プレスリリース 発行No.1473 令和7年3月25日
3種類のボンベシン様ペプチドが精管平滑筋を収縮させることを発見
— ボンベシン様ペプチドが男性生殖機能と関連する可能性 —
— ボンベシン様ペプチドが男性生殖機能と関連する可能性 —
東邦大学薬学部薬理学教室の吉岡健人講師、小原圭将准教授、田中芳夫教授らの研究グループは、3種類のボンベシン様ペプチド[ニューロメジンB(NMB)、ガストリン放出ペプチド(GRP)、ニューロメジンC(NMC)]
(注1)が、モルモット精管平滑筋を収縮させることを発見しました。
この研究結果は、雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」に、2025年3月22日に公開されました。
(注1)が、モルモット精管平滑筋を収縮させることを発見しました。
この研究結果は、雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」に、2025年3月22日に公開されました。
発表者名
劉 鴿(東邦大学大学院薬学研究科医療薬学専攻 博士課程4年)
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 准教授)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 准教授)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)
発表のポイント
- 精管は、平滑筋で構成されている細長い管であり、主たる機能は精子の運搬です。精管を収縮させる生理活性物質の探求に関しては、1990年代までは盛んに研究が行われていましたが、それ以降は新規生理活性物質が次々と発見されているのにもかかわらず、それらの物質の精管での収縮活性は評価されていませんでした。
- 研究グループは、モルモット精管平滑筋標本を用いて、これまでに精管平滑筋で収縮作用の報告がなかった33種類の生理活性物質及びその関連薬(注2)を対象として、これらの物質の収縮作用を検討し、新たに3種類のボンベシン様ペプチド[ニューロメジンB(NMB)、ガストリン放出ペプチド(GRP)、ニューロメジンC(NMC)]が精管を収縮させることを見出しました。
- 本研究結果は、精管の運動機能にこれらのボンベシン様ペプチドが関与する可能性を示唆するものであり、ボンベシン様ペプチドの過剰産生・産生低下は、正常な精管の運動性を損なうことで男性不妊につながる可能性があります。
発表内容
精管は、平滑筋で構成されている細長い管であり、主たる機能は精子の運搬です。精管は、交感神経が密に分布しており、交感神経伝達物質であるノルアドレナリン(NA)やATPにより収縮反応を引き起こすことで、精子の運搬が行われることが古くから知られています。その後、1990年代までに、NAやATP以外にアセチルコリン、ドパミン、ヒスタミン、ブラジキニン、タキキニン類(ニューロキニンA、ニューロキニンB、サブスタンスP)が精管を収縮させることが明らかとなっています。ただし、1990年代以降、新規生理活性物質が次々と発見されているのにもかかわらず、精管におけるこれらの物質の収縮作用に関してはほとんど報告がありませんでした。
今回、研究グループは、モルモット精管平滑筋標本を用いて、これまでに精管平滑筋で収縮作用の報告がなかった33種類の生理活性物質及びその関連薬を対象として、これらの物質が精管平滑筋の収縮作用を示す可能性を探索することにしました。また、評価に先立ち、精管の収縮性を抑制性に制御しているK+チャネルを各種K+チャネル抑制薬を用いて特定することとしました。その結果、精管の収縮反応が大コンダクタンスCa2+活性化K+チャネル(BKCaチャネル)(注3)により抑制性に制御されていること[BKCaチャネルがNAやATPの受容体への刺激によって活性化される電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)(注4)を介した細胞外からのCa2+流入を抑制し、収縮を抑制していること]を明らかにするとともに、新たに3種類のボンベシン様ペプチド(NMB、GRP、NMC)に精管の収縮活性を見出すことに成功しました(図1、図2)。また、RT-qPCR法(注5)を用いた検討から、これらのペプチドの標的がボンベシンBB2受容体(GRP受容体)である可能性が示唆されました。これまでに、ボンベシン様ペプチドは、妊娠子宮で産生され、妊娠時の子宮の収縮を促進することが報告されており、女性生殖機能と関連する可能性が指摘されています。また、男性生殖器においても、精管にGRPを含有する神経束が存在すること、精巣でGRPが産生され、男性ホルモンであるテストステロンの分泌を促進することが報告されており、男性生殖機能に関与する可能性も指摘されています。
本研究結果は、精子を運搬する精管の運動機能にこれらのボンベシン様ペプチドが関与する可能性を示唆するものであり、ボンベシン様ペプチドの過剰産生・産生低下は、正常な精管の運動性を損なうことで男性不妊につながる可能性があります。
今回、研究グループは、モルモット精管平滑筋標本を用いて、これまでに精管平滑筋で収縮作用の報告がなかった33種類の生理活性物質及びその関連薬を対象として、これらの物質が精管平滑筋の収縮作用を示す可能性を探索することにしました。また、評価に先立ち、精管の収縮性を抑制性に制御しているK+チャネルを各種K+チャネル抑制薬を用いて特定することとしました。その結果、精管の収縮反応が大コンダクタンスCa2+活性化K+チャネル(BKCaチャネル)(注3)により抑制性に制御されていること[BKCaチャネルがNAやATPの受容体への刺激によって活性化される電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)(注4)を介した細胞外からのCa2+流入を抑制し、収縮を抑制していること]を明らかにするとともに、新たに3種類のボンベシン様ペプチド(NMB、GRP、NMC)に精管の収縮活性を見出すことに成功しました(図1、図2)。また、RT-qPCR法(注5)を用いた検討から、これらのペプチドの標的がボンベシンBB2受容体(GRP受容体)である可能性が示唆されました。これまでに、ボンベシン様ペプチドは、妊娠子宮で産生され、妊娠時の子宮の収縮を促進することが報告されており、女性生殖機能と関連する可能性が指摘されています。また、男性生殖器においても、精管にGRPを含有する神経束が存在すること、精巣でGRPが産生され、男性ホルモンであるテストステロンの分泌を促進することが報告されており、男性生殖機能に関与する可能性も指摘されています。
本研究結果は、精子を運搬する精管の運動機能にこれらのボンベシン様ペプチドが関与する可能性を示唆するものであり、ボンベシン様ペプチドの過剰産生・産生低下は、正常な精管の運動性を損なうことで男性不妊につながる可能性があります。
発表雑誌
-
雑誌名
「Biological and Pharmaceutical Bulletin」(2025年3月22日公開)
48巻3号、298-307
論文タイトル
Evidence showing bombesin-like peptides contract guinea pig vas deferens smooth muscle
著者
Ge Liu, Hiryu Fujita, Hayato Agui, Ayu Kato, Miwa Enomoto, Futaba Makino, Nana Yamada, Kento Yoshioka, Keisuke Obara, Yoshio Tanaka
DOI番号
10.1248/bpb.b24-00721
アブストラクトURL
https://doi.org/10.1248/bpb.b24-00721
用語解説
(注1)ボンベシン様ペプチド
ボンベシンはカエルの皮膚から発見された抗菌ペプチドです。その後の研究により、ボンベシンと類似したペプチドが哺乳類にも存在することが判明しました。哺乳類には、大きく分けると、2つのボンベシン様ペプチドが存在します。1つは、ニューロメジンB(NMB)であり、中枢神経系と消化管に存在し、ホルモンおよび神経ペプチドの分泌、胃酸分泌、子宮や消化管平滑筋の収縮などに関与することが知られています。もう1つは、ガストリン放出ペプチド(GRP)であり、消化管ホルモンであるガストリンの分泌を促進するほか、平滑筋細胞の収縮、上皮細胞の増殖、概日リズムの調節、かゆみなどに関与することが知られています。また、ニューロメジンC(NMC)は、GRPの活性断片です。これらのペプチドは、生殖機能に関与する可能性も指摘されています。
(注2)33種類の生理活性物質及びその関連薬
本研究では、3種類のボンベシン様ペプチド[ニューロメジンB(NMB)、ガストリン放出ペプチド(GRP)、ニューロメジンC(NMC)]のほかに以下に示す30種類の生理活性物質及びその関連薬の精管に対する収縮作用を検討しましたが、いずれも収縮作用は認められませんでした:12種類のペプチド(neuromedin U、neurotensin、orexin-A、glucagon-like peptide-1、glucose-dependent insulinotropic polypeptide、ghrelin、motilin、somatostatin、angiotensin II、atrial natriuretic peptide、endothelin-1、urotensin II)、5種類のアミノ酸及びその誘導体(dopamine、glycine、glutamic acid、serotonin、melatonin)、11種類のプロスタノイド/イソプロスタン関連薬(prostaglandin A2、prostaglandin B2、prostaglandin D2、prostaglandin E2、prostaglandin F2α、prostaglandin I2、U46619、8-iso-prostaglandin A2、8-iso-prostaglandin E2、
8-iso-prostaglandin F2α、unoprostone)、1種類の内因性カンナビノイド(2-arachidonoyl glycerol)、1種類のリン脂質(platelet-activating factor)。
(注3)大コンダクタンスCa2+活性化K+チャネル(BKCaチャネル)
大コンダクタンスCa2+活性化K+チャネル(large-conductance Ca2+-activated K+ channel: BKCaチャネル)は、細胞内から細胞外にK+を流出させる経路として機能するイオンチャネルの1つです。細胞内のCa2+濃度上昇と脱分極(細胞膜の電位が相対的にプラス側に傾くこと)により開口し、細胞の興奮を抑制します。平滑筋や神経における興奮制御に関わっており、BKCaチャネルを開口させる薬物が緑内障に対する治療薬として用いられています。また、サソリ毒であるイベリオトキシン(IbTX)によりその機能は抑制されます。
(注4)電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)
電位依存性Ca2+チャネル(voltage-dependent Ca2+ channel: VDCC)は、細胞外から細胞内にCa2+を流入させる経路として機能するイオンチャネルの1つです。神経伝達物質や生理活性ペプチドなどによりもたらされる細胞膜の膜電位変化により制御されており、脱分極(細胞膜の電位が相対的にプラス側に傾くこと)によって開口します。多くの平滑筋の収縮に関与しており、VDCCを抑制する薬物が高血圧症や排尿異常に対する治療薬として用いられています。
(注5)RT-qPCR法
定量的逆転写PCR法。組織や細胞での遺伝子[メッセンジャーRNA(mRNA)]発現レベルを定量的に測定することができます。ウイルスの検査にも用いられる方法です。
ボンベシンはカエルの皮膚から発見された抗菌ペプチドです。その後の研究により、ボンベシンと類似したペプチドが哺乳類にも存在することが判明しました。哺乳類には、大きく分けると、2つのボンベシン様ペプチドが存在します。1つは、ニューロメジンB(NMB)であり、中枢神経系と消化管に存在し、ホルモンおよび神経ペプチドの分泌、胃酸分泌、子宮や消化管平滑筋の収縮などに関与することが知られています。もう1つは、ガストリン放出ペプチド(GRP)であり、消化管ホルモンであるガストリンの分泌を促進するほか、平滑筋細胞の収縮、上皮細胞の増殖、概日リズムの調節、かゆみなどに関与することが知られています。また、ニューロメジンC(NMC)は、GRPの活性断片です。これらのペプチドは、生殖機能に関与する可能性も指摘されています。
(注2)33種類の生理活性物質及びその関連薬
本研究では、3種類のボンベシン様ペプチド[ニューロメジンB(NMB)、ガストリン放出ペプチド(GRP)、ニューロメジンC(NMC)]のほかに以下に示す30種類の生理活性物質及びその関連薬の精管に対する収縮作用を検討しましたが、いずれも収縮作用は認められませんでした:12種類のペプチド(neuromedin U、neurotensin、orexin-A、glucagon-like peptide-1、glucose-dependent insulinotropic polypeptide、ghrelin、motilin、somatostatin、angiotensin II、atrial natriuretic peptide、endothelin-1、urotensin II)、5種類のアミノ酸及びその誘導体(dopamine、glycine、glutamic acid、serotonin、melatonin)、11種類のプロスタノイド/イソプロスタン関連薬(prostaglandin A2、prostaglandin B2、prostaglandin D2、prostaglandin E2、prostaglandin F2α、prostaglandin I2、U46619、8-iso-prostaglandin A2、8-iso-prostaglandin E2、
8-iso-prostaglandin F2α、unoprostone)、1種類の内因性カンナビノイド(2-arachidonoyl glycerol)、1種類のリン脂質(platelet-activating factor)。
(注3)大コンダクタンスCa2+活性化K+チャネル(BKCaチャネル)
大コンダクタンスCa2+活性化K+チャネル(large-conductance Ca2+-activated K+ channel: BKCaチャネル)は、細胞内から細胞外にK+を流出させる経路として機能するイオンチャネルの1つです。細胞内のCa2+濃度上昇と脱分極(細胞膜の電位が相対的にプラス側に傾くこと)により開口し、細胞の興奮を抑制します。平滑筋や神経における興奮制御に関わっており、BKCaチャネルを開口させる薬物が緑内障に対する治療薬として用いられています。また、サソリ毒であるイベリオトキシン(IbTX)によりその機能は抑制されます。
(注4)電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)
電位依存性Ca2+チャネル(voltage-dependent Ca2+ channel: VDCC)は、細胞外から細胞内にCa2+を流入させる経路として機能するイオンチャネルの1つです。神経伝達物質や生理活性ペプチドなどによりもたらされる細胞膜の膜電位変化により制御されており、脱分極(細胞膜の電位が相対的にプラス側に傾くこと)によって開口します。多くの平滑筋の収縮に関与しており、VDCCを抑制する薬物が高血圧症や排尿異常に対する治療薬として用いられています。
(注5)RT-qPCR法
定量的逆転写PCR法。組織や細胞での遺伝子[メッセンジャーRNA(mRNA)]発現レベルを定量的に測定することができます。ウイルスの検査にも用いられる方法です。
添付資料

図1. 本研究成果の概要

図2. モルモット精管標本に対するニューロメジンB(NMB)、ガストリン放出ペプチド(GRP)、ニューロメジン
C(NMC)の収縮作用と大コンダクタンスCa2+活性化K+チャネル(BKCaチャネル)抑制薬の増強効果
Aa、Ab、Acはモルモット精管平滑筋に対するNMB(10−6 M、Aa)、GRP(10−8 M、Ab)、NMC(10−6 M、Ac)の収縮作用とその収縮作用に対するBKCaチャネル抑制薬であるイベリオトキシン(IbTX、10−7 M)の増強効果を示す代表的な実験結果を示し、Ba、Bb、Bcはこれらの実験結果のまとめ[収縮波形の面積値(AUC)]です。図中のwは洗滌操作を示します。検討した3種類のボンベシン様ペプチドは精管収縮作用を示し、これらの作用はBKCaチャネル抑制薬により強力に増強されました。
C(NMC)の収縮作用と大コンダクタンスCa2+活性化K+チャネル(BKCaチャネル)抑制薬の増強効果
Aa、Ab、Acはモルモット精管平滑筋に対するNMB(10−6 M、Aa)、GRP(10−8 M、Ab)、NMC(10−6 M、Ac)の収縮作用とその収縮作用に対するBKCaチャネル抑制薬であるイベリオトキシン(IbTX、10−7 M)の増強効果を示す代表的な実験結果を示し、Ba、Bb、Bcはこれらの実験結果のまとめ[収縮波形の面積値(AUC)]です。図中のwは洗滌操作を示します。検討した3種類のボンベシン様ペプチドは精管収縮作用を示し、これらの作用はBKCaチャネル抑制薬により強力に増強されました。
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬理学教室
准教授 小原 圭将
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1331 FAX: 047-472-1435
E-mail: keisuke.obara[@]phar.toho-u.ac.jp
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
URL:www.toho-u.ac.jp
※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。
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