Azygia hwangtsiyui)の生活史
A:ヒメタニシに寄生したレジアから、セルカリアが多数放出される。
B:カムルチーの若い個体は水生昆虫などの小型動物を食べる。こういった若い個体が本虫のセルカリアを捕食して感染する。
C:小魚がセルカリアを捕食して、胃で幼虫が生残する。
D:カムルチーの大型個体が小魚を食べて感染する。
イラスト:脇 司
A:ヒメタニシに寄生したレジアから、セルカリアが多数放出される。
B:カムルチーの若い個体は水生昆虫などの小型動物を食べる。こういった若い個体が本虫のセルカリアを捕食して感染する。
C:小魚がセルカリアを捕食して、胃で幼虫が生残する。
D:カムルチーの大型個体が小魚を食べて感染する。
イラスト:脇 司
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生命圏環境科学科
准教授 脇 司
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1653
E-mail: tsukasa.waki[@]sci.toho-u.ac.jp
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【本ニュースリリースの発信元】
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