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プレスリリース 発行No.1421 令和6年11月8日

ナノスケールのリアルタイム観察により
翻訳後修飾因子UBL3の輸送経路を解明
~ がん転移や神経変性疾患に対する新たな治療戦略への応用に期待 ~

 東邦大学理学部生物分子科学科、東京医科大学医学総合研究所、東京大学大学院医学系研究科、藤田医科大学医科学研究センターによる研究グループは、タイマー蛍光タンパク質を用いることで、翻訳後修飾因子ubiquitin-like 3(UBL3)の細胞内動態を捉えることに成功しました。さらに、超解像顕微鏡技術を組み合わせることで、「UBL3化修飾のターゲットとなるチューブリンがUBL3と細胞質内で会合し、その複合体は後期エンドソームの近傍まで移動し、その後1分以内に後期エンドソームに取り込まれる」という翻訳後修飾による分子の動態変化をナノレベルで観察することに成功しました。UBL3翻訳後修飾の標的としてはがん転移や神経変性疾患に関わるタンパク質が多数含まれているため、今回確立された実験系は、新たな薬剤のスクリーニング系へ応用できることが期待されます。

 この研究成果は、雑誌「Biology Open」に2024年11月5日に掲載されました。

発表者名

寺田 有花(東邦大学大学院理学研究科生物分子科学専攻 博士前期課程1年)
小原 久実(東邦大学理学部生物分子科学科 2023年度卒)
吉岡 祐亮(東京医科大学医学総合研究所 講師)
落谷 孝広(東京医科大学医学総合研究所 教授)
尾藤 晴彦(東京大学大学院医学系研究科 教授)
土田 邦博(藤田医科大学医科学研究センター 教授)
上田 洋司(藤田医科大学医科学研究センター 講師)
上田(石原) 奈津実(東邦大学理学部生物分子科学科 准教授)

発表のポイント

  • 新規翻訳後修飾因子UBL3の細胞内での動きを可視化する解析系を構築しました。
  • UBL3が合成された後の細胞内動態を同定しました。
  • UBL3化修飾を受けたタンパク質が後期エンドソームに取り込まれる時空間的動態を観察することに成功しました。

発表内容

 小型細胞外小胞(small extracellular vesicle:以下、sEV)(注1)は、がん細胞、神経細胞などほぼすべての細胞種から分泌されるナノサイズの小胞です。sEVにはタンパク質やmRNAやmiRNAが含まれており、細胞間の伝播を仲介することから、新しい細胞間伝達シグナルとして注目されています。また、sEVを介した悪性タンパク質の伝播は、がん転移や神経変性疾患に関与することが知られています。sEVの中でも後期エンドソームが細胞膜に融合することで放出されるエクソソームは医療分野などで着目されています。しかしながら、どのような機構で特定のタンパク質が後期エンドソームに運ばれエクソソームとして放出されるのかは不明でした。研究グループは、以前の報告*において、新規翻訳後修飾因子ubiquitin-like 3(以下、UBL3)化(注2)を発見し、UBL3は後期エンドソーム/多胞体に局在することを見出しました。さらにsEVへ輸送されるタンパク質全体の約60%がUBL3依存的であることを発見し、UBL3翻訳後修飾の標的としてがん転移や神経変性疾患に関与するタンパク質が含まれることを見出しました。しかしながら、細胞内でUBL3が、いつ、どこでUBL3化修飾の標的タンパク質と会合し、後期エンドソーム/多胞体に運ばれるのかは全く不明でした。そこで本研究では、時間経過とともに緑から赤に色を変化させるタイマー蛍光タンパク質をUBL3に融合した系を用い、UBL3は合成後には細胞質内に拡散して存在すること、時間とともに細胞膜や後期エンドソームに集積し、最終的には後期エンドソーム/多胞体での局在を強めることを発見しました(図1)。
合成後のUBL3の細胞内動態
 さらにこの解析系と生きた細胞内の分子動態をナノスケールで捉える超解像顕微鏡ライブイメージング技術を組み合わせることで、UBL3化修飾の標的である細胞骨格タンパク質のチューブリンがUBL3と細胞質で会合すると、最終的に後期エンドソーム近傍に移動し、おおよそ1分以内に後期エンドソーム内に取り込まれる様子を捉えることに成功しました(図2)。
合成後のUBL3とUBL3化修飾の基質であるチューブリンの細胞内動態
今後は、UBL3翻訳後修飾の標的となるがん転移や神経変性疾患に関与するタンパク質が細胞内でいつ、どこでUBL3と会合し後期エンドソームに取り込まれるかを可視化することで、細胞内動態を基にした新たな治療戦略が取られることが期待できます。

*参考文献)
Nat Commun. 2018 Sep 26;9(1):3936. doi: 10.1038/s41467-018-06197-y.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30258067/
UBL3 modification influences protein sorting to small extracellular vesicles

発表雑誌

    雑誌名
    「Biology Open」(2024年11月5日)

    論文タイトル
    Intracellular dynamics of ubiquitin-like 3 visualized using an inducible fluorescent timer expression system

    著者
    Yuka Terada, Kumi Obara, Yusuke Yoshioka, Takahiro Ochiya, Haruhiko Bito, Kunihiro Tsuchida, Hiroshi Ageta*, Natsumi Ageta-Ishihara*

    DOI番号
    10.1242/bio.060345

    論文URL
    https://doi.org/10.1242/bio.060345

用語解説

(注1)小型細胞外小胞(small extracellular vesicle:sEV)
sEVの一部は、エクソソームとも呼称され、ほぼ全ての細胞種から多胞体Multivesicular Body(MVB)を介して細胞外へ放出される小胞であり、産生細胞に由来する特定のタンパク質やmiRNAを内包し標的細胞に再び取り込まれることで新たな細胞間コミュニケーションとして働き、がん転移や神経筋変性などの疾患を含めた様々な生命現象に関与している。

(注2)Ubiquitin-like 3(UBL3)
ユビキチンは、他のタンパク質へ翻訳後修飾因子として付加することによって、局在変化やタンパク質の安定性を変化させる。このユビキチンに構造上類似したタンパク質がユビキチン様タンパク質と呼ばれている。ユビキチン様タンパク質として、SUMOやNEDD8やオートファジーに関与するATG12などが知られ、ユビキチンと同様に翻訳後修飾因子として機能することが知られている。ubiquitin-like 3(UBL3)はユビキチン様タンパク質に分類され、研究グループは、以前の報告でUBL3が翻訳後修飾因子であることを発見した。
以上

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
東邦大学理学部生物分子科学科
准教授 上田(石原) 奈津実

〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-5022
E-mail: natsumi.ageta-ishihara[@]sci.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/biomol/mbb/index.html

藤田医科大学医科学研究センター
講師 上田 洋司

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