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プレスリリース 発行No.1444 令和7年1月24日

高血圧、肥満、喫煙、糖尿病の影響で健康寿命が10年短縮!
~ 日本人を対象とした20年の追跡データから明らかになった健康リスク ~

発表のポイント

  • NIPPON DATA90の20年間追跡データを分析し、日本人における血圧、肥満度、喫煙状況、糖尿病の組み合わせが65歳健康寿命に与える影響を明らかにしました。
  • II/III度高血圧、肥満、現在喫煙、糖尿病の全てに該当するグループの65歳健康寿命は、これら危険因子を全く持たないグループと比べて、男性で9.7年、女性で10.1年短いことが明らかになりました。
  • 本研究成果は、健診結果を活用した保健指導や診療での生活習慣改善・治療の動機づけ、また各自治体の健康づくり活動への応用が期待されます。

発表概要

 東京科学大学(Science Tokyo)大学院保健衛生学研究科 公衆衛生看護学分野の月野木ルミ教授、東邦大学医学部社会医学講座 医療統計学分野の村上義孝教授、滋賀医科大学NCD疫学研究センターの三浦克之教授らの研究チームは、NIPPON DATA90(注1)の全国300地区、約7,000人を対象にした20年間追跡データを基に、日本人における血圧値、肥満度、喫煙状況、糖尿病の組み合わせが65歳健康寿命(注2)に与える影響について検討しました。65歳健康寿命は、多相生命表法(注3)を用いて算出しました。

 その結果、II/III度高血圧(血圧160/100以上)、肥満(BMI 30以上)、現在喫煙、糖尿病の全てに該当する男性の65歳健康寿命は、これらの危険因子を全く持たない男性と比べて9.7年短いことが分かりました。同様に、II/III度高血圧、肥満、現在喫煙、糖尿病の全てに該当する女性の65歳健康寿命は、これらの危険因子を全く持たない女性と比べて10.1年短いことが明らかになりました。

 健康寿命の延伸は、国が推進する「健康日本21(第三次)」の主要目標の一つです。本研究では、日本人集団における非感染性疾患の主要危険因子である血圧、肥満度、喫煙状況、糖尿病の集積度に応じた65歳健康寿命を、192通りの体系的なチャートとして示しました。本研究成果は、健診結果に基づく保健指導や診療での活用、さらには各自治体が「健康日本21(第三次)」に基づいて行う健康づくりの取り組みにおける活用が期待されます。

 本成果は、日本疫学会の国際学術雑誌「Journal of Epidemiology」において、2025年1月10日にオンライン版として掲載されました。
血圧、肥満度、喫煙、糖尿病の組み合わせが与える65歳健康寿命への影響
図1. 血圧、肥満度、喫煙、糖尿病の組み合わせが与える65歳健康寿命への影響(NIPPON DATA 90)

研究背景

 健康寿命は、死亡率や有病率の情報を組み込んだ包括的な健康指標であり、平均寿命の延伸を達成した先進国において、国民の健康状態を示す重要な指標となっています。世界的な長寿を誇る日本において、健康寿命の延伸は、国が推進する「健康日本21(第三次)」の主要目標です。

 健康寿命に影響を与える非感染性疾患(NCDs)の予防および進展防止には、高血圧、肥満、喫煙、糖尿病といった危険因子が重要な役割を果たします。これまでの研究では、NCDsに関連する危険因子の保有数と健康寿命との関連を示す成果が欧米諸国から報告されてきました。しかし、関連要因の保有数のみを検討するアプローチでは、どの要因がどの程度健康寿命に影響を与えるかを正確に評価するには限界がありました。また、NCDsの関連要因である血圧、肥満度、喫煙、糖尿病の組み合わせが健康寿命に与える影響については、アジア諸国での知見がほとんどありませんでした。

研究成果

 本研究では、NIPPON DATA90の全国300地区、約7,000人を対象にした20年間の追跡データを分析しました。
 II/III度高血圧(収縮期血圧 ≥ 160 mmHg かつ/または 拡張期血圧 ≥ 100 mmHg)、肥満(Ⅱ度:BMI ≥ 30.0 kg/m2)、現在喫煙、糖尿病(HbA1c ≥ 6.5%、かつ/または 糖尿病治療中)を全て併せ持つ男性の65歳健康寿命(12.9年、95%信頼区間[CIs]: 12.9-13.0歳)は、これらの危険因子を全く持たない男性(健康寿命:22.6歳、95%CIs:22.4-22.8歳)と比べて9.7年短いことが分かりました。
 同様に、II/III度高血圧、肥満、現在喫煙、糖尿病を全て併せ持つ女性の65歳健康寿命(16.2年、95%CI:15.9-16.5年)は、これらの危険因子を全く持たない女性(健康寿命:26.3年、95%CI:26.3-26.3年)と比べて10.1年短いことが明らかになりました。
 また、各危険因子と健康寿命の関連を検討した結果、高血圧、現在喫煙、糖尿病は健康寿命の短縮に大きく影響していることが分かりました。一方で、肥満度については、低体重が健康寿命の短縮に影響を及ぼしていました。低体重は、病気による体重減少を反映している場合があるためです。肥満については、普通体重と同程度の健康寿命であることが確認されましたが、この結果は、日本人における肥満者の割合が欧米と比べて少ないため、明確な影響が表れにくかった可能性があります。そのため、結果の解釈には十分な注意が必要です。

社会的インパクト

 健康寿命の延伸は、国が推進する「健康日本21(第三次)」の主要目標の一つです。本研究成果は、健診結果を基にした保健指導や診療における生活習慣の改善および治療への動機づけに役立つことが期待されます。また、「健康日本21(第三次)」に基づき、各自治体が実施するさまざまな健康づくりの取り組みにおいても、本研究成果が効果的に活用されることが見込まれます。

今後の展開

 本研究で示した、血圧、肥満度、喫煙、糖尿病の192通りの組み合わせ別に健康寿命を示したチャートを活用し、保健指導や診療の場面での具体的な取り組みを推進することで、国民の健康増進を図ることを目指しています。
 また、本研究で用いたNCDsの主要危険因子以外にも、健康寿命に影響を与える要因は多岐にわたることが知られています。今後もこれらの要因が健康寿命に与える影響について検討を進め、得られた知見を基に、世界的な長寿国である日本からエビデンスを発信し続けていきたいと考えています。
 
 本研究は、厚生労働科学研究費補助金(7A-2, H11-Chouju-046, H14-Chouju-003, H17-Chouju-012, H19-Chouju-Ippan-014, H22-Junkankitou-Seishuu-Sitei-017, H25-Junkankitou-Seishuu-Sitei-022, H30-Junkankitou-Sitei-002,21FA2002, 22FA2001, 24FA1013)と科学研究費日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(20H04026)の助成を受けて実施されました。

発表者名

月野木 ルミ(東京科学大学大学院保健衛生学研究科 公衆衛生看護学分野 教授)
村上 義孝(東邦大学医学部社会医学講座医療統計学分野 教授)
三浦 克之(滋賀医科大学NCD疫学研究センター センター長・教授)

用語解説

(注1)NIPPON DATA90
日本人の健康寿命や生活習慣病に影響を与える要因の解明を目指した日本人代表集団のコホート研究である。対象者は、1990年に国が実施した循環器疾患基礎調査および国民栄養調査の参加者で、全国から無作為抽出された300地区の一般国民である。5年ごとの追跡調査で、生死と死因の追跡、および日常生活動作(ADL, activities of daily living)、生活の質(QOL, quality of life)等を調査している。本論文では2010年まで20年間追跡したデータを分析した。NIPPON DATA研究は現在、厚生労働行政推進調査事業費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「国民健康・栄養調査対象集団の新旧コホート研究による健康日本21(第三次)推進のエビデンス構築:NIPPON DATA80/90/2010(24FA2002)」(研究代表者:三浦克之)(厚生労働省指定研究)により実施されている。NIPPON DATA研究については下記ホームページ参照。
https://shiga-publichealth.jp/nippon-data/

(注2)健康寿命
「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のこと。健康寿命は様々な定義や算出方法があるが、健康日本21では、「日常生活に制限があること」を不健康と定義し、国民生活基礎調査をもとに算出する。NIPPON DATA 90ではKatz ADL index(カッツ日常生活動作)を用いて評価した。

(注3)多相生命表(Multi-state life table)
障害なし、障害あり、死亡の 3 相を設定し、相間の推移にマルコフモデルなど想定して平均寿命などの寿命計算する手法。

発表雑誌

雑誌名
「Journal of Epidemiology」(2025年1月10日)

論文タイトル
Comprehensive assessment of the impact of blood pressure, body mass index, smoking, and diabetes on healthy life expectancy in Japan: NIPPON DATA90

著者
Tsukinoki R, Murakami Y, Hayakawa T, Kadota A, Harada A, Kita Y, Okayama A, Miura K, Okamura T, Ueshima H, for the NIPPON DATA90 Research Group

DOI番号
10.2188/jea.JE20240298

アブストラクトURL
https://doi.org/10.2188/jea.JE20240298
以上

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
東京科学大学大学院保健衛生学研究科公衆衛生看護学分野 
教授 月野木 ルミ

E-mail: r-tsukinoki.phn[@]tmd.ac.jp

東邦大学医学部社会医学講座医療統計学分野 
教授 村上 義孝

E-mail:yoshitaka.murakami[@]med.toho-u.ac.jp

滋賀医科大学NCD疫学研究センター
センター長・教授 三浦 克之

E-mail:miura[@]belle.shiga-med.ac.jp

※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。

【報道に関するお問い合わせ】
東京科学大学 総務企画部 広報課

TEL: 03-5734-2975 FAX: 03-5734-3661
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滋賀医科大学 総務企画課広報係
TEL: 077-548-2012
E-mail: hqkouhou[@]belle.shiga-med.ac.jp

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