プレスリリース 発行No.1452 令和7年2月20日
高血圧予防・管理で脳心血管疾患死亡を4割抑制できると試算
~ 日本人7万人の10年追跡データで明らかに ~
~ 日本人7万人の10年追跡データで明らかに ~
発表のポイント
- 日本を代表する複数の疫学研究を統合したEPOCH-JAPAN研究において、7万人を10年間追跡し、現在用いられている血圧分類と脳心血管疾患死亡リスクを明らかにしました。
- 高血圧と脳心血管疾患死亡リスクの関連があり、その傾向は特に非高齢者で明瞭でした。
- 高血圧の予防・管理により、日本人の脳心血管疾患による死亡を41.1%減らせる可能性があることを示しました。
- 高血圧未治療者に限ると、高血圧の中でもI度高血圧という血圧が比較的低いレベルの集団のイベントが脳心血管疾患死亡の増加に最も寄与していました。
発表概要
東邦大学医学部社会医学講座医療統計学分野の村上義孝教授が研究代表者の共同研究であるEPOCH-JAPAN研究において、東北医科薬科大学医学部公衆衛生学・衛生学教室の佐藤倫広講師らのチームが、全国の疫学研究から得られた7万人の10年間追跡データを基に、日本高血圧学会が定める高血圧治療ガイドライン2019の血圧基準による脳心血管疾患死亡リスクを定量的に明らかにしました。
その結果、血圧分類が高くなると段階的に脳心血管疾患による死亡リスクが高くなっており、その傾向は非高齢者で明瞭でした。また、集団寄与危険割合という疫学指標をみると、高血圧は脳心血管疾患死亡の41.1%(非高齢者では51.3%、高齢者では29.5%)に寄与しており、高血圧の予防によりこれらの割合の脳心血管疾患死亡を減らせる可能性が示されました。
高血圧未治療者に限ると、I度高血圧の集団が脳心血管疾患死亡数の増加に最も寄与していました。これは、血圧が比較的低い集団を含めた集団全体の血圧を下げるというポピュレーションアプローチの重要性を示唆しています。
本研究成果は、2025年2月20日英国時間午前1時(日本時間午前10時)に国際学術誌「Hypertension Research」にオンライン版として掲載されました。なお、本論文は『東北大学2024年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』によりOpen Accessとなっています。
その結果、血圧分類が高くなると段階的に脳心血管疾患による死亡リスクが高くなっており、その傾向は非高齢者で明瞭でした。また、集団寄与危険割合という疫学指標をみると、高血圧は脳心血管疾患死亡の41.1%(非高齢者では51.3%、高齢者では29.5%)に寄与しており、高血圧の予防によりこれらの割合の脳心血管疾患死亡を減らせる可能性が示されました。
高血圧未治療者に限ると、I度高血圧の集団が脳心血管疾患死亡数の増加に最も寄与していました。これは、血圧が比較的低い集団を含めた集団全体の血圧を下げるというポピュレーションアプローチの重要性を示唆しています。
本研究成果は、2025年2月20日英国時間午前1時(日本時間午前10時)に国際学術誌「Hypertension Research」にオンライン版として掲載されました。なお、本論文は『東北大学2024年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』によりOpen Accessとなっています。
研究背景
高血圧は世界的に脳心血管疾患の主要なリスク要因として知られており、その予防と管理は現代の医療における重要な課題となっています。全国の循環器疾患に関わるコホート研究データを統合したEPOCH-JAPAN研究(注1)は、過去に血圧と脳心血管疾患死亡リスクとの関連を示しており、これが高血圧治療ガイドラインの疫学データの主体として参照されていました。本研究では、更新されたEPOCH-JAPAN研究データを用い、現在の基準値に従った血圧分類と脳心血管疾患死亡リスクとの関連を解析することで、現状のエビデンスのアップデートを試みました。
研究成果
日本で実施される10の疫学研究(コホート研究)データを統合し、7万人(平均年齢59.1歳、女性57.1%)を対象としたデータを解析しました。追跡期間は平均9.9年間であり、脳心血管疾患死亡が2,304例含まれる統合データでした。
高血圧治療が未治療の者に限って解析したところ、高い血圧分類になるに従い脳心血管疾患死亡リスクが段階的に増加しており、これは特に非高齢者で明瞭でした。集団寄与危険割合(注2)という統計量を求めたところ、I度高血圧の集団が脳心血管疾患死亡数の増加に最も寄与していました(図)。高血圧治療者を高血圧群に含めて高血圧によって引き起こされた脳心血管疾患死亡の割合は全体では41.1%、非高齢者である40-64歳では51.3%、高齢者である65-89歳は29.5%と推算されました。つまり、高血圧を予防することでこれらの割合の脳心血管疾患死亡を抑制できると考えられます。
高血圧治療が未治療の者に限って解析したところ、高い血圧分類になるに従い脳心血管疾患死亡リスクが段階的に増加しており、これは特に非高齢者で明瞭でした。集団寄与危険割合(注2)という統計量を求めたところ、I度高血圧の集団が脳心血管疾患死亡数の増加に最も寄与していました(図)。高血圧治療者を高血圧群に含めて高血圧によって引き起こされた脳心血管疾患死亡の割合は全体では41.1%、非高齢者である40-64歳では51.3%、高齢者である65-89歳は29.5%と推算されました。つまり、高血圧を予防することでこれらの割合の脳心血管疾患死亡を抑制できると考えられます。

疾患別の分析では、特に脳出血による死亡において高血圧の影響が顕著でした。データ解析の結果、脳出血による死亡の57.1%が高血圧に起因すると推定されました。脳出血は特にアジア人種で多い脳心血管疾患であり、日本人においても血圧管理が極めて重要であることを示唆しています。
社会的インパクト
本研究により、現在の血圧基準による脳心血管疾患死亡リスクが明らかになり、特に若年・中年期からの血圧管理の重要性が示されました。高血圧の中でも比較的血圧が低い群が脳心血管疾患死亡数の増加に強く寄与していたことは、血圧が低い集団を含めた集団全体の血圧を下げるというポピュレーションアプローチの重要性を示しています。医療現場での血圧管理や生活習慣改善の指導、さらには公衆衛生施策の立案にこれらの知見が活用されることが期待されます。
今後の展開
今後は、追跡中の治療状況、家庭血圧などの非医療環境下で得られる精密な血圧データ、そして現代の生活習慣を反映したデータを考慮することで、高血圧の疾患への影響をより正確に明らかにできる可能性があります。これらの研究を通じて、日本人の脳心血管疾患予防に向けたより効果的な対策の提案につなげていきたいと考えています。
本研究は、厚生労働科学研究費補助金(研究事業:H17-健康-007;循環器疾患生活習慣病対策総合研究事業:H18-循環器[政策]-一般-012;H19-循環器[政策]-一般-012;H20-循環器[政策]-一般-013;H23-循環器[政策]-一般-005;H26-循環器[政策]-一般-001;H29-循環器-一般-003;20FA1002、及び23FA1006)による支援を受けて実施されました。
発表雑誌
雑誌名
「Hypertension Research」(2025年2月20日)
論文タイトル
Long-term risk of cardiovascular mortality according to age group and blood pressure categories of the latest guideline (年齢別にみる最新の血圧分類と脳心血管疾患死亡の長期リスク)
著者
Michihiro Satoh, Takayoshi Ohkubo, Katsuyuki Miura, Akiko Harada, Anna Tsutsui, Atsushi Hozawa, Yuji Shimizu, Shizukiyo Ishikawa, Yoshihiro Kokubo, Tomonori Okamura, Yoshitaka Murakami on behalf of the Evidence for Cardiovascular Prevention from Observational Cohorts in Japan (EPOCH-JAPAN) Research Group
DOI番号
10.1038/s41440-025-02151-w
論文URL
https://www.nature.com/articles/s41440-025-02151-w
「Hypertension Research」(2025年2月20日)
論文タイトル
Long-term risk of cardiovascular mortality according to age group and blood pressure categories of the latest guideline (年齢別にみる最新の血圧分類と脳心血管疾患死亡の長期リスク)
著者
Michihiro Satoh, Takayoshi Ohkubo, Katsuyuki Miura, Akiko Harada, Anna Tsutsui, Atsushi Hozawa, Yuji Shimizu, Shizukiyo Ishikawa, Yoshihiro Kokubo, Tomonori Okamura, Yoshitaka Murakami on behalf of the Evidence for Cardiovascular Prevention from Observational Cohorts in Japan (EPOCH-JAPAN) Research Group
DOI番号
10.1038/s41440-025-02151-w
論文URL
https://www.nature.com/articles/s41440-025-02151-w
用語解説
(注1)EPOCH-JAPAN
(Evidence for Cardiovascular Prevention from Observational Cohorts in Japan)研究
日本全国の複数の循環器疾患コホート研究のデータを統合した研究プロジェクト。
現在は10以上の集団のデータが集約され、統合されています。
(注2)集団寄与危険割合
高血圧のようなリスク要因によって、集団全体でどれだけの罹患者が増えていたかを示す指標であり、予防医学において重要な指標です。
(Evidence for Cardiovascular Prevention from Observational Cohorts in Japan)研究
日本全国の複数の循環器疾患コホート研究のデータを統合した研究プロジェクト。
現在は10以上の集団のデータが集約され、統合されています。
(注2)集団寄与危険割合
高血圧のようなリスク要因によって、集団全体でどれだけの罹患者が増えていたかを示す指標であり、予防医学において重要な指標です。
以上
お問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ】
東北医科薬科大学 医学部衛生学・公衆衛生学教室
東北大学東北メディカル・メガバンク機構 予防医学・疫学部門個別化予防・疫学分野兼任
講師 佐藤 倫広
〒983-8536 宮城県仙台市宮城野区福室1-15-1 第1教育研究棟
TEL:022-290-8727 FAX:022-290-8728
E-mail:satoh.mchr[@]tohoku-mpu.ac.jp
東邦大学 医学部社会医学講座医療統計学分野
教授 村上 義孝
〒143-8540 東京都大田区大森西5-21-16
TEL:03-3762-4151 FAX:03-5493-5416
E-mail:yoshitaka.murakami[@]med.toho-u.ac.jp
※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。
【報道に関するお問い合わせ】
学校法人東北医科薬科大学 学務部入試・広報課
TEL:022-727-0357 FAX:022-727-2383
E-mail: koho[@]tohoku-mpu.ac.jp
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
TEL: 03-5763-6583 FAX :03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
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