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プレスリリース 発行No.1401 令和6年9月9日

オートミールに混入したヒラタチャタテの摂取による
アナフィラキシーの症例を日本で初めて報告
~ 室内環境におけるチャタテムシのアレルゲンとしての重要性を提示
新たなアレルギー概念「オートミール症候群」を提唱 ~

 東邦大学医療センター大橋病院皮膚科の福田英嗣准教授、松本千夏助教、東京家政大学の川上裕司研究員、大阪公立大学の石橋宰准教授らは、オートミールに混入したヒラタチャタテ(Liposcelis bostrychophila)(注1)の摂取によるアナフィラキシーの症例を日本で初めて報告しました。この研究成果は、室内環境に広く生息する昆虫であるチャタテムシが、経口摂取によって重篤なアレルギー反応を引き起こす可能性を示すものであり、今後、チャタテムシがアレルギー疾患の新たな原因として注目すべきアレルゲンになりうると考えられます。

 この成果は2024年8月10日に 雑誌「The Journal of Dermatology」において発表されました。

発表者名

松本 千夏(東邦大学医療センター大橋病院皮膚科 助教)
川上 裕司(東京家政大学大学院人間生活学総合研究科 生物工学研究室 非常勤講師・研究員)
石橋 宰 (大阪公立大学大学院農学研究科 生体高分子機能学研究室 准教授)
相良 育海(研究当時:大阪公立大学大学院農学研究科 生体高分子機能学研究室 博士前期課程)
坂口 真哉(研究当時:大阪公立大学大学院農学研究科 生体高分子機能学研究室 博士前期課程)
原田 侑弥(東邦大学医療センター大橋病院皮膚科 助教)
高橋 美咲(東邦大学医療センター大橋病院皮膚科 准修練医)
新山 史朗(東邦大学医療センター大橋病院皮膚科 准教授)
乾 隆  (大阪公立大学大学院農学研究科 生体高分子機能学研究室 教授)
福田 英嗣(東邦大学医療センター大橋病院皮膚科 准教授)


発表のポイント

  • オートミールに混入したヒラタチャタテの経口摂取によるアナフィラキシーを日本で初めて報告しました。
  • ヒラタチャタテ特異的抗原であるLip b 1、およびLip b 1特異的IgE抗体の測定により、ヒラタチャタテを経口摂取のアレルゲンとして特定しました。
  • チャタテムシは通常の生活環境に多く生息しているにも関わらず、これまでアレルゲンとしてあまり注目されていませんでしたが、今回の報告で新規アレルギー疾患の発症の抑制につながることが期待されます。

発表概要

 ダニなどの害虫は室内環境におけるアレルゲンとして、アレルギー性喘息などの気道疾患の原因となること、さらに、害虫に汚染された食品を経口摂取した後にアナフィラキシーを発症することはこれまで報告されています。

 今回、研究グループらは、オートミールに混入していたヒラタチャタテの経口摂取によるアナフィラキシーを、日本で初めて報告しました。本研究では、経口摂取したオートミール中にヒラタチャタテ特異的抗原であるLip b 1を検出し、血清中ではLip b 1特異的IgE抗体の上昇が認められたことから、オートミールに混入していたヒラタチャタテがアレルゲンであることを明らかにしました。ヒラタチャタテは、室内環境に広く生息する昆虫であり、本報告によりアレルゲンとしての重要性が示されたことで、今回明らかにされた新規アレルギー疾患の発症の抑制につながる重要な一歩となることが期待されます。

発表内容

 2021年3月に東邦大学医療センター大橋病院において、オートミールと、その他の食品を経口摂取した30分後に全身に紅斑が出現し、水様性下痢や嘔吐を伴う症例を経験しました。患者からは、来院時に頻脈、血中酸素飽和度の軽度低下、全身に紅斑と口唇のチアノーゼが認められ、アナフィラキシーと診断しました。
 原因を特定するため、摂取した食品でプリックテストを行ったところ、オートミールだけが陽性反応を示しました。しかし、新品の同製品では陽性反応を示さなかったため、摂取したオートミールを顕微鏡で観察したところ、多数の虫体が混入していることが確認されました(図1)。

 研究グループは、定量的PCR法とウェスタンブロット法を用いて、患者が摂取したオートミール中にチャタテムシ目ヒラタチャタテ(Liposcelis bostrychophila)の特異的抗原であるLip b 1および同抗原をコードする遺伝子配列を検出し(図2)、さらにウェスタンブロット法によりLip b 1抗原を検出し、ELISA法により患者血清中にLip b 1特異的IgE抗体を検出しました(図3)。これらの結果から、オートミールに混入したヒラタチャタテの経口摂取がアナフィラキシーの原因であると結論付けました。

 ヒラタチャタテは世界中の屋内環境に生息しており、穀類や微粉末食品などを直接食害します。これまでの研究で、ヒラタチャタテは室内塵の99%から検出され、小児気管支喘息患者の重要な吸入性アレルゲンであることが指摘されていますが、経口摂取によるアナフィラキシーの報告は本邦で本症例が初めてです。
 発症のメカニズムについては、2つの可能性が考えられます。第一は、患者が生活環境の中でヒラタチャタテの粉末状になった死骸を吸入または接触することによってアレルゲンとして感作され、その後ヒラタチャタテを経口摂取することによってアナフィラキシーを発症した可能性です。第二は、患者が過去にヒラタチャタテを経口摂取したことによりアレルゲンとして感作され、アナフィラキシーを発症した可能性です。本症例は、喘息などの呼吸器症状がないことから、後者であると推察しました。
 本論文は、本邦初のヒラタチャタテ経口摂取によるアナフィラキシーに関する報告です。さらに、海外を含め初めて、Lip b 1抗原および患者血清中Lip b 1特異的IgE抗体を検出したことにより、その原因がヒラタチャタテであると特定しました。
 また、報告では日常生活における対策法を示しています。ヒラタチャタテは、ハウスダストが蓄積した室内環境で発生しやすい一方で、0℃以下の温度や55~65%以下の湿度では生育できないため、定期的な換気や天日干しなどの環境対策が重要です。特に、汚染されやすい保存食品は密閉容器に入れて冷蔵保存するなどの対策が必要です。また、殺虫剤の使用も選択肢のひとつとなりますが、室内環境における害虫の防除には、環境改善や湿度管理などの総合的病害虫管理(Integrated Pest Management; IPM)に基づく対策も不可欠です。

 この研究成果は、アレルギー疾患の予防と室内環境管理に新たな視点を提供し、公衆衛生の向上に貢献することが期待されます。特に、オートミールなどの穀物製品の保存方法や、室内環境の管理に関する注意喚起につながることを願います。

 ダニを摂取することで発症する「パンケーキ症候群」に比べ、チャタテムシを摂取することで発症するアレルギーはあまり知られていません。しかし、日本人のアレルギー性喘息患者を対象とした皮内テストでは、ヒラタチャタテアレルゲンの陽性率は42%、すなわち約4割のアレルギー性喘息患者でヒラタチャタテアレルギーがあることが示されています。本症例および既報告2例 (海外例)では、全てチャタテムシがオートミールに混入していたため、「オートミール症候群」という新たなアレルギー概念を提案しました。

発表雑誌

    雑誌名
    「The Journal of Dermatology」(2024年8月10日)

    論文タイトル
    A clinical case of anaphylaxis after eating oatmeal contaminated with booklice (Liposcelis bostrychophila

    著者
    Chinatsu Matsumoto*, Yuji Kawakami*, Osamu Ishibashi*, Ikumi Sagara, Masaya Sakaguchi, Yuya Harada, Misaki Takahashi, Shiro Niiyama, Takashi Inui, Hidetsugu Fukuda*

    DOI番号
    10.1111/1346-8138.17419

    アブストラクトURL
    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1346-8138.17419

用語解説

(注1)ヒラタチャタテ(Liposcelis bostrychophila
室内環境において最も頻繁に認められるチャタテムシの一種。繁殖力がきわめて高く、穀物やカビ等の餌が存在する場所で温度や湿度等の条件が整うと大量発生する。

添付資料

プリックテストの結果、摂取したオートミール容器内観察像
図1.
(a),(b) プリックテストの結果:
摂取したオートミールのみ陽性。
(c)摂取したオートミール容器内観察像:虫体が多数観察(赤丸)。右上に虫体の拡大顕微鏡像を示す。
ヒラタチャタテ特異的遺伝子Lip b 1の検出
図2.ヒラタチャタテ特異的遺伝子Lip b 1の検出
定量的PCRにより、摂取したオートミールのみにLip b 1遺伝子を検出。
ヒラタチャタテ特異的抗原Lip b 1の検出とLip b 1特異的IgE抗体測定
図3.
(a) ヒラタチャタテ特異的抗原Lip b 1の検出:
ウェスタンブロット法により、摂取したオートミールの表面抽出液のみにLip b 1抗原を検出。
(b) Lip b 1特異的IgE抗体測定:患者血清中にLip b 1特異的IgE抗体を検出。
以上

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
東邦大学医療センター大橋病院 皮膚科
准教授 福田 英嗣

〒153-8515 目黒区大橋2-22-36
TEL: 03-3468-1251 FAX: 03-3468-1223
E-mail: h-fukuda[@]med.toho-u.ac.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/ohashi/dermatology/

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