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プレスリリース 発行No.1482 令和7年5月7日

レビー小体型認知症患者の赤血球でα-シヌクレインが減少していることを発見
~ 早期診断バイオマーカーの可能性 ~

 東邦大学理学部生物学科の松本紋子准教授の研究グループと同医療センター佐倉病院脳神経内科の榊原隆次教授(研究当時)、同医学部自然・生命・人間先端医学講座の額田均教授、八木橋操六教授は、レビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies:DLB)(注1)患者の末梢血赤血球において、疾患関連タンパク質であるα-シヌクレイン(注2)の量が、健常者やアルツハイマー病やパーキンソン病の患者と比べて顕著に減少していることを発見しました。
 これにより、早期確定診断の困難なレビー小体型認知症を血液検査で早期診断できるバイオマーカーの開発が加速することが期待されます。

 この研究成果は2025年4月16日に「The Journal of Biochemistry」誌のオンライン版で公開されました。

発表者名

天谷 亮介(東邦大学大学院理学研究科生物学専攻 博士後期課程 2022年度修了)
細井 龍之介(東邦大学大学院理学研究科生物学専攻 博士前期課程 2021年度修了)
吉岡 さくら(東邦大学大学院理学研究科生物学専攻 博士前期課程 2022年度修了)
丸山 大貴(東邦大学大学院理学研究科生物学専攻 博士前期課程 2年)
河井 貴行(東邦大学医療センター佐倉病院 医学研究部 技師長補佐)
八木橋 操六(東邦大学医学部自然・生命・人間先端医学講座 教授)
額田 均(東邦大学医学部自然・生命・人間先端医学講座 教授)
榊原 隆次(研究当時:東邦大学医療センター佐倉病院 脳神経内科 教授、
      現:医療法人同和会顧問、脳神経内科津田沼、医療法人同和会千葉病院)
松本 紋子(東邦大学理学部生物学科 准教授)

発表のポイント

  • レビー小体型認知症患者の赤血球α-シヌクレイン量が健常者やアルツハイマー病やパーキンソン病患者と比較して顕著に減少していることを新たに発見しました。
  • 血漿中細胞外小胞のα-シヌクレイン量は、健常者よりもアルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体型認知症の患者で増加していることを新たに発見しました。
  • 早期確定診断の困難なレビー小体型認知症を血液検査で早期診断できるバイオマーカーの開発加速が期待されます。

発表内容

【背景】
 レビー小体型認知症は、アルツハイマー病や血管性認知症とともに「三大認知症」といわれています。認知症患者数は高齢化社会が進むにつれ増加が見込まれます。レビー小体型認知症は他の認知症と異なり、認知機能が良いときと悪いときが波のように変化することや、抑うつ症状が初期から発現するため精神疾患と誤診されてしまうこともあります。レビー小体型認知症の確定診断法はなく、中核的症状(認知機能変動・幻視・レム睡眠期行動異常・パーキンソニズム)と指標的バイオマーカー[SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)(注3)またはPET(Positron Emission Tomography)(注4)で示される基底核におけるドパミントランスポーターの取り込み低下・MIBG心筋シンチグラフィでの取り込み低下]を用いることで、ほぼ確実(Probable DLB)または疑い(Prodromal DLB)と診断されます(日本神経学会 DLBの臨床診断基準2017)。早期に診断が可能となれば、症状悪化を防ぐための新たな治療戦略を策定することが可能となります。

 パーキンソン病やレビー小体型認知症は、脳内でレビー小体というタンパク質の凝集体ができることが特徴で、その主成分はα-シヌクレインというタンパク質です。α-シヌクレインは脳以外にも赤血球中に多量に存在するため、松本紋子准教授の研究グループは、血液検査による早期診断バイオマーカーの候補として赤血球中のα-シヌクレインに着目し、健常者末梢血赤血球のα-シヌクレインのリジン残基が翻訳後修飾を受けていること
J Biochem., 2023;173(3):177–184, doi: 10.1093/jb/mvac100)や、赤血球中総α-シヌクレインの約3割が凝集体を形成しやすいC末端切断型であること、血漿中に含まれる細胞外小胞にも全長型とC末端切断型のα-シヌクレインが含まれていること(J Biochem., 2023;175(6):649–658, doi: 10.1093/jb/mvae012)を既に発表しています。

【研究内容・結果・考察】
 本研究では、健常者ならびにレビー小体型認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病と診断された患者の末梢血赤血球と血漿中に含まれる細胞外小胞のα-シヌクレインを定量しました。解析の結果、レビー小体型認知症患者の赤血球では、全長型とC末端切断型の両方のα-シヌクレイン量が健常者、アルツハイマー病、パーキンソン病の患者のいずれと比較しても顕著に減少していることを発見しました。さらに、血漿中の細胞外小胞中のα-シヌクレイン量は、レビー小体型認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病の患者では健常者よりも多いことを発見しました(図1)。α-シヌクレインの凝集体は脳だけでなく全身の末梢神経でも検出されていることより、健常者よりもこれらの患者の方がより多くの量のα-シヌクレインが細胞外小胞を経由して全身に伝播し、病気の発症や進行に関与している可能性が示唆されました(図2)。また、レビー小体型認知症の重症度(注5)と赤血球中α-シヌクレイン量に相関が見られなかったことから、患者が中核的症状を呈し受診を検討する前から、既にα-シヌクレイン量が減少していると考えられ、早期診断のバイオマーカーに有用である可能性が示唆されました。

【意義・展望】
 レビー小体型認知症の現行診断基準では、指標的バイオマーカーとして大脳基底核におけるドパミントランスポーターの機能を測定するためにSPECTやPETといった核医学検査が用いられています。侵襲性が低く簡便に採取可能な末梢血を利用した検査方法が確立できれば、大がかりな検査を行う以前にスクリーニング検査ができ、診断と治療開始までの時間を短くすることが可能になります。今回の発見が早期診断可能なバイオマーカーの開発につながることが期待されます。

発表雑誌

雑誌名
「The Journal of Biochemistry」(オンライン版:2025年4月16日)

論文タイトル
The potential of erythrocyte α-synuclein to differentiate dementia with Lewy bodies from Parkinson's and Alzheimer's diseases.

著者
Ryosuke Amagai, Ryunosuke Hosoi, Sakura Yoshioka, Taiki Maruyama,Takayuki Kawai,
Soroku Yagihashi, Hitoshi Nukada, Ryuji Sakakibara, Ayako Okado-Matsumoto*

DOI番号
10.1093/jb/mvaf017

アブストラクトURL
https://doi.org/10.1093/jb/mvaf017

用語解説

(注1)レビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies:DLB)
レビー小体型認知症は、アルツハイマー病や血管性認知症とともに「三大認知症」といわれています。α-シヌクレインを主成分とするタンパク質の凝集体の「レビー小体」が大脳皮質の広汎に現れることが発症の原因と考えられています。波のある認知機能の低下、幻視、レム睡眠時行動異常、パーキンソニズム、自律神経症状や抑うつなど症状は多岐にわたります。

(注2)α-シヌクレイン
ヒトα-シヌクレインは140アミノ酸残基からなる可溶性タンパク質で、シナプス機能の制御や神経可塑性に関与していると推定されています。α-シヌクレインの凝集体は、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症の特徴的な病理所見です。

(注3)SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)
画像診断法の一つで、英語名称を略してSPECT(スペクト)と呼ばれるのが一般的です。シンチグラフィの応用で、体内に投与した放射性同位体から放出されるガンマ線を検出し、その分布を断層画像にしたものです。

(注4)PET(Positron Emission Tomography)
コンピューター断層撮影技術の一つで、生体内部の放射性トレーサーから放出される陽電子と電子との対消滅によって発生する1対で正反対方向のガンマ線を検出して断層画像を作成するものです。

(注5)レビー小体型認知症の重症度
運動機能の指標としてHoehn & Yahrの重症度分類、認知機能の指標としてMini-mental state examination、Frontal assessment batteryのスコアを用いました。Hoehn & Yahrの重症度分類は、パーキンソニズムの評価指標で、0度から5度までの6段階でその進行度合いを評価します。Mini-mental state examinationは、認知機能のうち時間の見当識、場所の見当識、計算能力、言語・図形的能力などを30問の質問形式で評価します。Frontal assessment batteryは、前頭葉機能障害の有無や程度を把握するのに役立ち、様々な神経疾患や精神疾患における前頭葉の関与を評価するために用いられます。

添付資料

末梢血赤血球ならびに血漿中細胞外小胞に含まれるα-シヌクレイン量
図1. 末梢血赤血球ならびに血漿中細胞外小胞に含まれるα-シヌクレイン量
末梢血赤血球中α-シヌクレイン量と血漿中に分泌された細胞外小胞を介する全身への伝播
図2. 末梢血赤血球中α-シヌクレイン量と血漿中に分泌された細胞外小胞を介する全身への伝播
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生物学科
准教授 松本 紋子

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-8699
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/bio/biochem/

【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

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