プレスリリース 発行No.1437 令和6年12月25日
前頭側頭葉変性症の発症メカニズムを解明
~ 神経発生期におけるVCP遺伝子の機能喪失が発症の原因となる ~
~ 神経発生期におけるVCP遺伝子の機能喪失が発症の原因となる ~
東邦大学理学部の曽根雅紀准教授の研究グループは、東京科学大学の岡澤均教授の研究グループおよびオランダ・マーストリヒト大学との共同研究で、ショウジョウバエモデルを用いた研究から、VCP遺伝子の変異によって生じる前頭側頭葉変性症の発症メカニズムを解明しました。この発見により、前頭側頭葉変性症の治療法開発の基礎となる知見が明らかにされました。
本研究は日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究C)および東京科学大学・難治疾患共同研究拠点などの支援のもとで行われたものです。
この研究成果は2024年12月23日に国際科学誌「Disease Models & Mechanisms」にて発表されました。
本研究は日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究C)および東京科学大学・難治疾患共同研究拠点などの支援のもとで行われたものです。
この研究成果は2024年12月23日に国際科学誌「Disease Models & Mechanisms」にて発表されました。
発表者名
妻木 廣平(東邦大学大学院理学研究科生物分子科学専攻 博士前期課程 2014年度修了)
Christian JF Bertens(東邦大学大学院理学研究科生物分子科学専攻 博士前期課程2015年度修了、
マーストリヒト大学大学院 2015年度修了)
中山 実(研究当時:東邦大学理学部生物分子科学科 博士研究員)
加藤 さや(東邦大学理学部生物分子科学科 2021年度卒)
城直 優希(東邦大学理学部生物分子科学科 2022年度卒)
栗林 步優(東邦大学理学部生物分子科学科4年)
佐藤 光之介(東邦大学大学院理学研究科生物分子科学専攻 博士前期課程 2年)
石山 勝太(東邦大学大学院理学研究科生物分子科学専攻 博士前期課程 2023年度修了)
浅川 萌々子(東邦大学理学部生物分子科学科 2023年度卒)
藍原 莉子(東邦大学理学部生物分子科学科 2023年度卒)
吉岡 優希(東京科学大学難治疾患研究所 特任助教)
本間 秀典(東京科学大学難治疾患研究所 プロジェクト准教授)
田中 ひかり(東京科学大学難治疾患研究所 講師)
藤田 慶大(東京科学大学難治疾患研究所 非常勤講師)
岡澤 均(東京科学大学難治疾患研究所 教授)
曽根 雅紀(東邦大学理学部生物分子科学科 准教授)
Christian JF Bertens(東邦大学大学院理学研究科生物分子科学専攻 博士前期課程2015年度修了、
マーストリヒト大学大学院 2015年度修了)
中山 実(研究当時:東邦大学理学部生物分子科学科 博士研究員)
加藤 さや(東邦大学理学部生物分子科学科 2021年度卒)
城直 優希(東邦大学理学部生物分子科学科 2022年度卒)
栗林 步優(東邦大学理学部生物分子科学科4年)
佐藤 光之介(東邦大学大学院理学研究科生物分子科学専攻 博士前期課程 2年)
石山 勝太(東邦大学大学院理学研究科生物分子科学専攻 博士前期課程 2023年度修了)
浅川 萌々子(東邦大学理学部生物分子科学科 2023年度卒)
藍原 莉子(東邦大学理学部生物分子科学科 2023年度卒)
吉岡 優希(東京科学大学難治疾患研究所 特任助教)
本間 秀典(東京科学大学難治疾患研究所 プロジェクト准教授)
田中 ひかり(東京科学大学難治疾患研究所 講師)
藤田 慶大(東京科学大学難治疾患研究所 非常勤講師)
岡澤 均(東京科学大学難治疾患研究所 教授)
曽根 雅紀(東邦大学理学部生物分子科学科 准教授)
発表のポイント
- VCP遺伝子の変異によって生じる前頭側頭葉変性症の発症メカニズムを解明した。
- VCP遺伝子の生理的機能喪失によって引き起こされる、発生期における神経幹細胞の増殖異常が
神経変性症状の原因となることを明らかにした。 - 今後の前頭側頭葉変性症の治療法開発に資する基礎的な知見が解明された。
発表概要
前頭側頭葉変性症(前頭側頭型認知症)は、アルツハイマー病およびレビー小体型認知症に次ぐ有病率を示す認知症の原因疾患です。VCP(valosin-containing protein)遺伝子に変異が生じると遺伝性の前頭側頭葉変性症の原因となることが知られており、これまでに、東京科学大学の岡澤均教授の研究グループは、東邦大学の曽根准教授の研究グループなどとの共同研究によって、マウスモデルを用いた研究から、前頭側頭葉変性症胎児期のDNA損傷が数十年後の発症に影響を与えることを明らかにしてきました(Homma et al., Life Sci. Alliance 2021)。
今回、研究グループは、ショウジョウバエモデル(注1)を用いた研究によって、VCP遺伝子の生理的機能喪失によって引き起こされる、神経発生期における神経幹細胞の増殖異常が、神経変性症状の原因となっていることを明らかにしました。本研究によって明らかになった前頭側頭葉変性症の発症メカニズムは、今後の治療法開発に向けた基礎的知見となるものです。
今回、研究グループは、ショウジョウバエモデル(注1)を用いた研究によって、VCP遺伝子の生理的機能喪失によって引き起こされる、神経発生期における神経幹細胞の増殖異常が、神経変性症状の原因となっていることを明らかにしました。本研究によって明らかになった前頭側頭葉変性症の発症メカニズムは、今後の治療法開発に向けた基礎的知見となるものです。
発表内容
VCP遺伝子にミスセンス変異(注2)が生じると、遺伝性の前頭側頭葉変性症の原因となることが知られていますが、変異が生じることで、VCP遺伝子から作られるVCPタンパク質の働き(生理的機能)にどのような変化が生じるのかが、これまでに十分に明らかになっていませんでした。VCPタンパク質は、細胞内のATPを分解してエネルギーを取り出す役割を持っています。変異型VCPは、試験管内で行った実験ではATP分解酵素としての活性が上昇していたため、変異が生じることによる酵素活性の上昇が疾患発症の原因ではないかと考えられてきました。
本研究では、まず、ショウジョウバエにRNAi法(注3)を用いて、VCP相同遺伝子の発現量(VCPタンパク質の合成量)を低下させることにより、脳萎縮、個体死亡、複眼の形態異常などの神経変性疾患のショウジョウバエモデルにおいて見られる症状が観察されることを見出しました。このことから、これまでに考えられていたようなVCPタンパク質の酵素活性の上昇ではなく、VCPタンパク質の細胞内での働きが低下することが疾患発症の原因となっている可能性が考えられました。
さらに、VCP遺伝子の発現量を低下させたショウジョウバエに遺伝子操作の手法を用いて正常なVCP遺伝子の発現量を増加させる実験を行ったところ、神経変性症状がほぼ正常に回復しました。つづいて、VCP遺伝子の発現量を低下させたショウジョウバエにおいて、疾患型の変異を持つVCP遺伝子の発現量を増加させたところ、神経変性症状が限定的にしか回復しませんでした。このことから、疾患型変異を有するVCPタンパク質は、生理的機能(本来細胞の中で果たしている役割)を喪失していることが証明されました。
また、本研究においては、VCP遺伝子の発現量を低下させたショウジョウバエの表現型の詳しい観察などから、神経発生期(蛹期)における神経幹細胞の増殖異常が神経変性症状の原因となっていることも明らかになりました。
以上の結果から、今後の前頭側頭葉変性症の治療法開発の基礎となることが明らかとなりました。
本研究では、まず、ショウジョウバエにRNAi法(注3)を用いて、VCP相同遺伝子の発現量(VCPタンパク質の合成量)を低下させることにより、脳萎縮、個体死亡、複眼の形態異常などの神経変性疾患のショウジョウバエモデルにおいて見られる症状が観察されることを見出しました。このことから、これまでに考えられていたようなVCPタンパク質の酵素活性の上昇ではなく、VCPタンパク質の細胞内での働きが低下することが疾患発症の原因となっている可能性が考えられました。
さらに、VCP遺伝子の発現量を低下させたショウジョウバエに遺伝子操作の手法を用いて正常なVCP遺伝子の発現量を増加させる実験を行ったところ、神経変性症状がほぼ正常に回復しました。つづいて、VCP遺伝子の発現量を低下させたショウジョウバエにおいて、疾患型の変異を持つVCP遺伝子の発現量を増加させたところ、神経変性症状が限定的にしか回復しませんでした。このことから、疾患型変異を有するVCPタンパク質は、生理的機能(本来細胞の中で果たしている役割)を喪失していることが証明されました。
また、本研究においては、VCP遺伝子の発現量を低下させたショウジョウバエの表現型の詳しい観察などから、神経発生期(蛹期)における神経幹細胞の増殖異常が神経変性症状の原因となっていることも明らかになりました。
以上の結果から、今後の前頭側頭葉変性症の治療法開発の基礎となることが明らかとなりました。
発表雑誌
-
雑誌名
「Disease Models & Mechanisms」(2024年12月23日)
論文タイトル
Loss of function of VCP/TER94 causes neurodegeneration
著者
Kohei Tsumaki, Christian J. F. Bertens, Minoru Nakayama, Saya Kato, Yuki Jonao, Ayu Kuribayashi, Konosuke Sato, Shota Ishiyama, Momoko Asakawa, Riko Aihara, Yuki Yoshioka, Hidenori Homma, Hikari Tanaka, Kyota Fujita, Hitoshi Okazawa, Masaki Sone*
DOI番号
10.1242/dmm.050359
論文URL
https://doi.org/10.1242/dmm.050359
用語解説
(注1)ショウジョウバエモデル
ショウジョウバエは、20世紀初頭より遺伝や遺伝子の研究に広く使われてきたモデル動物であり、最近では、ヒトの遺伝性疾患の研究にも広く用いられている。ヒトとショウジョウバエとは進化的にある程度離れているが、左右相称動物の共通祖先に由来する共通の遺伝子を持っていることが多く、ヒトとショウジョウバエの同じ遺伝子(「相同遺伝子」という)の働きはよく似ていることが多い。ショウジョウバエを用いてヒトの病気の研究をするためには、大別して二つの方法がある。一つは、ヒトの病気を引き起こす原因遺伝子を遺伝子組換えの技術を用いてハエに組み込む方法であり、ヒトの病気と似た症状を示すことが多い(例:Furotani et al., PLoS One, 2018)。もう一つの方法は、ヒトの病気を引き起こす原因遺伝子と相同なショウジョウバエの遺伝子を研究する方法である。
(注2)ミスセンス変異
ある遺伝子のDNA塩基配列の一部が変化したために、DNAから転写・翻訳によって作られるタンパク質のアミノ酸配列が変化し、あるひとつのアミノ酸が別のアミノ酸に置換してしまうような変異のこと。あるひとつのタンパク質は、一般に、数百個以上のアミノ酸がつながったものであるが、そのうちのたったひとつのアミノ酸が別のアミノ酸に変わっただけで、タンパク質全体の働き(機能)が大きく変化し、病気の原因となることがある。特に、変異によってタンパク質が本来細胞の中で果たしている役割を果たせなくなってしまうような変異のことを「機能喪失変異」という。
(注3)RNAi法
細胞の中で、二本鎖RNAを発現させると、同じ配列をもつメッセンジャーRNAを切断する作用を示し、その遺伝子の働きを抑制する現象。RNAiの発見者は2006年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。本研究においては、VCP遺伝子の一部の配列に対して、ショウジョウバエの神経細胞の中で二本鎖RNAを発現させ、VCP遺伝子のメッセンジャーRNAを切断させることによって、VCP遺伝子から本来転写・翻訳によって作られるべきVCPタンパク質の合成量を減らし、それがどのような表現型(症状)を生み出すのかを調べた。
ショウジョウバエは、20世紀初頭より遺伝や遺伝子の研究に広く使われてきたモデル動物であり、最近では、ヒトの遺伝性疾患の研究にも広く用いられている。ヒトとショウジョウバエとは進化的にある程度離れているが、左右相称動物の共通祖先に由来する共通の遺伝子を持っていることが多く、ヒトとショウジョウバエの同じ遺伝子(「相同遺伝子」という)の働きはよく似ていることが多い。ショウジョウバエを用いてヒトの病気の研究をするためには、大別して二つの方法がある。一つは、ヒトの病気を引き起こす原因遺伝子を遺伝子組換えの技術を用いてハエに組み込む方法であり、ヒトの病気と似た症状を示すことが多い(例:Furotani et al., PLoS One, 2018)。もう一つの方法は、ヒトの病気を引き起こす原因遺伝子と相同なショウジョウバエの遺伝子を研究する方法である。
(注2)ミスセンス変異
ある遺伝子のDNA塩基配列の一部が変化したために、DNAから転写・翻訳によって作られるタンパク質のアミノ酸配列が変化し、あるひとつのアミノ酸が別のアミノ酸に置換してしまうような変異のこと。あるひとつのタンパク質は、一般に、数百個以上のアミノ酸がつながったものであるが、そのうちのたったひとつのアミノ酸が別のアミノ酸に変わっただけで、タンパク質全体の働き(機能)が大きく変化し、病気の原因となることがある。特に、変異によってタンパク質が本来細胞の中で果たしている役割を果たせなくなってしまうような変異のことを「機能喪失変異」という。
(注3)RNAi法
細胞の中で、二本鎖RNAを発現させると、同じ配列をもつメッセンジャーRNAを切断する作用を示し、その遺伝子の働きを抑制する現象。RNAiの発見者は2006年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。本研究においては、VCP遺伝子の一部の配列に対して、ショウジョウバエの神経細胞の中で二本鎖RNAを発現させ、VCP遺伝子のメッセンジャーRNAを切断させることによって、VCP遺伝子から本来転写・翻訳によって作られるべきVCPタンパク質の合成量を減らし、それがどのような表現型(症状)を生み出すのかを調べた。
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生物分子科学科
准教授 曽根 雅紀
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
E-mail: masaki.sone[@]sci.toho-u.ac.jp
URL:https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/biomol/sone/index.html
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