プレスリリース 発行No.1407 令和6年10月3日
「いわゆる『健康食品』」は、栄養素の摂取量にどのくらい寄与しているのか?
~ 日本人の食事記録データの分析から ~
~ 日本人の食事記録データの分析から ~
東邦大学医学部の朝倉敬子教授、杉本南助教らの研究グループは、2012年に収集された日本人の食事摂取量データを分析し、「いわゆる『健康食品』」(栄養強化食品およびサプリメント)が、栄養素の摂取量にどのくらい寄与しているのかを明らかにしました。本研究は、日本人の栄養素の摂取量を改善する健康政策の立案において役立つことが期待されます。
この研究成果は2024年9月27日に 雑誌「BMC Nutrition」にて発表されました。
この研究成果は2024年9月27日に 雑誌「BMC Nutrition」にて発表されました。
発表者名
杉本 南(東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野 助教)
朝倉 敬子(東邦大学医学部社会医学講座予防医療学分野 教授)
篠崎 奈々(東京大学大学院医学系研究科 助教)
村上 健太郎(東京大学大学院医学系研究科 教授)
政安 静子(いくり苑那珂)
佐々木 敏(東京大学 名誉教授)
朝倉 敬子(東邦大学医学部社会医学講座予防医療学分野 教授)
篠崎 奈々(東京大学大学院医学系研究科 助教)
村上 健太郎(東京大学大学院医学系研究科 教授)
政安 静子(いくり苑那珂)
佐々木 敏(東京大学 名誉教授)
発表のポイント
- 栄養強化食品および/またはサプリメントの利用者は、それらを含まない通常の食事において、非利用者と比べ、ビタミンやミネラルの摂取量が多く、また、食事摂取基準で示されている適切な摂取量を満たしている者の割合も高かった。
- 栄養強化食品および/またはサプリメントの利用者では、それらが一部の栄養素に関してその適切な摂取に寄与していた。
- 一方で、栄養強化食品および/またはサプリメントの利用者の2%で、ビタミンB6の摂取量について過剰摂取の恐れがあった。
発表内容
背景
サプリメントの利用者は世界的に増加しています。食品の栄養強化はビタミンやミネラルの摂取量を補うために取り入れられている方法ですが、一方でそれらの利用は、特定の栄養素の過剰摂取を招く恐れがあります。サプリメントや栄養強化食品の利用者の栄養素摂取量を調べたこれまでの研究は欧米からの報告が主であり、日本を含むアジア圏からの報告はわずかです。日本と欧米とでは、よく使われているサプリメントの種類が異なり、さらに、日本では食品の栄養強化が義務付けられていません。従って、日本人において、栄養強化食品やサプリメントが総栄養摂取量に占める割合は、欧米人とは異なる可能性が高いと考えられます。
目的
日本人成人の栄養強化食品やサプリメントの利用者において、それらが、栄養摂取量および栄養摂取量の適切性(具体的には、食事摂取基準の順守)にどのように寄与しているかを調べることを目的としました。
方法
2012年2~3月に、全国23都道府県の福祉施設に勤務する成人392名(20~69歳)から収集された食事摂取量データの二次解析を行いました。
参加者の食事記録(調査日に食べたもの・飲んだものの食品名と重量をすべて記録してもらう方法)に記載された商品名から、栄養強化食品およびサプリメントにあたる食品を特定し、4日間の食事記録日のうち、少なくとも1回以上、それらを利用した参加者を「栄養強化食品および/またはサプリメントの利用者」としました。次に、商品名をもとに、その栄養素含有量を調べ、栄養強化食品およびサプリメントからの栄養素摂取量を推定しました。
栄養強化食品および/またはサプリメントの利用者と非利用者との間で、栄養素の摂取量を比較し、さらに、Multiple Source Method (注1)という統計手法を用いて、18種類の栄養素について個々人の習慣的摂取量を算出しました。それらの習慣的摂取量の値をカットポイント法(注2)を用い、日本人の食事摂取基準2020年版の推定平均必要量(注3)または耐容上限量(注4)と比較して、各栄養素の摂取量が不足あるいは過剰である者の割合を調べました。そして、利用者の栄養素の摂取量は、栄養強化食品およびサプリメントからの栄養素摂取量を含めた場合(総摂取量)と、除いた場合(通常の食事からの摂取量)との二通りを求め、不足あるいは過剰である者の割合を、それぞれ利用者と非利用者との間で比較しました。
結果
栄養強化食品および/またはサプリメントの利用者と特定された122 人(参加者の 31%)において、それらからの栄養素摂取量が各栄養素の総摂取量に占める平均割合は、調査した全 25種類の栄養素について、栄養強化食品では4%未満(図1)、サプリメントでは21%未満(図2)でした。
栄養強化食品およびサプリメントからの栄養素摂取量を含めない場合(通常の食事のみからの栄養素摂取量)でも、利用者は非利用者よりも、食物繊維、ビタミンD、ビタミンE、チアミン、リボフラビン、ビタミンB6、葉酸、パントテン酸、ビタミンC、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、銅の平均摂取量が多く、栄養強化食品およびサプリメントからの栄養素摂取量を含めた場合、前述の栄養素に加えて、ビタミン Kとナイアシンについて、利用者の平均摂取量は非使用者よりも有意に多いことが分かりました。
栄養強化食品およびサプリメントからの栄養素摂取量を含めない場合でも、6種類の栄養素について、習慣的摂取量が推定平均必要量を下回っている者の割合は、利用者の方が非利用者よりも低いことが分かりました。つまり、6種類の栄養素(ビタミンA、ビタミンB6、チアミン、リボフラビン、カルシウム、亜鉛)について、利用者の方が摂取量が適切な者の割合が多く、栄養強化食品およびサプリメントからの栄養素摂取量を含めた場合、さらに3種類の栄養素(ビタミンC、マグネシウム、鉄)について、習慣的摂取量が推定平均必要量を下回っている者の割合が、利用者の方が非利用者よりも低くなりました(図3)。
利用者では、栄養強化食品とサプリメントからの栄養素摂取量を含めた場合、含めなかった場合よりも、推定平均必要量を下回る者の割合が、5種類の栄養素(チアミン、リボフラビン、ビタミンB6、ビタミンC、カルシウム)で10%以上低いことが分かりました(つまり、栄養素摂取量の適切性が改善した)(図3)。通常の食事からの栄養素摂取量では、利用者と非利用者ともに 耐容上限量を超えた栄養素はありませんでした。しかし、利用者の2%では、栄養強化食品とサプリメントからの栄養素摂取量を考慮した場合、ビタミンB6の摂取量は耐容上限量を超えていました。
結論
栄養強化食品とサプリメントは、ビタミンB6を除いて、日本人の利用者が過剰摂取のリスクなしに特定の栄養素を適切に摂取するのに役立っていました。しかし、栄養強化食品やサプリメントの利用者は、通常の食事においても、非利用者よりもビタミンやミネラルの摂取量が多い傾向にあることから、栄養強化食品やサプリメントは、その利用の必要性が相対的に低い人が使用している傾向にある可能性があります。
サプリメントの利用者は世界的に増加しています。食品の栄養強化はビタミンやミネラルの摂取量を補うために取り入れられている方法ですが、一方でそれらの利用は、特定の栄養素の過剰摂取を招く恐れがあります。サプリメントや栄養強化食品の利用者の栄養素摂取量を調べたこれまでの研究は欧米からの報告が主であり、日本を含むアジア圏からの報告はわずかです。日本と欧米とでは、よく使われているサプリメントの種類が異なり、さらに、日本では食品の栄養強化が義務付けられていません。従って、日本人において、栄養強化食品やサプリメントが総栄養摂取量に占める割合は、欧米人とは異なる可能性が高いと考えられます。
目的
日本人成人の栄養強化食品やサプリメントの利用者において、それらが、栄養摂取量および栄養摂取量の適切性(具体的には、食事摂取基準の順守)にどのように寄与しているかを調べることを目的としました。
方法
2012年2~3月に、全国23都道府県の福祉施設に勤務する成人392名(20~69歳)から収集された食事摂取量データの二次解析を行いました。
参加者の食事記録(調査日に食べたもの・飲んだものの食品名と重量をすべて記録してもらう方法)に記載された商品名から、栄養強化食品およびサプリメントにあたる食品を特定し、4日間の食事記録日のうち、少なくとも1回以上、それらを利用した参加者を「栄養強化食品および/またはサプリメントの利用者」としました。次に、商品名をもとに、その栄養素含有量を調べ、栄養強化食品およびサプリメントからの栄養素摂取量を推定しました。
栄養強化食品および/またはサプリメントの利用者と非利用者との間で、栄養素の摂取量を比較し、さらに、Multiple Source Method (注1)という統計手法を用いて、18種類の栄養素について個々人の習慣的摂取量を算出しました。それらの習慣的摂取量の値をカットポイント法(注2)を用い、日本人の食事摂取基準2020年版の推定平均必要量(注3)または耐容上限量(注4)と比較して、各栄養素の摂取量が不足あるいは過剰である者の割合を調べました。そして、利用者の栄養素の摂取量は、栄養強化食品およびサプリメントからの栄養素摂取量を含めた場合(総摂取量)と、除いた場合(通常の食事からの摂取量)との二通りを求め、不足あるいは過剰である者の割合を、それぞれ利用者と非利用者との間で比較しました。
結果
栄養強化食品および/またはサプリメントの利用者と特定された122 人(参加者の 31%)において、それらからの栄養素摂取量が各栄養素の総摂取量に占める平均割合は、調査した全 25種類の栄養素について、栄養強化食品では4%未満(図1)、サプリメントでは21%未満(図2)でした。
栄養強化食品およびサプリメントからの栄養素摂取量を含めない場合(通常の食事のみからの栄養素摂取量)でも、利用者は非利用者よりも、食物繊維、ビタミンD、ビタミンE、チアミン、リボフラビン、ビタミンB6、葉酸、パントテン酸、ビタミンC、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、銅の平均摂取量が多く、栄養強化食品およびサプリメントからの栄養素摂取量を含めた場合、前述の栄養素に加えて、ビタミン Kとナイアシンについて、利用者の平均摂取量は非使用者よりも有意に多いことが分かりました。
栄養強化食品およびサプリメントからの栄養素摂取量を含めない場合でも、6種類の栄養素について、習慣的摂取量が推定平均必要量を下回っている者の割合は、利用者の方が非利用者よりも低いことが分かりました。つまり、6種類の栄養素(ビタミンA、ビタミンB6、チアミン、リボフラビン、カルシウム、亜鉛)について、利用者の方が摂取量が適切な者の割合が多く、栄養強化食品およびサプリメントからの栄養素摂取量を含めた場合、さらに3種類の栄養素(ビタミンC、マグネシウム、鉄)について、習慣的摂取量が推定平均必要量を下回っている者の割合が、利用者の方が非利用者よりも低くなりました(図3)。
利用者では、栄養強化食品とサプリメントからの栄養素摂取量を含めた場合、含めなかった場合よりも、推定平均必要量を下回る者の割合が、5種類の栄養素(チアミン、リボフラビン、ビタミンB6、ビタミンC、カルシウム)で10%以上低いことが分かりました(つまり、栄養素摂取量の適切性が改善した)(図3)。通常の食事からの栄養素摂取量では、利用者と非利用者ともに 耐容上限量を超えた栄養素はありませんでした。しかし、利用者の2%では、栄養強化食品とサプリメントからの栄養素摂取量を考慮した場合、ビタミンB6の摂取量は耐容上限量を超えていました。
結論
栄養強化食品とサプリメントは、ビタミンB6を除いて、日本人の利用者が過剰摂取のリスクなしに特定の栄養素を適切に摂取するのに役立っていました。しかし、栄養強化食品やサプリメントの利用者は、通常の食事においても、非利用者よりもビタミンやミネラルの摂取量が多い傾向にあることから、栄養強化食品やサプリメントは、その利用の必要性が相対的に低い人が使用している傾向にある可能性があります。
発表雑誌
-
雑誌名
「BMC Nutrition」(2024年9月27日)
論文タイトル
Contribution of fortified foods and dietary supplements to total nutrient intakes and their adequacy in Japanese adults
著者
Minami Sugimoto, Keiko Asakura*, Nana Shinozaki, Kentaro Murakami, Shizuko Masayasu, Satoshi Sasaki
DOI番号
10.1186/s40795-024-00935-w
論文URL
https://bmcnutr.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40795-024-00935-w
用語解説
(注1)Multiple Source Method
複数日(2日間以上)の食事摂取量データをもとに、習慣的な摂取量を個人単位で推定する統計手法。
参照URL: https://msm.dife.de/
(注2)カットポイント法
摂取量が推定平均必要量に満たない者の割合を算出する方法。
(注3)推定平均必要量
ある集団に属する50%の者が必要量を満たす(同時に50%の者が必要量を満たさない)と推定される摂取量。
(注4)耐容上限量
習慣的な摂取量の上限。
複数日(2日間以上)の食事摂取量データをもとに、習慣的な摂取量を個人単位で推定する統計手法。
参照URL: https://msm.dife.de/
(注2)カットポイント法
摂取量が推定平均必要量に満たない者の割合を算出する方法。
(注3)推定平均必要量
ある集団に属する50%の者が必要量を満たす(同時に50%の者が必要量を満たさない)と推定される摂取量。
(注4)耐容上限量
習慣的な摂取量の上限。
添付資料
図1.栄養強化食品および/またはサプリメント利用者122人における、
栄養強化食品の各栄養素の摂取量に対する寄与割合の平均値:4日間食事記録データの分析
*日本人成人392人(20~69歳)のうち、4日間の食事記録日に1回以上栄養強化食品またはサプリメントを使用した122人において、各栄養素の摂取量に対する栄養強化食品の寄与割合の平均値を算出した。寄与割合の平均値が1%以上の栄養素のみ図示した。エラーバーは95%信頼区間。
栄養強化食品の各栄養素の摂取量に対する寄与割合の平均値:4日間食事記録データの分析
*日本人成人392人(20~69歳)のうち、4日間の食事記録日に1回以上栄養強化食品またはサプリメントを使用した122人において、各栄養素の摂取量に対する栄養強化食品の寄与割合の平均値を算出した。寄与割合の平均値が1%以上の栄養素のみ図示した。エラーバーは95%信頼区間。
図2.栄養強化食品および/またはサプリメント利用者における、
サプリメントの各栄養素の摂取量に対する寄与割合の平均値:
栄養強化食品および/またはサプリメント利用者(20~69歳の日本人122人)の4日間食事記録データの分析
*日本人成人392人のうち、4日間の食事記録日に1回以上栄養強化食品またはサプリメントを使用した122人において、各栄養素の摂取量に対するサプリメントの寄与割合の平均値を算出した。寄与割合の平均値が1%以上の栄養素のみ図示した。エラーバーは95%信頼区間。
サプリメントの各栄養素の摂取量に対する寄与割合の平均値:
栄養強化食品および/またはサプリメント利用者(20~69歳の日本人122人)の4日間食事記録データの分析
*日本人成人392人のうち、4日間の食事記録日に1回以上栄養強化食品またはサプリメントを使用した122人において、各栄養素の摂取量に対するサプリメントの寄与割合の平均値を算出した。寄与割合の平均値が1%以上の栄養素のみ図示した。エラーバーは95%信頼区間。
図3.栄養強化食品および/またはサプリメント利用者(122人)と非利用者(127人)において、
習慣的摂取量が推定平均必要量を下回る者の割合
*日本人成人392人のうち、4日間の食事記録日に1回以上栄養強化食品またはサプリメントを使用した122人を利用者、それ以外を非利用者とした。摂取量の適切性の評価にはカットポイント法(注2)を用いた。利用者については、栄養強化食品およびサプリメントからの栄養素摂取量を含めた場合と、含めない場合の2通りを示した。
習慣的摂取量が推定平均必要量を下回る者の割合
*日本人成人392人のうち、4日間の食事記録日に1回以上栄養強化食品またはサプリメントを使用した122人を利用者、それ以外を非利用者とした。摂取量の適切性の評価にはカットポイント法(注2)を用いた。利用者については、栄養強化食品およびサプリメントからの栄養素摂取量を含めた場合と、含めない場合の2通りを示した。
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部社会医学講座予防医療学分野
教授 朝倉 敬子
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151(内線2405)
E-mail: keiko.asakura[@]med.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/hygiene/index.html
※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
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E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
URL:www.toho-u.ac.jp
※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。
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