プレスリリース 発行No.1480 令和7年4月30日
米ぬかやコーヒーに含まれる成分が、心臓の血管のけいれんを抑える?
~ 植物由来の「フェルラ酸」に、動脈のけいれん(スパスム)を防ぐ2つの働きがあることが判明 ~
~ 植物由来の「フェルラ酸」に、動脈のけいれん(スパスム)を防ぐ2つの働きがあることが判明 ~
東邦大学薬学部薬理学教室の吉岡健人講師、小原圭将准教授、田中芳夫教授らの研究グループは、米ぬかやコーヒーに含まれる植物由来の天然成分「フェルラ酸」(注1)が、2つの異なる仕組みを介して冠動脈(心臓の血管)(注2)の収縮を抑えることを明らかにしました。
この研究成果は、学術雑誌「Journal of Pharmacological Sciences」に2025年4月24日にオンライン先行公開されました。
この研究成果は、学術雑誌「Journal of Pharmacological Sciences」に2025年4月24日にオンライン先行公開されました。
発表者名
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 准教授)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)
小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 准教授)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)
発表のポイント
- 心臓を取り囲む冠動脈の過剰な収縮は、動脈のけいれん(スパスム)を引き起こし、狭心症や心筋梗塞の原因になります。
- 研究グループは、天然の抗酸化成分であるフェルラ酸が、冠動脈の収縮反応を抑える効果を持つことを、ブタの冠動脈を使った実験から明らかにしました。
- フェルラ酸は、血管の収縮に関わる「L型Ca2+チャネル」(注3)を抑制することで、筋肉の収縮に必要なカルシウムの流入を減らします。さらに、血管が収縮する際に重要な働きを担う「ミオシン軽鎖リン酸化」(注4)という反応も抑えていることが明らかになりました。
- 今後、天然成分「フェルラ酸」を活用した新たな心血管疾患の予防・治療が期待されます。
発表内容
冠動脈が強く縮んでしまう「冠攣縮(かんれんしゅく)」は、動脈のけいれん(スパスム)を引き起こし、狭心症や心筋梗塞といった病気を引き起こす要因のひとつです。これらの疾患の予防・治療には、血管を拡げる薬(カルシウム拮抗薬など)が用いられていますが、より副作用の少ない新しい治療薬の開発が求められています。
研究グループは、米ぬかやコーヒーなどに含まれる天然の抗酸化成分「フェルラ酸」に着目し、ヒトの心臓の血管に構造がよく似たブタの冠動脈の収縮反応に対する影響を検討しました。その結果、さまざまな冠攣縮を誘発する生理活性物質(アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニン、プロスタグランジンF2α、エンドセリン-1など)による冠動脈の収縮反応を、フェルラ酸が強力に抑制することが明らかになりました。さらに、細胞レベルでの解析により、フェルラ酸が血管の平滑筋細胞におけるカルシウムの流入を抑えることも確認されました。特に、血管の収縮に関与する「L型Ca2+チャネル」の働きを弱めることで、細胞内に流れ込むカルシウム量を減らしていることが明らかになりました(図1)。一方、臨床で使用されている血管を拡げる薬(カルシウム拮抗薬)であるジルチアゼムと比較したところ、刺激条件によってはフェルラ酸の方が最大の冠動脈収縮抑制効果が大きい場合があることが分かりました。血管の収縮を実際に引き起こす仕組みである「ミオシン軽鎖リン酸化」について調べたところ、フェルラ酸がカルシウムの流入非依存的にこれを抑制することがわかりました(図1)。以上の結果から、L型Ca2+チャネルの抑制とミオシン軽鎖リン酸化の抑制の2つの異なる作用が複合的に働くことで、フェルラ酸は冠動脈の収縮を和らげると考えられました。
フェルラ酸は食品由来で安全性も高く、本研究成果は、心血管の健康維持を目的とした食品の開発や臨床応用に向けての一助となる可能性があります。
研究グループは、米ぬかやコーヒーなどに含まれる天然の抗酸化成分「フェルラ酸」に着目し、ヒトの心臓の血管に構造がよく似たブタの冠動脈の収縮反応に対する影響を検討しました。その結果、さまざまな冠攣縮を誘発する生理活性物質(アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニン、プロスタグランジンF2α、エンドセリン-1など)による冠動脈の収縮反応を、フェルラ酸が強力に抑制することが明らかになりました。さらに、細胞レベルでの解析により、フェルラ酸が血管の平滑筋細胞におけるカルシウムの流入を抑えることも確認されました。特に、血管の収縮に関与する「L型Ca2+チャネル」の働きを弱めることで、細胞内に流れ込むカルシウム量を減らしていることが明らかになりました(図1)。一方、臨床で使用されている血管を拡げる薬(カルシウム拮抗薬)であるジルチアゼムと比較したところ、刺激条件によってはフェルラ酸の方が最大の冠動脈収縮抑制効果が大きい場合があることが分かりました。血管の収縮を実際に引き起こす仕組みである「ミオシン軽鎖リン酸化」について調べたところ、フェルラ酸がカルシウムの流入非依存的にこれを抑制することがわかりました(図1)。以上の結果から、L型Ca2+チャネルの抑制とミオシン軽鎖リン酸化の抑制の2つの異なる作用が複合的に働くことで、フェルラ酸は冠動脈の収縮を和らげると考えられました。
フェルラ酸は食品由来で安全性も高く、本研究成果は、心血管の健康維持を目的とした食品の開発や臨床応用に向けての一助となる可能性があります。
発表雑誌
雑誌名
「Journal of Pharmacological Sciences」(2025年4月24日先行公開)
158巻3号、172–181
論文タイトル
Inhibitory effects of ferulic acid on the contraction responses of porcine coronary arteries: a comparison with diltiazem
著者
Kento Yoshioka, Keisuke Obara, Yilin Luo, Qianghaodi Hong, Ayaka Fujiwara, Wakaba Kinami,
Hideaki Ozawa, Yoshio Tanaka
DOI番号
10.1016/j.jphs.2025.04.006
論文URL
https://doi.org/10.1016/j.jphs.2025.04.006
「Journal of Pharmacological Sciences」(2025年4月24日先行公開)
158巻3号、172–181
論文タイトル
Inhibitory effects of ferulic acid on the contraction responses of porcine coronary arteries: a comparison with diltiazem
著者
Kento Yoshioka, Keisuke Obara, Yilin Luo, Qianghaodi Hong, Ayaka Fujiwara, Wakaba Kinami,
Hideaki Ozawa, Yoshio Tanaka
DOI番号
10.1016/j.jphs.2025.04.006
論文URL
https://doi.org/10.1016/j.jphs.2025.04.006
用語解説
(注1)フェルラ酸
米ぬかや小麦ふすま、コーヒーなどに含まれる植物由来の天然成分で、抗酸化作用があることで知られています。近年では、老化防止や動脈硬化の予防、認知機能の改善などへの効果が注目されています。
(注2)冠動脈
心臓のまわりを取り囲むように走っている血管で、心臓自身に酸素や栄養を届ける役割を果たします。この血管が狭くなったり、縮んだりすると、心臓の働きに支障をきたし、狭心症や心筋梗塞を引き起こすことがあります。
(注3)L型Ca2+チャネル
細胞の膜に存在する通り道で、細胞外からカルシウムイオンが流れ込むための入口(比較的長時間カルシウムの流入を持続させるタイプ、Long-lasting型)です。血管の平滑筋では、このチャネルからのカルシウム流入が収縮の引き金となります。これを抑えることで、血管を拡張させることができます。
(注4)ミオシン軽鎖リン酸化
筋肉や血管が収縮するときに関わる反応のひとつで、平滑筋が縮むためのスイッチのような働きを持っています。これを抑えることで、筋肉(ここでは血管平滑筋)の緊張をやわらげることができます。
米ぬかや小麦ふすま、コーヒーなどに含まれる植物由来の天然成分で、抗酸化作用があることで知られています。近年では、老化防止や動脈硬化の予防、認知機能の改善などへの効果が注目されています。
(注2)冠動脈
心臓のまわりを取り囲むように走っている血管で、心臓自身に酸素や栄養を届ける役割を果たします。この血管が狭くなったり、縮んだりすると、心臓の働きに支障をきたし、狭心症や心筋梗塞を引き起こすことがあります。
(注3)L型Ca2+チャネル
細胞の膜に存在する通り道で、細胞外からカルシウムイオンが流れ込むための入口(比較的長時間カルシウムの流入を持続させるタイプ、Long-lasting型)です。血管の平滑筋では、このチャネルからのカルシウム流入が収縮の引き金となります。これを抑えることで、血管を拡張させることができます。
(注4)ミオシン軽鎖リン酸化
筋肉や血管が収縮するときに関わる反応のひとつで、平滑筋が縮むためのスイッチのような働きを持っています。これを抑えることで、筋肉(ここでは血管平滑筋)の緊張をやわらげることができます。
添付資料

以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬理学教室
准教授 小原 圭将
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1331 FAX: 047-472-1435
E-mail: keisuke.obara[@]phar.toho-u.ac.jp
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
URL: www.toho-u.ac.jp
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