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プレスリリース 発行No.1469 令和7年3月17日

日本においても神経性やせ症の若年患者が
COVID-19流行後に増加に転じたことを実証

 東邦大学医学部精神神経医学講座・社会実装精神医学講座 根本隆洋教授らのグループは、大規模診療データを用いて、日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行と神経性やせ症(ICD-10分類: F50.0)若年患者との関係性を検討し、COVID-19流行後に患者数が増加に転じていることを明らかにしました。

 本研究成果は、2025年3月3日に国際学術誌「Medicina(Lithuania)」に掲載されました。

発表者名

福屋 吉史(東邦大学医学部精神神経医学講座 助教)
宮村 慧太朗(隈病院 医員)
舩渡川 智之(東邦大学医学部精神神経医学講座 講師)
山口 大樹(東邦大学医学部精神神経医学講座 客員講師/GIVING TREE CLINIC)
片桐 直之(東邦大学医学部精神神経医学講座 准教授)
根本 隆洋(東邦大学医学部精神神経医学講座・社会実装精神医学講座 教授)

発表のポイント

  • COVID-19の流行後、欧米諸国から若年者の神経性やせ症の患者数が増加していることが報告されましたが、日本を含むアジア地域においては明らかになっていませんでした。
  • 今回の研究により、COVID-19の流行前の期間では神経性やせ症の若年患者数は経時的に減少傾向でしたが、流行後の期間では増加傾向にあることが明らかになりました。特に男性や低年齢群での増加率が高いことも
    分かりました。
  • 欧米諸国も同様の結果であり、社会や文化的な差異を超えた、COVID-19の流行およびCOVID-19流行後の生活様式の変化という、各国に共通する状況が神経性やせ症の発症に強く関連したと考えられます。また、本人の心理状態や家族および友人との関係性などが発症に関わるリスク要因として示唆されました。
  • 本研究の結果を踏まえ、今後、世界的な感染症の流行や甚大な災害時などの有事の際には、リスク要因に応じた介入を行い、重大な社会的損失を伴う神経性やせ症の発症を予防していくことが望まれます。

発表内容

 神経性やせ症は思春期から好発する精神疾患で、その症状は長期的な治療を要する場合が多く、経済的な面も含めて個人だけでなく社会に大きな影響を与えます。そのため、発症を予防し早期に介入していくことが必要であり、発症に関連する要因を明らかにすることが喫緊の課題となっています。
 2020年からCOVID-19が世界的に流行する中で、米国、カナダ、オーストラリアおよびヨーロッパ諸国から、COVID-19の流行後より若年の神経性やせ症の患者数が経時的に増加していることが報告されました。しかし、日本を含めたアジア諸国においては、神経性やせ症の若年患者数が経時的にどのように変化したかについては明らかになっていませんでした。そこで本研究グループは、大規模診療情報データを用い、日本でのCOVID-19の流行前後における神経性やせ症の若年患者の状況を明らかにすることを目的として研究を行いました。

 本研究では、リアルワールドデータ株式会社から提供を受けた大規模診療データベースを用いました。同データベースに登録されたわが国の医療機関の小児科、精神科および心療内科において、神経性やせ症と新規に診断された7歳~19歳の患者を対象としました。日本では2020年3月から5月までの臨時休校以降、子どもの生活様式が大幅に変化していることから、2020年3月以前をCOVID-19の流行前、同年5月以降を流行後と定義し分割時系列解析を行い、COVID-19流行前後に神経性やせ症と診断された若年患者数の経時的な変化を比較しました。

 その結果、COVID-19の流行前に神経性やせ症と診断された7~19歳の患者数は41人(1.08人/月)で、流行後に診断された患者数は34人(1.48人/月)でした。男女別では、男性の流行前が1人(0.03人/月)で流行後が5人(0.22人/月)であるのに対して、女性では流行前は40人(1.05人/月)で流行後が29人(1.26人/月)と、男性の増加率の方が高いことが分かりました。また、年齢別ではCOVID-19流行後に神経性やせ症と診断された7~14歳の患者数が15~19歳の患者数よりも多く、7~14歳の1か月あたりの患者数は流行前では0.74人/月であったのに対し、流行後は1.13人/月で約1.5倍の増加を認めました。
 分割時系列解析では、COVID-19の流行前の期間では神経性やせ症と診断された患者数は経時的に減少傾向でしたが、流行後の期間では増加傾向を認めました(図1)。図1では月別の神経性やせ症と診断された患者数を示し(〇印)、2020年3月の縦の一点鎖線は臨時休校開始の時期を示しています。実線は患者数の経時的な変化を示していますが、2020年3月以降、その実線の傾きはCOVID-19が起こらなかったと仮定したときの推計値(破線)よりも急になっています。
神経性やせ症と診断された若年患者数の経時的変化
図1.神経性やせ症と診断された若年患者数の経時的変化
  (一点鎖線は2020年3月の臨時休校開始の時期を示している)
 欧米諸国と同様にアジア地域に位置する日本においてもCOVID-19の流行後に若年者の神経性やせ症の患者数が増加していることから、これらの国々に共通するCOVID-19の流行そのものと、流行後の生活様式の変化が患者数増加に関与していると考えられます。また、欧米諸国と日本での結果が同様であったことから、これら国々の違いに基づく社会文化的な要因よりも、当人や家族および友人に関連するリスク要因(完璧主義や不安といった心理状態、および家族や友人らとの関係性の希薄化など)が、COVID-19流行後の神経性やせ症の発症により関与している可能性が考えられます。

 将来、世界的な感染症が流行した場合や甚大な災害等が生じた場合、COVID-19流行時と同様に生活様式が急激に変わり、そのような有事の際に、上記のリスク要因を考慮した介入を早期から行うことで、若年者の神経性やせ症の発症予防に繋がりうると考えられます。

 本研究は公益財団法人小児医学研究振興財団の助成(No.21-014)を受け、データベースに関してはリアルワールドデータ株式会社からデータの提供を受けて実施しました。

発表雑誌

    雑誌名
    「Medicina(Lithuania)」(2025年3月3日)

    論文タイトル
    Association of COVID-19 Pandemic with Newly Diagnosed Anorexia Nervosa Among Children and Adolescents in Japan

    著者
    Yoshifumi Fukuya, Keitaro Miyamura, Tomoyuki Funatogawa, Taiju Yamaguchi,Naoyuki Katagiri, and Takahiro Nemoto**責任著者)

    DOI番号
    10.3390/medicina61030445

    論文URL
    https://www.mdpi.com/1648-9144/61/3/445
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部精神神経医学講座・社会実装精神医学講座
教授 根本 隆洋

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151(代表)
E-mail: takahiro.nemoto[@]med.toho-u.ac.jp

【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
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